ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年11号
特集
在庫リスクを回避する VMI入門 信頼関係を契約書で担保する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2001 36 買い手のエゴがVMIを生む ――VMIの?顧客のために在庫を管理する〞という 考え方からは買い手側の意向を強く感じます。
「確かにVMIの考え方には、買い手のエゴが一部 入っています。
必要なときに、必要なものだけを、都 合良く持ってきてくれというのですからね。
こうした 要望に応えざるを得ないのが売り手の立場です」 ――かつて、セットメーカーの工場内に部品メーカー が在庫を置いて管理までする「コック方式」が問題視 されました。
「コック倉庫の対象になっていたのは、主にコンデ ンサーや抵抗などのような小さな共通部品です。
工 場の人達がすぐに使えて、事前に入れた分と、残っ た分の差が部品メーカーの売り上げです。
支払代金 は一カ月分まとめて後払い。
物流を簡素化し事務処 理を軽減するためには、それなりに意味のある仕組 みでした」 「しかし、そうしたメリットを台無しにするほどの弊 害がありました。
右肩上がりで成長している間はまだ 良かったんですが、いったん需要の伸びが止まると在 庫の山だけが残ってしまった。
このとき買い手によっ ては、部品メーカーに全て持ち帰れなどと言ったケー スもあった。
在庫管理がきわめて雑だったことも問題 です。
一カ月に一度だけ見るとか、ときどきセールス マンが覗いてみて減り具合をチェックするとかね。
こ んな管理では売り手にとってはたまりません。
どれだ けの在庫を持てばいいのか全く分からない」 ――最近のVMIは違いますか。
「情報の共有化が基本になっています。
買い手の立 場では当然、どれだけの部品を使ったかを把握してい る。
この情報を売り手の側にも流すことで初めて、予 定していた数量に対してどういう状況で推移している のかも分かります。
この情報共有の仕組みが、最近の VMIの大きな特徴です」 引取責任がカギに ――VMIを成功させるポイントは情報共有の他には 何がありますか 「やはり、引き取り責任の考え方が重要です。
買い 手側がきちんと需要予測をして、例えば一週間〜二 週間分を置いてくれ、その分は買い取るからといった 条件を設定するわけです。
サプライヤーの立場では、 どっちみちある程度の在庫は持たなければなりません。
それなら引き取ってくれそうな顧客の近くに置いてお く方がいい。
リスクをシェアできて、かつリーズブル な条件を設定する必要がある。
そのためには互いの信 頼関係が不可欠なんです」 ――信頼関係と口で言うのは簡単ですが、どうやって ビジネスのなかで具体化していくのですか。
「本当にVMIを実現したいのであれば取引条件ま で踏み込んできちっとした契約書を交わすべきです。
かつて私がソニーで調達を担当していたとき、初めて この分野での契約書を整備しました。
それまでの考え 方では、一方的に部品メーカーにお願いしていた。
こ れを契約書で部品メーカー負担で在庫してもらう期間 を明記し、互いに在庫リスクを回避すべきだと考えた んです」 ――それはいつ頃のことですか。
「九六年ぐらいですかね。
まずは汎用的な契約書を 作ったわけですが、どういう条件にすれば互いに納得 できるのかを詰める必要がありました。
これを明文化 して契約書にまとめる作業は簡単ではなくて、基本的 な枠組みを作りあげて本格的に導入をスタートしたの 第2部調達物流で稼ぐ 「信頼関係を契約書で担保する」 90年代半ばにソニーの取締役として調達を担当していた とき、部品メーカーの契約手続きに奔走した。
セットメー カーと部品メーカーが互いにリスクをシェアするためには、 信頼関係に基づく情報の共有が欠かせない。
そうした全体 最適を提言するのがロジスティクス部門の役割だという。
ソニーロジスティックス水嶋康雅社長 37 NOVEMBER 2001 特集 は九八年ぐらいです。
その後、賛同してくれるところ から導入していきました」 物流子会社の調達ビジネス ――いまソニーロジは調達物流の部分も、かなり手掛 けているのでしょうか。
「関東圏の部品メーカーに我々の倉庫を利用しても らって、そこから工場にJIT納品しているという ケースがあります。
工場に納品した帰り便では完成 品を持って帰ってきます。
また、名古屋の一宮でも、 当社の倉庫までは部品メーカーに持ってきてもらい、 それから我々が流通加工をした上で、工場にJIT 納品するといった取り組みを一、二年前からやって います」 ――御社が調達分野でビジネスを拡大していくとした ら、やはりVMIは一つのテーマになるのですか。
「それはそうです。
さきほどVMIのポイントとして、 情報の共有化を挙げましたが、もう一つ欠かせないの が全体最適化の視点です。
部門横断的なプロジェクト では、それぞれの参加者がどうしても自分の所属する セクションの都合を主張してしまう。
そのときに全体 最適の視点で提言ができる部門はそう多くはありませ ん。
キーワードはコストと時間です。
この両面から見 て何がベストかを我々、ロジスティクスの人間が提言 していくわけです」 「我々はソニーがバイオを売り出す一年ぐらい前か ら、プロジェクトの一員として参画していました。
誰 をターゲットに、どこの国から最初に着手するのか、 というところまで含めて議論して、これを具体的にど う実現するかを詰めてきたわけです。
こういう企業戦 略の根幹にかかわるような話は、いくら信頼関係があ っても第三者には話せません。
インハウスのロジステ ィクス業者だからこそできる話です」 ――バイオの主力工場である長野工場への部品調達を どうするかも、かなり戦略的に考えたのでしょうね。
「最初はね、部品を確保するというのが第一でした。
ソニーにとっては初めてと言ってもいい分野でしたか らね。
効率化はその次の段階の話です。
バイオという 商品が完全に世の中で認知されてからは、低コスト化 のために調達の仕組みを見直すという話も進めてきま した。
現在ではミルクランによる調達もやっています し、一部ではVMIも実施しています」 ――その際、何を基準にVMIの対象にするかを決め るのでしょうか。
「筐体のように嵩のはる部品については、工場の近 くで生産して、必要な分だけを届けてもらえばいい。
一方、小さくてしかも遠方で作っているような部品、 たとえば半導体などについてはVMIの対象になる可 能性が高くなります」 ――そこでのソニーロジの役回りは? 「工場内に部品を保管してある場合は、生産ライン に供給する業務が必要ですし、在庫管理という業務も あります。
工場内にそうしたスペースがないのであれ ば、近隣に倉庫を構えて在庫管理とライン納品を担う といったケースもあります」 ――現場を担うために必要なスキルは。
「とくに電機製品では、一つの部品が不足するだけ で生産活動自体がストップしてしまいます。
そうなれ ば他の部品がいくらあっても意味はありません。
かと いって在庫を余分に持つようでは、本来のVMIの狙 いに反する。
ようはメーカー的な感覚で、一つの部品 が不足することの重要性を理解できなければダメです。
その点、我々のようなメーカー系の物流子会社は生産 者の視点に立ちやすいという優位性があります」

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