ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年11号
特集
在庫リスクを回避する VMI入門 CRP――中間流通の自動化戦略

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2001 16 米国のカートサーモン・アソシエイツ(KSA)と チェーンストアエイジ社が二〇〇〇年に実施した調査 によると、米国の小売業のVMI普及率は全業態平 均で四〇%に上っている。
実施率が一番高いのは百 貨店で六〇%。
次いでスーパーマーケットの五〇%、 ディスカウントストアの四三%と続く。
米流通業界で はVMIがもはや常識的な手法の一つとなっているこ とが分かる。
これに対して日本では、VMIを本格的に導入して いると言えるのは滋賀県の中堅スーパー、平和堂のみ。
最近になってイオン(旧・ジャスコ)がVMIも含ん だメーカーとの大規模な直接取引に乗り出しているが、 その他には実験レベルのもの以外、目立ったケースが 見当たらない。
その理由をKSAの岩島嗣吉エグゼクティブコンサ ルタントは「日本の小売業者はVMIの前提となる単 品別の売り上げと在庫情報を把握できていない。
その 上、『正確な発注こそ小売業の生命線であり、その権 限を取引先に委ねるなどとんでもない』という?発注 至上主義〞が根強い。
VMIの対象が補充発注のみ であり、品揃え決定権はあくまでも小売業にあること を理解していないようだ」という。
卸の存在も大きい。
米国のVMIは基本的にメー カーと小売りの直接取引を前提としている。
一方、日 本の取引ではメーカーの特約店を始めとする卸が常に 介在する。
ウォルマートの「EDLP(エブリデイ・ ロー・プライス)」とは対照的な日本の「特売主義」 は売り上げの平準化を阻害し、極端な多頻度小口発 注も常態化している。
VMIの阻害要因が山積して いるのだ。
実際、平和堂のCRPでは米国のシステムをベース にしながらも、日本市場に合わせた大幅な「日本化」 を行っている。
店頭への補充発注を自動化し、メーカ ーが自らの判断で物流センターの在庫量をコントロー ルするという構造は米国モデルと同じだが、平和堂の 場合、保管在庫の所有権はメーカーでも小売りでもな く、基本的に協力卸の加藤産業にある。
日本型VMIを模索 加藤産業は平和堂の多賀流通センターと同じ敷地 内に保管センターを構えている。
保管センターはコン ベアを介して多賀流通センターに接続されている。
C RPによる補充発注は保管センターの在庫を引き当て る。
その後、商品が多賀流通センターに搬送された時 点で所有権が平和堂に移る。
多賀流通センターは在 庫を持たず店舗別の仕分けだけを行うTC(トランス ファー)センターという位置付けだ。
補充頻度も週次ベースの米国に対し、平和堂では 毎日。
しかも、電話による店舗からの緊急発注にも、 その日のうちに対応している。
EOS(電子発注シス テム)を利用すると、データのバッチ処理のために納 品が一日遅れてしまう。
そこで、一〇〇%のオンライ ン化が有利とされる業界の常識に逆らい、あえて電話 やファクスによる発注を認めることにした。
そのため にコールセンター機能も設けている。
米国のVMIに比べて複雑で手間のかかる仕組み だが、それでも導入効果は大きかった。
店舗では定番 商品の欠品がほぼなくなり、店員が日常的な発注業 務から解放されて、本来の販売業務に集中できるよう になった。
ベンダー側でも、保管拠点の安全在庫水準 が下がり、多頻度小口納品が大きく改善された。
プロ ジェクトは当初の目的を遂げた。
平和堂のCRPはスタートしたのが九七年。
翌年に は既にその成果が報告されていた。
しかし、この「平 無在庫経営の最前線 CRP――中間流通の自動化戦略 米国でウォルマートとP&Gが実施したVMIは「CRP: Continuous Replenishment Program(連続自動補充方式)」という名のソリュ ーションとして、日本の流通業界にも紹介された。
それを真っ先に 導入したのが中堅スーパーの平和堂だ。
同社の事例は日本の川下流 通におけるVMIのモデルケースとされている。
しかし、その後の他社 への普及は遅々として進んでいない。
第1部 17 NOVEMBER 2001 特集 和堂型CRP」はその後も業界に広く普及することな く、ユニークな先進事例という位置付けのまま今日ま で至っている。
その理由を食品メーカー担当者は「実 際にはメーカーはCRPのメリットを享受することが できないでいるからだ」ともらす。
CRPの導入によって確かに平和堂向けの流通在 庫の削減と輸送コストの低減、欠品率の改善は実現 することができた。
しかし、プロジェクトをトータル で見たとき、大部分のメーカーで、コスト負担はむし ろ増加しているという。
システムの導入に投資が必要 だったのに加え、平和堂のCRPには「在庫アナリス ト」と呼ばれる専門の担当者がメーカー側に必要にな る。
これは米国のCRPでは見られない存在だ。
本来のCRPでは取引開始時点でメーカーと小売 りの担当者が、センター在庫の運用方針を決めてしま えば、その後の在庫のコントロールは基本的に自動化 される。
ところが日本では、CRPによって計算され た発注データの整合性をチェックするために人手を介 在させている。
日本の小売業特有の特売による極端な 売り上げの変動、在庫管理レベルの精度の低さが、そ の理由とされる。
それでも取引規模が大きければ、CRPにかかるシ ステム投資や人件費コストを吸収できる。
しかし、小 売りの寡占化の進んでいない日本の流通市場では、最 大手クラスの小売り相手でもメーカーの売り上げ全体 に占めるボリュームは数%に過ぎない。
ましてや中堅 クラスの平和堂だけのために、特別な仕組みを作って もメーカー側では割が合わない。
末端の市場動向を入手して生産計画に即座に反映 させることでムダをなくすという、本来メーカーがV MIで享受できるはずのメリットも、売り上げのごく 一部のデータだけでは生産計画に反映させるだけのイ ンパクトを持ち得ない。
実際、日本の一般消費財メー カーでそれを実現できている会社は一社もないと言わ れる。
P&Gファーイースト・インクの楢村文信ECRネ ットワーキングマネージャーは「米国の仕組みは、そ のままでは日本では機能しない。
市場環境が全く違う。
とくに日本でVMIを成功させるには、卸をどう活か すかという点がカギになる。
その意味ではライオンの 『IMS』は面白い試みだと思う。
競合相手ではある が注目している」という。
卸の発注をなくす 「IMS:Inventory Management Based Supply 」 とは、ライオンが卸との取引を自動化する目的で開発 した日本型のVMIシステムだ。
IMSの導入によっ て、卸側では定番商品の発注業務が自動化されるの に加え、在庫金額二二%削減、欠品率四〇%減とい った効率化を実現できることが確認されている。
現在、特約卸一三社が導入している。
同社の関口寿一家庭品営業本部流通統括部流通機 能開発センター副主席部員は「当社は一〇年以上前 から卸との間でEOSに取り組んできた。
しかし、活 動を通じて卸の現状を知るほどに、EOSだけでは効 率化に限界がある。
むしろ発注という行為自体が物流 の効率化を阻害していると気付いた。
そこで発注をな くす仕組みとしてIMSを開発した」と経緯を説明す る。
IMSは卸の関与を可能な限り排除した形で在庫 を管理する仕組みになっている。
まず卸は販売目標に 対して在庫を何回転させるのかを経営方針として決定 する。
いわば投資額を決めるわけだ。
後は、ライオン が開発したロジックによってアイテム一つひとつにつ 物流センターからの総出荷 仕入のテクニック必要 特売など 出荷金額と 出荷日数による 13 週間分を毎週更新 各アイテムのランク付け 定  番 ランク別 基準在庫保有日数 発注点日数の設定 アイテム別実出荷量 基準在庫量 発注点の計算 アイテム別基準在庫金額計算 アイテム別基準在庫金額合計 目標在庫金額に合うか? OK YES NO 合うまで何度でも繰り返し 自動化 IMSの保有在庫金額の設定基準 NOVEMBER 2001 18 いての基準在庫と発注点が決まる。
その後も出荷波 動に応じて毎週、自動的に基準在庫と発注点はメン テナンスされる。
「特売」を管理する ただし、対象は定番商品のみ。
特売に関してはIM Sでは処理しない。
従来通り、受注後に卸に補充する。
この時「定番と特売を明確に区別することが流通在 庫を管理する上でポイントになる」と関口副主席部員 は指摘する。
必要補充量の算出は過去一三週間の売 り上げ推移がベースになる。
しかし特売需要がデータ に混じれば、補充量の予測精度がガタガタになってし まうからだ。
この需要予測の問題に限らず、特売商品の存在は、 日本市場における流通在庫の管理を困難なものにする 元凶となっている。
日雑卸の売り上げに占める特売商 品の比重は、場合によっては五〇%を超える。
特売商 品は商品自体は定番と同じでも、価格体系、受注方 法から流通加工にいたるまで、全く異なる処理を必要 とする。
それが返品される時には定番商品と混在して 戻ってくる。
当然、管理は煩雑になりミスも多くなる。
そこでライオンではIMSの開発に伴い、定番と特 売の定義を明確にした。
「受注から出荷までのリード タイムが長く、二日以上あるもの」を特売。
「受注か ら出荷までのリードタイムが短く、事前に対応を予測 できないもの」を定番として、小売りの店頭で実際に 特売として販売されるかどうかには構わず、厳密に定 義に沿って受注を分類するルールを徹底。
卸の在庫管 理データの信頼性を高めた。
同社は将来的にはIMSを取引上位二五社に導入 し、全売上高の七〇%をIMSに移行したいと考え ている。
卸の在庫管理を完全に代行することになるた め、同社の負担は増える。
しかし関口副主席部員は 「通常なら卸からもらう出荷実績は一週間前のレベル。
これがIMSが普及することで卸の実在庫の動きが見 えるようになる。
生産計画が非常に楽になり、確実に 効率化できる」と断言する。
同社のように日本のメーカーは現在、中間流通在 庫レベルで、市場の動きを生産計画に反映させようと している段階だ。
これに対して米国では小売り間との V M I に メ ド を 付 け 、 現 在 は 「 C P F R : Collaborative Planning Forecasting and Replenishment 」と呼ばれる新たな段階に進もうとし ている。
メーカーと小売りが共同で需要を予測し、売 り上げ目標まで共有しようという取り組みだ。
CPFR運営で三井物産が新会社 日本でも同様の動きは出始めている。
三井物産は 今年十一月中にも、日本の流通業者向けにCPFR の運用を代行する新会社、データエクスプレスを設立 する計画だ。
同社は九八年一〇月、旧通産省の補正 予算事業として、マイカル、パルタック、P&Gと共 に日本型CPFRの実証実験を行った。
その成果を ベースに日本市場におけるCPFRの普及を図る。
三井物産でデータエクスプレスの設立準備を担当し ている桧山広道eMitsui事業部eコマース事業室SC Mプロジェクトチームプロジェクトマネージャーは 「米国型のCPFRは日本市場には導入できないとい う判断が、新会社設立のきっかけになった」という。
当初は米国の仕組みをそっくり日本市場に持ち込もう と考えていた。
しかし、店舗のサイズ、納品頻度、取 り組み規模の全てにおいて条件が合わない。
CPFRには膨大な投資と手間が必要になる。
実 際、ウォルマートとP&Gの事例を見ると巨額のシス CPFRの発展段階 プロセス領域 D:サプライチェーン・   マネジメント C:補充プロセス B:統合された計画・   予測プロセス A:協働プロセス 初級レベル 中級レベル 上級レベル サプライチェーンへの関 心/計画の欠如 小売情報の共有は限定的 /全く行われていない 手作業で、標準化されて いない予測/計画策定 限定的な一方的コミュニ ケーション 社内プロセスの最適化 DC段階の補充プロセス に焦点を当てられている 標準化された需要データ の作成・入力が行われて いる 標準化され統合された協 働プロセス サプライチェーンの最適化 小売店における自動発注 と製品フローの最適化 統合された予測・計画・ 協働プロセス ライオンの関口寿一家庭品 営業本部流通統括部流通機 能開発センター副主席部員 資料:(財)流通経済研究所「CPFRロードマップ」より ※同資料と「CPFRガイドライン」は米国におけるCPFRの教科書となっている。
日本では流通経済研究所が翻訳し販売している 19 NOVEMBER 2001 特集 テム投資と人材を投入している。
しかし日本は小売り もメーカーも米国ほどの上位集中が進んでいない。
日 本市場では投資を吸収するだけの規模の確保が壁にな ってしまう。
そこにデータエクスプレスのようなサー ドパーティが機能するニーズがあると三井物産は考え た。
データエクスプレスがPOSデータを基に、小売業 とメーカーの販促情報を加味して需要予測を作成。
各 店舗の発注推奨数量を作成する。
こうしてサードパー ティが構築した情報インフラを各社が共同で利用する 形にすれば一社当たりの負担は大幅に軽減される。
機 密情報の保持に対する信頼性も高まる。
しかし「新会社が日本の流通業者に本当に受け入 れられるのかどうか。
全く新しい取り組みだけに、予 測できない面が大きい。
当面は地道にビジネスモデル の有効性を流通業者に説いて回ってみるしかない」と 桧山マネージャーはあまり楽観はしていない。
CPFRが日本に定着するかどうかについて、日本メーカーのロジスティクス担当者には懐疑的な見方を するものが多い。
米国ではモデルとなっているP&G の楢村マネージャーにしても「VMIは日本でも広が るだろうが、CPFRのほうは五年経ってみないと分 からない」と考えている。
日雑最大手の花王も、現在 は小売りのPOSデータの利用より、むしろ物流セン ターの出荷データに基づく需要予測の精度向上に力を 入れているフシがある。
CPFRの前提であるCRPでさえ、いまだに不信 感が根強いのが日本の流通の現状だ。
ただし、巨大な 流通外資が日本市場に本格参入してくるとなると話 は変わる。
横並び意識の強いお国柄だけに、これまで の停滞ムードから一転、一気に改革が進むとも推測で きる。
その可能性は決して低くない。
――VMIの難しさは? 「単品管理を徹底することです。
これができないと補 充発注も掛けられない。
日本の流通業界では一五年く らい前から単品管理の必要性が議論されてきたのですが、 未だに徹底できていないというのが実情です」 ――そこまで厳密に管理する必要があるのでしょうか。
「厳密でなければ店頭は欠品だらけになりますよ。
例 えば男性用のパンツ。
同じデザインで同じ価格のパンツ をお父さん用と息子さん用にサイズは別で二枚購入した とします。
そうすると、販売員は同じ値段だから、レジ でお父さん用のタグだけをスキャンして、『×2』と打 ち込む。
これをやると、SKUが狂って、単品管理どこ ろではなくなってしまう。
実際には売れていない商品が 自動補充で納品されることだって起こりうる。
値段や品 番だけでなく、サイズの情報までをきちんと掴める仕組 みがないとVMIをやっても意味がない」 ――急に特売をやることになった場合、VMIの仕組み は足かせにはならないのでしょうか。
「特売キャンペーンをやらなければ、VMIは結構う まく機能するはずなんです。
ところが、目玉商品が出た からといって、急にキャンペーンをやるといいだすと、 ルールが崩れてしまう。
ですから、両社であらかじめ特 売をやる場合には何週間前とか数日前に通知をすると か取り決めを用意しておく必要がある」 ――しかし、実際にはルール通りにはいかないでしょ う? 「そうですね。
突然、 競合店が特売をやる から、こっちもやら なければということ だってありますから。
シャンプーだけの特 売のはずが、急にリ ンスもセットで特売 をやると言い出すこともある。
そうなると、ベンダー側 としては非常に困る。
シャンプーは在庫補充できるけど、 リンスはできないという事態になる」 ――VMIはベンダー泣かせですね。
「小売りにだけ導入のメリットがあるというわけでは ありません。
メーカーや卸はこれまで、小売りの発注ご とに商品を納品していましたが、これが自分たち主導で 在庫補充できるようになるわけですから、納品の頻度を 減らして、トラックの積載率を高めることが可能になり ます。
そうなれば当然、物流コストの削減につながる。
メーカーでは前もって必要な商品数が掴めるようになり ますから、生産も非常に楽になる」 ――VMI導入で発注権を奪われることに対して小売り 側は抵抗があるようです。
「POS情報を無償では提供できないと主張している 小売りもあるくらいですから、抵抗はあるのでしょうね。
VMIは川上と川下のコラボレーションがあって実現す るのに、まだそんな部分にこだわっている。
時代錯誤も 甚だしいというのが本音です。
小売りは店頭の情報を提 供すれば、在庫管理の手間から解放されて自分たちが楽 になる。
無償で提供してもお釣りがくるくらいの効果が あるはずなのですが、それが理解されていない」 ――VMIは大手企業同士に限定された取り組みなので すか。
「確かに情報システムへの投資などを考えると、大手 企業同士のほうがやりやすいという側面はあります。
し かし、逆に中小のメーカーや卸が大手小売りに対して、 戦略的にVMIを働きかけるというのも効果的でしょう。
VMIをやれば、小売りはその企業の商品を優先的に 売ってくれるようになる。
川上側からすれば、これまで は発注通りに商品を納品すればよかったのに、在庫管理 まで面倒をみるとなると日々のオペレーションはたいへ んになりますが、VMIをきっかけに小売りの懐に深く 潜り込めるチャンスでもあるのです」 「特売が足カセになっている」 KSA 大橋進 ロジスティクスサービスディレクター

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