ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年1号
ケース
日本物流不動産評価機構――ビジネスモデル

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2006 32 物流不動産のプロがいない 埼玉県三郷市、高速道路のインターチェン ジから車で一〇分、敷地面積一万五〇〇〇平 方メートル、延べ床面積二万平方メートルの 三階建て、築一〇年、高床、空調完備――。
例えば、こんな条件を満たしている物流セ ンターがあるとしよう。
あなたは自信を持っ て以下の設問に答えられるだろうか。
この物 流センターを賃貸する場合の一カ月当たりの 賃料は? もしくは購入する場合にはどのく らいの金額を支払うのが妥当なのか? 恐らく、物流センターの立ち上げを何度も 経験してきたベテランの物流マンであっても 回答に窮するのではないだろうか。
無理もな い 。
実は不動産取引のプロであるはずの不動 産会社の社員でさえ、物流センターの賃料や 売買価格の設定には日々、頭を悩ますことが 少なくないという。
オフィスビルやマンションなど数ある不動 産商品の中でも、とりわけ物流センターや倉 庫といった物流不動産は値付けが難しいとさ れている。
理由は簡単だ。
物件を評価する際 には不動産だけでなく、物流に関する高度で 専門的な知識が問われるからだ。
例えば、高床式になっていることや、上層 階までトラックが乗り入れできるランプウェ イ構造を採用していることに、物流センター としてどれだけの付加価値があ るのか。
本来、 不動産会社はそれを弾き出して賃料や売買価 「この倉庫いくらで売れるの?」 第三者が物流施設の価値を算出 2005年8月に日通不動産やイーソー コが中心となって発足した組織。
物 流センターや倉庫といった物流不動 産を鑑定・評価するサービスを提供 する。
オフィスビルやマンションのよ うに、物流不動産が日本のマーケッ トで適正な価格で取引される環境づ くりを目指している。
日本物流不動産評価機構 ――ビジネスモデル 33 JANUARY 2006 格にきちんと反映させなければならない。
と ころが、不動産会社はあくまでも不動産のプ ロであって、物流は門外漢であるため、的確 な判断を下すのに苦労しているという。
不動産業界では、不動産の価値を鑑定・評 価する「不動産鑑定士」という国家資格を有 する?目利き〞たちが活躍している。
不動産 のプロ中のプロである彼らであれば、値付け が難しいとされる物流センターであっても適 正な賃料や売買価格を算出してくれるはずだ。
しかし現実にはそのほとんどがオフィスビル やマンション、商業施設などに軸足を置いて おり、物流不動産を鑑定・評価するためのノ ウハウに乏しいのが実情だ。
その結果、物流 不動産の目利きが存在しな い日本のマーケットでは長らく「地価がこの くらいだから、だいたい賃料はこのくらいだ ろうといった具合に、曖昧な価格設定の下で 物流不動産が取引されてきた」(中堅不動産 会社の社員)という。
昔から広く流通しているオフィスビルやマ ンションは相場が確立されている。
これに対 して、物流不動産は取引価格の透明性に課題が残されたままだった。
それでもこれまで黙 認されてきたのは、日本において物流不動産 は自社で保有、利用するのが一般的で、市場 で取引されるケースがほとんどなかったから にほかならない。
しかし、最近ではこうした物流不動産マー ケットの現状を危惧する声が高まっている。
物流のアウトソーシング化や資産のオフバラ ンス化に乗り出す企業が増加し、それに伴い、 物流不動産が市場で活発に取引されるように なったからだ。
とりわけ危機感を抱いているのは物流不動 産ファンドに投資している機関投資家や一般 投資家たちだ。
彼らもまた不動産会社と同じ ように物流に疎い。
そのため、ファンドが投 資を勧める物件が本当に将来にわたって高い 利回りを確保できるのか。
投資をきちんと回 収していくためにも、対象物件の価値をきち んと見極めてくれる?プロの眼〞が必要 にな っている。
こうしたニーズに応えようと、昨年八月に 発足したのが日本物流不動産評価機構(JA ―LPA)だ。
JA―LPAは、日本通運の子 会社で建物の設計・建築などを請け負う日通 不動産と、インターネットを通じて空き倉庫 物件を仲介しているイーソーコが中心となっ て立ち上げた組織で、物流不動産に特化した 鑑定・評価サービスを提供している。
JA ―LPAの副委員長を務めるイーソー コの河田榮司社長は「貸し手と借り手、売り 手と買い手の間に入って、第三者の立場から 公平・中立に物流不動産の価値を評価する。
賃貸や売買における不透明感をなくして、誰 もが安心して物流不動産をやり取りできる市 場を確立することがわれわれの使命だ」と力 説する。
各分野の専門家が評価 JA―LPAでは物流不動産を?収益性、 ?土地・建物・管理、?マーケット――の三 つの視点から評価する。
?収益性では、対象 物件の賃料の妥当性や利回りを分析するほか、 入居テナントの評価(テナントクレジット) などを行う。
さらに?土地・建物・管理では デューデリジェンス(投資すべきかどうかの 判断材料となる詳細な調査)や法律や安全面 での評価を実施。
?マーケットでは対象物件 の立地性やテナント募集の優位性などを分析 している。
次ページの図1はJA ―LPAが物件を評 価する際に使用するチェックリストの一部を イーソーコの河田榮司社長 日通不動産の塩田研太郎営業 開発課長 紹介したものだ。
それに目を通せば、JA― LPAが対象物件についてかなり細かい部分 にまで踏み込んで調査を行っていることが理 解できるはずだ。
オフィスビルやマンション など一般の不動産商品の評価と共通するチェ ック項目のほかに、「物流立地としての将来 性・安定性」を測ったり、「個人貨物・商業 貨物・大口貨物・小口貨物の需要の有無」を 調査するなど物流不動産特有のチェック項目 を数多く用意している。
このチェック項目づくりで中心的な役割を 果たしたのは、JA ―LPAの事務局長を務 める日通不動産の塩田研太郎営業開発課長 だ。
不動産鑑定士の資格を有し、過去に一〇 〇〇件を超える物流不動産を鑑定・評価した 実績を持つ同氏のノウハウをベースに、JA ―LPAでは独自のチェックリストを完成さ せた。
「例えば、建物であれば、外壁にはどんな 素材を使用しているか、屋根の構造はどうな っているのか、門扉にレールストッパーがあ るのかないのか。
それによって物流不動産の 評価は大きく変わってくる。
しかし、これま で利用されてきた不動産評価のチェックリス トには、こうした物流に関する細かな視点が 抜け落ちてしまっていることが少なくなかっ た」と塩田課長は指摘する。
鑑定・評価の依頼を受けると、JA ―LP Aではこのチェックリストに沿って対象物件 の分析作業に取り掛かるわけだが、ユニーク JANUARY 2006 34 ○○物流センター総合評価 総合評価 ○○ 点 高機能で汎用性のある施設であ り、現テナントが入居している限 り安定的な利益が見込まれ、また 撤去後も‥‥ ■マーケット(立地):○○点  国内調達機能、近距離配送、全国小口配送、 周辺環境に優位性が見られ、家電・食品等の共 同配送、PC等のリサイクル物流、物流加工した 商品の全国配送‥‥ ■土地建物:○○点  土地に関しては、地盤がやや悪い。
前面道路の 交通量が多く、時間帯によっては渋滞が心配さ れる。
建物に関しては、免震構造を導入‥‥ ■収益性:○○点  10年間の定期借家契約であり、安定的な収益 が見込まれる。
管理計画も綿密に立てられてお り、PMで最大の利益が出るように運営‥‥ 5 4 3 2 1 0 利回り 建物 管理 設備 リスク テナント 立地 土地 図2 JA-LPAが提供する評価レポート マーケット 土地・建物・管理 収 益 性 ●物流立地としての将来性・安定性 ●国際調達機能性(空港・港) ●物件としての希少性、競合物件の状況 ●近隣物件の資料推移・賃料相場 ●個人貨物・商業貨物・大口貨物・小口貨物の需要有無 ●労働力確保の容易性・通勤利便性・周辺飲食店の有無 ●用途地域・建蔽率・容積率 ●臨港地区、市街化地区、市街化調整地区、流通業務地区 ●近隣問題の有無、協定書等の有無 ●建築図書・構造図・構造計算書の有無 ●天井高、柱間隔、床荷重、シャッター開口 ●空調、照度、電気容量、ガス設備、IT環境、採光 ●土地・施設の汎用性(業態制限の有無など) ●既存不適格はないか ●管理状況の良否、管理報告書の有無 ●建物の劣化状況、診断 ●甲工事、乙工事の区分の明確化 ●適正資料か(周辺相場との相関性) ●競争力のある資料か(資料と建物特性の関連) ●資料の汎用性(他のテナントの場合の適正賃料) ●業種のトレンド・将来性 ●企業経営の将来性 ●物流関連法規の遵守状況(港湾、倉庫など) ●契約書の確認 一般借家・定期借家など 残存期間 担保状況 ●サブリース契約の状況 ●運営管理費用(管理費、修繕費、保険など) ●改善費用 取得費用などの投資額 ●預かり金の妥当性 ●予想される退去リスクと預かり金との関連 ●鑑定価格と収益還元価格との比較 ●取得にかかわる費用とその妥当性分析 ●ネット利回りの妥当性分析 ●年間経費の妥当性分析 ●運営コストの負担割合(オーナー、テナント)の明確化 ●一般的な管理運営コストからの乖離状況 ●法的、収益性、災害、取引上、開発 土地 建物 管理 資料 テナント評価 契約管理 ランニングコスト 敷金・保証金など 取得コスト 利回り分析 運営コスト リスク 図1 JA-LPAの評価基準項目 35 JANUARY 2006 なのはその作業を複数のメンバーで分担して 処理している点だ。
例えば、建物は建築士に、 テナント分析は信用調査会社といった具合に、 各分野の専門家たちに評価を委ねている。
作 業を担当する評価委員のメンバーには日通不 動産やイーソーコのほかに、銀行、コンサル タント、公認会計士、倉庫会社などが名を連 ねている。
複数の人にそれぞれ役割を与えて一つの最 適解を導き出していく「オープンリソースシ ステム」の発想を取り入れたのはほかでもな い。
「物流不動産は一般の不動産商品に比べ カバーすべき領域が広い 。
一つの物件を一人 で分析するのには限界がある。
調査に時間も 掛かる。
各分野のプロたちに評価を依頼する 手法を採用したのは、専門的知識を寄せ集め ることで、評価の精度を高めるのが狙い」と 河田社長は説明する。
コンサル機能が強み 最終的に依頼者は前ページの図2のような 「評価レポート」を受け取ることができる。
レ ポートでは対象物件の強みやウィークポイン トが「賃料」、「テナント評価」、「利回り分析」 といったカテゴリーごとに五段階のレーダー チャートで表示される。
さらにカテゴリー別 の評価をベースに、?収益性、?土地・建 物・管理、?マーケットについて評価点が付 与されるほか、各分析担当者が「土地に関し ては、地盤がやや悪い‥‥」といった調査結 果に対するコメントを提供してくれる。
JA ―LPAでは単に物流不動産を点数評 価するだけでなく、依頼者のニーズに合わせ た調査にも対応している。
例えば、ある倉庫 会社から「もう少し高い賃料で借りてくれる テナントを探したい」という相談が寄せられ たとしよう。
この場合には既存の倉庫のどの 部分に改良を加えれば、賃料の引き上げが可 能になるのか。
調査結果を基に具体的な改善 策までアドバイスしている。
「点数をつけたり、適正な売買価格がどの くらいなのか。
数字を弾き出すのはそれほど 難しいことではない。
クライアントに対して、 どの部分をど う改善すれば、収益アップが見 込めるようになるのか。
専門家集団を抱えて いるため、そこまで深く踏み込んだかたちで 提案できることがわれわれの強みだ。
評価機 関というよりも、実体はコンサルティング会 社に近いのかもしれない」と塩田課長は説明 する。
JA ―LPAでは物流不動産の鑑定・評価 サービスのほかに、賃料相場のデータベース サービス事業も展開している。
イーソーコが 扱う年間約八〇〇〇件の物件データなどを基 に全国各地の賃料相場がどのように推移して いるのかを集計。
その分析結果を提供するこ とで、取引時の目安にしてもらっている。
昨年九月にサービスを開始して以来、JA ―LPAには鑑定・評価に関する依頼や問い 合わせが各方面から殺到している。
とくに金 融機関からの引き合いが多いという。
担保と して抑えた物件があるが、その物件はいくら で売却するのが妥当なのかを調べてほしい、 といった内容だ。
米国ではすでに物流不動産の七〇%をファ ンド系が所有していると言われている。
これ に対して日本ではファンド系の所有が五%に も満たない。
しかし今後は日本においても資 産のオフバランス化ニーズの高まりを背景に、 物流不動産の所有と使用の分離が進み、 その 比率は徐々に高まっていくことが確実視され ている。
企業が物流不動産を手放す。
その結果、市 場では従来にも増して物流不動産の取引が活 発になるのは必至だ。
その際に適正な取引が 行われるよう市場の番人としての機能を果た すことができるのか。
JA ―LPAには大き な期待が寄せられている。
(刈屋大輔) イーソーコのホームページ JA-LPAではイーソーコなどのデータを基に 全国各地の賃料相場を分析。
その結果を提供 している

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