ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年1号
ケース
三菱倉庫――医薬品物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2006 28 倉庫事業の一〇%が医薬品に 二〇〇五年一〇月、大阪市此花区にある 三菱倉庫の桜島営業所に「2号配送センター 北棟」が竣工した。
五階建てで延べ床面積は 一万四三〇〇平方メートル。
定温庫・保冷庫 を併設し、全床に防塵加工を施してある。
こ の新棟を同社は、医薬品専用の配送センター として開設した。
二〇〇三年に稼働した南棟 も同じく医薬品仕様のセンターで、この分野 の需要増を見込んで施設を拡充した。
新棟の約半分のスペースを使って、物流業 務を全面受託した外資系医薬品メーカーの西 日本地区の保管・配送業務を手掛けており、 すでに十一月から稼動している。
今後 は既存 顧客を含む荷主三社の共同配送も実施してい く予定で、このセンターに関西地区にある顧 客の三カ所の拠点が集約され、輸配送の効率 化とCO 2 排出量の削減などを図る。
この共 同物流の取り組みは、二〇〇五年一〇月一日 に施行したばかりの物流総合効率化法により 第一号案件として認定も受けている。
三菱倉庫は、医薬品の配送センター事業に 進出して二〇年以上の実績を持つ。
現在、二 十一社の顧客から配送センター業務を受託し ており、医薬品を扱う拠点の数は「桜島2号 配送センター北棟」で二九カ所目となる。
スタートした当初、医薬品事業は外資系企 業からの受託が多かったのだが、近年は国内 メーカーとの取引も増えている。
取扱高の伸 薬事法の改正受け新たな事業展開 歯科向けアウトソーシングも受託 医薬品の配送センター事業で20年余 りの実績をもつ三菱倉庫。
この分野の顧 客数は21社を数え、売り上げの拡大が 続く。
2005年4月の薬事法改正に合わせ て「表示等製造業」の許可を取得し、新 たな事業展開に乗り出した。
秋には、歯 科用医療関連メーカーから物流業務を受 託し同分野への進出も果たしている。
三菱倉庫 ――医薬品物流 29 JANUARY 2006 びも順調だ。
二〇〇四年三月期に三八億円だ った売り上げは、二〇〇五年三月期には五割 増の五七億円となり、倉庫事業における構成 比も三%から五%にアップした。
さらに今期 は七〇億円の売り上げを予測しており、倉庫 事業全体の一〇%を占める見込みだ。
売り上げの拡大に伴って、二〇〇五年四月 に倉庫事業部のなかに「医薬品チーム」を新 設した。
従来、同事業部内の営業三課が担当 してきた業務を専任の組織として昇格させた ものだが、あえて?医薬品〞という冠を付け たところに、同社のこの分野への 期待の高さ が窺える。
?製造業〞の許可を取得 「医薬品チーム」の発足には、もう一つの 狙いがある。
この分野の事業を、従来の医薬 品配送センター業務から関連分野を含む新た な領域へと拡大するというのがそれだ。
契機となったのは二〇〇五年四月に施行さ れた改正薬事法 だった。
この法 律の改正に合わ せて三菱倉庫は、 横浜・大黒にあ る二カ所の倉庫 で「包装・表 示・保管製造 業」という聞き なれない事業の 許可を取得している。
なぜ物流業者である同社が?製造業〞の許可を取得することになっ たのかを以下に説明する。
改正薬事法では 、医薬品・医薬部外品・ 化粧品・医療機器の四分野で業種区分を見 直した。
?製品をつくって市場へ出荷する〞 従来の「製造業」を、?製品をつくる〞行為 と?市場へ出荷する〞行為とに新たに分割。
製造だけを行うのが「製造業」で、?市場へ 出荷する〞行為は新たな許可区分として設け られた「製造販売業」として切り離された。
「製造業」の許可を得るには工場を自ら保 有する必要がある。
これに対して「製造販売 業」は、工場を持たなくてもよい。
製造を外 部委託した完成品を自社 製品として市場に出 すことができる。
その場合、市販後の安全対 策には「製造販売業」者が責任を負う。
製造 行為と出荷行為を区分することによって、市 場で流通する製品の品質保証や安全確保への 責任をより明確にしようというのが法改正の 狙いだ。
従来の法律のもとでも、メーカーが製造を 他社に委託することはできた。
だが最終工程 にあたる包装ラインなどの設備を自社で保有 しなければならないという制約があった。
そ れが法改正によって、「製造販売業」を営む 事業者は製品の包装や保管まで含めて、「製 造業」者に 全面委託できるように変わった。
これにより、外部委託によって製造業務を 効率化できる余地はこれまで以上に大きくな った。
今後は製造部門の分社化や外部委託の 動きが加速するとみられ、他方で受託製造へ の特化や異業種から医薬品受託製造への参入 が増えることも予想されている。
今回の法改 正は、業界再編の行方を占ううえで大きなイ ンパクトを持つとみなされている。
それと同 時に法改正は、物流事業者に新たなビジネス チャンスを提供する側面も持っている。
改正薬事法による新しい事業区分によって、 従来の「輸入販売業」は「製造販売業」に分 類さ れるようになった。
これまで輸入販売業 者が行っていた行為、すなわち海外工場で委 託製造した製品を日本で輸入販売するという 行為は、改めて改正法に定める許可区分に則 って行わなければならなくなった。
海外での 生産は薬事法の許可要件を満たす工場(「製 造業」)に委託し、製品を日本へ輸入してか らは、「製造販売業」者として自らの責任の もとで出荷判定を行ったうえで製品を市場へ 供給するという流れになる。
その際、国内倉庫で製品を保管して、法で 定めら れた表示ラベルを貼付し、梱包を行う といった作業を伴う。
旧法下では倉庫業者が 「輸入販売業」からの委託でこの業務を行っ ていた。
だが改正薬事法では、これらの業務 も製造業の範疇に区分され、業務を行うには 倉庫ごとに許可が必要と定めた。
工場の製造 ラインで充填まで行う?一般製造業〞とは別 に、充填後の包装・表示・保管行為だけを行 う「包装・表示・保管製造業」(以下では表 「2号配送センター北棟」(大阪市此花区) 示等製造業)を新たに設けて製造業とみなし て法の網をかぶせたのだ。
ここでは保管を行 う倉庫が、業区分における「製造業」の製造 所に位置づけられる。
管理薬剤師を採用 「表示等製造業」の許可を得るには、「GM P(Good Manufacturing Practice )=医薬 品の製造管理および品質管理に関する基準」 に則った管理体制を整えることが許可要件の 一つとなっている。
一般に、国内工場で製造され出荷判定の終 了した医薬品を、メーカーからの委託により 倉庫業者が配送センターなどで管理する場合 には、業界の自主規範である「GSP(Good Supplying Practice )=医薬品の供給と品質 に関する基準」に則って管理を行っている。
これに対して、出荷判定前の製品を保管する 「表示等製造業」が守るべきGMPの管理基 準は、GSPよりもはるかに細かい。
GMPで管理するには、一定の構造設備基 準に適った施設を備えるとともに、製造管理 や品質管理業務の手順書に従って業務を行う ための管理者を配置しなければならない。
医 薬品の場合なら管理薬剤師、医療機器なら責 任技術者がこれにあたる。
三菱倉庫が大黒(横浜)に構える 倉庫では、 以前から顧客の委託により医薬品と医療機器 の輸入品を扱っていた。
その顧客が、法改正 後もこれまで通り輸入した製品を日本で販売 していくためには、顧客自身が「表示等製造業」の許可をとるか、または許可を持つ業者 に業務を委託しなければならなくなった。
そこで三菱倉庫は、改正法の施行と同時に、 大黒の二カ所の倉庫で医薬品と医療機器を対 象に「表示等製造業」の許可を顧客の代わり に取得した。
そのために管理薬剤師や責任技 術者も新規に採 用した。
この倉庫では複数の顧客から医薬品分野の 業務を受託している。
三菱倉庫が許可を取る ことで、顧客の許可手続きは不要となる。
さ らに同社の管理薬剤師が複数顧客の業務をこ なせるため、顧客に経費削減のメリットも提 供できる。
三菱倉庫自体にとっても新規の顧 客開拓につなげられると考えたのだ。
実は大黒倉庫では、顧客からの要望で従来 からGMP基準による管理を実施していた。
従って庫内作業そのものは基本的に変わらな い。
これまでと異なるのは、許可を取得した ことで三菱倉庫が自らの責任下で自 主的に管 理する立場に変わったということだ。
「表示等製造業」は「倉庫業」ではなくあ くまで「製造業」であり、製造の最終工程と しても位置づけられる。
医療機器などは、海 外の製造委託先で日本の許可基準を満たす検 査体制が整っていないために、日本に輸入し てから検査を行わざるを得ないケースがある。
検査内容によっては、顧客の要請で「表示等 製造業」がこうした業務を担当していくこと も今後は想定され、そうなればより厳しく品 質を問われるようになっていくはずだ。
同社では、この「表示等製造業」許可に基 づく業務を、医薬品関連分野で配送センター 事業 に続く第二の柱に育てようと営業体制の 強化を図った。
当面のターゲットを医療機器 や医薬品の原料、中間製品などに置き、新設 した「医薬品チーム」が、従来の医薬品とと もにこれらの分野についても一体的に顧客開 拓を進めていく。
JANUARY 2006 30 5階 4階 3階 2階 1階 無線端末機搭載 フォークリフト 自動ケース ピッキングシステム 荷揃場 ケースソーター ピースピッキングシステム 保冷庫 垂直搬送機 電動移動棚 ケース自動倉庫付き デジタルピッキングシステム 新拠点の概要 1F 入庫 1F 2F 出荷 5F 電動移動棚 パレット自動倉庫 自動ケース ピッキングシステム ケース自動倉庫 デジタルピッキング システム 検品・詰合 デパレタイズロボット ケースソーター ピースピッキングシステム パレット自動倉庫 デパレタイズロボット 2階拡大図 31 JANUARY 2006 同チームの西川浩司マネジャーは、「表示 等製造業の仕事はまさに品質管理そのもの。
当社は二〇年も前のまだコンピューター化が 進んでいない時代から、管理基準の高い医薬 品で運用してきた。
このノウハウを活かして 市場を開拓していきたい」と抱負を語る。
同社は十一月に、横浜に続いて神戸の倉庫 でも医薬品の「表示等製造業」許可を取得し た。
この新規事業の顧客数は、今年度中に八 社まで拡大する見込みだ。
法改正でビジネスチャンスが広がったのは 輸入品だけではない。
すでに述べたように、 医薬品の製造を外部 委託するケースが増えれ ば、製造を受託する側のメーカーから新たに 保管などの物流需要が生まれる。
三菱倉庫が 期待するのは医薬品工場の原料や中間製品な どの保管需要だ。
原料や中間製品を保管する にも「表示等製造業」の許可が必要になるた め、この領域での事業拡大を狙っている。
コンビニよりも多い歯医者 三菱倉庫は二〇〇五年に、医薬品関連分 野でもう一つ新しい領域への進出を果たした。
歯科用の医薬品・医療機器分野で世界一の シェアをもつメーカー、デンツプライ社の日本法人・デンツプライ三金から、全製品の配 送センター業務を受託したのである。
十一月 から横浜・大黒の倉庫で東日本エリアを中心 にスタートした。
歯科分野での業務受託は三 菱倉庫にとって初めてで、この案件では一部 で歯科医院への直送も手がけている。
歯科向け分野の製品は、取り扱うアイテム 数が病院向けと比べて一桁多く、オペレーシ ョンはピース単位が中心で細かい。
しかも、 末端ユーザーである歯科医院の数はコンビニ エンスストアの数よりも多いといわれている。
非効率に陥りがちな条件に加えて、この分野 では長らく商物一体の流通が行われてきた。
今回のように、歯科関連の大手メーカーが 物流を本格的にアウトソーシングするのは同 業界では初のケースだ。
それだけに、他の物 流業者に先駆けて三菱倉庫がこの分野に参入 した意味も大きい。
今後は歯科分野にも、流通再編による近代 化の波が押し寄せると見られている。
旧来の チャネルに加えてカタログ通販という販売形 態も伸びており、流通とともに物流も大きく 変わっていく可能性がある。
それを視野に入 れながら西川マネジャーは、「われわれとして は物流システムの新し いビジネスモデルを構 築して、末端のユーザーにフルラインで供給 するためのお手伝いをしていく」と語る。
一方で、好調に推移する医薬品配送センタ ー事業を取り巻く環境も変化しつつある。
昨 今は大手卸がメーカーの物流業務受託会社を 設立するなど、3PL業者とは別の競合相手 も出てきた。
また川下の領域で医療法人グル ープによる購買の共同化や広域化が進み、調 達方法を見直す動きもある。
「いずれにせよ物流はこれまでより多様化し ていくはずだ。
当社はあくまで、顧客である メーカーの物流政策を担いその利便性を高め ていくという立場から、さまざまなニーズに 対応していきたい」(西川マネジャー) その一例として二〇〇五年四月から同社は、 医薬品配送を委託する協力会社十一社に対 し、インターネット経由で物流業界標準によ る配送依頼情報を提供、これに対して 一部の 運送業者から輸送中のトラブル発生や配送完 了などの情報を返してもらっている。
顧客の ニーズに応えて、ITによる情報システムの インフラを同社が整備したものだ。
他に温度センサーを使った輸送中の温度管 理も一部で実施していく予定だ。
「物流のチャ ネルが多様化すると末端のユーザーまでのト レーサビリティーをいかに確保するかがメー カーにとって重要な課題になる。
それをサポ ートするため」と西川マネジャーは説明する。
医療制度改革などの影響から、医療関連分 野で物流を含めた構造改革が進むことは間違 いない。
そのいくつかの局面で、三菱倉庫が 従 来の物流業にはなかった役割を担う可能性 も充分ある。
(フリージャーナリスト・内田三知代) 三菱倉庫・医薬品チーム の西川浩司マネジャー

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