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第1部勝ち組物流子会社のビジョン
JANUARY 2004 18
脱・メーカー物流で外部荷主を開拓
キリン物流の全国7支社のうち、九州支社は最も外販に強いと言
われる。 同社が2000年に地域子会社の全国統合を実施する以前の
地域子会社時代には外販比率が50%を超えていたこともあった。
同支社の営業活動がキリン物流の社内では外販拡大のモデルとな
っている。 (刈屋大輔)
拠点整備で先行投資
福岡県粕屋郡粕屋町――。 九州自動車道の福岡イ
ンターチェンジから五〇〇メートルの位置に「キリン
物流福岡センター」がある。 敷地面積約一万二〇〇
〇平方メートル、延べ床面積約一万平方メートルの
二階建て。 二〇〇二年四月に本格稼働した。
キリン物流は現在、七つの支社で全国を網羅してい
る。 そのうち同センターは九州支社が管轄している。
もともと九州支社は筑紫運輸という名のキリン物流の
地域子会社だった。 その後、九六年にキリン物流九
州に改組し、さらに二〇〇〇年には地域子会社統合
に伴い、現在の支社という位置付けになった。
九州支社はキリン物流の支社の中でも際だって外
販比率が高い。 現在の比率が三六%。 全社平均の二
五%を大きく上回っている。 実は地域子会社だった九
九年の時点で外販比率は五三%に達していた。 その
後、比率が落ちたのは子会社の全国統合に伴い支社
間で帳合いを見直した影響だ。 筑紫運輸時代から外
販は得意だった。
福岡センターもキリン物流社内では外販事業のモデ
ル拠点という位置付けになっている。 実際、倉庫スペ
ースのほとんどを外部荷主向けに利用している。 一つ
は福岡・天神の老舗レコード卸売会社「ムジカインド
ウ」の物流業務だ。 CDやビデオテープの在庫を保管
し、商品を全国の生協(COOP)の店舗に供給す
る仕事を担っている。
さらに二〇〇二年七月には、ペットフードやペット
用品を扱う三井物産系の卸「物産ペネット」からも業
務委託を受けた。 それまで物産ペネットは九州地区に
複数の在庫拠点を構えていた。 それを集約するに当た
って、地元の有力物流会社に出荷データを渡して提
案を依頼。 最終的にキリン物流を選んだ。 その理由は
提案内容に加えて、福岡センターの立地や設備が優れ
ていたこと。 そしてキリンの持つ食品物流の実績など
が大きかった。
酒類の在庫管理は、酒税の対象となっているだけに
他の食品以上に厳密だ。 そのノウハウを活かしてキリ
ン物流は「KL
―PARTNERS」という外販向け
のセンター管理システムを自社開発している。 それを
物産ぺネット向けにカスタマイズすることで、在庫管
理精度を向上させるという九州支社の提案には説得
力があった。
このコンペを担当した同支社の野寄豊文営業担当
部長補佐は、筑紫運輸時代に短期アルバイトとして
採用された元トラック・ドライバーだ。 その後、情報
システム会社に勤務していた経験を買われて事務方に
異動。 働きぶりを評価されてキリン物流の正社員に登
用された。 福岡センターの外販営業では、その野寄部
長補佐が活躍した。 福岡センターの土地建物は地元企業からの賃貸だ
が、長期契約を条件に上屋を新設した実質的な固定
資産だ。 これだけの規模の物流センターとなると通常、
物流業者は荷主が確定していない限り投資しない。 し
かし、同センターの場合は先行投資だった。 グループ
のキリンビバレッジや小岩井乳業の商品の一部、キリ
ンビールの販促品などの流通処理を同センターで行う
ことにはなっていたが、倉庫スペースの大部分は当初
は具体的な荷主が決まっていなかった。
実際、稼働後三カ月はスペースの空きが目立ってい
た。 「そのため当初はスポットでも何でもいいからと
荷物をかき集めた。 なかには当社がターゲットとする
食品とは無縁なものも少なくなかった。 物産ぺネット
さんの仕事が決まるまで、それこそ気が気ではなかっ
Report
19 JANUARY 2004
特 集
た」と九州支社の高倉正行営業部長は振り返る。
元ドライバーの提案営業がピンチを救った。 もとも
と野寄部長補佐を正社員に登用したのも、外部荷主
向けの営業担当として起用したのも、筑紫運輸出身
の高倉部長だった。 自分と同じ地元出身の生え抜き
の後輩が「今では若手のエースに成長した」と高倉部
長は満足気だ。
初体験のバラ出荷に手を焼く
もっとも受注後の現場の対応には手を焼いている。
筑紫運輸時代から外販が得意だったといっても、従来
はキリングループのベースカーゴを活かした共同配送
や帰り荷の確保がメーンだった。 しかし現在の福岡セ
ンターでは、少量多品種の複雑な庫内オペレーション
が要求されるようになっている。
そもそもキリン物流が得意としてきたのは、限られ
たアイテム数の商品を大ロットで一括処理する「メー
カー物流」だ。 これに対して、数千〜数万点のアイテ
ムの中から商品をピッキングして、数百〜数千の届け
先に配送する多頻度小口の川下物流は過去にはほと
んど経験してこなかった。
福岡センターの蓑原洪吉所長は「ビールや清涼飲
料水の出荷はパレット単位もしくはケース単位。 箱か
ら商品を一つずつピッキングするといった作業は基本
的にない。 ペット商品のオペレーションに慣れるまで、
とても苦労したし、正直いって失敗もあった。 しかし、
今では大きな障害もなく円滑に作業を進められるよう
になっている」と説明する。
現在、福岡センターでは一日当たり約五〇人のパー
トタイマーを投入して物産ぺネットのペット商品のオ
ペレーションを処理している。 荷主の出荷指示に従っ
てラックから商品をピッキング。 その後、沖縄県を含
めた九州全域(一部山口県も含む)の量販店など約
二七〇店舗に商品を供給する。
取扱商品アイテム数は七五〇〇。 ケース単位での
出荷のほかに、例えば犬用の首輪一個といった具合に
バラ単位での出荷もある。 ピッカーはリストを見なが
ら七五〇〇アイテムが格納されているラックから一つ
ひとつ商品を抜き取っていく。 ハンディターミナルと
ラック以外には目立つマテハン機器はない。
中小零細メーカーが供給する商品ではバーコードが
付記されていないことも珍しくない。 商品の種類は正
しいが、間違った色の商品が納品される。 納品書に書
かれている個数と実際の送られてくる個数が合致して
いない‥‥現場ではそんなことが日常茶飯事だ。
もう一方のムジカインドウの取扱アイテム数はおよ
そ五〇〇〇。 こちらも物産ペネットの案件と同様、バ
ラ出荷がほとんどだ。 生協の各店舗への商品配送には
すべて路線便を利用している。 一部は個人宅に宅配
便を使って直接配送するケースもあるという。
こうした外販案件の採算確保は決して楽ではない。
一般に親会社向けに比べ、外販の仕事は契約条件が
厳しいと言われる。 福岡センターも例外ではないよう
だ。 それでも福岡センターでは外販、その中でもとく
に複雑な現場のオペレーションを必要とする案件を取
り込むことに前向きな姿勢を示している。
その理由を、小林彰取締役九州支社長は「多少採
算は厳しくても、今のうちに難しい物流管理を経験し
ておけば将来プラスに作用する。 確かに外販の仕事は
ビールよりも手間が掛かる。 しかし、ペット商品のオ
ペレーションを完璧にこなせるようになれば、他のど
んな業種の物流管理にも対処できるようになる。 そう
やって現場の管理レベルが向上していくことを期待し
ている」と説明する。
キリン物流の小林彰
取締役九州支社長
キリン物流九州支社
の高倉正行営業部長
キリン物流福岡センター
JANUARY 2004 20
とりわけペットフードは九州支社が今後の有望市場
と考える戦略分野だ。 農林水産省の資料によると、ペ
ットフードの市場規模は現在約二五〇〇億円と推定
されている。 これに首輪やリードなどのペット用品が
加わると、マーケットは五〇〇〇億円規模に膨らむと
いう。 キリン物流の九州支社では「このうちの約八%
が物流費用だと考えても、四〇〇億円程度の規模の
物流マーケットがある」(野寄部長補佐)と算盤を弾
いている。
そして、もう一つ。 外販のターゲットとする分野と
して九州支社は「焼酎」を挙げている。 ここ数年、焼
酎の消費量は右肩上がりで推移している。 しかも九州
は焼酎の産地。 メーカーが集まっている。 キリングル
ープで扱っている酒類や飲料と納品先は大部分が重な
る。 共同化できれば大きな合理化効果を生むのは確実
だ。 すでに地場の焼酎メーカーからの引き合いもきて
いるという。
内部固め終え外販に本腰
二〇一〇年に売上高一〇〇〇億円、外販比率五〇%
――。 二〇〇〇年一月、名麟運輸や青葉運輸などキ
リンビールの地域物流子会社七社が合併して発足し
た新生キリン物流は当時、一〇年後のあるべき姿とし
て冒頭の目標数字を掲げた。 合併後初の決算となっ
た二〇〇〇年十二月期の売上高は約六九七億円だっ
た。 これを一〇年掛けて約三〇〇億円上乗せする。 年
に三〇億円ずつ売り上げを伸ばしていく計算だ。
一方、当時の外販比率は二〇%弱にすぎなかった。
これが二〇〇三年十二月期には二七%となる。 二〇
〇四年にスタートする新中期経営計画(三カ年計画)
では、二〇〇六年に三五%に達する見通しだ。 さらに、
その後の四年間で一五ポイント上昇させて、五〇%と
いう目標をクリアする計画だという。
飲酒人口の減少に伴い、酒類の需要低迷が続いて
いる。 その影響を受けて、親会社であるキリンビール
の物量も年々落ち込んでいる。 売り上げ一〇〇〇億
円の実現に向けて、年に三〇億円の増収を維持する
には、グループからの収入を期待するのではなく、外
販を伸ばしていくしかない。
同社は二〇〇四年一月に新中期経営計画をスター
トする。 この新三カ年計画のテーマは?体力を内に蓄
える三カ年〞だ。 物流会社として自立できる体力を身
につける。 つまり二〇〇六年までの三年間は、同社に
とって外販強化期間という位置付けになっている。 三
年間で一五九億円の設備投資を予定しているが、う
ち九一億円は物流センターの建設に充てる。 北海道、
東北、関東、関西に計四カ所を新設する計画だ。 新
センターでは一部キリングループ製品も扱うが、メー
ンは外部荷主の業務とする方針だという。
これまでにもキリン物流では新設あるいは既存施設
の改良などによって外販向け物流拠点の拡充を図って
きた。 現在では全国七支社八七事業所のうち、外販
をメーンとしている事業所が三〇にまで増えた。 これ
に今後三年間で新たに四拠点が加われば、数としては
十分と言える。 拠点は全国各地に分布しており、バラ
ンスも取れている。 外販強化に向けたハード面での準
備は万全だ。
残る課題はソフト。 外部荷主に対して的確な提案
のできる営業マン、そして複雑な現場オペレーション
の管理に優れたセンター長を、どれだけ社内に育成で
きるかにかかっている。 そのために小林九州支社長は
「個人の持っている外販のノウハウを人事ローテーシ
ョンなどを通じて全社に広げていく必要がある」と考
えている。
外販の仕事は親会社の仕事よりも細かなオペレーショ
ンが求められる
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