ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年12号
特集
リサイクル物流の真実 参入規制は見直さざるを得ない

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2001 24 許可制度は緩和される ――企業に対する環境規制が強化されていくことで今 後、どのような物流ニーズが生まれるのでしょうか。
「とにかく最終処分場が足りませんから、中間処理 を施したり燃やしたりしても、その結果として出てく るゴミを従来のようにダンプで最終処分場に持ってい くことが、もはやできなくなっています。
これまでと は違う形で動かすしかない。
つまり、リサイクルとい う形で動かさざるを得ないわけです。
ところが、リサ イクルを担っている人たちと、物流を担う人が、まだ 上手く結びついていない状態です」 ――確かに現在のリサイクルの仕組みのなかに、物流 業者側からの発言や知恵はあまり反映されていません。
「家電リサイクルを動かしてみた結果、コストの三 分の一以上は物流費だったわけです。
地域によっては それ以上になるかもしれない。
こんな製品は動脈にも ないでしょう。
それにしては、あなたの仰るように動 脈側からの制度設計というのは、ほとんどない。
これ は建設廃材でも同じですね。
本来の力を発揮すべき動 脈物流の方が、ゴミの世界を知らないことが大きいの ではないでしょうか」 ――既存の廃棄物処理業者は規制によって保護されて います。
規制が新規参入の大きな障壁になっている。
「しかしそれも、じきに変わりますよ。
現在のような 中途半端な許可制度は見直さざるを得ない。
一般廃 棄物と産業廃棄物を分けて、物流面でも違う人が、 別々の場所に運んでいく――。
こんな効率の悪い話は ありません」 ――それでも、現状では規制が厳然として残っていま す。
物流業者は今すぐ参入すべきなのでしょうか。
そ れとも規制が緩和され、環境が整うのを待つべきなの でしょうか。
「現在の典型的な自治体の在り方というのは、自分 のところには産廃を持ってきて欲しくないが、出てい く分には何も言わない。
エゴイスティックなわけです。
こんなことを行政がしているうちは、物流業者は危な くて動けないと思います。
廃棄物を持ち込む先がない わけですから」 「一方で、物流業者自身も相当に勉強する必要がある。
業の許可の問題であったり、自分がどういう品目を扱 うのか。
それからゴミの世界には一種独特の商習慣が ありますので、それをきちんと理解したうえで、変え ていくべきところを変えていく必要がある。
さらに排 出事業者の性格も把握しなければなりません。
もとも とこの世界は日銭の世界でキャッシュで動いていたな んていうこともある。
そうした特殊性を相当、勉強し なければ入ってこれないはずです」 ――既に静脈物流に参入を果たした物流業者は、かな り苦労しているようです。
「そうでしょうね。
ただ、これからはパソコンが出て きたり、家電だって四品目から増えるはずですよ。
今 後、作られるモノのリサイクルは生産者責任になって くるはずですから、基本的には使用済みの製品は生産 者の所に戻る、あるいは生産者が委託したところに戻 るということになる。
じゃあ誰が戻すのか、という仕 事は必ず残ります」 ――物流業者が静脈へ参入すれば、既存業者との軋轢 が避けられないのでしょうか。
「それは恐らくあるでしょうね。
儲かるから参入す るというだけでは通りません。
いきなり入り込んだら 軋轢が起こるのは当たり前と考えたほうがいい。
だか らこそ自分がリサイクルの、どの領域なら担えるのか、 何をやれば問題が起きないのかを、見極めないといけ 「参入規制は見直さざるを得ない」 静脈物流市場の参入障壁となっている各種の規制が緩和 されるのは時間の問題だ。
リサイクルにかかる総コストの 3分の1以上は物流費が占めている。
それを効率化するに は、物流業者が動脈物流で培ったロジスティクスのノウハ ウを、静脈分野に活かす必要がある。
慶應義塾大学 経済学部細田衛士教授 インタビュー 25 DECEMBER 2001 リサイクル物流の真実 特集  ないのです」 ――単純に静脈物流の効率化という点では、既存の産 廃業者より動脈系の物流業者の方がノウハウを持って いるように思えます。
「ただし、ゴミを集めるというのは、普通の人が考 えているほど簡単なことではありません。
売り物にな る製品を扱うのと、使用済み製品を扱うのでは、まっ たく勝手が違う。
ある場所から全国にばらしていく動 脈物流と、ばらけていたものを集めてくるという基本 的な違いもある。
一般宅の戸口まで取りに行くとなれ ば、宅配業者のネットワークなどが活きるのでしょう が、異物が混入している場合の処理などについては、 やはり静脈系の廃棄物業者の手際はいい」 法規制の動向を見極めろ ――現状のリサイクルの物流コストが見えません。
そ れも物流業者が参入する時の不安要因になっています。
「一次輸送でも大手家電量販店から指定引取場所へ というルートだけなら簡単にコストを弾ける。
しかし、 二つの難しいことがある。
非常に粗に出てくる地域の 非効率をどうするか。
また東京の中野区のように二ト ン車すら入れないような場所はどうなのか。
きちんと 解析すればミニマムなコストで回るというのはできる はずなんですが、誰もやっていない」 「本当は、東京都などの自治体が粗大ゴミを処理し たデータを調べて、どういう頻度で、何が、どういう 風に出てくるかを解析すればいいんです。
東京都は形 式的に入口は分けていますけど、家電四品目も全部や っていますからね。
官がやるから、あれほど悠長なこ とになっているけれど、民間業者がやればもっと安く できるはずです。
実際、粗大ゴミはすべて民間委託す べきだと私は都に提案しているんです」 ――家電リサイクル法についてでさえ、再商品化料金 (二次輸送+再商品化)の内訳を出していません。
な ぜ公表しないのでしょうか。
「地域差が大きいからでしょう。
どこも同じ価格な んていうことはありません。
それは当たり前のことで、 施設も稼働率も違うわけですからね。
発表できないん でしょうね」 ――しかし、競争原理を働かせるのであればコストは 公表すべきです。
例えば家電リサイクル開始から一年 後に、物流費がいくらで、処理費がいくらかかったと いうのを出して、それ以上に安くできる業者を募ると いう取り組みは必要です。
「それは一つの手でしょうね。
例えば一個一個では なく、ある期間とか、ある地域の総額を台数で割った アベレージは出した方がいい。
しかし、今は余裕がな いんでしょう。
どうやって処理するか、安くするかで 手一杯でね。
しかし、まさに安くするところにロジス ティクスが絡んでくるのであるのなら、意欲と能力のある物流業者に手を挙げさせて、やらせてみたらいい んです。
なにしろ物流費は大きいですからね」 ――家電リサイクル法が今後、家電四品目以外にも拡 がっていくことで、物流のニーズも変わっていくので しょうか。
「モノと法律の組み合わせで物流も変わります。
一 次輸送については、パソコンでも指定引取場所を作る ことになるでしょう。
問題はリユースで動く場合はど うするのか。
現在の規制がが緩和されれば廃棄物処理 業の許可がない人でも、リユースの物流をできるよう になります。
しかし、それが廃棄物処理法で変わるの か、リサイクル法で緩和条項を作るのかによってアプ ローチは違ってくる。
静脈物流でビジネスをしようと 思うなら、そうしたことを見ていく必要があります」 97年8月に日本経済新聞の「や さしい経済学」で連載した同名の 論文を、大幅に加筆した。
筆者は プラスの価格を持つモノを“グッ ズ”と呼び、マイナスの価格を持つ モノを“バッズ”と呼ぶ。
従来の経 済学はプラスのモノにしか関心がな かった。
そのため、ときに筆者の主 張は「モノの価格がマイナスになる ことなどありえない」という批判に さらされるが、このアイデアを定式 化した学術論文を積極的に発表し てきた。
マイナスの価格について難 解な数学などは一切つかわずに一 般読者に説明してくれる。
プロフィール ほそだ・えいじ 七七年慶應義塾大学経済学部卒業、 同大学の助手、助教授を経て、教授、現在は経済学 部長。
専攻は環境経済学、理論経済学。
八三年から 八五年まで英国マンチェスター大学にブリティッシ ュ・カウンシル・スカラーとして留学。
経済産業省 産業構造審議会廃棄物処理の委員や東京都家電リサ イクル研究会の委員を歴任。
主な著書に『地球環境 経済論(上・下)』(慶應義塾大学出版会)、『持続可 能性の経済学』(同)、『グッズとバッズの経済学』 (東洋経済新報社)などがある。

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