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2005年6月号
管理会計

SCM事業価値への着目

SCM時代の 新しい 管理会計 JUNE 2005 66 複雑化するロジスティクス施策 ロジスティクスにはさまざまなトレードオ フが発生する。
いま注目されている施策はい ずれも、主に生産部門や販売部門とのトレー ドオフが発生するような施策である。
例えば 販売アイテムの削減であれば、それによって 見込まれる売上げの減少と物流コスト低減を 秤にかける必要がある。
また在庫の適正化を目的とした月次生産 から週次生産への変更では、週次での生産計 画策定をサポートする情報システムの導入に 投資が必要になったり、段取り替えコストの 上昇する可能性がある。
それよりも、在庫適 正化による在庫保有コストや倉庫内での荷役 コストの低減効果のほうが大きいと明白にな って初めて施策を実施できる。
施策実施の判 断が難しくなってきているのである。
現在のこのような状況は、歴史から見て、 成るべくして成ったといえる。
そもそも物流 とは輸送と倉庫のトレードオフを解消するた めに考え出された概念であり、そのために考 え出されたのが物流コスト体系である。
物流 の範囲での効率化の余地が少なくなった現在、 生産・販売・物流でトレードオフが発生する 問題に挑む必要がある。
そのためには、それ に対応できる管理会計概念の導入が望まれる。
財務指標モデルを活用する 事業を行うということは、端的に言えば、 株主や金融機関から資金を調達し、それを何 らかに投資して、利益をあげるということで ある。
この事業価値を意識した財務指標モデ ルは、すでにいくつも開発されており、広く知れわたっている。
代表的なものにROA(純資産利益率)、 ROE(自己資本利益率)、EVA(経済付 加価値)がある。
図1はそれらをロジスティ クスという観点で検討かつ相互での比較を行 いやすいように示したものである。
財務指標モデルにはそれぞれ特徴がある。
ROAは総資産とそこから生み出した利益の 比率を分析する、企業の総合的な収益分析 の代表的な指標で、率で表す。
ROEは株 主資本に対して、どのくらい利益が獲得され たかを示す、株主に対する収益還元に重点を 置いた経営指標であり、同じく率で表す。
EVAは米スターン・スチュワート社が開 SCM事業価値への着目 ロジスティクスの施策を物流コストだけから判断することはできない。
売上げ、コスト、資産という三つの要因のトレードオフから施策を評価 する必要がある。
そこでは近年、開発が進んでいる財務指標モデルを活 用することができる。
第3回 梶田ひかる アビーム コンサルティング 製造事業部 マネージャー 67 JUNE 2005 発した株主に対する収益還元に重点を置いた 経営指標で、事業利益が資本コストを上回 ったときに創造される価値を絶対額で表す。
ROAとROEは財務諸表から、EVAは 財務諸表と有価証券の市場動向から求めら れる。
近年、これらの指標の目標値を経営計画 に盛り込む企業が増えている。
経営計画や有 価証券報告書に「当社ではROE○○%を 目標とし・・・」というように記載している 例が散見されるようになってきた。
全般的な傾向として、大手企業ではROEかEVA、 中堅企業ではROAの導入事例が 多く見られる。
余談であるが、経営目標として 導入されるROA、ROE、EV Aには若干のヴァリエーションが ある。
ROAやROEであれば、 純利益ではなく営業利益を用いる などというヴァリエーションがある。
資本の項もまた、現預金を含めな い、遊休資産を含めないなどのヴ ァリエーションがある。
その企業 独自の算出式定義を行っているケ ースが多いため、注意を要する。
財務指標モデルは、企業の経営 全体を見るものであり、ロジステ ィクス単独で導入するものではな い。
重要なことは、それらのいず れかが導入されているのならそれ をロジスティクスの向上のために 積極的に活用することである。
な ぜなら、それらを経営目標に掲げ ているということは、在庫削減効 果の価値を負債資本コストよりも 大きな値で認識してもらえるとい うことであるし、ロジスティクス上で発生す る様々なトレードオフが存在することへの意 識があるということだからである。
式が複雑なため、これら財務指標にアレル ギー反応を起こす人は多い。
しかしながら、 ロジスティクスという観点で見れば、いずれ も基本は極めて単純である。
ROA、ROE、 EVAの基本は、売上げを増やすか、コスト を減らすか、資産を減らすか、である。
そし て資産を減らすためには、在庫や売掛金、固 定資産の削減が必要になる。
それ以外の項目、例えば自己資本比率、無 利子流動負債は、よほどのことがない限り、 ロジスティクスの管理対象外である。
ROA、 ROE、EVAに見られる多くのヴァリエー ションも、ロジスティクスという観点では、 何をすべきかにほとんど影響を与えない。
「SCM事業価値マップ」 売上増加、コスト低減、資産削減の三つ を統合的に見て、最も会社に貢献するような 施策を考え実行する――それが今、ロジステ ィクスに求められていることである。
売上げを増やす、コストを減らす、という ことは過去から多くの企業が取り組んできた ことである。
抜けていたのは、?資産を減ら す、?売上げ、コスト、資産それぞれの間で のトレードオフを解消する、という観点であ る。
この三つを統合的に考えることがロジス ティクスであり、またそう考えなければロジ × − 図1 SCMのための財務指標モデル ROE ROA EVA 自己資本比率 純利益 総資産 1 = × ÷ 税引後 営業利益 (NOPAT) 資本 コスト − 税引前利益 法人税 − 1- 法人税率 WACC + + = = 流動資産 固定資産 流動資産 固定資産 無利子流動負債 売 上 費 用 − × 売 上 費 用 − 製造原価 販売管理費 一般管理費・その他 製造原価 販売管理費 一般管理費・その他 機器・車両等 土地・建物等(自社物件) ファイナンス・リース 機器・車両等 土地・建物等(自社物件) ファイナンス・リース 在 庫 売掛金・その他 在 庫 売掛金・その他 JUNE 2005 68 スティクスは実現できない。
ロジスティクスをさらに進めたS CMでは、さらに事業の成長性とい う観点も考慮する必要がある。
SC Mとロジスティクスについては混同 しているケースが多いので、ここで 違いを端的に述べると、SCMへは 製品開発やマーケティング、営業活 動と、それらに関わる売掛や買掛の 管理が含まれるということであろう。
近年注目されているのは、事業の 成長性である。
これは単年度の財務 諸表には現れてこない。
事業を将来 的に発展させるためには、例えば基 礎研究への投資、経営管理の強化、 取引先の育成やそれらとの関係強化 などがあげられる。
SCMへはその 観点も要求される。
それら観点をマップ化したものが 図2となる。
SCM事業価値という考えを導入 すれば、生産や営業も含めたロジス ティクス施策を検討しやすくなる。
そ して、ロジスティクスの経営への貢 献をよりアピールできるようになる。
ロジスティクス施策と SCM事業価値 現状で企業が採用しているロジス ティクス施策は、当社で調べただけ でも数百種類はある。
図2に示したものはほ んの一例である。
そしてそれぞれの施策は単 独で、あるいは他の施策と絡み合って、ほと んどの場合、どこかにトレードオフを発生さ せる。
どの施策が検討に値するのかの選定は、そ の企業の生産品目、それを生産するための設 備状況、共同他社動向、生産拠点や販売拠 点の立地・規模・数、得意先の状況、消費 市場ニーズなど、さまざまなものを勘案する 必要がある。
いざ候補となる施策が挙がった ら、このSCM価値マップの出番となる。
候補となった施策ごとに、コスト変化要因、 つまりどの費用が削減され、どの費用が増加 するのかを、整理する。
例えば生産サイクルを 月次から週次に変更するなら、図2の右段のように整理できる。
コスト変化要因が洗い出 されたら、あとはそれを金額に換算すれば、そ の施策による事業価値がどのくらい向上する のかを試算できる。
その企業で採用している 財務指標モデルにマッピングさせれば、経営 への貢献がより明確に示せるようになる。
◆ SCM時代の新しい管理会計◆ かじた・ひかる 一九八一年南カリフォルニア大学大 学院OR修士取得。
同年日本アイ・ビー・エム入社。
一九九一年日通総合研究所入社。
二〇〇一年デロイト トーマツコンサルティング(現: アビーム コンサル ティング)入社。
静岡県立大学非常勤講師。
ロジステ ィクスABC、ロジスティクス中長期計画策定、在庫 削減プロジェクトなど、ロジスティクスの企画・管理 に関するコンサルティングと研究を中心に活動中。
図2 SCM事業価値とロジスティクス施策 SCMの事業価値 事業の成長性 売上の増加 コスト低減 資産の活用 機会損失の削減 顧客サービス向上 製品力強化 製造原価低減 物流コスト低減 その他コスト低減 設備の活用 在庫の削減 売掛・買掛金管理強化 固定資産のフロー化 ●在庫の可視化 ●販売VMI導入 ●納入リードタイム短縮 ●トレーサビリティ情報提供 ●市場投入期間の短縮 ●物流品質の向上 ●調達先統合管理の導入 ●調達VMI導入 ●モーダルシフト推進 ●在庫品目の削減 ●リベート体系再構築 ●ABCによる顧客別採算分析導入 ●生産サイクル短期化 ●需要予測精度の向上 ●現金取引の拡大 ●与信管理の強化 ●3PLの活用 ●自社倉庫のリース化 ●共同配送化による外部荷主獲得 ロジスティクスの主要観点 ロジスティクス施策(例) ●欠品削減による売上増 ●欠品削減による顧客満足度向上 ●生産計画頻度増加によるコスト増 ●在庫削減に伴なう倉庫コスト低減 ●横持ちコスト低減 ●生産計画システム導入に関する諸費用発生 ●不動在庫処分に伴なう各種コスト低減 ●在庫削減 ●空き倉庫の賃貸化による収入増 生産サイクル短期化によるコスト変化要因(例)

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