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パソコンさえあれば、誰にでも簡単に商売
が始められる。 ネット販売にはそういう印象
がある。 しかし、実際にはそれほど甘くはな
い。 まず情報システムの整備に投資が掛かる。
顧客データベースや受注処理システム、在庫
管理システムといった情報システムを構築す
るには、数百万円から数千万円、時には億単
位の投資が必要になるケースもある。
決済も購入者から現金を徴収する実店舗の
ように簡単にはいかない。 確かに、インター
ネット上の仮想店舗なら世界中の人々を相手
に商売できる。 だが、取引成立後、不特定多
数の顧客から商品代金をきちんと回収するの
は容易なことではない。 クレジットカードに
よる決済や宅配便の代引きサービスなどを用
意するには決済機関と個別に契約を結ぶ必要
がある。
物流にも頭を悩ますはずだ。 実店舗での販
売では店舗までの物流の仕組みを構築すれば
いいが、ネット販売では利用者宅までの物流
の仕組みを持つ必要が出てくる。 実際の配送
は宅配便業者などに委託するとしても、在庫
の持ち方、受注処理や流通加工などの作業プ
ロセスをゼロから設計しなくてはならない。
こうしたネット通販に必要なインフラ機能
を一括して代行しようというベンチャー企業
が昨年八月に設立されたイーボス・ジャパン
だ。 資本金は四億円。 三井物産が五〇%、N
TTデータが四〇%、そしてコールセンター
運営会社のもしもしホットラインが一〇%を
ネット通販のバックヤードを代行
「取りに行く物流」で顧客拡大狙う
ネット通販の裏方業務を支援するベンチャー企
業。 総合商社や情報通信会社などが共同出資して
昨年8月に立ち上げた。 物流、決済業務はもちろ
んのこと入金確認などの事務処理作業までを請け
負う。 ITバブル崩壊の逆風を受けながらも、「取り
に行く」物流の導入など機能の拡充を急いでいる。
イーボス・ジャパン
――物流ベンチャー
を選んで購入することができる。 なおかつ、料金は原則としてデータ処
理量に応じて支払えばいい。 初期
投資が掛からず、ランニングコスト
だけで済むので固定費負担を回避
できる。
物流に関しては、商品を管理す
る倉庫の斡旋から、引き当て可能
在庫数量の管理、倉庫への出荷指
示までを網羅している。 利用者は
ネット上で受けた注文データをイー
ボスに送るだけ。 そこから先の顧客
への商品配達までの業務はすべて
イーボスに任せることができる。
一番の?ウリ〞である事務処理の部分では、
利用者からの入金の確認、商品返品による売
上計上の修正など細かい作業までをカバーし
ている。 出荷データと入金データを照会して
売上を消し込むといった作業はすべてイーボ
スの社員がコンピュータや手作業で行う。
クライアントは一〇社
もっとも、イーボスと同じようなサービス
メニューを用意しているネット販売支援企業
はほかにも存在する。 イーボスが事業化する
よりも前に、宅配便会社、物流ベンチャー、
ショッピングモール運営会社などが相次いで
この分野に参入している。 ただし、その多く
は事務処理という利用者の痒い部分にまでは
手を伸ばしていなかった。
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それぞれ出資した。 同年一〇月から事務処理
サービスをメーンにしたネット販売支援を展
開している。
社長には三井物産の運輸・物流本部から上
平毅氏が出向した。 そもそもイーボス・ジャ
パンの設立は、上平社長の実体験がきっかけ
だった。 「三井物産時代、通信販売会社の物
流を担当していたのだが、やっていたことと
いえば返品に伴う売上計上の修正といった事
務処理業務ばかり。 毎日その作業の繰り返し
で、ものすごくストレスを感じていた。 『誰か
やってくれよ』というのが本音だった。 そう
思っているのは私だけじゃないはずだ。 これ
はビジネスになるとピンときた」と上平社長
はその経緯を説明する。
イーボスが提供しているサービスメニュー
を利用することで、ネット販売企業は何の用
意もなくビジネスを開始できる。 それだけメ
ニューは充実している。 注文受付機能、決済
機能、物流機能、入金管理機能、カスタマー
サービス機能などに加え、情報システム面で
は「ASP(Application Service Provider
)」
サービスを用意している。
ASPとはアプリケーションソフトの機能
や関連サービスをレンタル方式で利用できる
もので、ハードを持たないために初期投資が
掛からず、ランニングコストだけで情報シス
テムを構築することが可能になる。
各機能の詳細は図1に示した。 これらのイ
ーボスの機能から、利用者は必要なものだけ
インターネットショッピングモールを運営
する「楽天」もそうだ。 同社が提供している
決済機能や物流機能は、実際には出店者に宅
配便会社や決済機関を斡旋することまでにと
どまっている。 取引上の面倒な事務処理業務
は当然、出店者が自ら行う必要がある。
そのため、ネット販売企業は数人のシステ
ム管理者で月に数千件にも及ぶ処理作業を行
っている。 サイトの人気が上がって買い物客
が増え、それに伴って処理件数が増えれば、
その分だけ管理者を補充する必要が出てくる。
当然コストも掛かる。
しかし、イーボスのサービスを利用すれば、
「処理件数が増えても、作業を行うのは当社
だから、利用者側は新たに人材を投入する必
要はない。 その分、マーケティングや新商品
図1 イーボスが提供する主なサービス
受注受付機能
1.Web Frontからの注文情報の取得
2.電話・FAX・はがき等での注文登録機能
3.携帯電話からの注文受付機能
4.郵便番号・住所チェック・オンラインオーソリ、ベストアカ
ウント・MMK支払等、各種決済方法の選択
決済機能
1.代引き(ヤマト・日通・佐川)
?配送完了まで追跡した上での入金データの生成
2.クレジットカード
?包括加盟店契約
?対応ブランド:JCB、VISA、Master、UC、DC、NICOS、
Orico、ダイナース
?ファクタリング機能(売上代金回収期間最大30日)
3.共通バーコード付振込用紙発行方式(銀行振込・郵便振替・コン
ビニ収納)
4.MMK端末を使ったコンビニでも支払い
5.ベストアカウント方式
物流機能
1.引当可能在庫数量の管理
2.バックオーダー及び限定販売数量管理機能
3.複数倉庫への分割出荷指示機能
4.配送進捗状況管理
入金管理
1.配送完了からその前後入金情報までを受注レコード単位で追跡
2.売り上げ情報、入金還元情報の生成
3.月2回の回収代金振込
カスタマーサービス機能
1.注文進捗情報の検索
2.進捗状況に応じた自動メール配信
3.カスタマーサービスセンターの構築
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開発といった本業に専念できる」と上平社長
は外注化による効果を説明する。
サービス開始から一年経った現在、イーボ
スのクライアントの数は約一〇社だという。
会社設立当初の「初年度でクライアント二〇
社、売り上げ三億円」という目標からすると、
この数字は決して満足できるものではない。
誤算の一つはITバブルの崩壊だった。 企
業のIT投資の手控え感が拡がって、ネット
販売事業化の白紙撤回が相次いだ。 さらに売
り上げの伸び悩みからネット販売から撤退す
る企業が増えたことも痛手となった。
物流機能にも課題があった。 イーボスでは
これまで、商品の保管、流通加工、入出荷な
ど倉庫作業の委託先として、グループ企業で
ある三井倉庫や日東倉庫、山九の三事業者を
用意してきた。 クライアントから預かった商
品は、オーダーに従って、原則として三事業
者の全国各地の倉庫から出荷するというルー
ルを設けていた。
ところが、このルールは自社で倉庫や物流
センターを持っている企業にとっては、むし
ろ不都合だった。 「物流関連の面倒な事務処
理業務を任せたいが、物流センターは従来通
り自社の施設を活用してもらいたい」。 そん
な要望があっても、イーボスはそれに応える
ことができず、クライアント候補から「融通
がきかない」との指摘を受けてきた。 それが
クライアント数の伸び悩みの一因でもあった。
上平社長は「物流の実務の部分と事務処理
の部分を一括で請け負うと、よりコストメリ
ットが出るという認識には変わりはない。 だ
が、機能をバラで提供できることをセールスポ
イントにしている以上、こうした要望にも応え
ていかなければならないだろう」と説明する。
これに対応するためイーボスでは現在、
?取りに行く〞物流の機能を新たに整備して
いる。 ネット販売企業からの出荷指示を受け
たイーボスが宅配便会社に集荷指示を出す。
それを受けた宅配便会社が指定の倉庫や物流
センター、実店舗、商品ベンダーに商品を取
りに行き、その後利用者まで配達するという
仕組みだ。
この十一月中に実施するヤマト運輸、佐川
急便の宅配便二社とのテスト導入を経て、早
ければ来年一月にも本格サービスを開始する
予定だという。 これによって、クライアントは
在庫保管場所の制約を受けずに、イーボスの
サービスを利用することができるようになる。
イーボスで集荷指示機能と呼んでいる「取
りに行く物流」の仕組み自体は決して目新し
いものではない。 すでに対応済みの宅配便会
社も少なくない。 だが、「宅配便会社が用意
している取りに行く物流の機能は伝票を発行して、商品を集荷・配達するまでの領域にと
どまっている」(上平社長)のが現状だ。
これに対して、イーボスが提供する新メニ
ューは持ち戻りや返品が発生した場合の売り
上げ訂正など、データ処理までをカバーして
いる。 「宅配便会社はモノを運ぶことが生業
だから、煩雑な事務処理までを請け負いたい
とは考えない。 しかし、ネット販売企業はそ
の部分こそ外注化したいと考えている。 取り
に行く物流プラス事務処理業務で他社との差
別化を図っていく」と上平社長は説明する。
物流機能の充実が新規クライアントの獲得
にどれだけ寄与するのか。 「すでに数件利用
したいという打診を受けている」(上平社長)
と出足は好調のようだ。
(刈屋大輔)
「取りに行く物流」の仕組み
通信販売(EC)事業者
イーボス
Core system
物流ASP
system
?出荷完了
?配送完了
?出荷完了
?配送進捗
?代引き情報
?持戻・返品
?確定受注
?出荷指示
?出荷完了
?出荷指示照会
通信販売Web Site
Call Center
出荷場所(倉庫・ベンダー)
配送会社へ荷渡し
持戻・返品
?持戻・返品 消費者(注文者)への
商品配送
倉庫型
Web型
消費者
配送会社
(ヤマト/佐川)
決済事業者
配送会社が「宅配伝票」を持参して、集荷へ伺う
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