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首都圏配送センターを新設
二〇〇〇年十一月、珍味・つまみを扱う加
工食品メーカーのなとりは埼玉県加須市に
「首都圏配送センター」を稼働させた。 関東
地区に置いていた二カ所の物流センターを統
廃合して新設したもので、関東甲信越、北陸、
東海地区の一都十二県をカバーしている。 こ
れにより、なとりの物流センターは全国六拠
点体制になった。
現在、同社の業績は堅調で、直近の二〇〇
一年三月期は売上高二八八億九八〇〇万円
(前年同期比三・七%増)、経常利益一八億
三二〇〇万円(同五〇・〇%増)と増収増益を確保した。 今年九月には念願の二部上場
を果たしている。 梅、栗、唐揚げ、ジャーキ
ーといったイカ製品に次ぐ新商品の開発や既
存製品ラインナップの拡充などが奏功した格
好だ。
だが、アイテム数の増加は一方で物流コス
トを押し上げる要因でもある。 これまでも同
社の売上高物流費比率は一〇%台と他の加
工食品メーカーに比べ高い水準にあった。 そ
れがさらに上昇する恐れがある。 それを防ぐ
ためにも、物流の改善は急務となっていた。
首都圏にあった既存の二センターは、ケー
ス単位で出荷する大手コンビニエンスストア
向けの業態専用センターと、それ以外の得意
先と自社営業所向けにピース単位の出荷まで
自動仕分け機の運用法に工夫
「回転寿司方式」で時間調整
作業員の経験だけが頼りの“ルールなき”物流
センターだった。 統廃合を機にマテハン機器や情
報システムの導入を進め、「先入れ先出し」の徹底
や作業の生産性向上などを実現した。 自動仕分け
機の運用では「回転寿司方式」と名付けた独自の
工夫も採り入れた。
なとり
――マテハン
センターに引き上げる集約化も進めている。 当初は営業部門の反発も少なくなかったが、
急なオーダーでもすぐに納品することを条件
に説得を続けている。 その結果、現在では回
転の速いA商品群で約二日分、B、C商品群
で約四日分の在庫で動かせるようになった。
仕分け機上で時間調整
新センター立ち上げを機に、物流現場のオ
ペレーションの改善にも着手した。 従来、物
流センターの運営は人海戦術に頼る部分が大
きかった。 入荷はリストを見ながらの目視検
品。 ピッキングは作業員がリストを片手にハ
ンドフォークを引いて庫内を回って商品を集
めるというやり方だった。 現場にはほとんど
マテハン機器は見当たらなかった。
同時に?ルールなき〞物流センターと呼ば
れるほど現場の管理体制は曖昧なものだった。
原則として、現場の作業員は自分の好きなよ
うに作業を進めて構わなかった。 工場から入
荷される商品のロケーション(置き場所)は
だいたいの位置でオーケー。 商品のピッキン
グの順番もすべて作業員任せという状態だっ
た。
こうした管理体制による弊害は少なくなか
った。 まず、先入れ先出しが徹底できない。
製造年月日に注意するよう指示しても、作業
員は取りやすいロケーションから次々とピッ
キングしてしまう。 そのため、得意先に納品
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処理する汎用センターに役割分担されていた。
これに対し、新センターでは双方の出荷に対
応できる体制を敷いている。
「アイテム数や出荷量の増加で二センター
の能力は限界に近づいていた。 投資額を抑え
るという意味からも、それぞれを拡張するの
ではなく、二つの機能を持ったセンターとし
て一つにまとめるべきだという話になった」
と今関利夫営業物流部長はその経緯を説明す
る。
並行して、営業所で抱えていた在庫を物流
する際、前日に持っていった商品よりも古い
製造日の商品が、その翌日に届いてしまうと
いうケースが少なくなかった。 鮮度管理の徹
底が求められる食品メーカーとしては許され
ないことだった。
ピッキングの作業効率にも問題があった。
アイテムと個数さえ間違わなければ、ピッキ
ングリストを見ながら自由にピッキングして
もいいルールだったため、どうしてもピッカ
ーの動きにムダが出る。 一件当たりの処理に
時間が掛かりすぎていた。 繁忙期にはピッキ
ングの段階で作業の滞留が発生して、出荷が
追いつかないこともあったという。
これに対して、新センターはWMS
(
Warehouse Management System
)によっ
て制御された自動化の進んだ仕組みになって
いる。 入荷作業は従来の目視検品が、無線機
能のついたハンディスキャナーを使うスタイ
ル
に
変
わ
っ
た
。 「
事
前
出
荷
明
細
送
付
(
ASN:Advanced Shipping Notice
)」を導入。
なとりの今関利夫営業物流部長
なとりの首都圏配送センター
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工場から出荷前にEDI(電子データ交換)
で送られてきた入荷情報と、現品を照合する
かたちで検品を行う。
商品のロケーションも全てシステムで管理
している。 入荷検品時に発行されるラベルに
はロケーション番号が記入されている。 フォ
ークマンはその指示に従って、決められた場
所に商品を格納する。 従来のように、担当者
が勝手に判断することはできない仕組みにな
った。
ピッキングエリアはケース単位で出荷する
商品とバラ出荷商品で二つのフロアに分かれ
ている。 バラ商品のピッキングには、新たに
デジタル・ピッキングシステムを採用した。
ピッキング用のラックに、並行してコンベヤ
レーンを配置。 コンベア上
を流れてきたプラスチック
製のコンテナは、ピッキン
グすべき商品の置かれてい
るラックの前で自動的に停
止する。 棚にはランプが点
灯し、数量が表示される。
作業員はその表示に従って
商品をコンテナに投入すれ
ばいい。 その後、コンテナ
は自動仕分け機を通じて流
通加工ラインまで搬送され
る。
新たに作業フローを組み
上げていく際にもっとも骨
を折ったのが、このピッキ
ング〜流通加工までの部分
だったという。 別々のフロ
アでピッキングされた商品
を、納品先や営業所ごとに
ひとまとめにして同じタイ
ミングで流通加工ラインに
送り込む。 この流れをつく
る自動仕分け機の設定が難
?入荷検品スペース全国の工場からの商品を無
線ハンディでスキャン検品する
?在庫格納のスペースラベルで指示されたロケ
ーションに商品を収納する
?ピッキングスペース
デジタルピッキング
システムを採用
?仕分けスペース通称“回転寿司”と呼ばれる
自動仕分け機を導入。 行き先が共通する商品が
揃うまでシューターには落ちない仕掛けになっ
ている
?流通加工スペース値札付けや結束などの作業
を行う
→
→
→
→
首都圏配送センターの作業フロー
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しかった。
仕分け機のシュート数は十二本。 これに対
して、一日に処理するコンテナ数は五〇〇〇
〜六〇〇〇に上る。 仕分け機を効率良く稼働
させるには、シュート部分の処理を滞留させ
ないことが決め手になる。 しかも「仕分け機
に投入された順番で商品がシューターに落ち
ていくと、流通加工のラインで納品先や営業
所別に二次仕分けをしなければならない」と
首都圏配送センターの改善活動を支援してき
た住友商事物流企画営業部新機能チームの高
城伸幸主任は説明する。
二次仕分けの発生を回避し、納品先や営
業所ごとに順番にシューターに商品を落とし
ていくには、仕分け機への投入時間をあらか
じめ決めておかなければならない。 しかし、
そうすると今度はピッキングに負担がかかっ
てしまう。 そこで首都圏配送センターでは、
「回転寿司方式」と名付けた独自の運営方法
を開発した。
この方式では、同じ納品先の商品がすべて
コンベア上に揃うまではシューターに落ちな
い仕掛けになっている。 各フロアからの投入
が終わるまで、ピッキング商品は自動仕分け
機のコンベア上をグルグルと回転寿司のよう
に廻り続ける。 これによって、仕分け機に投
入する時間を問わず、なおかつ届け先が異な
る商品が流通加工ラインで混同してしまうの
を防いでいる。
なとりが物流センターで行っている流通加工とは、箱詰めされた複数の商品を「PPバ
ンド」と呼ばれるビニール紐で結束する作業
や、得意先や営業マンの指示に従って特売用
として商品五袋を一束にまとめたり、値札を
付けたりする作業だ。
これらは手作業で行われているため、一件
処理するだけでも結構な時間が掛かってしま
う。 さらに、そこに二次仕分けの作業が加わ
ると、流通加工ラインに商品が滞留して、出
荷が遅れる可能性も出てくる。 ?回転寿司方
式〞は、作業員を流通加工に専念させるため
にも必要な仕組みだった。
物流費比率半減を目標に
もっとも、こうした流通加工の作業はいず
れも小規模なパパママストア向けの営業支援
という意味合いで引き受けているものばかり
で、他社ではほとんど見られない作業だとい
う。 仮にこれらがなければ、わざわざ流通加
工のために自動仕分け機に細工を施す必要も
なかった。
ところが、なとりの場合は営業戦略上、今
まで実施してきた流通加工をなくすわけには
いかない事情がある。 コンビニエンスストア
や量販店向けに押されて、販売比率は低下
する傾向にあるものの、まだまだパパママス
トアに出向いて商品を直接納品する「社販」
の割合は高い。 得意先への付帯サービスであ
る流通加工はこの「社販」で取引を拡大する
ためには重要な意味を持っているのだという。
実際に仕分け機の設定業務にあたった情報
システム部の柴垣英雄部長は「当社は社販に
よって販路を拡げてきた。 物流の歴史はこの
社販を後方支援するという視点から出発して
いる。 確かに、流通加工の部分が物流コスト
を押し上げる要因になっているのは間違いな
いが、だからといって簡単に打ち切るわけに
はいかない。 それでも何とか流通加工の部分
でもコストダウンを図ろうということで出た
アイデアが?回転寿司〞の仕組みだった」と
説明する。
同センターへの投資額は未公表。 しかし、センター作業の効率化による人件費の抑制は
進んでいるという。 「人海戦術が中心だった
時代には作業員の経験度合いによって生産性
にぶれが生じていた。 しかし、改善後は経験
に左右されることなく、誰でも簡単に作業で
きる体制になったため、生産性が安定してい
る」と敦賀賢美センター長は満足する。
当面の目標は二〇〇五年三月期までに在庫
削減と人件費削減で三億七〇〇〇万円のコ
ストダウンを実現すること。 売上高物流費比
率を現在から半減し五%台にするのが最終的
な目標だ。 そのために首都圏配送センターを
モデルケースに、今後は残りの五センターに
ついても順次同様の見直しを進めていく計画
だという。
(刈屋大輔)
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