2001年12月号
デジロジ

WMSの実践的選択法

DECEMBER 2001 82 人生はあれやこれやと選択の連続である。
進学、就職、ボーナスの使い道などにはじまり、一生に一度や二度は究極の選択ともい える意志決定に迫られる機会に遭遇するこ ともある。
もっとも、人生のパートナーの決 定の場合は、相手に選ばれる、ということも 考慮しておかねばならないのは言うまでもな い。
このような意志決定の局面で、簡単に判 断ができる場合は少ない。
判断項目は複数 にからみあって存在する。
また、やっかいな ことに利害が相反することが多いのでよけい に混乱を招きやすい。
さらに複数の人間で意志決定しようとも なれば、各自が自らの価値基準で決定しよ うとするから収拾が着かなくなってしまう。
結局のところ、発言権の高い人物の「鶴の 一声」で決まってしまうことになりかねない。
めでたしめでたしの大岡裁き、とはならぬケ ースが多いのだ。
「作る」から「選択する」へ さて、今回は「WMSの設計と導入」の 続編として、「WMSの選択」について論じ てみよう。
前回はWMSの設計の観点から、 いくつかのポイントを解説したわけであるが、 近年ではWMSにパッケージを導入するケー スが増加しており、実際にWMSを開発す る機会よりも選定チームの一員としてWM Sを選択する機会に恵まれることの方が多 いのではないかと思う。
田中純夫フレームワークス社長 WMSの実践的選択法 第9回  厳密にWMSパッケージソフトを評価するのは、それほど 容易いことではない。
ただし、選択のツボはある。
導入のリ ードタイムである。
基本機能や価格に大きな差がないのであ れば導入リードタイムが最も大きな評価ポイントになる。
一般にシステム仕様の決定や評価の際に は、ベンダーと機能・コストなどの評価項目を縦横に羅列し、○△×をつけたり、優先 順位をつけたりするのだが、重み付けなどの 数値化が難しく、判断の困難なことが多い。
○は五点、△は三点、×は一点などとして も、これらは勘やそのシステムを見たときの 第一印象などの影響が大きいので甚だ当て にならない。
結局のところ、一般評価項目に決定的な 差がない(ように見える)のであれば、安全 策として知名度の高いベンダーでほどほどの コストのものが選ばれるということになりが ちである。
与条件下で最良のものを選択す るという本来の趣旨から離れ、チームが後で 批判されないものを選んでおくという別の目 的にすり替わってしまう。
一般的なWMSの選定項目 ●機能比較の ○ △ × ● FIT & GAPの比較リスト ●カスタマイズの有・無リスト ●拡張性のあり、なし ●コストの高い、安い比較 ●サポート・メンテナンスの良い、悪いなど Copyright 2001 by Frameworx All Rights Reserved 83 DECEMBER 2001 付加機能・拡張機能 1 返品・修理品・代替品管理 2 補充機能、庫内、VMI対応 3 請求処理、保税機能、各種保険処理 4 不定貫、温度管理 5 マテハン機器連携、R/F無線端末 6 輸配送、配車・配送計画 これらは業種・業態により適合度が異な るので詳細な検討とともにサイト見学などを 併用し、総合的に判断する必要がある。
運 輸・倉庫等、物流はもちろんのこと、統計、 OR、貿易や流通業の知識、法律・保険などの知識・対応能力はベンダーの専門レベ ル評価の尺度になるので、さまざまな問題を ぶつけてレスポンスをみると良い。
とくに無線、自動化機器との連携は、ソ フトベンダーとハードベンダー間で、トラブ ル発生時に原因が見えにくいことがあるため、 責任範囲や「言った・言わない」の問題に なることが少なくない。
インテグレーター側 にハードやファームウェアの専門知識や対応 のできるエンジニアがいれば高く評価できる。
さらに、物流士、診断士、マテハン機器運 転資格など各種資格の保有状況や自己啓発 制度の有無などは、ベンダーの経営姿勢の 評価項目として重要である。
3 出荷管理( Order Management ) 引き当て前確認、締め処理、同再処理、解 除、荷揃え処理、各状況管理など。
販売管 理、調達系とのリンクの部分となるため、柔 軟性を必要とする部分。
4 在庫管理 基本機能の充実はもとより、管理ロット 属性、ロケーションの柔軟な管理、各種履 歴管理、棚卸しバリエーションなどチェック。
5 帳票、レポーティング 管理に関しては「紙」で話をすることが原 則。
種類の多さを誇るより、実践的で「こ れならば現場ですぐ使える」というものであ ること。
しかし、WMSの選択を、コピー機やファ ックス、パソコンのような、すでに成熟した 製品を購入するのと同じように判断すれば痛 い目にあう。
WMSパッケージは、スペック のはっきりした一般の耐久消費財とは全く 異なった次元で評価する必要がある。
一般的な評価ポイント そこで、まずはじめにWMSの選定ポイン トについて述べてみたい。
WMSの基本機能 は、詳しく書き連ねると枚挙に暇がないほど になるので、ここでは重要なポイントだけを 抜粋することにしよう。
基 本 機 能 1 マスタ管理 取引先、品目、サイト、ロケーション、在 庫タグ、取引先、アクセス権限など。
2 入荷予定管理 ASN(Advanced Shipping Notice ) ポイント:データベース設計の柔軟性と 整備状況。
複数階層の管理レベルを持つ こと。
安定性、いわゆる「枯れたシステ ム(問題が出尽くしたシステムの意)か 否か」と評される。
輸配送システムとの 連携を視野に入れるのであれば、地区配 送便マスタ等が考慮されているかどうか に注目する必要がある。
マスタまわりは カスタマイズ・メンテナンスのいわばキ モ ポイント:実務は予定通りとはいかない ので、事後入荷などの処理ができること。
処理の履歴管理も仕事キッチリ ポイント:確認・締め・再処理・解除等 が矛盾なくスムーズに行えること。
入出 荷ルールのきめ細かな設定が可能である ことは言うまでもない ポイント:日頃利用する機能なので機能 の充実とともに現場サイドから見た「使 い勝手の良さ」が決め手。
棚卸では差異 発生時のホストとの同期の取り方がカギ ポイント:帳票はベンダーの知識・経験 のレベルの尺度とも言える。
専用伝票発 行への柔軟な対応がとれること DECEMBER 2001 84 階層的構造としてモデル化し分析する手法 であり、一対比較、重み付け(重要度)な どのプロセスにより、計量化が難しいものを デジタル志向、ハイブリッド的に総合評価す ることができる。
特にグループでの意志決定 を最大公約数的に行う時に大変役立つ。
何かを選択しようとする場合には、二者 択一が一番決めやすい。
実際、優秀な販売 員は顧客に複数の選択肢から商品を選ばせ ずに、二者択一に持ち込むのだそうだ。
これ により、成約率がぐっとあがるとのこと。
評 価項目が四つ以上に及ぶと、とたんに判断 が難しくなる。
そこでAHPでは、全ての評 価項目を二者択一で決めていくというアプ ローチをとる。
その結果を総合して最終的な 答えを出すのである。
ムこそ、実はWMS選定では最も重要な評 価ポイントなのである。
AHPで賢く選択 このように、WMSの選定に際しては、評 価項目を決めることも、項目評価のポイン トを見極めることも一筋縄ではいかない。
ま して、チームでなにか選定しようとすると、 みんな自分の価値基準で判断しようとする。
判断基準は複数あり、互いに利害が反する ことも多い。
決定はさらに困難となることは 前述の通りである。
そこで、直感や周囲に流されがちで、数値 化・計量化の難しいアナログ的な判断に際 して、役に立つ手法としてAHP(Analytic Hierarchy Process) を紹介しよう。
問題を 決め手はリードタイム その他、機能以外の選択要素としてはた くさんの項目があるが、これらは「早い、安 い、うまい(良い)」の三点に集約すること ができる。
実は、さらに集約が可能で、「は やい(納期が短い)」の一言にまとめること ができる。
むろん、早いからといって、値段が高かっ たり質が悪いのでは本末転倒である。
しかし、 一般に大きな差がなければ、リードタイムが 短納期であることはそのソフトウェアがコス ト・品質・納期(無理のない)の条件を満 たすと考えてよい。
ベンダーの実力を図り知 るインデックスにもなる。
導入側にとっても導入の納期が短ければ、 本来の業務を早期に開始することができる ため、システム投資の早期回収や、他との競 合の際のアドバンテージになる。
リードタイ ●信頼性を備えているか ●高水準のプライス/パフォーマンスか ●スケールに柔軟性を持っているか ●ビジネスの成長にあわせて拡張できるか ●簡単な運用・管理が可能か ●メンテナンス性に優れているか ●既存システム、将来システムとの連携と分離が  簡単にできるか ●プロと呼べる技術者がいるか ●財務状況はどうか(外資の場合本社は?) ●人の出入りが激しくないか ●依頼事項に対するレスポンスはどうか ●約束を守り、嘘をつかないか ●納期厳守か ●当初の見積から大幅に追加が発生しないか WMSの選定のワンポイントアドバイス Copyright 2001 by Frameworx All Rights Reserved 比較して評価することは難しい ●評価の対象が4個以上になると・・・・ ●一つの評価項目について、2つのものを比較する  のが一番決めやすい。
●そこで・・・・全部一対比較(1ペアづつ比較)  で決めていこう。
●それを総合して全体おけるそれぞれの評価ウエイ  トを求める方法を考えよう。
●それを階層にあてはめて総合化しよう。
それがAHP Copyright 2001 by Frameworx All Rights Reserved AHPとは AHP ( Analytic Hierarchy Process )は、 一九七〇年代にピッツバーグ大学のトーマ ス・L・サティー教授によって開発された手 法で、数学やOR手法などでは解決できない 問題に有効な方法である。
解決すべき問題を 最終目標、評価基準、代替案の階層構造モデ ルにまとめあげ、次に最終目標からみた評価 基準の重要さを求める。
そして評価基準から みて代替案の重要さを評価し、最後にこれら を総合的に加味して代替案の評価を行うこと ができる。
85 DECEMBER 2001 練習問題 それでは実際にAHPを活用して問題を 考察してみよう。
イキナリWMSの選定を テーマに選ぶのは、いささか性急すぎるの で簡単な例を取り上げてみることにしよう。
【問 題】 与条件の下で物流拠点を選定する。
【手 順】 まず、問題を整理し、下記の階層モデル を考える。
最終目的:物流拠点を選定する 評価項目:コスト、サービスレベル、安全・ 信頼性、諸条件 代 替 案:複数の候補地(東・名・大) ほど」を廃し、立場を明確にさせたいがた めに、「2」や「4」といった偶数は補完 的にしか使わない(図表2、3)。
次に各評価項目間の重み付けの計算を行 う。
幾何平均(項目数のn乗根で項目値を 割る)をもとめると、どの項目が何パーセ ントの比重であるかがパソコンの表計算ソ フトで計算できる。
幾何平均を使う理由は 文献を参照いただくとしよう。
すると、こ の場合はコストに五四%、サービスレベル に三一%、信頼性に一〇%、そして諸条件 に五%のウエイトをおいて選択しようとし ていることが読みとれる(図表4)。
<問 題> 立地センター条件 <評価項目> コスト <評価項目> サービス <評価項目> 信頼性 <候補倉庫> 東  京 <候補倉庫> 名 古 屋 <候補倉庫> 大  阪 <評価項目> 諸条件 Copyright 2001 by Frameworx All Rights Reserved 図表1 この問題の「コスト」、「サービスレベル」、 「安全・信頼性」、「諸条件」の四つの評価 項目を縦横に整理すると図表2のようになる。
同項目に優劣はないので評価は「1」。
また、コスト vs 信頼性が「5」であれば、 信頼性よりコストのほうが「重要」であり、 信頼性 vs コストは重要ではないので反対に 「1/5」となる。
「まあまあ」とか「ほど 図表3 一対比較(質的評価→量的評価) <一対比較値> 1 両方の項目が 3 前の項目の方が後の方より 5 前の項目の方が後の方より 7 前の項目の方が後の方より 9 前の項目の方が後の方より 2,4, 補間的に用いる 6,8, <意 味> 「同じく重要」 「やや重要」 「重要」 「かなり重要」 「絶対的に重要」 Copyright 2001 by Frameworx All Rights Reserved コスト サービス 信頼性 諸条件 1 1/3 1/5 1/7 3 1 1/5 1/7 5 5 1 1/3 7 7 3 1 図表2 評価項目の一対比較行列 コスト サービス 信頼性 諸条件 Copyright 2001 by Frameworx All Rights Reserved 《幾何平均》 4√1*3*5*7 =3.20 4√(1/3)*1*5*7 =1.85 4√(1/5)*(1/5)*1*3 =0.59 4√(1/7)*(1/7)*(1/3)*1 =0.29 (合計)5.93 コスト サービス 信頼性 諸条件 《ウェイト》 3.20/5.93= 0.540 1.85/5.93= 0.312 0.59/5.93= 0.099 0.29/5.93= 0.049 図表4 ウェイトの計算 Copyright 2001 by Frameworx All Rights Reserved DECEMBER 2001 86 次に各評価項目と代替案の関係を同様に 整理してみよう。
つまり東京、名古屋、大 阪を比較してみるのである。
このうち「コ スト」の項目について、各拠点を一対評価 を行うと、東京が〇・五四〇、名古屋が 〇・二九七、大阪が〇・一六三になる。
一九八三年、埼玉大学工学部卒。
物流企業系シス テムハウスを経て、九一年に独立。
エクゼを設立 し、社長に就任。
製造・販売・物流を統合するサ プライチェーンシステムのインテグレーターとし て活動。
九七年には物流管理ソフト「Nexus」を 開発し、現在は「Nexus ?」にバージョンアップし てシリーズ展開している。
日本企業の物流事情に精通 したシステムインテグレー ターとして評価が高い。
今 年一〇月に社名変更。
Profile 以下、「サービス」「信頼性」「諸条件」 を同様に進めていくと、結果は左の通りとなる。
よって、総合的に整理すると東京が 〇・三九、名古屋〇・四三が、大阪が〇・ 一九なので、名古屋に決定。
東 京 名古屋 大 阪 コスト 0.540*0.54 0.292 0.297*0.54 0.160 0.163*0.54 0.088 サービス 0.106*0.31 0.033 0.744*0.31 0.231 0.150*0.31 0.047 信頼性 0.540*0.10 0.054 0.163*0.10 0.016 0.297*0.10 0.030 諸条件 0.2*0.05 0.01 0.4*0.05 0.02 0.4*0.05 0.02 総合得点 0.389 0.427 0.185 図表8 総合得点 Copyright 2001 by Frameworx All Rights Reserved 図表6 ウェイトの計算 図表5 コスト(0.54)について Copyright 2001 by Frameworx All Rights Reserved Copyright 2001 by Frameworx All Rights Reserved 《幾何平均》 3√1*2*3 =1.817 3√(1/2)*1*2 =1.000 3√(1/3)*(1/2)*1 =0.550 (合計)3.367 東 京 名古屋 大 阪 《ウェイト》 1.817 / 3.367=0.540 1.000/ 3.367=0.297 0.550 / 3.367= 0.163 東 京 名古屋 大 阪 東 京 1 1/2 1/3 名古屋 2 1 1/2 大 阪 3 2 1 まとめ 以上、簡単な例をもとにAHPによる意 志決定・選択の手法を紹介した。
実際のW MS選定では機能、完成度、コスト、メン テなど、より複雑で多階層のモデル構築が 必要である。
興味を持たれた方は文献を参 照し、選定問題に応用してみることを勧め る。
また、パッケージソフトウェアが「A HPによるマーケティング支援システム、 ねまわしくん」として日科技連より販売さ れているので、だれでも手軽にモデル作り ができる。
意志決定も、もはやパッケージ の時代なのである。
《参考文献》 『孫子の兵法の数学モデル』木下栄蔵 CD―R OM付き(講談社ブルーバックス) 『ゲーム感覚意志決定法』刀根 薫著 日科技連 『AHP事例集』刀根 薫、真鍋龍太郎編(日科 技連) 『AHPの理論と実際』木下栄蔵編著(日科技 連) 『ねまわしくんVer 3.0 プロフェッショナル版』 (日科技連) フレーワークス 高井英造 取締役 講演資料 図表7 ウェイトの総合化 ●コスト 東 京    0.540 名古屋    0.297 大 阪    0.163 ●サービス 東 京    0.106 名古屋    0.744 大 阪    0.150 ●信頼性 東 京    0.540 名古屋    0.163 大 阪    0.297 ●諸条件 東 京    0.2 名古屋    0.4 大 阪    0.4 Copyright 2001 by Frameworx All Rights Reserved

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