ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年12号
ケース
三越物流――ネット物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2001 46 閑散期埋めるネット商品 老舗百貨店・三越の物流子会社である三 越物流は昨年三月、食品中心のネット通販モ ール「しののめ合衆国」をオープンさせた。
立ち上げ当初こそ、全国のブランド米の販売 に限定していたが、その後は徐々に対象品目 を拡大。
現在ではカレー、味噌など約一〇〇 品目を扱っている。
モール開設の狙いは物販収入を得ることで はなく、売買によって発生する物流を取り込 むことだった。
比較的経営規模の小さい地域 の食品メーカーなどに商品を売る?場〞を提 供し、販路拡大の手助けをする。
その代わり に、三越物流は出店者から商品の流通加工や 保管、配送といった物流業務や代金決済を一 括で請け負う。
ビジネスモデルとそのコンセ プトはヤマト運輸が運営しているネット通販 サイト「クロネコ探検隊」に近い。
「収入の柱であるギフト商品の物流は繁閑 差が激しい。
安定した物量の確保が期待でき るネット通販商品の物流で閑散期を埋めると いう狙いもあった」と前田順和ECロジステ ィクス推進担当課長はサイト立ち上げの経緯 を説明する。
「しののめ合衆国」の滑り出しは順調だっ た。
地域の特産品などレアな商品が購入でき るネット通販サイトとして各種メディアに取 り上げられたことが奏功して、多い時にはア クセス件数が月一万件を超えた。
販売数も月 “詰め合わせ宅配便”を開発して 少量・低価格品のネット販売を実現 自ら運営するインターネットショッピングモー ル「しののめ合衆国」で新たに「いろ色バスケッ ト」サービスを始めた。
異なる出店者の複数の商 品を一つの箱に詰め合わせて配送するサービスで、 ベンダーの物流費負担率は販売価格に応じて変動 する。
このサービスによって、利用者の配送料負 担の軽減とベンダー側の物流コスト削減を実現し ている。
三越物流 ――ネット物流 上げることで、ベンダー側でコスト割れが発生するのを防ぐためだ。
仮にこのルールがな いと、五〇〇円という購入金額に対して、送 料を含めた物流費の持ち出しがその金額を上 回り、どんなにたくさん売っても儲からない 構造になってしまう。
しかし、下限設定のルールは利用者にとっ ては使い勝手が悪い。
通常、利用者はまず商 品を少しずつ購入して味を確かめてから、大 量購入を検討する。
小ロットでの購入を希望 する利用者に物流費をすべて自己負担しても らえば済む話だが、現実には商品価格よりも 高い物流費(送料)を支払ってまで手に入れ ようとする利用者など皆無に等しいという。
「例えば、物流費の負担力を持たせるため に味噌の販売価格を五〇〇〇円と設定したと すると、その量は五キログラムを超えてしま う。
一般の家庭で一回の購入で味噌を五キロ も買うところはほとんどない。
よほどの大家 族か、大学の運動部の合宿所くらいだろう。
味噌について言えば、一回当たりの購入量は せいぜい一〜三キロが限界だ。
しかし、大半 のネット通販サイトはベンダー側の意向を優 先して、利用者のニーズに沿った価格帯を設 定できていないのが実情だ」と前田課長は説 明する。
「しののめ合衆国」もその例外では なかった。
そこで今年八月、三越物流は「しののめ合 衆国」の中で新たに異なるベンダーの商品を 小ロットで複数購入できる「いろ色バスケッ 47 DECEMBER 2001 平均で百数十件台で推移していたという。
ギ フト物流の閑散期をすべて埋めるまでの物量 には至らなかったものの、手応えは十分にあ った。
ところが、立ち上げから数カ月が過ぎた頃 から、アクセス件数、販売数ともに頭打ちの 状態になった。
宣伝活動が少ないためにサイ トの認知度が上がっていないことが理由の一 つだったが、「『しののめ合衆国』には買い物 をする上での制約が多く、利用者に買い物の 楽しさを提供できていない」(近藤充弘EC ロジスティクス推進担当)点も見逃せない問 題だった。
カステラ三切れから配送 一般に食品を中心に扱うネット通販サイト では、一回当たりの商品購入金額の下限があ らかじめ設定されているケースが少なくない。
例えば、単価が五〇〇円の菓子であれば、一 回で三個口以上など複数口での購入が義務付 けられている。
一回当たりの購入金額を引き ト」サービスを始めた。
既存のサービスでは ケース単位での購入がメーンだったのに対し て、「いろ色バスケット」では、高級カステラ であれば三切れから、こんにゃくなら二袋か ら購入できる。
利用者は必要以上に商品を買 わなくても済むようになったわけだ。
単価も 数百円から千数百円程度と割安で、現在、対 象商品として約四〇品目を用意している。
選んだ商品は一つの段ボールにまとめて梱 包されて届けられるため、利用者の送料負担 は大幅に軽減される。
従来、「しののめ合衆 国」ではベンダーが異なる商品はそれぞれ 別々に届けていた。
利用者は一度に購入して ホームページアドレスはhttp://www.shinonome.com/ 前田順和ECロジスティクス推進担 当課長 DECEMBER 2001 48 もベンダーの数だけ送料を負担する必要があ った。
「いろ色バスケット」ではそれが一回分 で済む。
送料は購入金額によって数段階に分かれて いる。
常温商品であれば「一〇〇〇円未満」 が七〇〇円、「一〇〇〇〜三〇〇〇円」が五 〇〇円、「三〇〇〇〜五〇〇〇円」が三〇〇 円、「五〇〇〇円以上」が無料と、購入金額 が上がると送料が安くなっていく設定だ。
「本当に必要な量だけを購入できる仕組み になったことで、利用者には満足してもらっ ている。
送料負担が減ったほか、荷受け、代 金決済も一回で済むようになって、買い物を するうえでの利便性は格段に向上したはずだ」 (小田淳営業管理担当主任)という。
ベンダー負担を大幅削減 新サービスはベンダー側からも支持されて いる。
自社の商品が他ベンダーの商品と混載 されるかたちで配送される分、一社当たりの 物流コストの負担が減るからだ。
従来は販売 価格の三〇〜五〇%に相当する物流費の持ち 出しを余儀なくされていたベンダーもあった が、新サービス開始以降、物流費は商品価格 の二〇%前後の金額で抑えられている。
一梱包当たりの各ベンダーの物流費負担率 は商品価格に応じて割り振られる仕組みにな っている。
例えば、ある利用者がA社、B社、 C社のベンダー三社からそれぞれ「お米(販 売価格二四〇〇円)」、「カレー(同五〇〇円)」、 「ミネラルウォーター(同三〇〇円)」を購入 したとしよう。
その場合、各社の負担率は合 計金額に占める販売価格の割合から、A社七 五%、B社一五・六%、C社九・三%と按 分される。
三商品を一括梱包して配送する際に必要と なる物流費が合計七九〇円(内訳は配送料五 〇〇円、代引手数料一五〇円、資材料八〇 円、梱包作業料六〇円)と仮定して、各項目 に負担率を乗じて各社の負担金額を算出する と右図に示した通りになる。
項目ごとに計算 したコストを積み上げていくと、各社の負担 金額はA社五六八円、B社一三四円、C社 八八円と割り振られる。
次に、利用者から徴収する送料をベンダー 『いろ色バスケット』の物流費負担率 出店会社 A 社 B 社 C 社 合 計 商 品 お  米 カ レ ー ミネラルウォーター 費用項目 配送料 代引手数料 資材料 梱包作業料 合 計 料 金 2,400円 500円 300円 3,200円 販売価格 物流費負担率 75% 15.6% 9.3% ≒100% 500円 150円 80円 60円 790円 物流費 568円 134円 88円 790円 戻入額 225円 47円 28円 300円 請求額 343円 87円 60円 490円 販売価格に占める 物流費の割合 14.3% 17.4% 20.0% 例 上記3商品を一括梱包して配送した場合の物流費 注)梱包作業料は20円/1個×3で算出 配送料 代引手数料 資材料 梱包作業料 合 計 A 社 375円 113円 60円 20円 568円 B 社 78円 23.4円 12.5円 20円 134円 C 社 46.5円 14円 7.4円 20円 88円 各社の物流費 利用者から徴収する配送料の戻し入れ額 戻し入れ額 A 社 225円 B 社 47円 C 社 28円 A 社 B 社 C 社 合 計 三越物流が各ベンダーに請求する料金 ※請求額=物流費−戻入額 各項目について、各社の物流負担率をかける (ただし、梱包作業料は一律20円) 出店会社 配送料300円を負担率に応じて配分する 49 DECEMBER 2001 に返す「戻し入れ額」を、同じように各社の 負担率を乗じて計算する。
三二〇〇円分を購 入した場合の配送料は三〇〇円なので、各社 への戻し入れ額はA社二二五円、B社四七円、 C社二八円となる。
最後に、物流費負担額か ら戻し入れ額を引いた金額を物流費の実費と して各ベンダーに請求する。
その額はA社三 四三円、B社八七円、C社六〇円だ。
ベンダーがそれぞれ商品を配送するとなる と、利用者から徴収する送料を差し引いても 各社に五〇〇〜六〇〇円程度の物流費の持 ち出しが発生する。
それに比べ、「いろ色バスケット」での物流費は格段に安くなってい る。
販売価格に占める物流費の割合はA社一 四・三%、B社一七・四%、C社二〇・〇% と、いずれも販売価格の二〇%前後で落ち着 いている(右ページ表参照)。
三越物流では「いろ色バスケット」を始め るにあたって、商品の容積や重量に応じてベ ンダーの物流費負担率を設定することも視野 に入れていた。
ところが、容積や重量はあっ ても販売価格が安く、物流コストを吸収でき ない商品も扱っていたため、この方式の採用 を見送ったという。
結局、販売価格に応じた負担率を採り入れ ることにしたわけだが、物流コストの占める 割合を何%に設定するか、線引きをする作業 は最後まで難航した。
ネット通販はメーカー 直販が基本で流通コストがあまり掛からない 構造なので、比較的高めの負担率でも受け入 れられると踏んでいたが、現実は厳しかった。
「各ベンダーへのヒアリングの結果、販売価 格に対する物流費の割合が一〇〜二〇%程度 であれば納得できるという回答を得られたの で、この数字をベースに料金体系をつくった」 と前田課長は打ち明ける。
在庫確保で翌日配達 現在のところ、国内の数あるネット通販サ イトのうち、「いろ色バスケット」のように複 数の商品を一つにまとめて配送するという物 流のモデルを採用している事例はあまり見受 けられない。
とりわけ、楽天市場のように、 売り買いの?場〞の提供に主眼を置いている ネット通販サイトは、基本的に物流の部分に は介入せず、ベンダー任せの姿勢を貫いてい るケースが多い。
その結果、ベンダー主導で 販売価格や一回当たりの購入ロットが決めら れている。
もともと、先進的なベンダーからは詰め合 わせ配送のニーズが寄せられていた。
ベンダ ー同士で物流費をシェアすれば、コスト削減 につながるからだ。
ところが、まだまだベン ダーごとに商品を配送するという仕組みが一 般的なのは、ベンダーの商品出荷場所が全国 に点在しているといった地理的条件もあって、 詰め合わせ配送を展開する際のルールづくり が難しいからだ。
「ベンダー同士が個別にア ライアンスでも組まないかぎり、詰め合わせ 配送は実現できなかった」と前田課長も指摘 する。
実際、「しののめ合衆国」と同じように詰 いろ色バスケットの仕組み 従 来 ベンダー ベンダー ベンダー 購 入 者 商品配送 商品配送 商品配送 ベンダー ベンダー ベンダー 三越物流物流センター 購 入 者 納 品 納 品 納 品 詰め合わせ 配送 いろ色バスケット 近藤充弘ECロジスティクス推進担 当 DECEMBER 2001 50 め合わせ配送に挑戦した、あるネット通販業 者は「全国のベンダーから同じタイミングで 商品を調達するのが難しかった。
注文品がす べて揃うまでに日数が掛かり、受注から配達 までのリードタイムが四日から一週間になっ て、利用者から不満の声が上がり、計画が頓 挫してしまった」と漏らす。
これに対して、三越物流では自社の物流セ ンターで各ベンダーの商品を在庫することで、 リードタイムの問題を克服している。
原則と して「しののめ合衆国」に出店しているベン ダーであれば、「いろ色バスケット」の利用は 可能だが、賞味期限が短いなど商品特性上、 在庫を持つことが相応しくない商品以外はす べて物流センターで在庫することを義務付け ている。
これによって、早ければ受注日の翌 日に商品を配達することを可能にしているわ けだ。
「ネット通販の利用者は注文した商品がす ぐに自宅に届くことを望んでいる。
ベンダー から商品が直送されるケースは問題ないが、 『いろ色バスケット』は詰め合わせの作業がある分、リードタイムの面で不利だ。
それを 埋めるためにも物流センターでの在庫確保は 必須だった」と前田課長は振り返る。
因みに、物流センターでの受注から出荷に 至るまでの作業フローはこうだ。
まず利用者からの注文データを午前中に集 約し、ピッキングリストと出荷伝票を作成す る。
次に作業員がリストを見ながらラックか ら商品をピッキングして、流通加工スペース に移動し商品の詰め合わせ作業を行う。
そし て午後には出荷するという手順だ。
センター で在庫を持たない商品が注文に含まれている 場合は、翌日ベンダーから商品が納品されて から、同じ手順で作業を進めていく。
在庫管理システムを整備 「いろ色バスケット」サービスの目下の課題 は参加企業を増やすことにあるという。
現在 の対象商品は約四〇品目にとどまっており、 利用者は物足りなさを感じている。
ネット通販サイトは品揃えの充実度で来訪 者の数が左右されると言われている。
「いろ 色バスケット」の利便性がベンダー、利用者 に理解されて販売件数が増えれば、「しのの め合衆国」を立ち上げた当初からの狙い通り、 ネット通販商品でギフト物流の閑散期を埋め ることも可能だ。
ただし、対象品目が増えれば、それだけベ ンダーへの商品補充発注や物流センターでの 在庫管理など日々のオペレーションは煩雑に なる。
現在、販売件数が少ないこともあって こうした業務はすべて人手を介して行われて いるが、いずれそれも限界に達する。
「恥ずかしながら、例えば商品補充はラッ クに積まれている商品の減り具合を見ながら 発注を掛けるというレベル。
ベンダーからの ニーズもあるので、来春までにはきちんとし た在庫管理システムを整備したい」と前田課 長は意気込んでいる。
利用者とベンダーの双方のコスト削減に寄 与するネットビジネス向け物流サービスを盤 石なものにするには、まだまだ解決すべき課 題が残されている。
(刈屋大輔) 小田淳営業管理担当主任

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