ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年6号
特集
物流管理の常識とは大違い ロジスティクスの手引き 日本型3PLの人材教育

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2003 10 日本型3PLの人材教育 ◆物流業者の技術力とは 当社、アルプス物流は電子部品という貨物の取 り扱いに特化した総合物流事業者だ。
同じエレク トロニクス業界の貨物でも、完成品は扱わない。
そ の取り扱い上、運用方法の差別化がつけにくい分 野であるからだ。
例えば、テレビを倉庫に保管し、 輸送する業務においては、どの物流会社が取り扱 っても大差はない。
これに対して当社が扱うパーツはトラック一台 に何万というアイテムが混載される。
倉庫オペレ ーションにも数万アイテムのなかから必要なパー ツだけをピックアップする緻密さが求められる。
そ の運用面におけるコスト・スピードの格差は大き い。
極端な少量多品種が、電子部品物流の特徴だ。
しかも、それをローコストかつ短いリードタイム で運用する。
そして在庫量を減らす。
それが今日 の荷主ニーズだ。
その期待に応えるのは容易では ない。
完成品物流の数倍の技術力が必要になる。
メーカーに製造技術があるように、物流業者に は物流技術がある。
ところが物流技術の存在を認 識していない人が多い。
とりわけ従来の物流マン のスキルを見ていて欠けていると感じるのが情報 システムの技術だ。
情報システムの技術はソフト と運用が両輪になる。
その基本を理解していない。
物流技術を知らない物流マンは、ワンパターンで 電子部品の物流を処理しようとする。
それしか策 がないからだ。
確かに輸出入や輸送の業務の運用 パターンは限られている。
しかし、電子部品の倉 庫業務のオペレーションは全く違う。
当社の顧客数は現在、約一二〇〇社強にも及ん でいる。
一二〇〇社の顧客の物流を分析すると、同 じ電子部品メーカーでも運用パターンは八〇種類 ほどに分かれる。
それを一つのソフト、一つの運 用方法で処理することなど不可能だ。
顧客によっ て、部品によって、必要なソフトと運用方法は異 なっている。
それを当社では「物流個性」と呼ん でいる。
部品の形状が異なれば当然、保管方法も違って くる。
出荷指示はオンラインか、ファクスか、それ とも専用端末なのか。
当日入荷、当日出荷の緊急 出荷が多い荷主、ない荷主。
千差万別だ。
その荷 主の「物流個性」に合わせてシステムを組まなく ては効率的な運用はできない。
そのために当社はこれまで倉庫管理の基本ソフ トだけでも四五〇本程度を自社開発してきた。
他 に顧客のニーズに応じて作ったオプションのソフト が一四〇〇本程度ある。
今ではこれらの基本ソフ トとオプションのソフトを荷主の「物流個性」に 応じて組み合わせるだけで、システムが組めるよう になった。
一五年間にわたる地道な積み重ねの成 果だ。
素人が考えるよりはるかに部品物流は奥が深い。
だからこそ、当社は部品物流の分野に特化して差 別化を図ることを基本方針にしている。
しかも当 社は「ワンチャンネルサービス」と銘打って、総 合物流を展開している。
日本国内には現在、数万 もの物流業者がいるが、そのほとんどは専業だ。
倉 庫業なら倉庫機能だけ。
運送業なら運送機能だけ。
九九%以上が単機能しか持っていない。
荷主と直接取引をする立場にある「個品貨物」 を取り扱う日本の物流業者は、大別すると三つに 分類できる。
倉庫、運輸、そして航空・海運貨物 物流子会社の勝ち組とされるアルプス物流。
同社に入社した新卒 社員は最初の1年間、仕事をしない。
その代わり長迫会長が自ら記 した電子部品物流の「教科書」を、みっちりと叩き込まれる。
“長 迫教室”の卒業生は既に約100人に上る。
こうした人材の厚みが同 社の事業展開の裏付けとなっている。
長迫令爾 アルプス物流会長 11 JUNE 2003 物流管理の常識とは大違い ロジスティクスの手引き 特集 の輸出入フォワーダーだ。
日本の物流業者でも大 手ともなると、これらの機能を担当する部署をそ れぞれ傘下に抱えている。
しかし、それが横につな がっていない。
機能ごとに縦割りの事業部もしく は会社組織があって、サービスが分断されている。
また物流子会社は親会社の物流業務全般を請け 立場にいる。
そのため多くの物流機能を持ってい るが、必ずしも自営によって、それらの機能が運 営されているわけではない。
個品物流に限定すれ ば、実務は下請け業者に委託し、自らは全体を総 括しているだけに過ぎない物流子会社も多い。
当社は違う。
当社は現在、全国に一七営業所を 配置しているが、一つひとつの営業所が独立採算 でフルラインのサービスを提供している。
つまり各 営業所の倉庫、運送、フォワーディング、情報シ ステムなどの各機能を連携させたドア・ツー・ド アのサービスを、グローバルに提供している。
大手 物流業者が何でも揃うデパートだとすれば、当社 は総合物流を一つのサービスとして提供する専門 店と言えるだろう。
◆日本に総合物流のプロはいない 一五年ほど前、私が赴任した当時のアルプス物 流(旧・アルプス運輸)は、他の専業者と同様の 普通のトラック運送業者に過ぎなかった。
運送の プロがいれば運営できた。
しかしその後、一五年 かけて当社は総合物流事業者への転換を図ってき た。
新しい業態を作り上げるには、何より人材だ。
もちろん外部からプロを招聘することもできる。
し かし、それは専業のプロであって、総合物流のプ ロではない。
総合物流をマスターしたプロなど日本にほとん どいない。
欧米にはロジスティクスの学部のある 大学がいくつもある。
その卒業生が物流のプロと してキャリアを重ねていく。
中国でも最近、ロジ スティクスの学部ができた。
しかし残念ながら日 本では名の通った大学には物流を専攻する学部は ない。
せいぜい物流の講座がある程度である。
経 営学部や文学部の出身者が物流マンとして働いて いる。
私自身、工学部の出身だ。
物流を学校で専攻し たわけではない。
すべて社会に出てから学んだ。
学 校を出て最初にフォワーダー業界に身を投じた。
最 初の三年は現場で実務を学んだ。
誰に教えてもら ったわけではない。
全て独学だった。
現場での体 験を積み重ね、物流業務を修得させながら実務者 やリーダーをつくっていくのが日本の物流業界の 人材養成方法である。
現在、当社は大卒を毎年一〇人程度のペースで 採用している。
四月に入社してその年の十二月ま で、みっちり研修を行う。
その後、年明けに仮配 属して三カ月間、実務を学ぶ。
OJTではない。
純 粋に実務を教える。
情報システムに関しても、簡 単なソフトは自分でプログラムを組めるところまで 教え込む。
結局、一年にわたり教育だけに投資す る。
そうやってロジスティクスの基礎を教え込んだ 後に初めて現場に出す。
そこからは本人の資質と 努力がモノを言う。
当社では総合物流を構成する要素を四つに分け ている。
運送、倉庫、輸出入、情報システムだ。
四 分野全てが分かるプロを当社では「スーパープロ」 と呼んでいる。
しかし、当社にも「スーパープロ」 は今のところほとんどいない。
次のスーパープロが 生まれてくるまでに、あと五年ぐらいかかりそうだ。
一人前のプロを育てるには時間がかかる。
私の 経験から言えば、情報システムだけで三年はかか る。
フォワーダー業務を一通り覚えるにも、やは り三年。
運送が一年半ぐらい。
そして倉庫が二年 から三年。
結局、一〇年かかる。
人はすぐには育 たない。
総合物流業への転換を口で言うのは簡単だ。
し かし、物流の各機能において専業者と同じ、ある いはそれを超える力を持っていない限り、総合化 のメリットは出てこない。
荷主から評価をいただ くことはできない。
総合物流のプロを育てる地道な努力、3PLと 言い換えても構わない。
それができるかできないか。
そのために当社は過去一五年にわたって懸命に人 材教育に取り組んできた。
苦しんできた。
そして 最近になって、ようやく成果が目に見えるように なった。
総合物流、3PLのプロがいない日本で は、人の育つ速度でしか、業態転換は進まない。
そ れだけ日本の総合物流の道は遠いと言えるのだろ う。
社員研修用に長迫会長は自ら分厚いマニュアル を作成した。
日本には物流の教科書もないと判 断したからだ

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