ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年12号
ケース
ドン・キホーテ――物流センター

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

51 DECEMBER 2001 煩雑な荷受け作業 「深夜の激安王」との異名を持つディスカ ウントストア、ドン・キホーテ(以下、ドン キ)は八九年の初出店以来、一都三県を中心 に急速に店舗網を拡げてきた。
現在、その数 は三四店舗。
深夜営業を行うディスカウント ストアという目新しさと利便性から、一時巻 き起こった?ドンキ・ブーム〞こそ下火とな ったものの、家電、日雑品、食品から高級ブ ランド品までを網羅するその品揃えと圧倒的 な価格の安さは、相変わらず消費者を魅了し 続けており、来客者は絶えることがない。
業績も堅調だ。
直近の決算(二〇〇一年六 月期)では売上高九三九億六八〇〇万円(前 期比二九・六%増)、経常利益七〇億二〇〇 〇万円(同二〇・四%増)の増収増益を記 録した。
今後は福岡、大阪、札幌地区への進 出も予定されているという。
ここ数年で急成長を遂げてきた同社だが、 物流体制はこれまで手つかずの状態が続いて いた。
各店舗への商品供給はすべてベンダー 任せだった。
注文を受けたベンダーは自由な 時間に店舗に商品を納める。
店舗側の商品管 理担当者はその都度荷受け、検品して、次か ら次へと棚に商品を陳列していく。
乱暴な言 い方をすれば、そんな体制だった。
一店舗当たりの扱いアイテム数が少ない頃 は、このやり方でもさほど問題にはならなか った。
ところが、品揃え重視で取引するベン 委託在庫方式の一括物流を開始 パートナーは日商岩井&センコー リードタイム短縮や品切れ防止、店舗の荷受け 業務簡素化などを目的に、一括物流に着手した。
経営トップの判断で、物流センター運営費とセン ターフィーの差額をピンハネする“悪しき慣習” は排除した。
ただし、在庫リスクを回避するため、 店舗に商品が到着するまでベンダー側の在庫とす る「委託在庫方式」によるVMIを実施している。
ドン・キホーテ ――物流センター DECEMBER 2001 52 ――を段階的に進めていくという内容だ。
まず、ベンダーによる共同配送というかたちで、 店舗への一括納品化に取り組む。
それが軌道 に乗ったところで、今度は定番商品の在庫を 管理するDC型物流センターを置く。
ただし、所有権はあくまでもベンダー側に 帰属するという「委託在庫方式」を採用する ことで、ドンキ自身の在庫リスクは回避する。
そして最終的には店舗での荷受け、検品作業 を簡素化するため、センターで検品や棚別の 商品仕分けを済ませてから納品する体制に移 行する、というシナリオだ。
「一気に商品の検収、棚別仕分けのレベル まで進めようという意見もあったが、まずは ベンダーによる共同配送までで様子を見よう という話になった」と日商岩井ロジスティク スの横山勉ロジスティクス・ソリューション 事業部第二部営業企画チームリーダーは経緯 を説明する。
物流改善のステップワンという位置付けの ベンダーによる共同配送は昨年一〇月、セン コーの葛西JETセンター内に設けた「ド ン・キホーテ共同配送センター」を拠点にし て始まった。
ドンキの出荷指示に従ってベン ダー各社が同センターに商品を納品。
その後、 センコーが一都三県の三四店舗に一括で商品 を納めるという仕組みだ。
対象商品は日用雑 貨と加工食品など。
冷凍食品や高級ブランド 品などは除外した。
スタート時点での共配参加ベンダー数は約 ダーの数を増やしていくと、煩雑な作業を強 いられる店舗側から徐々に不満の声があがる ようになった。
「現在、取引先は二〇〇〇社を数えるまで に膨れ上がっている。
当社の場合、店舗の商 品補充は毎日発注が基本。
店舗側の物流作 業の負担は日を追うごとに増すばかりだった」 と稲田純平第二営業本部サブマネージャーは 説明する。
?抜かない〞共同配送 ベンダーの納品先を一カ所に絞り、そこか ら各店舗に商品を配送するという一括物流の 構想が社内で持ち上がったのは、一四店舗の 出店を終えた三年前のことだった。
目指すは 同じようにチェーン展開している量販店やC VS、ホームセンターなどが採り入れている ような一括物流――。
ところが、一括物流の イメージこそ湧くものの、実際の運営方法な どについての知識はゼロ。
為す術がなかった。
そこで、物流業者一〇社に声を掛けて、コ ンペを実施した。
受けた提案はどれも非の打 ち所がなかったが、とりわけ感触が良かった のは総合商社の日商岩井と小売り物流に強い センコーが共同出資で設立したエヌエスシ ー・ロジスティクス(現・日商岩井ロジステ ィクス)だった。
エヌエスシー・ロジスティクスが提案した のは?納品代行の導入、?委託在庫方式の導 入、?センターでの検品、棚別仕分けの導入 一〇社だった。
共配の旗振り役となった日商 岩井ロジスティクスの横山リーダーがベンダ ー各社に足繁く通って口説き落とした。
ただ し、これは満足できる数字ではなかった。
一 括物流=協賛金というイメージからか、共配 に対するベンダー各社の反応は当初、あまり 芳しくなかったという。
一般に、一括物流に伴い展開される共同配 送は?ベンダーによる共同配送〞と謳われ、 ベンダー主導で動いていることが強調されて いるが、実態は小売り、もしくは小売り寄り の物流企業が主導権を握っていることがほと んどだ。
納品代行(共同配送)料という名目 埼玉県戸田市の一括物流センター 53 DECEMBER 2001 でベンダーが徴収される費用は実費に一定の マージンが上乗せされていて、その差額を小 売りが懐に入れているというケースも珍しく ない。
そして、この悪しき慣習が共同配送に 対するベンダーの警戒心を強める要因にもな っている。
これに対して、日商岩井ロジスティクスは ドンキからの依頼で動いている小売り寄りの 立場ではあるが、不当なマージンは抜いてい ないという。
一般的に採用されている納品価 格や通過物量の数%を納品代行料として徴収 するという不透明なやり方ではなく、ベンダ ーごとに商品特性などをきちんと勘案したう えで適正な料金体系を決めている。
配送料は個建て契約が基本だ。
「ピンハネをしないのは小売業の一括物流 でも稀なケースだと思う。
当初は難色を示し ていたベンダーも次第に共配に参加するよう になった」と横山リーダーは説明する。
社長命令の委託在庫方式 実はドンキでは共同配送と並行するかたち で、委託在庫方式の導入も徐々に進めていた。
ところが、こちらも共同配送と同様、当初は ベンダー側の抵抗があって、なかなか参加企 業の数が増えなかった。
共配への参加と同時 に委託在庫方式も受け入れてくれたベン ダーも数社あったが、目標数には程遠か った。
委託在庫方式では、ドンキの物流セン ターで商品在庫が管理されるが、店舗に 納品されるまで所有権はベンダー側に帰 属する。
なおかつ、ベンダーは保管料、入 出庫作業料といった物流センターの運営 費の負担を強いられる。
一方、ドンキは 在庫リスクがゼロ。
委託在庫方式という と聞こえはいいが、恩恵を受けるのはド ンキだけ。
ベンダー各社が抵抗するのは 当然だった。
苦戦は続いたが、ドンキは委託在庫方 式の導入にこだわった。
委託在庫方式で は在庫リスクの回避のほかにも、調達リ ードタイムの短縮、店頭での欠品防止、納 品精度の向上といった効果が期待できるから だ。
安田隆夫社長からも「ベンダーとの取引 はすべて委託在庫方式に移行させろ」との指 示が出たくらいだ。
今年三月、とうとうドンキは強行手段に出 た。
すべてのベンダーを対象とした取引形態 の一斉見直しを実施したのだ。
ドンキがベン ダー各社に突きつけた取引見直しの内容とは、 現金取引の原則禁止、支払いサイトの延長と いった商取引にまつわる項目がメーン。
だが、 それと同時に今回は一括物流に取り組んでい るという背景から、物流に関する項目も盛り 込まれていた。
ベンダー各社に共同配送と委託在庫方式へ の参加を強く要請する主旨で、具体的には一 括物流に参加できず、なおかつ?店舗への定 時納品、?EOSによる発注、?フリー検品 ――の三つの条件に対応できないベンダーに は、商品の納品価格に対してそれぞれ〇・ 五%ずつ、最大で一・五%の物流協賛金を課 すという内容だった。
もちろん、一括物流への参加は強制的では ないので、三つの条件さえクリアできれば、 引き続き自社物流による納品でも構わない。
あくまでも一括物流への参加と自社物流の場 合のコストを比較して、適しているほうを選 択してもらえればいい、というスタンスだ。
ただし、これらに応じられないベンダーとは 容赦なく商取引を打ち切るというカードも用 意されていた。
共配・委託在庫方式への参加企業の推移 80 70 60 50 40 30 20 10 0 スタート時 参加企業数 2000 11 月末 12 月末 2月末 3月末 年 10 月末 2001 年 1月末 取引形態見直し 10 16 31 32 33 43 76 (社) DECEMBER 2001 54 実際、この取引見直しを契機に、共配およ び委託在庫方式への参加企業の数は一気に増 えた。
立ち上げ段階では一〇社だったのが、 取引見直しの交渉が済んだ今年三月末には七 六社にまで急増した(右ページ図参照)。
「こ れで店頭での品切れが許されない定番商品の ほとんどを委託在庫方式へ移行させることが できた」と稲田サブマネージャーは満足する。
ドンキでは共同配送と同じように、委託在 庫方式でもベンダーから徴収するセンターフ ィーは必要最小限にとどめている。
「社長から『不当なマージンをベンダーから搾り取る ような行為はやめろ』という指示があった」 (稲田サブマネージャー)からだ。
保管料や 入出庫作業料といった各ベンダーのセンター 運営費負担はほぼ実費。
ベンダーごとに話し 合いの場を設けて、商品特性などに応じて細 かく料金体系を決めているという。
センター在庫はベンダーが管理 共配および委託在庫方式への参加企業が増 えたことに伴い、今年五月には物流センター を葛西から埼玉県・戸田市のセンコー東京支 店戸田第2PDセンター内に移した。
新セン ターはTC(通過型=共配参加のみ)および DC(在庫型=共配と委託在庫方式に参加) 併用型だ。
そこでのオペレーションは次のよ うに進んでいく。
まずTCだが、商品は午前九時から午後七 時まで断続的に各ベンダーから送り込まれる (ただし、一部商品について はセンコーがベンダーから集 荷する)。
続いてセンターに 到着した商品は荷捌き場から コンベアで才数計まで搬送さ れる。
ここで商品のPDラベ ルを読みとり、発注データと 照合して検品を行うと同時に、 ケースの縦・横・高さを測定し、共同配送便の運賃を算出 する。
その後、商品はコンベアで 出荷スペースに送られる。
仕 分け機は導入されていないの で、作業員が目視で商品の行 き先を確認して、店舗別に用 意されているカゴ車に商品を 積みつけていく。
続いてDC。
商品の入荷は 午前中が中心だ。
荷受け後、 物流センターの作業フロー DC商品の荷受けスペース。
荷受けは 午前中が中心 TC商品の荷受けスペース。
商品は断 続的に送り込まれてくる 才数計。
TC商品のサイズを測定して 共配便の運賃を計算する ケースピッキングの様子。
作業員はピ ッキングと同時にラベルを貼付する 共配便の出荷スペース。
商品は店舗別 に用意されたカゴ車に積みつけられる ピース商品のスキャン検品 ケース商品のスキャン検品 55 DECEMBER 2001 作業員が商品をラックに納めていくが、その ロケーションは商品ごとに決められている。
ピース商品は店舗別にリストピッキングさ れる。
作業員はリストを見ながら一つずつ商 品をラックから取り出して、オリコン(折り 畳みコンテナ)の中に入れていく。
一方、ケース商品はラベルピッキング。
作 業員はピッキングと同時に商品にラベルを貼 付する。
ピッキング終了後、ピース商品とケース商 品はそれぞれの検品スペースに運ばれる。
そ こでバーコードによるスキャン検品を実施。
商品数の過不足をチェックして、問題がなけ れば出荷スペースに搬送する。
最後にTC商 品と同じカゴ車に商品を積み込んで出荷作業 が完了する(五四ページ図参照)。
ウェブで在庫状況を確認 DCの商品在庫の管理はベンダー任せ。
「V MI(Vender Managed Inventory: ベンダ ー主導型在庫管理)」を採用している。
セン コーが出荷データを各ベンダーにフィードバ ック。
その情報を基にベンダーがそれぞれ商 品を補充するというルールになっている。
た だし、ベンダーによっては回転率の低い商品 が長期間センターで滞留するなど適切な在庫 管理が行われていない場合もあるので、その 際にはセンコーがベンダーに在庫水準を見直 すよう指示を出している。
「ベンダー各社がWebを通じて在庫状況 をいつでも閲覧できる情報システムも用意している」とセンコーの権藤勉東京支店戸田第 2PDセンター長は説明する。
共同配送と委託在庫方式を軸にしたドンキ の一括物流への挑戦はこれまでのところ成功 を収めている。
まず共配による一括納品で店 舗での荷受け、検品作業の負担は大幅に軽減 された。
各店舗への納品時間は毎日午前八時 半。
一般顧客の店舗への出入りがない時間帯 で、担当者は荷受け、検品作業に専念できる ため、ミスも少なくなってきた。
一方、委託在庫方式でも予定通りの効果が 出ている。
数字的なデータによる裏付けはな いが、例えば店頭での商品欠品率は着実に改 善が進んでいるという。
全仕入れ額に占める一括物流参加企業の仕 入れ額の割合と、全物量に占める一括物流参 加企業の物量の割合は徐々に高まりつつある。
仕入れ額は今年六月末時点で三二・五%、九 月末で約四〇%。
十二月末には四五%に達す る見通し。
物量は六月末が約六〇%、九月末 が約六五%。
十二月末には七五%にまで増え る計画だ。
ただしその一方で、「店舗数や一括物流へ の参加企業を増えていった場合に、既存のセ ンターの能力で対応できるかどうか」(稲田 サブマネージャー)という不安も抱えている。
「出荷能力を引き上げるためにマテハン機器 の導入を進めたとしても、店舗数でいえば五 〇店舗分の処理で限界に達する」と権藤セン ター長。
早くも首都圏店舗向けに第二物流セ ンターを設置する構想も浮上している。
懸念材料はそれだけではない。
ドンキでは 今年から来年にかけて福岡、大阪、札幌への 進出を予定しており、各地区での物流体制を どう構築すべきか、現在、頭を悩ませている。
「店舗数が少ないうちは、首都圏の物流セン ターから商品を横持ち輸送して、物流企業の ターミナルで現地ベンダーの商品とクロスド ッキングさせて納品するという案も出ている」 (稲田サブマネージャー)。
いずれにしても今回 の首都圏での一括物流がモデルケースになる。
ドンキの人気の秘訣は顧客を飽きさせない 店舗の品揃えにあると言われている。
各店舗 の店長に発注権を持たせて、自由に商品を調 達させる。
店舗によって品揃えは千差万別だ った。
ただし、稲田サブマネージャーに言わ せると、品揃えを意識的に変えて、顧客を惹 きつけてきたというのは間違った解釈であっ て「調達や物流に関する本部の機能が不十分 だったために、自然と店舗ごとに品揃えが違 ってきてしまったというのが正しい表現」な のだという。
一括物流の導入からも明らかなように、ド ンキのチェーンオペレーション志向は強まっ ている。
従来通り、店長が発注権を握る体制 は続くが、いずれは本部による一元管理体制 に移行することも予想される。
「激安の殿堂」 のビジネスモデルは今、転換点を迎えている。
(刈屋大輔)

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