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2003年6月号
特集

物流管理の常識とは大違い ロジスティクスの手引き 理論編『SCMとは何か』実践編『改革プロジェクトの現場から』

理論編『SCMとは何か』 実践編『改革プロジェクトの現場から』 JUNE 2003 46 ◆はじめに 日本において、SCM(サプライチェーン・マ ネジメント)の重要性が語られ、先進企業の取り 組みが新聞や雑誌で取り上げられるようになって から、すでに五年以上になります。
しかし、大きな 成果をあげたSCMプロジェクトが報告される一 方、効果を生み出せず挫折したプロジェクトも少 なくないようです。
そこで本講座では、SCMの本質に立ち返って その考え方を整理し、SCMの理論と実際にどの ようなギャップがあるのか。
具体的なプロジェクト においては、どんな落とし穴が待っているのか。
こ れまでの我々のコンサルタント体験に基づいて指 摘していきます。
それによってSCMを成功させる ポイントを浮き彫りにすることが狙いです。
理論と実際の両面からSCMを整理するために、 本講座は毎回、二部構成になっています。
第一部 は理論編です。
SCMの基礎知識と重要なコンセ プトをなるべく平易に解説します。
第二部は実践 編です。
「SCMプロジェクトの現場から」と題し て、筆者の経験を交えてSCMの現実をお伝えし ます。
これからSCMプロジェクトを立ち上げる、 またプロジェクトマネジメントを担当するという 方々の一助になれば幸いです。
◆SCMとは 最初にSCMとは何かを明らかにしておきまし ょう。
SCMの定義は、いろいろありますが、ほ ぼ以下のように要約できます。
「SCMとは、原材料・部品のサプライヤーから、 メーカー、卸、小売りそして顧客に至る供給連鎖 (サプライチェーン)の全体最適を図り、顧客満足 度の向上、在庫の削減、リードタイムの短縮、キ ャッシュフローの増大を同時に実現しようとする 戦略的マネジメント手法である」 つまり、SCMは顧客と小売り、卸、メーカー さらには原材料メーカーの間で商流、物流、情報 流を最適化することによって、必要な商品・サー ビスを必要な時に必要な場所で提供することを目 指すものです。
これによって、顧客にとってはその 商品・サービスの価値は最大化され、ひいては商 品・サービスを提供する側の利益も増大する、と いう考え方です。
その意味で、SCMよりも広義の概念としてバ リューチェーンという言葉を用いたり、顧客需要を起点とする情報のつながりを重視する観点から、 サプライチェーンに対してデマンドチェーンという ことばを使う場合があります(図1)。
◆SCMの歴史的背景 それでは、SCMがなぜ注目されるようになっ てきたのか、その歴史的背景を見ていきましょう。
SCMの誕生は、一九八〇年代のアメリカでの クイック・レスポンス(QR)に遡ることができま す。
当時のアメリカのアパレル業界は、輸入衣料 品の脅威にさらされており、生き残りのための戦 略が検討されていました。
輸入衣料品に対抗する ためには、経営効率の向上が不可欠でした。
しかし、これまでのコストダウンの手法の繰り 経営者の多くはITのスペシャリストでもなければ、工場出身でも ない。
SCMに関する難しい専門用語は理解できない。
理解する気 もないだろう。
彼らをSCMのコンサルタントはどのように啓蒙して いるのか。
日本企業のサプライチェーン改革を数多く手がけている 第一線のコンサルタントが誌上で再現する。
杉山成正ベリングポイントディレクター 理 論 編 SCMとは何か 新連載講座 SCMの常識――改革プロジェクトの現場から 47 JUNE 2003 返しには限界が ありました。
そ のような状況の 中、アパレル業 界の平均的なサ プライチェーン において、付加 価値を生み出し ているのは、全 体の六分一に過 ぎないという衝 撃的な調査結果 が出ました。
つ まり、残りの六 分の五はムダな 時間であり、原 材料や商品はた だ滞留している ということです。
顧客が必要と しないものを、 供給する側の都 合で作ってしま い、それを何と か買ってもらう とするビジネス モデルに根本的 な問題がありま した。
そこで顧 客の需要に合わ せて調達・生 産・供給を行う モデルを目指す企業が現れました。
そして、実際 に在庫の削減、リードタイムの短縮、コストの削 減を実現していったのです。
九〇年代前半になると、QRはECRへと発展していきました。
ECRは、品揃え、商品の補充、 販売促進、新商品開発・販売という商品の市場へ の供給全体の効率化を図ろうとするものです。
そ の実現のために、マーケティング技術、ロジスティ クス技術、情報技術、組織開発の手法が進展して いきました。
この時期に、VMI(ベンダー主導型在庫管理)、 CRP(連続自動補充プログラム)、UPCコード、 JANコード、ASN(事前出荷報告)によるノ ー検品など、新しいロジスティクスの仕組みが次々 と導入されました。
しかし九〇年代後半になると、ECRの取り組 みの限界も見えてきました。
サプライチェーンのメ ンバー間(たとえば原材料メーカー、製品メーカ ー、卸、小売りの各企業)、あるいは一つの企業内 の調達、生産、物流、販売部門間での組織の壁と 利害の衝突が目立つようになってきたのです。
ECRの原点は顧客志向であり、需要主導のサ プライチェーンの実現です。
それなら顧客に近い 小売りがサプライチェーン全体をコントロールすれ ばいい。
そう主張する小売りに対して、他のプレ ーヤーからの反発が起きました。
ECRの成果を 小売りが独り占めして他のプレーヤーが適正な利 益を得ることができないのであれば、サプライチェ ーン自体が成り立たなくなってしまいます。
そこで単なる技術的な手法ではなく、サプライ チェーンのメンバー間にWin ―Winの関係を構 築していくマネジメント手法が必要となってきま した。
それがサプライチェーンの全体最適化を目 指すSCMなのです。
九〇年代の末には、日本でもSCMが注目され 始めました。
ただし、この時期のSCMブームと も言うべき現象は、SCP(サプライチェーン・ プランニング)と呼ばれるパッケージソフトの出現 によることが大きかったと言えます。
それまでサプ ライチェーン全体での商品供給計画の立案は、理 想とはされていても、技術的には困難だと考えら れていました。
しかし、SCPが登場したことで システム技術面では理想の実現性が一挙に高まっ たのです。
このため日本ではSCMのマネジメント手法の 導入より前に、SCMシステムの導入が先行する というおかしな事態が起きました。
この時期にS CMに取り組んだ先進的企業の多くが組織の壁に ぶつかり苦労したのは、システム先行によるもので あると、筆者は考えています。
この点についても、 本連載で触れていきたいと考えています。
◆今後のカリキュラム さてSCMの背景と概要を把握していただいた ところで、本連載の今後の展開を簡単にご紹介し ます。
▼2・3回目 「目標と指標(KPI)の設定」 経営戦略にあった最適なサプライチェーンを構 築するためには、正しい目標を設定し、さらにそ の達成度を正しく把握するための指標(KPI) を設定することが重要です。
加えてTOC、スル ープット会計という全体最適を重視した新しい考 え方を紹介します。
▼4回目 「サプライチェーンの形成」 物流管理の常識とは大違い ロジスティクスの手引き 特集 図1 SCMのスコープ サプライヤー (素材) サプライヤー (部品) メーカー (工場) 物流センター 調 達 生 産 配 送 小売り 顧  客 デマンドチェーン サプライチェーン SCMの3つの流れ 商流・物流・情報流 物流管理の常識とは大違い ロジスティクスの手引き 特集 JUNE 2003 48 他社・他部門と協力してサプライチェーンをい かに構築していけばよいのか、そのポイントについ て考えていきます。
▼5・6回目 「需要と供給の同期化」 刻々と変化する需要に対して、どのように供給 をバランスさせていくのか? その仕組みをどのよ うに設計していくのか? について解説します。
▼7・8回目 「グローバル・ロジスティクス」 需要と供給の計画をいかに精緻にしても、計画 通りかつ効率的に商品を供給できなければ意味が ありません。
物流上の様々な制約、コスト面での 制約を考慮しながら、グローバル・ロジスティク スを設計することが重要です。
▼9・ 10 回目 「SCMインフラ構築」 具体的なSCMインフラの構築について、業務 改革の進め方およびシステム構築の実際について 解説します。
▼ 11 回目 「SCM関連ソリューション」 SRM、PLMといった最近注目のSCM関連 ソリューションについて紹介します。
▼ 12 回目 「まとめ」 まとめとして、SCMの最新事例をご紹介しま す。
また今後のSCMの展開について紹介します。
◆SCMプロジェクトの立ち上げ 「わが社ではSCMプロジェクトを開始しました。
コンセプトと改革のテーマは、自社で議論して決 めました。
ついては、SCMシステム導入のコン は、生産部門の人達に単独でのSCMプロジェク トは労多くして報われないことを改めて認識して いただき、営業部門、調達部門、物流部門の方々 の協力を取り付けるように説得することになりま す。
また、その説得のサポートを行うことです。
つ まり、何のためにSCMが必要なのか、なぜみん なで一緒に取り組む必要があるのか、啓蒙活動を していくのです。
SCMプロジェクトがSCMシステム導入プロ ジェクトにすりかわっているケースもよく見られま す。
週次生産計画のシステムを導入することに注 力したものの、それを活用してどのように計画業 務を変えていくのかについての議論が進んでいな い。
こうしたプロジェクトの場合、生産現場の混 乱した状況に引きずられてしまう結果になります。
もろもろの混乱をシステムの機能でカバーしようと いう本末転倒の話になってしまうのです。
このような場合に我々は、情報システム部門の 方を説得して、生産部門の人達と改めて業務をど のように変えるべきかの議論をしていただくように お願いします。
「業務設計はすでに終わった。
あと はシステムを作ってくれればいいんだ。
ぐずぐずせ ずに早くしろ」という業務部門の人達に、「その業 務設計は不十分だからやり直せ」と言っているよ うなものです。
情報システム部門が喧嘩を売って いると言われてもしかたがないところです。
しかし、この喧嘩は極めて有意義です。
生産部 門と営業部門の喧嘩も有意義です。
喧嘩をすれば こそ、互いの腹の内が理解できるようになります。
まさに、SCMプロジェクトは、?雨降って地固ま る〞です。
このコラム欄では、そんなSCMプロ ジェクトの現場を紹介していきます。
サルティングについて提案をして欲しい」。
このよ うな依頼をよく受けます。
しかし、実際に客先に赴き、よくよくSCMプ ロジェクトの内容を聞いてみると、最初の依頼の 内容とはずいぶん話が違う。
全社的な取り組みに 至っていないプロジェクトがほとんどです。
とくに 日本企業に多く見られるのは?生産領域先行のS CMプロジェクト〞です。
目的は過剰在庫と在庫切れの問題を解決するこ と。
そしてプロジェクトは、生産部門のSCM改 革が中心となります。
具体的には月次で処理して いた生産計画を週次に移行し、最新の需要情報、在 庫情報に基づき必要なものだけを生産する仕組み をつくろうという取り組みです。
プロジェクトの背景には営業部門からの強い要 求があります。
在庫が切れたので至急、生産して 欲しい。
重要な取引先からの大口の契約なので生 産計画を変更してでも対応して欲しい。
そんな営 業部門からの要望が日常的に発生しています。
生 産現場は計画の変更に追われ、一方をたてれば他 方が立たずという状況に疲弊してしまっているの です。
このような状況を何とかしようと、生産部門の 内部からSCMの取り組みが始まります。
しかし、 こうしたケースでは往々にして営業部門の理解や 協力が得られません。
「週次生産ということは、毎 週好きなように販売計画を変えても生産ができる ようになることか」という笑えない誤解まで生じて しまいます。
◆ケンカの効用 そこで我々コンサルタントの最初の重要な仕事 改革プロジェクトの現場から 実 践 編

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