ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2003年6号
特集
物流管理の常識とは大違い ロジスティクスの手引き グローバルワン・サプライチェーン

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

グローバルワン・サプライチェーン ――ITが可能にする新しいモデル JUNE 2003 28 ◆サプライチェーンの構造改革 SCMの重要性が世に認識され、多くの企業が サプライチェーンの改善活動に着手するようにな ってから既に久しい。
その結果、昨今では従来型 のSCMのアプローチの限界も見え始めている。
販 売会社・生産部門・購買部門・物流部門などが連 携・調整しながら計画立案・実行していく構造の 中での改善活動や、IT化による情報連携強化で は、期待できる効果にも限界がある。
従来の改善型アプローチでは得られない、オペ レーションの大幅な高速化やコスト削減効果をも たらすものとして今日、「グローバルワン・サプラ イチェーン」に関心が寄せられている。
グローバル ワン・サプライチェーンは社内/グループ内のS CM機能を統合化したビジネスモデルだ。
古くは 九〇年代中盤に日本やアジアに進出したアメリカ の企業において初めて実現され、最近では日本企 業でもハイテク産業を中心にいくつかの実現例が 存在する。
グローバルワンのコンセプトは社内のSCM機 能の統合である。
従って日本やアジアなど限定さ れた地域で活動している企業の方々には「ジャパ ンワン」あるいは「アジアワン」と読み替えてもら って構わない。
グローバルワン・サプライチェーンを実現するに は、今までの部門間調整を廃止し、多重構造だっ た意思決定プロセスをフラットにする「SCMの 構造改革」的な取り組みが必要だ。
世界中の拠点 を網羅する「統合プラットフォーム(ERP)」と 呼ばれるITインフラが、このようなコンセプトを 現実的なものとする。
今回は先端SCMモデルである「グローバルワ ン・サプライチェーン」を解説するとともに、これ を具現化するための業務改革とITインフラにつ いて紹介する。
◆「バケツリレー型」運用との決別 従来型の月次・週次サイクルのSCMでは、販 既存のビジネスモデルを維持したままの改善では、その効果にも 限界がある。
SCMで他社との差別化を図るには、ビジネスモデル 自体の改革が必要だ。
一つの解答が最新モデル「グローバルワン・ サプライチェーン」だ。
その概要を改革の現場から報告する。
五十嵐慎二アクセンチュアパートナー 図1 従来のSCMにおける意思決定・情報の流れ 各部門ごとの意思入れおよびバケツリレー型の情報流により、低い情報精度によるコミュニケーションミスや 意思決定の遅延が頻発している。
営業 需要計画 販売計画 カテゴリー担当 営業管理 生産管理 生管/製造 資材 意思入れ 在庫/ 発注計画 意思入れ 需要計画 供給計画 意思入れ 生産計画/ アロケーション 計画 アロケーション 計画 アロケーション 意思入れ 日程計画 計画回答 意思入れ 発注計画 ・内示 意思入れ 顧  客 サプライヤー EMS 販売会社 HQ/RHQ 生産拠点 要求数 回答 回答 回答 要求数 計画数 29 JUNE 2003 売会社→本社/地域本社→生産拠点のそれぞれに サプライチェーン担当者がいて、それぞれの権限 に基づいて計画を策定し、隣接する部門との調整 作業(製販会議等)を経て計画を決定している(図 1)。
このようなモデルでは以下のような課題が一 般に散見される。
――部分最適のSCM 販売部門は「売り上げ」、生産部門は「設備稼働 率や在庫」など、各部門は各々のKPI(Key Performance Indicator: 評価基準)に基づいて業 務を計画・実行している。
そして企業全体は、こ れら部分最適の集まりとなっている。
企業全体としての最適化がフレキシブルになされる構造にな っていないのである。
物流、グローバルに点在する各拠点の在庫レベ ル、生産アロケーション、EMS(委託先)の活 用、グローバルレベルでのマーケット/顧客優先 順位、キーデバイスの戦略的枠取りと配分などは、 限定的かつ半期や一年に一度といったペースでし か行われていない。
――複数の意思決定プロセスや製販会議、情 報のバケツリレーによる遅い情報伝達 図1のように顧客需要が変動してから生産拠点 に伝達されるまでに、中間の各部門の「意思入れ」 や部門間の調整を経るために、場合によっては数 週間のリードタイムを要する。
また計画立案サイ クルも月次か残業・休出を前提として週次がせい ぜいであり、日次やリアルタイム化を目指す場合 には、抜本的な構造改革が必要である。
――「意思入れ」とバトンリレーによる情報 の計画精度の低下 各部門の思惑を経た結果、生産現場にはマーケ ットの正確な状況が伝わらず、作り過ぎや欠品の 原因となる。
――ビジネスの変化に対して低いフレキシビリ ティーしか持たない情報システム 現在、一般的に見られる情報システムは、拠点 毎・機能毎に多数のシステムが構築されている。
し かも、これらが網の目状に絡み合うようにつなが った構造を持っている。
企業の規模、歴史の長さ、 展開している地域・拠点数、商品グループや事業 部の数にもよるが、歴史のある大規模な会社ほど、 実際にこのような状況になっている。
システム間のインターフェイスの総数を取って も数百〜数千存在している場合も見られる。
この ような情報システムは、例えば生産拠点の追加や 変更、中間のストックポイントを廃した生産拠点 から顧客への直送などの物流の変更、商流の変更 などに対応できない。
できたとしても、システムの 修正が必要で時間とコストがかかる。
◆グローバルワンの狙い グローバルワン・サプライチェーンは、こうした 課題に対する一つの解答である。
グローバルワン・ サプライチェーンは、計画の立案や意思決定を統 合し、顧客の需要に基づいて各拠点の生産計画、在 庫計画、出荷計画、資材所要量計画などを一括し て策定する(図2)。
この新しいサプライチェーンモデルを実現する 為に必要なBPR(ビジネス・プロセス・リエン ジニアリング)やIT化による改革を挙げてみる。
――社内の重複業務の廃止 販社の購買計画や発注管理、本社や工場の販売 計画や受注管理のような重複業務や付加価値を産 まない業務を廃止する。
実行系においても出荷側 が請求書を起こして受入側が仕入れを立てるよう な場合、これも廃止の対象となる。
物流管理の常識とは大違い ロジスティクスの手引き 特集 図2 グローバルワン・サプライチェーンにおける意思決定・情報の流れ 単一の計画の共有により、Daily〜リアルタイムで計画が決定され、情報が共有されていく。
コラボレーションの領域に応じて情報の共有範囲を広げていく。
顧客/ 価格戦略 顧客優先度 需要予測 顧客回答 生産戦略 物流戦略 製品情報 購買戦略 生産情報 工程能力 サプライヤー 情報 需要予測、販売計画 生産計画、日程計画 資材所要量計画、発注計画 在庫、供給計画、物流計画 コントロール業務 (週次) オペレーション業務 (日次・リアルタイム) 顧  客 Global SCPエンジン 営業 サプライチェーンセンター 生管/製造 資材 販売パートナー /特約店 EMS 生産拠点 HQ/RHQ 物流部門、3PL サプライヤー 販売会社 JUNE 2003 30 ――サプライチェーンの計画立 案・意思決定機能の集約による 高速オペレーションの実現 販売会社では個々のマーケット・ 顧客を対象とした需要予測・販売計 画の立案や受注業務に専念する。
こ れに対して仕入れや在庫計画など供 給側のコントロールはサプライチェ ーンセンターのような少数精鋭部隊 を設置し、これに集約する。
ハイテ ク系など、部品がボトルネックとな りうるような場合、キー部品の調達 機能も権限を集中させる。
――コントロール業務と日々のオ ペレーション業務の分離とサプラ イチェーンエンジンの活用 供給計画や生産計画などを立案す る際、数字を個々に練っていくよう な作業はシステム化・自動化し、人 間系はSCM全体の状況をモニター し、供給不足・過剰在庫・生産拠点 の過負荷や未負荷などの問題発生時 に必要な意思決定を行っていくスタ イルに切り替える(図3)。
日々のオペレーション業務を機械 化により高速化し、全体最適化され たサプライチェーンの意思決定(コ ントロール業務)と分離することで、 デイリーサイクルやリアルタイムオ 図3 意思決定の流れ 現状のオペレーション(例) グローバルワンによる高速オペレーション ・部分最適のSCM ・複数の意思決定プロセスや製販会議 ・情報のバケツリレーによる遅い情報伝達 ・計画のマニュアル作成 ・実行系における多数のマニュアル作業 ・全体最適のSCM ・意思決定機能の集約による高速オペレーション ・重複業務の廃止 ・コントロール業務とオペレーション業務の分離 ・オペレーション業務の自動化 週次サイクルの場合 事業所 日本 北米 欧州 カンパニー 販社 受注・ 実績把握 販売計画 立案 意思決定 意思決定 材発・生産 材発・生産 計画立案 月〜水 木 金〜 マネジメント (週/月次) コントロール業務 オペレーション 業務 サプライチェ ーンセンター (週次) 各拠点 (随時) 市場・ 製品分析 顧客戦略 計画立案 意思決定 材発・ 配分 生産戦略 受注 日本 北米 欧州 生産 出荷 モニタリング 方針の提示 各種パラメータ設定・指示 図4 統合ERP機能図 統合されたシステムを通して、同期がとれた正のデータが確立される。
計画エンジンで策定された計画(納期回答、物流計画、投入・完成計画、資材調達計画)から実行系ERPへ指示が出て、実行(出荷、投入、発注)業務へと 連携される。
逆に実行結果(仕入、売上、在庫等)が計画エンジンにフィードバックされ、新たな計画に反映する。
販社/事業部/工場 顧客情報/優先順位 需要予測/販売計画 受注管理/納期回答 製品情報 生産情報/能力情報 工程仕掛情報 出荷指示 出荷 輸出/ コンプライアンス 売上/請求 生産/工程管理 在庫管理 (製品・半製品・部品) 投入計画 投入指示(装置割付) 原価計算 輸入/半・製品 資材導入 資材管理 資材調達計画 仕入/支払 供給回答 納期回答 物流計画 顧 客 物流部門/3PL 自社工場/委託先 OEM工場 会計 システム 工程管理 システム サプライチェーン計画 在庫情報、投入計画 需要予測、購買依頼 供給/納期回答、 仕掛状況 L/T、積送情報、 検収情報 出荷情報、出荷指示 請求情報 カレンダー、工程、 仕掛、歩留、L/T、 供給回答、能力情報 需要予測、投入計画、 出荷計画、購買依頼 在庫情報、供給/納期回答、 L/T、出荷計画、請求 発注、需要情報、 投入計画 サプライヤー 納入指示 統合ERPシステム 実行系ERP 計画系エンジン 31 JUNE 2003 ペレーションを実現する。
――グローバルワン・プラットフォーム(統 合ERP)の導入 全ての拠点をカバーする統合ERPにより、ビ ジネス変化にフレキシブルに対応し、サプライチェ ーンの状況をリアルタイムで把握できるプラットフ ォームを導入する(図4)。
以下に統合ERP導入による効果を紹介する。
・拠点別、部品・材料・半製品・製品別に存在し ている物流システムを統合し、ビジネスの変化 に対し柔軟性を担保する。
例えば製品と半製品 (中間製品)が混在するロジスティクスやストッ クポイント/物流拠点の転換などにシステム変 更なしの基礎情報の登録や変更だけで対応する ・輸出入機能/業務を統合/標準化する。
これに 伴い、部品・材料・半製品・製品の輸出入シス テムを統合する ・コンプライアンス機能やデータベースを統合し、 分散している輸出入の申請やコンプライアンス 管理業務を統括することで、リスクを軽減する ・多様な物流パターンと共に、発生する商流を別 途管理するマスターをERP上に管理すること で、各拠点・関連会社間の売り、仕入れ、在庫 をリアルタイムに認識する。
同時に商流や資産 移転ポイントの変化にシステム変更なしで対応 する(図5)。
例えば、物流が「中国委託先工場↓国内物流セ ンター(本社)↓商品センター(販社)↓国内の 顧客」、商流が「中国委託先工場売り(輸出)↓国 内工場仕入れ(輸入)↓同売り↓本社仕入れ↓同 売り↓販売会社仕入れ↓同売り」となっていたと する。
このときに中国から国内の商品センターに直送 したり、もしくは大口の顧客で工場から直送する と共に商流も変更し、販社ではなく本社から顧客 へ直に売り上げを立てるような変更を行う場合ど うするか。
拠点毎に受発注や在庫管理システムが あって、これらの間に順番に情報がリレーされる ような構造のシステムでは対応できないことになる。
これに対して統合ERPを活用した場合、顧客 のオーダーがシステムに入ってくるため、途中の物 流と商流を設定すれば、任意の場所から顧客に直 送したり、その間の商流を変更することが容易に 可能となる。
この様な広範囲なシステム化によって、数多く の既存システムの置き換えが可能となる。
対象と なる企業にもよるが、ある日本企業の事例では、一 三〇もの個別の情報システムの置き換えが可能と なり、メンテナンスコストや保守費用が大幅に削 減される効果を生んでいる。
――「正のデータ」の確立によるリアルタイ ム経営の実現 統合プラットフォームの下では、部品、材料、半 製品、仕掛品、完製品の全ての数量と金額、計画 と実績が同期化される。
この「正のデータ」の確 立により、従来は多大な工数と時間をかけてマニ ュアル作成し、現場から中間管理層、経営管理層 へと伝達されていた経営情報が、ほぼリアルタイ ムで把握できるようになる。
――サプライチェーンの対象範囲の拡大と協 業による新たなる価値の創出 物流管理の常識とは大違い ロジスティクスの手引き 特集 図5 統合ERPによる実物流、商流コントロール グローバルワン・プラットフーム 拠点別システム ・エラー発生等による拠点間の不整合 ・拠点別のシステム間のリレーによるタイムラグ ・同一の物流と商流が前提 ・ビジネスの変化にはシステムの改修が必要 ・売上、仲介、仕入が個々に重複入力 ・拠点間の売上・仕入の完全一致と積送在庫の把握 ・債権債務の発生をタイムラグ無しで実現 ・実物流と商流を個別に管理 ・ビジネス変化へのフレキシブルな対応 ・データの重複入力・重複業務の廃止 実物流 アジア/日本 日本 US/EU/日本 商流 販売拠点 顧客 本社 生産機能 実物流 請求 仕入 請求 仕入 請求 商流エンジン 統合EPRシステム Invoice 実物流 アジア/日本 日本 US/EU/日本 商流 生産拠点 本社 販売拠点 顧客 仕入 請求 仕入 請求 拠点システム 本社システム 販社システム Invoice Invoice Invoice り難易度が高いのが前述した「コントロール業務」 の部分だ。
計画の質的向上、計画立案スピードの 向上、工数・コスト削減を旗印にして、徹底的に 議論すると共に、果敢にあるべき姿を定義してい く必要がある。
また日々のオペレーション業務のポイントは、計 画結果がスムーズに実行系に連動することである。
日々作成される計画に実行系がこれを守れるよう に留意する。
業務全体の流れは、コントロール業 務が決まれば、比較的容易に決まってくる。
――ゼロクリア指向のBPR 既存の組織/会社の枠にとらわれることなく、グ ローバル全体のプロセス/組織を再デザインする ことが重要となる。
統合ERPを導入しても、重 複業務の解消などができていないと、その効果は 半減してしまう。
月並みではあるが、各地域を含 めたマネジメント層の巻き込みとコミットメントが必要である。
そのためにも、あるべき姿をしっかり 描いて、説得力のある定量的な効果提示すること が重要である。
――グローバル標準の適用 単一のインフラを使って、グローバルなオペレー ションをサポートする上で避けて通れないのが、業 務プロセスやコード体系などの標準化である。
業 務の標準化においては、地域性を残すことでビジ ネス的なメリット(売り上げや利益、トータルで 見たコスト削減など)がある場合は判断を要する が、それ以外のケースにおいては極力標準業務を 適用して行く必要がある。
これはERPを導入する場合に一般的に言える JUNE 2003 32 従来の個別業務、個別情報システムの世界では、 たとえ顧客とB2Bによるインターフェイスを構 築していても、顧客からの情報が到達する範囲は、 最もフロント側にある営業部門および販社システ ムまでだった。
顧客情報が後方の生産拠点に伝わ って顧客に回答が返るまでには社内の部門、シス テム間を一回りしなければならなかった。
それだけ 時間がかかった。
計画と実績の情報が同期化された統合プラット フォームに、顧客・物流業者・委託先工場・サプ ライヤーがアクセスすることで、協業(コラボレー ション)・情報連携によるメリットを最大限生か すことが可能となる(図6)。
◆グローバルワン実現へのチャレンジ このようにグローバルワン・サプライチェーンと は、構造改革的な業務改革と大規模なIT化が伴 って初めて実現されるモデルである。
従ってグロー バルワンを実現するには、業務のやり方を根本的 に見直すマインドチェンジ、既存の組織・権限の 見直しまで含んだ構造改革、業務やコード体系な どの標準化、広範囲で二四時間稼動し続ける強力 なIT構築力、関係者多数を巻き込んで同じ目標 に進むためのプログラムマネジメント力などが重要 である。
――マインドチェンジ/カルチャーチェンジ デイリーかつリアルタイムのオペレーションを実 現する上では、例えばSCMの計画立案業務につ いて、計画数字を担当者が一つひとつ作成してい く従来のスタイルから、最適解をシステムで自動 的に計算する「パラメータ・チューニング・スタ イル」へのパラダイムシフトが必要となる。
最適 解を自動算出するシステムを構築しても、それを 担当者が受け入れない限り意味はない。
そのため のマインド/カルチャーチェンジができるかどうか が実現に向けての難関になる。
あるべき姿を描いて、実際に業務設計する時、よ 図6 グローバルワン・プラットフォームによる他社との協業・連携強化 従来のただインターフェイスで情報を繋ぐだけのB2B連携では、結局オペレーションのスピードアップには、さほど 寄与しない。
企業内で情報のシンクロナイゼーションを実現することで、他社との協業によるメリットを享受する。
サプライヤー コミュニティ 生産アウトソース コミュニティ カスタマー コミュニティ サプライヤー eマーケットプレイス 販売店 /ディーラー アライアンス コミュニティ ジョイントベンチャー B2B/B2C グローバルワン・プラットフォームの構築により 企業同士の“コラボレーション”を加速する ロジスティクス コミュニティ 物流/荷主各社 EMS 外注先 消費者 提携先 3PL 日本 米国 欧州 アジア その他 ビジネス ユニット ビジネス ユニット グローバルワン プラットフォーム 物流管理の常識とは大違い ロジスティクスの手引き 特集 しておきたい。
また少数ではあるが、既に日本企 業にもグローバルワンを実施している企業は存在 する。
そうした企業はSCMを通じて競合他社に 対し、明らかな差別化を実現している。
グローバルワン・システムを実施していない企 業であっても、3PLやEMSなどとの分業や、デ イリー・リアルタイムでのオペレーションなど、時 代の要請によりオペレーションの速度は加速され、 ERPやWebアプリケーションなどの情報シス テムの活用も進んできている。
それが時代の趨勢 だ。
今回紹介したコンセプトに興味を持っていただ けた読者の方がいたとしたなら是非、提案したい。
全く新しいサプライチェーンモデルを構築すると 考えた場合に、どのようなモデルがベストなのか。
それぞれの業界で、それぞれの企業で答えは違う はずだ。
それをもう一度見直してみて欲しい。
33 JUNE 2003 ことであるが、「例外」を一つ作るたびに、システ ムの作り込みが発生する。
結果としてITコスト が増えていく。
そのことを認識しながらプロジェク トを運営する必要がある。
コード体系については、例えば製品コード・部 品コード・顧客コード・サプライヤーコード等の 標準化がグローバルワン・プラットフォームを導 入する上で鍵となる。
しかしながら、これら全てが標準化されている 企業は、グローバルに展開している企業の中では 稀と言える。
分断されているコード体系は、拠点 間/部門間の情報交換の障害となる。
時にはコー ドそのものの定義がずれているため、拠点間・シ ステム間で上手く情報がつながらない場合も存在 する。
グローバルワン・プラットフォームの導入を、 これらを解消するための絶好の機会と捉え、標準 化に取り組んで行く必要がある。
―― グローバルIT基盤の確立 統合プラットフォームといっても、グローバルシ ステムゆえのアプリケーション機能上の特別なチ ャレンジはごく少ない。
一般的なERPの機能を 踏襲するに過ぎない。
他方で世界中の拠点・ユー ザーがアクセスし利用する統合基盤であることか ら、稼働時間・パフォーマンス・セキュリティー のような技術面での様々な要件を満たしてゆく必 要がある。
以下に主な項目を挙げる。
・ 二四時間、週七日間稼動するシステム ・ 大量のトランザクションを高速処理し、高いパ フォーマンスを維持 ・ 外部アクセス(協力会社)に対応したセキュリ ティー ・ 大規模なデータ移行、コードの統一、既存システ ムの置き換え ・ 時差・地域差を踏まえた会計処理 ・ 天災・システム障害時に対応した危機管理機能――強力なグローバルプロジェクト推進体制 の確立 様々な国や地域からの参画の必要性、領域に応 じたベンダー/コンサルタントの活用など、複雑 なプロジェクト体制の中、進捗や課題をタイムリ ーに管理し、必要な対策を講じていくプロジェク ト管理能力と、トップマネジメントからの明確か つ強固なコミットメントが重要となる。
◆何がベストか これまでグローバルワン・サプライチェーンのコ ンセプトや、実現のためのチャレンジを述べてきた。
しかし色々な方から「現実味に欠けるのではない か」、「本当に実現できている会社があるのか」な どの声をよく耳にする。
読者の方々も同様のイメ ージを持たれた方が多いかもしれない。
反面、「本 当に出来れば素晴らしい」と言った前向きな言葉 をいただくことも多い。
グローバルな地域間のやり取りがごく少ない業 界では、グローバルワン・サプライチェーンが必ず しも最良というわけではない。
そのような場合は、 むしろ地域ごとにオペレーションとシステムを統合 したほうが有効かも知れない。
ただし、社内のサプライチェーンを高速化し、計 画と実行をシンクロナイズするためには、グローバ ル(あるいは日本/アジア)ワン・サプライチェー ンがこれを実現する有効な手段であることを銘記 いがらし・しんじ1989年慶応義塾大学 理工学研究課修了後、アクセンチュア入社。
大手電機メーカーのグローバル製販物流プ ロジェクトに参画。
その後、数々のサプラ イチェーンプロジェクトを手掛ける。
2001年パートナー就任。
通信ハイテク本 部、SCMグループ所属。

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