ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年12号
特集
リサイクル物流の真実 環境規制をチャンスに変える

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2001 12 「当社を告発して欲しい」 簡易食品トレー最大手のエフピコは怒っている。
「当 社は全国から使用済みトレーを回収しています。
本来 であれば一般廃棄物の許可が必要な行為だが、一切 もっていない。
つまり法律違反です。
我々は告発して ほしいんです。
そうしたら、じゃあ何ですか、これま でやってきたことを全て否定されるのですか、と反論 したい」。
同社の松尾和則環境対策室部長代理は、そ う憤慨する。
エフピコは使用済みの発泡スチロールトレーを自主 的に回収し、再びトレーに戻して販売できる日本で唯 一のメーカーだ。
業界全体で月に六〇〇〇トン出荷さ れているポリスチレン製トレーのうち、同社の出荷量 は二六〇〇トン。
このうち一〇四〇トンが、使用済み トレーを原料の一部に利用した「エコトレー」である。
同社は回収トレーのうち約三%を、汚れなどのため 再生に適さないことから自社の焼却施設で燃やしてい る。
ところがダイオキシン規制が強化される来年の十 二月一日以降は、この施設が使えなくなってしまう。
自社焼却を続けるには一機当たり二億円する焼却炉 を新たに購入する必要がある。
産業廃棄物の処理施 設として届けを出し、環境アセスメントの書類も揃え なければならない。
そこで自治体に相談に行ったとこ ろ、「あなたのところは一般廃棄物処理の許可すら持 ってないじゃないか」と、話をとりあってもらえない。
確かに、指摘された通りだった。
おまけにエフピコ が回収するトレーは全国八カ所のリサイクル工場で再 生しているため、市町村をまたいで移動するケースが 多い。
これも本来であれば廃棄物処理法に違反してい る。
それでも、これまで問題にされなかったのは、使 用済みトレーを廃棄物ではなく「資源として引き取っ ている」からである。
廃棄物処理法には、古紙やビンのように例外扱いの ものがある。
資源として再生することを目的に回収す るのであれば、許可は必要ないという、法律上のいわ ば?抜け道〞である。
ただし古紙やビンが正式に法律 の例外規定になっているのに対して、エフピコの食品 トレーの場合は、黙認されてきただけで公的に許され ているわけではない。
廃棄物処理法の弊害 ごみ処理のルールを定めた現行の「廃棄物処理法」 では、ごみを家庭から発生する一般廃棄物(一廃)と、 法人から発生する産業廃棄物に大きく二つに分けてい る。
このうち一廃は現在、市町村の責任で処理してお り、収集運搬業の許可を持つ業者が運び、処理業の 許可を持つ施設で処分しなければならない。
許可は全 国三千数百の自治体から取得する。
現在では新たな 許可が認められるケースはまれで、新規参入の極めて 困難な業種といわれている。
(図1) これに対して、産業廃棄物(産廃)の場合は処理 責任が事業主にある。
許可の申請先は都道府県など であり、一廃とは枠組みがまったく異なる。
こちらも 収集運搬業と処理業からなるのだが、適切な申請手 続きさえすれば許可を取得できる。
このため全国に一 〇万社を越える産廃業者が存在している。
廃棄物処理法は、基本的に?性悪説〞の視点に立 つ法律といわれている。
廃棄物の処理を完全な自由競 争に委ねれば、不法投棄などの弊害を招く。
これを防 止するために許可によって事業者を管理し、悪徳業者 を排除しようという発想である。
全国産業廃棄物連合会の大塚元一専務理事は、「リ サイクル推進派は、廃棄物の定義を見直して廃棄物 環境規制をチャンスに変える これまで日本企業は販売後に発生する廃棄物の処理責任を問われず に済んでいた。
しかし、自治体による廃棄物処理の行き詰まりと、世 界的な環境意識の高まりから、日本でも企業の「売りっ放し」が許さ れなくなりつつある。
こうした変化を先取りすることで、そのままで はコストアップ要因になってしまう環境規制の強化を、ビジネスチャ ンスに変えることができる。
第1部 13 DECEMBER 2001 リサイクル物流の真実 特集  処理法を緩和せよと主張している。
しかし、従来の古 紙や鉄などのように市場原理のなかでも自然に回るも のと違って、最近の取り組みでは政策的に無理にリサ イクルを推進しようとしている。
しかも実験段階に過 ぎない。
こんな状態でいきなり、すべての廃棄物を市 場原理のなかに投げ出せば、環境破壊という副作用に つながりかねない」と現行の廃棄物処理法の枠組みの 意義を強調する。
こうした見方に対し、エフピコは自らの積み上げて きた実績を楯に、廃棄物処理法の持つ硬直性を批判 する。
しかも行政は、これまでエフピコのリサイクル の取り組みを黙認してきただけでなく、九六年にはリ サイクル推進功労者表彰事業として「通商産業大臣 賞」、九九年一〇月にはリサイクル推進協議会から 「内閣総理大臣賞」を授与している。
同社の取り組み は「エフピコ方式」と名付けられ、環境対応のモデル ケースとして評価されているのだ。
にもかかわらず、焼却炉に関する新たな環境規制へ の対応を相談に行ったところ、それまでの取り組みま で問題視された。
「今になって問題にするぐらいなら、 最初から許さなければいい。
自分達の都合がいいとき だけ持ち上げておいて、いざ何かあったらダメという のはあんまりだ。
だから我々は喧嘩しましょうと言っ ているんです」(松尾部長代理)。
帰り便の活用を徹底 今回、問題とされた「エフピコ方式」は、九〇年に 本格的なスタートを切っている。
二〇〇一年三月まで の回収量の累計は約三万七〇〇トン。
食品トレー一 枚を五グラムとして換算すると六〇億枚以上を処理し た計算だ。
これを二トン車クラスのゴミ収集車に換算 すると四三万八〇〇〇台分にも上る。
「エフピコ方式のポイントは大きく二つある。
一つ は回収の際に、製品を納品した業者が帰り便で回収 してくる点。
もう一つは、回収品を元のトレーの姿に 戻すということ。
入口と出口を押さえたことが成功の ポイントになっている。
しかも人任せにするのではな く、メーカー自ら回収して、メーカー自ら再生してい る」と松尾部長代理は説明する。
そのために同社はこれまで累計六〇億円を投じてイ ンフラを整備してきた。
北から南まで全国八カ所のリ サイクル工場を設置し、毎月四〇〇トン以上の使用 済みトレーを処理している。
八施設の処理能力の合計 は一七六〇トンあるため、よほどのことがない限り生 産能力を増強する必要はない。
回収拠点の数は全国に約六一〇〇拠点。
スーパー の店頭に設置してあるのが約五六〇〇店舗あり、四 二六の学校にも置いてある。
回収ボックスの数自体は 「把握しきれないほど多い」という。
一つ当たり約五 万円する回収ボックスの費用は、設置者が自ら負担している。
イトーヨーカ堂やジャスコなどの大手量販店 は、自前のボックスでトレーを集めてエフピコに渡し ている。
ボックスからのトレーの回収の管理は、物流子会社 のエフピコ物流が担っている。
実際には、協力物流業 者が製品を客先に納入する帰り便で持ち帰ってくる。
そのための運賃は「納品のための運賃に色をつける程 度」(エフピコ物流の久保隆徳社長)。
こうして回収物 流のコスト負担を最小限に抑えている点が、リサイク ルを軌道に乗せられたポイントになっている。
広島ごみ戦争の教訓 こうまでしてエフピコがリサイクルにこだわる理由 は、社会的責任を果たすというキレイごとだけではな ●「廃棄物処理法」が定める廃棄物の区分 《処理責任は自治体(市町村)》 一般廃棄物(一廃) (=産業廃棄物以外) 年間5160万トン(平成10年度) 《処理責任は事業者》 ごみ し尿 特別管理 一般廃棄物 事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、法令で定められた19種類 (種類別の排出量の上位3品目は、?汚泥、?動物のふん尿、?がれき類) 特別管理産業廃棄物(有害性、感染性、爆発性のあるもの) 家庭系ごみ 事業系ごみ 一般ごみ 粗大ごみ 産業廃棄物(産廃) 年間4億800万トン (平成10年度) 廃棄物処理業には、一廃と産廃のそれぞれに収集運搬業と処理業(中間処理、最終処分)がある。
一廃に ついては、市町村(全国3千数百エリア)の許可が必要。
また産廃については、都道府県および保健所設置 市(全国98エリア)の許可が必要。
産廃処理業者の数は推定で全国10万社以上(複数エリアで許可を取得 するとダブルカウントされるため、会社数では約5万6000社)。
必要な書類手続きと申請料(5年間で7万数千 円程度)を支払えば比較的、簡単に新規参入できる産廃業に対して、一廃業は自治体の許可を取得するの が難しく、事実上、新規参入は困難な状況が続いている ※ 従来、使用済み家電4品目 の処理責任は粗大ごみの扱 いで自治体が負っていた 廃 棄 物 DECEMBER 2001 14 い。
企業の存続を揺るがされた過去の苦い経験が、そ の出発点となっている。
一九七五年に広島で、食品ト レーの不買運動が起こったことがある。
消費者運動家 がエフピコの得意先のスーパーに押し掛け、毎日のよ うにトレーを使わないように働きかけた。
対応に窮したエフピコは、消費者に対し協力を呼び 掛けてリサイクルを開始した。
このときは三カ月もす るとトレー以外のゴミしか集まらなくなったため、半 年後に止めてしまったのだが、不買運動は沈静化でき た。
エフピコは「ごみ処理は自治体の責任と主張して も始まらない。
自ら積極的に解決のために取り組まな い限り収まらない」という教訓を得た。
その後、しばらく大きな混乱はなかったが、八七年 になると今度はアメリカで大規模な不買運動が巻き起 こった。
マクドナルドの発泡スチロールトレーが標的 になり、結果として同社は食品トレーの使用を止めて 紙に変えることになった。
これによって全米のポリス チレン・ペーパーの工業出荷額が七%も激減。
このニ ュースを日本のマスコミがこぞって取り上げたことで、 不買運動の火の手が日本全土にも普及した。
「このまま手をこまねいたら大変なことになる。
社 長は、同業者に『リサイクルに取り組もう』と呼び掛 けた。
ところが、きちんと税金を払っているうえに何 で追加して負担をしなければならないんだと、誰も言 うことを聞こうとはしなかった。
じゃあ当社だけでも と、本格的に始めたのが九〇年九月。
瀬戸際の決断 だった」(松尾部長代理)。
エフピコ方式は他メーカーとは違うという意志表示 だった。
つまり環境対応による差別化という側面を持 っていた。
しばらくして同業の大手六社も追随したが、 回収品を再び食品トレーに再生しているのは、いまだ にエフピコ一社だけ。
そしてエフピコは業界最大手と して、その後も順調に業績を伸ばし続けている。
環境規制に先手を打つ これまで日本企業は販売後に発生する廃棄物の処 理責任を問われずに済んできた。
環境対応の強化は単 なるコストアップ要因であり、可能な限り避けたいテ ーマだった。
しかし自治体による廃棄物処理の行き詰 まりと、世界的な環境意識の高まりによって、企業の 「売りっ放し」はもはや許されなくなった。
企業を対象にした環境規制は、その分野で最も環 境対応の優れた企業を基準にして法制化が進められる 傾向にある。
対応の遅れていた企業は法制化によって 新たなコスト負担を強いられる。
企業の環境対応は責 任問題から差別化要因に変わる。
環境規制に先手を 打つことが、新たな競争条件になろうとしている。
実 際、各分野の先進企業は既に手を打っている。
セブン ―イレブン・ジャパンは、ごみ問題への世間 の関心の高まりを受けて、九四年九月から店舗からの 廃棄物回収を管理するシステム、「エコ物流」をスタ ートさせている。
それ以前は各店舗ごとに一廃業者と 契約を交わしていたのだが、「本部は各店舗の廃棄物 処理の実態をまったく知らなかった。
将来的に環境対 応が経営の課題になっても、何も手の打ちようがない 状態だった」(広報室の山本健一さん)。
そこで、まず各店舗の廃棄物処理の実態を調べてみ た。
すると、ほとんど処理費用を負担していない店舗 もあれば、月額一〇万円を支払っている店舗まで大き な開きがあることが分かった。
店舗ごとに契約してい た廃棄物の収集運搬業者の価格体系がまちまちだっ たからだ。
しかも、店別に地場の業者と契約していた ため、チェーンとしてのスケールメリットを活かすこ ともできず、結果としてリサイクルの取り組みにも店 エフピコの松尾和則環境対 策室部長代理 経常利益(億円) 売上高(億円) 1200 1000 800 600 400 200 0 120 100 80 60 40 20 0 エフピコの業績推移 96 年3月期 97 年3月期 98 年3月期 99 年3月期 00 年3月期 01 年3月期 決算期 売上高(億円) 経常利益(億円) トレーを再生するリサイクル工場 エフピコの回収ボックス リサイクル物流の真実 特集  15 DECEMBER 2001 舗ごとに大きな格差があった。
そこでセブンは三井物産の子会社、リテールシステ ムサービスを窓口として、廃棄物処理業務の統合管 理に乗り出した。
リテールシステムが全国各地の廃棄 物業者と契約を交わし、店舗にとって、従来の契約よ り有利になるのであれば参加するという枠組みを作っ た。
九四年九月に東京二三区でスタートしたのを皮切 りに、徐々にエコ物流の実施エリアを拡大。
すでに全 国二七都道府県への展開を終え、「エリア内の店舗の 九割以上が参加している。
あと一、二年で全国をカバ ーできる予定」(山本さん)という。
産廃の物流子会社 国内市場でパソコンの販売シェア二位の富士通では、 九〇年代の初めから使用済みパソコンのリサイクルに 取り組んできた。
九五年から九七年にかけて全国五カ 所にリサイクルセンターを設置。
競合他社に先駆けて 全国規模のパソコン回収ネットワークを完成させ、リ ース事業者をはじめとする事業系ユーザーのニーズに 応えている。
各リサイクルセンターでは産業廃棄物の中間処理業 の許可を取得し、パソコンの他にもプリンタやATM、 大型サーバーなどのリサイクルを手掛ける。
機械によ る破砕ではなく、人手による手分解によって再利用で きる部品を取り出すのが、従来の処理との最大の違い だ。
こうして入手した部品を有価で販売したり、富士 通のフィールドサービスの部隊が顧客サービスに利用 することで、採算性の向上を図ってきた。
回収のための実務は当初、地場の運送業者を組織 してエリアごとのネットワークを組んでいた。
しかし、 今年の四月からは物流子会社の富士通ロジスティクス が元請けとなる新たな体制、「富士通リサイクルシス テム(FRS)」をスタートした。
「全国で事業を展開をしている顧客にとっては、窓 口が一本の方が便利なはず。
静脈といえどもお客様あ ってのビジネス。
そのために富士通ロジスティクスは、 全国で産廃の収集運搬許可も取得した。
彼らが全国 一六社の協力物流業者と連携しながら回収業務を行 っている」と、同社の環境本部環境技術推進センター の高橋誠エコデザイン推進部長は狙いを説明する。
これにより富士通ロジスティクスは、日通、日立物 流に次いで、産廃収集運搬の全国ネットワークを持つ 物流業者として名乗りを上げた。
収集のための標準料 金は、パソコン一セット(デスクトップ型パソコン、 モニター、キーボード、プリンタ)当たり四〇五〇円。
このうち三〇〇〇円が収集運搬費で、残りの一〇五 〇円が処理費用となっている。
こうして富士通がリサイクル事業を本格化してきた 狙いは、家電リサイクル法の対象がパソコンにも拡大 されることを想定し、前もって使用済み自社製品の受け皿を作ると同時に、通常であればコスト増となる環 境対応を、ビジネスチャンスに転化することだった。
二〇〇二年に予定されている法制化が、その追い風に なると同社は見込んだ。
しかし、誤算も生じている。
いまパソコン・リサイ クルの法制化議論はリサイクル料金の収受を販売時に するか、排出時にするかで真っ二つに分かれている。
排出時収受を前提にシステムを構築してきた富士通は、 身動きがとれなくなってしまった。
「販売時負担にな ると、これまでの当社のネットワーク作りは振り出し に戻ってしまう」と高橋部長は不安な表情を浮かべる。
環境対応が重要な差別化手段となった今日、環境規 制の具体的な動向が企業の命運を左右する切実な問 題となっている。
●セブン-イレブン・ジャパンのエコ物流の展開状況 長野ゾーン:95年3月 関西ゾーン:99年5月 九州ゾーン:00年11月 中国ゾーン:99年11月 北海道ゾーン:実施時期検討中 群馬・新潟ゾーン:98年11月  94年9月の東京23区での展開 を皮切りに、エコ物流は実施地区 を拡大してきた。
現在、未実施の 地域においても計画を推進してお り、全出店地区での展開を図る。
東北ゾーン:99年7月 栃木・茨城ゾーン:98年10月 埼玉ゾーン:98年4月 西東京ゾーン:95年3月 東東京ゾーン:94年9月 神奈川ゾーン:95年5月 千葉ゾーン:98年7月 東海・山梨ゾーン:99年4月 店 舗 店 舗 店 舗 廃棄物 処理業者 ごみの適正処理およびリサイクル 店 舗 店 舗 店 舗 廃棄物 処理業者 ごみの適正処理およびリサイクル 店 舗 店 舗 店 舗 廃棄物 処理業者 ごみの適正処理およびリサイクル エコ物流(廃棄物処理システム) リテールシステムサービス ※全体のコーディネートをリテールシステムサービスが担っている ※西東京ゾーンの一部23区内の店舗は  94年9月開始 セブン-イレブン・ジャパン「環境報告書2001」より本誌が作成

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