ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年1号
国際物流
企業連合VS 巨大企業

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2006 64 APモラー(マースクシーランド)による P&ONCLの買収、さらにTUI(ハパグ ロイド)によるCPシップス買収など、海運 業界では大型のM&Aが相次いでいます。
今 回は、M&Aの背景には何があるのか、今後 もM&Aの動きが続いていくのか、そして船 会社はどこに向かおうとしているのかについ て解説します。
海運同盟の崩壊で競争激化 現在、主要定期航路は大手企業およびアラ イアンス(戦略的提携)を締結する複数の企 業グループによる市場の寡占化が進んでいま す。
例えば、太平洋航路では五大グループの 市場占有率がすでに七〇%に達しています。
五大グループとは、CKYHグループ(川崎 汽船、COSCO、陽明海運、韓進海運)、グ ランドアライアンス(日本郵船、ハパグロイ ド、P&ONCL、OOCL、MISC)、T NWA(商船三井、APL、現代商船)の三 つのアライアンスと、マースクシーランド、エ バーグリーン(傘下の英国ハツマリーンとイ タリアのロイドトリエスティーノを含む)の 二社で、市場占有率は順に二二%、一四%、 一三 %、一一%、一〇%となっています。
二〇〇五年八月、マースクシーランドは P&ONCLを買収しました。
それに伴い、 P&ONCLはグランドアライアンスから脱 退することが決まっています。
マースクシー ラ ン ド は こ こ 数 年 、 M&Aによって運航船 舶数を大幅に増やして おり、今回新たにP& ONCLが加わると、この一〇年間で運航規 模を一五倍に拡大させ る計算になります。
二〇〇五年八月には ハパグロイドの親会社 であるTUIが英国や カナダを中心に事業を 展開するCPシップス を買収する、という報 道がありました。
この ように海運業界では M&Aの動きが加速しており、その結果、主 要定期航路は「M&Aで企業規模を拡大させ ている企業」と「アライアンスを構築する企 業グループ」によって市場が占有されつつあ るという状況が生 まれています。
海運市場は常に熾烈な、時として破滅的な 競争が繰り広げられることで知られています。
その要因としては、?参入が比較的容易であ る、?外航定期船市場は季節変動や世界経 済の動向に影響されやすい、?航路別の輸送 力をニーズに合わせてフレキシブルに調整す ることが困難である――などが挙げられます。
定期船ビジネスでは船舶の投入や港湾施設 の整備、あるいは支店・営業所の設置などネ ットワークづくりのために多額の資本が投下 されます。
そのため、輸送需要が落ち込んだ からといって、すぐに当該航路から撤退する ことができません。
需要が低迷すると、各社 は空きスペースを少しでも埋めようと運賃ダ ンピングに走ります。
そして貨物をめぐる競 争は自社もしくはライバルが倒れるまで続き ます。
つまり定期船ビジネスは一般産業とは 異なり、競争原理による生産調整のような自 動調整作用が働きにくい構造なのです。
そこで過当競争を自主的に調整、制限しよ うと「海運同盟」が誕生しました。
海運同盟 とは、船会社同士が協議して運賃水準などを 決定するというルールです。
本来であ れば、 企業連合VS 巨大企業 《第10回》 国際物流の基礎知識 商船三井 森隆行 営業調査室主任研究員 90年代に入って海運会社のM&Aが相次いでいる (注)各種報道を基に商船三井営業調査室が作成 船社・グループ Maersk Sealand Maersk グループ 主な動き ●1993年にMaersk がEAC-Benを買収。
●1998年にSafmarineがCMB Transportを買収。
●1999年にMaersk がSafmarineのコンテナビジネス部門を買収。
●1999年にSea-Landを買収、Maersk-Sealandが誕生。
●2005年にMaersk-SealandがP&ONCLの買収を発表。
Evergreen ●1998年にLloyd Triestinoを買収。
●2002年にHatsu Marineを設立。
P&O Nedlloyd ●1997年にP&O ContainersとNedlloyd Lineが合併、 P&O Nedlloydが誕生。
●1998年にBlue Star Lineを買収。
●2000年にFarrell Lines、Harrison Lineを買収。
Hanjin ●1994年にDSRとSenatorが合併、DSR Senatorが誕 生(2000年にSenator Lineに名称変更。
) ●1997年にHanjinがDSR Senatorの株の大半を取得し傘 下に収める。
APL ●1997年にNOLがAPLを買収、ライナー部門の商号を APLに統一。
CMA CGM ●1998年にCGMがANL(Australia National Line)を 買収。
CP Ships ●1993年にCanada Maritimeを買収。
●1995年にCastを買収。
●1997年にLykes Lines、Contship Containerlineを買収。
●1998年にIvaran Lines、ANZDLを買収。
●1999年にTMM Linesを買収。
●2000年にChristensen Canadian African Line(CCAL)を買収。
●2002年にItalia di Navigazioneを買収。
Hapag-Lloyd ●1997年にコングロマリットPreussag社がHapag- Lloydを買収し株主となる。
※Preussagは2002年7月に名称をTUI AG.に改称。
CSAV ●1999年にLibra、Montemarを買収。
●2000年にNorasia Linesのコンテナ部門を買収。
65 JANUARY 2006 こうした業界の?横の連携〞はカルテルに相 当するわけですが、海運は貿易振興の観点か ら好不況に関係なく一定の輸送サービスが提 供されることが求められるため、独占禁止法 の適用を除外されました。
初の海運同盟は一 八七五年に発足した英国カルカッタ同盟で、 いまから一三〇年前のことです。
定期船市場では長らく、海運同盟の存在に よって過度な競争が抑制され、業界秩序が保 たれてきました。
ところが、一九八〇年代半 ば以降、時代の変化とともに、海運同盟の機 能は徐々に低下し、二一世紀に入ると事実上 崩壊して しまいました。
その結果、定期船市 場は再び激しい生存競争に晒されることにな りました。
アライアンスのデメリット 定期船サービスに対する荷主企業の要望は 年々、高度化しつつあります。
現在、荷主の 多くは在庫削減などを実現するため、「輸送 日数を短縮すること」、「直接寄港を増やすこ と」、「寄港頻度をより多くすること」の三点 を求めています。
そして、こうしたニーズに 応えていくた めには、船会 社はより大型 で、より多く の船舶を投 入することが 不可欠にな るわけですが、それには当然のことながら莫 大な投資を必要とします。
サービスレベルを向上させるにはコストが 掛かります。
しかしその一方で、船会社は競 争力強化のためのコスト合理化にも取り組まなければなりません。
コストを最小限に抑え ながら、サービス水準を高めていくにはどう すればいいのか。
船会社の多くが導き出した 答えは同業他社とアライアンスを締結するこ とでした。
実際、日本の船会社はこれまでア ライアンスを通じて顧客ニーズに応えていく という戦略を打ち出してきました。
もっとも、アライアンスではなく、M&A による事業規模の拡大によってサービスレベ ルの向上を目指す企業も少なく ありません。
その代表格がデンマークのマースクライン (APモラー)と台湾のエバーグリーンです。
マースクラインは一九九三年にEAC ―BE Nライン、一九九九年にはSAFMARIN Eとシーランドを買収し、マースクシーラン ドというブランドで運航を始めました。
さら に二〇〇五年にはP&ONCLの買収を発表 するなど現在では定期船市場で圧倒的なシェ アを握るまでに至っています。
一方、エバーグリーンは一九九八年にイタ リアのロイドトリエスティーノを買収し、二 〇〇二年には英国にハツマリーンを設立。
子 会社で近海輸送が中心のユニグローリーを本 体に吸収するなど単独のグループを形成して います。
アライアンスの場合、航路の運営に関する 様々な意思決定は共同で行うことになります。
つまりアライアンスにはメンバーが多くなれ ばなるほど、意思決定に時間が掛かるといっ たデメリットがあります。
これに対して、M& Aにはそうした手間が発生しません。
経営の スピードを重視する企業はアライアンスより もむしろM&Aによる単独での事業規模拡大 を志向する傾向が強いようです。
海運業界の勢力図 海運同盟の崩壊を受けて、業界秩序は今後 どのように維持されていくのでしょうか。
現 在、定期船ビジネスではアライアンスによる 企業グループもしくはM&Aで巨大化した企 業が市場を支配する体制が形成されつつあり ます。
市場での競争は当面、「企業グループ VS巨大化した企業」という構図で展開されることになりそうです。
これまで海運市場で圧倒的な支配力を持つ プレーヤーが出現しなかったのは海運同盟が きちんと機能していたからにほかなりません。
しかし海運同盟が崩壊した今日、他の産業界 と同様、M&Aを繰り返すことで事業規模を 拡大 し、市場での支配力を高めようという企 業が出てくるのは当然の動きです。
アライアンスが主流になるのか。
それともア ライアンスを捨てM&Aという強攻策を打ち 出す企業が増えていくのか。
海運業界の勢力図 はまだ完成していないと言えるでしょう。
もり・たかゆき 1975年大阪商船三井船舶入社。
97年MOL Distribution GmbH社長、2001年 丸和運輸機関海外事業本部長、2004年1月より現 職。
主な著書は「外航海運概論」(成山堂)、「外航 海運のABC」(成山堂)、「外航海運とコンテナ輸送」 (鳥影社)、「豪華客船を愉しむ」(PHP新書)など。
日本海運経済学会、日本物流学会、ILT(英)等会 員。
青山学院大学、長崎県立大学等非常勤講師、 東京海洋大学海洋工学部講師 太平洋航路のグループ別シェア CKYHグループ 22% TNWA マースク 13% シーランド 11% グランド アライアンス 14% エバーグリーン 10% その他 30%

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