ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年12号
新常識
eコマースで起業できるか

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2001 80 筆者は大学の教員が本業であることから、 これから社会に出ようとしている学生と常に 接している。
長引く不景気や企業自体の構 造改革もあって、昨今は就職活動に苦労し ている姿が目に付く。
これまでのような社会環境であれば、苦労 しても取り敢えず就職できれば相応の身分 が保障された。
ところが今は違う。
どんな会 社であっても三〇年後に存在するかどうかは 断言できる状況にはない。
民間企業だけで なく、公務員でさえも、定年まで就業できる か、はなはだ心許ない。
そのため、学生から就職の相談をされても、 どの企業が良いとか、悪いとかを気軽に口に することができない。
企業に就職することが 本当に幸せなのかどうかでさえ、判断に苦し むというのが正直な気持ちである。
とはいっても、社会人になれば収入を確保 する必要は生じる。
昨年までは、会社勤め が合いそうに無い学生には、いっそのこと起 業家を目指せとハッパをかけようかと思って いた。
そのひとつの方法がeコマースである。
しかし、安易に薦めるわけにもいかない。
や はり、実態を調べる必要があると考えていた ところ、偶然とは恐ろしいもので、筆者が客 員研究官として所属している郵政研究所(総 務省)がeコマースの実態を調査することと なった。
eコマースでは食えない 結果はeコマースによる一カ月の平均売 上高が二〇万円未満という回答者(回答企 業)が五〇パーセントを超えていた。
このよ うな数字では、当然、eコマース専業では経 営が成り立たない。
もちろん、同調査では、 平均売上が一〇〇万円を超える回答者(回 答企業)も二〇パーセント程度存在してい たが、店舗や通販事業を既に運営している 企業である。
ちなみに、回答企業の従業員数をみると、 約七〇パーセントが「二人以下」であるこ とから、その大半が個人経営かそれに近い 経営形態であることがわかる。
また、一カ月当たりの受注件数をみると、「二〇件未 満」が約四〇パーセントであり、「一〇〇件 未満」でみても七〇パーセント弱を占めて いる。
一カ月の営業日を二五日にしても一 日平均四件以下の受注しかないのである。
しかも、一件当たりの平均単価は、「五〇 〇〇円未満」が四〇パーセント弱であり、 「一万円未満」でも六五パーセント程度とな っている。
結果として、一カ月の平均売上 高が二〇万円未満という回答企業が過半数 を占めることとなる。
この二〇万円は売上高であることから、そ こには商品原価や経費が含まれていることに なる。
この数字を見る限りにおいては、eコ マース専業ではとても生活ができるわけがな いことがわかる。
eコマースと一口にいっても、売買当事 松原寿一 中央学院大学 講師 eコマースで起業できるか アンケート調査によると、eコマースベンチャーの過半数は一カ月の平 均売上高が二〇万円を割っている。
深刻な就職難に苦しむ学生に、いっそ のことネットビジネスでの起業を薦めようかとも考えたが、よく調べてみ ると難問が山積していることが分かった。
第9回 流通戦略の新常識 81 DECEMBER 2001 者の違いによってB2B(Business to Business )、B2C(Business to Consumer )、 C2C(Consumer to Consumer )のよう に市場は区分される。
学生が起業する場合を考えると、まずB 2Bの市場に、いきなり参入することは難し いと思われる。
第一に、社会経験が乏しい 学生がプロ(B)を相手にビジネスができる とは思えない。
また、調査して分かったことであるが、B 2B市場においては、技術的にはオープン化 の方向にあるものの、実際の取引においては 会員制を前提としたクローズドな運営方法 を採用する場合が多い。
考えてみれば当然 のことながら、継続的な取引をするには与信 が重要になる。
誰とでも取引するというわけ にはいかない。
もちろんeコマースで、取引 の迅速性や多様性は向上・拡充するであろ うが、一概に取引相手が増えるというわけで もない。
次に、C2Cであるが、オークション等の サイト運営者でもない限り、そもそも安定し たビジネスにはならない。
不用品の処分や卑 近の資金調達手段に過ぎない上に、売買当 事者双方の与信の問題もあるので、本業の ビジネスとして長期的に取り組めるかは、は なはだ疑問である。
eコマースがサイドビジネスのひとつとし て注目され始めた頃、ネットで商品を大量 調達し、再びネットで少量販売を行なうブ ローカー的なビジネスで、それなりの利益を 稼ぐ人達が話題となったが現在はどうしてい るのであろうか。
では、B2Cはどうかというと、事業とし てもっともリスクが大きくなる。
どこの誰だ か分からない相手に対して売買取引を行な わなければならないことから、与信の問題が 事業運営に大きく影響してくる。
また、C 2Cのようなスポット的な取引を行なうのな らばともかく、一定の商品を安定的に供給 するとなればそれなりの資金も必要となる。
それ以前に、安定的に販売できる商品を 購入する顧客を、維持・確保できるかが大 きな課題となる。
先のアンケート調査にあっ たように、大きな売上を確保するためにはe コマース専業でなく、店舗や通販事業を既 に運営している「クリック&モルタル」型で あることが前提となってきている状況にある。
さらには、安定的に供給できる商品の場合、 販売競争が激しいことが充分に予想される ことから、利益幅も多くはならない。
「クリック&モルタル」といえども、必ず しも売上拡大を実現できるものではなく、む しろ、取引方法を拡大することによって売上 を維持するというような状況にあるともいえ よう。
このことは、書籍のネット販売を考え れば明らかである。
商品特性によって二極化する 学生にビジネスチャンスがあるとすれば、 珍奇性のある商品やオーダーメイドの商品で ある。
ただし、健全なビジネスを前提にする ならば、いずれの商品の場合においても、合 法でなければならない。
このように考えていくと、学生などのよう なビジネス経験や資金力に乏しい存在がe コマースを成功させるには、取扱商品の差異 化以外に効果的な方法は少ないことが予想 できる。
それが可能なのは、たまたま有力な コネクションを持っているか、もしくは自ら 作り出す才能に恵まれている場合に限られ る。
とすれば、それはeコマースを手掛けた から成功するのではなく、商品調達力、ある いは商品開発力によることになる。
翻ってみれば、このことは何も学生ビジネ スだけでなく、eコマース全体に当てはまる。
ただし、企業が手掛ける場合には、人的、資 金的な注入の度合いと競合相手が淘汰され るまで事業存続が可能な持久力が必要となるために、資金力が大きく影響することにな る。
それこそがB2C市場の本質と思われる。
一方、B2Bの場合は、むしろ反対で、部 品や半製品ように、既に標準規格が普及し ている製品の売買には向いているといえるだ ろう。
あるいは、完成品であっても、規格が 標準化され、代替性の高い商品であれば広 く取引が行なわれることも予想される。
結局、eコマースは技術的には市場環境 を大きく変えていくことには間違いないが、 商品特性によって、いくつかの市場に分化 していくことになるのではなかろうか。
商品 によって従来の取引からeコマースにシフト する割合が高いものと、反対にシフトする割 合が少ないものとに分化していく。
しかも、 その変化が顕著になるのは、それほど先のこ とではないと思われる。

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