ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年1号
大学院体験記
クラスメートってどんな人たち?

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2006 66 クラスメートってどんな人たち? 日本 米国 同じロジスティクスを学ぶ大学院でも日本と米国では授業の 進め方や集まっている学生たちのバックグラウンドが大きく異 なっているようです。
改めてロジスティクスを学ぶとしたら、読 者の皆さんなら日本と米国のどちらの大学院を選びますか?   (本誌編集部) 子育てしながら通う女性 S> ゆきちゃん、元気? オハイオは寒くなってきたよ。
冬のオハ イオは雪の日が多くて、車を発進させるのに雪かきをする日も 多いんだ。
東京はどう? Y> 元気そうで何より。
アメリカ中西部の冬の寒さと積雪はすご いんだよね。
大学院が始まって最初の2、3カ月は、アメリカ での生活に慣れて自分のペースを掴むのに精一杯だったんじゃ ないかな。
東京も暖冬とはいえ、かなり寒くなってきたよ。
と ころでMBLE(ビジネスロジスティクス工学修士課程)の履修 は順調に進んでいるの? S> そうだね。
MBLEは16カ月(夏学期を除く4学期)で終了す るプログラムなんだけど、最初の学期は全ての基礎になるコー スを履修することになっているから、ほとんどの学生が同じク ラスを取っているの。
だから、一緒にグループプロジェクトを したり、ワーキンググループを作ってお互いにフォローしたり、 みんなで団結して授業を乗り越えようという雰囲気があるんだ。
OSU(オハイオ州立大学)のMBAコースの平均年齢は27歳 らしいけど、MBLEコースの平均年齢もそのくらいかな。
小さ い子供を育てながら通っている人もいたりして、そのモチベー ションの高さには圧倒されるね。
Y> 周りの学生とのつながりも、とても貴重だね。
アメリカでは 学生の年齢に幅があるし、女性が子育てしながら勉強している 姿をみると、とても感化されるよね。
クラスメートたちはどんな経歴を持った人たちなの? 日本 の大学院とは違って世界各国から学生が集まっているというイ メージがあるけど。
第2 回 Sawako Sawako Yuki Yuki MBLEの一学期目の主な授業 1.ロジスティクスマネジメント 入門レベルのロジスティクスクラス。
基本的な概念だけでなく、在庫維持費の 計算方法やEOQ( E c o n o m i c O r d e r Quantity: 経済発注量)などの手法を学ぶ。
企業の倉庫見学ではオペレーションへの 応用を体験する。
MBAとの混合クラス。
使用テキストは“Strategic Logistics Management 4th edition”(James R. Stock & Douglas M. Lambert著)。
次学 期以降のクラスを履修する上での必修科 目。
冬のオハイオは雪の日が多い 67 JANUARY 2006 S> アメリカの軍隊にいた人、輸送オペレーションに従事してい た人、中国国営郵便局でマネジャーをしていた人など、さまざ まな経歴のクラスメートがいるよ。
9人の1期生のうち、中国人がほぼ半分を占めているのを知 ったときは驚いたけどね。
さすが世界の工場と化している中国 だけあって、MBAコースでもインドとともにかなりの割合を占 めているみたい。
MBLEコースには、インドネシアや韓国、ナ イジェリアからの学生もいるよ。
大学での専攻はインダストリアル・エンジニアリング関係、 ビジネス関係(アカウンティング、ロジスティクス、ファイナ ンスなど)の双方からの学生がいるんだけど、共通して必要な のは数理的な基盤みたい。
多摩大学大学院の院生にはどんな業 種の人たちがいるの? Y> 多摩大大学院のCLO(ロジスティクス経営)コースの履修生 の業種は、製造業や物流子会社、商社、海運業、フォワーダー、 キャリア、製造業コンサル、3PLコンサル、物流ソフト会社、IT 関係など多岐にわたっているよ。
平均年齢は37歳で、実務経験 が豊富。
メーカー(荷主)側と物流会社側の両方の視点から 色々な意見を聞くことができて、とてもいい環境だよ。
他にMBAコースとCRO(統合リスクマネジメント)コースが あって、金融や音楽配信といった業界の人たちも受講している の。
そういう全く違った業界の人たちが持つ、ロジスティクス に対する素朴な疑問や視点が、実はとても貴重な切り口だった りして面白いよ。
ディスカッション中心の授業 S> 異なる仕事をしている受講者から学ぶことも多そうだね。
Y> 本当にそのとおり。
さわちゃんのクラスメートは国際色が豊 かなだけに、一人ひとりの経歴と入学動機、卒業後の展望が気 になるね。
今度いろいろ教えてね。
ところで授業はどう? 英語だけでなく、数理的な授業が多 くて大変そうだけど。
S> 最初は先生や学生とコミュニケーションをとるのにも苦労し ていたけど、ようやく慣れてきたよ。
ただし、ディスカッション ベースの授業だから苦戦することも多いね。
それに、アメリカ のクラスはセメスター制かクオーター制だから、学期が始まる とすごい速さで授業が進んでいくの。
ついていくのに必死だよ。
とはいえ、授業の時間よりも準備や宿題、グループプロジェ クトにかける時間のほうが長いんだけどね。
MBAコースとの混 Sawako Yuki Yuki Sawako Sawako 2.サプライチェーンマネジメント サプライチェーンの中で、ビジネスプ ロセスをクロスファンクショナルチーム (部門横断チーム)のもとで行うための体 系、相互関係、評価システムを学ぶクラ ス。
MBA混合クラスで、部門間や組織間 のリレーションシップを重視したディス カッションが行われている。
グループプ ロジェクトでは実際に企業に出向いて、 ビジネスプロセスを評価する。
OSUだけでなく、アメリカのロジステ ィクス教育では大変有名なDr. Lambert と、Dr. Croxtonが教鞭をとる。
使用テキ ストは“Supply Chain Management Processes, Partnerships, Performance 2nd Edition”(Douglas M. Lambert編)。
Dr. Lambertは、ロジスティクス教育に おけるさまざまなテキストの著者。
3.リニアプログラミング エンジニアリングスクールによる工学 系クラスのすべての基礎となるコース。
線形計画がモデル構築にどのように役立 つのか、また最適解がどのように計算さ れるのかを理解することに重点をおく。
シンプレックスメソッドなどを使用し、 コンピュータがはじき出す解答までのプ ロセスとその限界も考察する。
使用テキストは“Linear Programming and Network Flows, Third Edition (Mokhtar S. Bazaraa, John J. Jarvis, Hanif D. Sherali著)。
工学部のORやマニュファクチュアリン グ専攻学生との混合クラス。
4.ロジスティクスソフトウェア&テクノロジー MBLEのために新設されたクラスで、 1つの目玉商品といえる。
ロジスティク ス・サプライチェーンにおいて現在使用 されているソフトウェアについて知識や 理解を深めるクラス。
実際のテクノロジ ーの応用について学び、それぞれが抱え る問題を考察する。
インサイトやレッド プレーリー、マンハッタンアソシエイツ などのソフトウェア会社から担当者を招 いて、Network Optimization(ネット ワーク最適化)、WMS(Warehouse Management System:倉庫管理シス テム)、T M S ( T r a n s p o r t a t i o n Management System:輸送管理シス テム)など5つのソフトウェアを実際に 理解し、その位置づけやマネジメントと の関係を学ぶ。
講師はフォーチュン500の17位に位置 するカーディナルヘルスという企業のナ ショナルロジスティクスセンター、サプ ライチェーンディレクターを務めるAndy Keller氏。
Keller氏はOSUのMBAプログ ラムの卒業生であり、CSCMP(サプラ イチェーン・マネジメント・プロフェッ ショナルズ協会)の活動にも積極的でコ ロンバスにあるラウンドテーブルにもボ ードメンバーとして参加している。
JANUARY 2006 68 合クラスでは社会人学生(パートタイムMBA)と一緒に進める グループプロジェクトもあるんだけど、効率的にプロジェクト を進めていく姿には学ぶところが多いよ。
多摩大学大学院は、 どんなプログラムなの? Y> 多摩大学大学院は2年間のプログラムで、1年が前期と後期 に分かれているよ。
そして最後に集大成として修士論文を書く の。
入学して半年と少しが過ぎたけど、常に修士論文を意識し ているよ。
クラスには、毎週1冊は本を読んでいってプレゼンをするス タイルがあったり、資料を読んで翌週発表するスタイルが多か ったりで、仕事と授業と読書と宿題のやりくりに追われる毎日 だよ。
グループプロジェクトはあまりないな。
羨ましいと思う けど、社会人大学院では難しいのかも。
さわちゃんはどんなクラスを履修しているの? S> 今学期はビジネスのクラスを3つと、エンジニアリングのク ラスを1つで合計4つ。
ロジスティクスマネジメント、サプラ イチェーンマネジメント、リニアプログラミング、ロジスティク スソフトウェア&テクノロジー。
クラスによっては夜10時まで 続くから、集中力を保つのが大変な日もある。
Y> それは大変そうだね。
でも、すごく面白そうな授業のライン ナップ。
さすがにロジスティクス工学だけあって、数理的な背 景でロジスティクスを支えているという印象。
在庫維持費管理 の大切さだけでなく、その計算方法やEOQまで学べるのはすご くいいね。
そのうち講義してくれるのを楽しみにしているよ。
Keller氏(前頁参照)のロジスティクスソフトウェアの体験型 授業も興味深いね。
私が最近大学院で勉強していて思うことは、独自の主張や論 理の裏側にある、学問の裏付けの大切さ。
表のロジスティクス だけでなく、それを裏で支える理論を後期で学ぶのが私の目標 なの。
さわちゃんは、授業を受けてみて感じたことはある? 日本は教科書がほとんどない S > 授業を受けてみて実感したのは、テキストの重要性かな。
大 学院ともなると、個人が持つ経験はさまざま。
自分の経験を述 べる前段階としてテキストを読み込んで消化することで、自分 の位置が俯瞰できるようになると思う。
授業で意見を分かりや すく述べることにもつながるしね。
授業のベースはテキストだけど、スパイスとなる部分(課題 やテスト、レポートなど)は先生によってかなり違う。
独自の サブコースパケットやスライドを使う先生もいるよ。
ゆきちゃんはどんなクラスを履修しているの? Sawako Sawako Yuki Yuki 多摩大学大学院の主な授業 1.ロジスティクス経営管理演習   ソニー顧問 水嶋康雅 教授 使用テキストは、英国クランフィール ド経営大学院のアラン・ハリソンとレム コ・ファンフックの共著“L o g i s t i c s Management and Strategy 2nd edition” の翻訳版「ロジスティクス経営と戦略」。
クランフィールドのM.クリストファー のLean/Agileについての実例を元にした 説明もあり、英語版ともに優れたテキス ト。
クラスはディスカッション形式。
2.ITロジスティクス論  元・花王取締役 イオン特別顧問 松本忠雄 客員教授 独自のスライドを使用。
花王の物流の 仕組みや実例、メーカー側から見たロジ スティクスや経営者の視点で見たロジス ティクスが学べる。
3.企業人のための経済学         UFJ総合研究所理事長 中谷巌 教授 (多摩大学学長) 使用テキストは、先生の著書「痛快! 経済学1・2」等多数。
経済学というツー ルを使い、その歴史や仕組み、日本人の アイデンティティー、そして日本の経済 システムを紐解く。
郵政民営化や選挙結 果、2010年問題等、日本の行方につい て痛快な説明があり、受講生との議論が 繰り広げられる。
グループワークや課題も多いが、経済 学の学問としての素晴らしさと、社会人 としての自分の立ち位置を改めて考える きっかけになる。
4.社会起業家論?/演習  シンクタンク・ソフィアバンク 代表 田坂広志 教授 社会人としての心得、起業家としての 心構え、戦略、そして宇宙論から身近な 生活の話まで、全てのベースとなる人間 力の大切さを説く、多摩大の看板授業の 1つ。
5.経済学と応用リスクマネジメント演習 元国連世界食糧計画企画担当官 宇佐美洋 教授 使用テキストは、米国ノースウェスタ ン大学ケロッグスクールのデイビッド・. ベサンコ、デイビッド・ドラノブ、マー ク・シャンリー共著の“Economics of Strategy 2nd edition”の翻訳版「戦略 の経済学」。
企業の水平統合・垂直統合か らゲーム理論等、経営学のすべての要素 が凝縮されている。
6.ガバナンス・リスク プロティビティジャパン代表取締役社長 神林比洋雄 客員教授 独自のスライドを使用。
企業経営にお いて表裏一体である戦略とその裏側にあ るリスクを考え、リスクマネジメントの 手法を実際のケースワークを通じて学ぶ 授業。
69 JANUARY 2006 Y> 前期はロジスティクスのクラスばかり取っていたけれど、今 期はビジネス3つ、リスク3つ、ロジスティクス2つの計8コ マを取っている。
ちなみに1コマは1時間半。
平日は18時半〜 21時半を隔週も含めて週2、3日、土曜は10時40分〜17時50 分。
かなりぎっしりでしょう? 授業の進め方としては、オリジナルのスライドを使う先生が 多い。
テキストをベースとして進める授業が少ないのは意外だ った。
参考文献とオリジナルの資料、あるいは学生のプレゼン で授業を進める先生が多いの。
第一線で活躍する企業の方が客 員教授として担当するクラスが多いからかな。
日本では、社会 人大学院で使うテキストの基盤が整っていないという問題も影 響しているのかも。
テキストの重要性については、日米比較も含めて今後語るべ きところがたくさんありそうだね。
やはりアメリカで使われて いるテキストは素晴らしいと思うので、いろいろ教えてね。
S > 了解。
随時紹介していくね。
ところでゆきちゃんは今期、ロ ジスティクス以外のクラスもたくさん取っているみたいだね。
Y> 前期のクラスでは、西武百貨店・元取締役の原田保教授のロ ジスティクスをビジネスモデルとして説く斬新な切り口や、サ ントリーロジスティクス取締役会長の橋本忠夫教授の、実体験 に基づく食品工業のサプライチェーン・ロジスティクス・マネ ジメントの全体最適化の手法、そして経営者の視点で考える授 業が印象的だったな。
後期はロジスティクスを外側から見るために経済学や経営学、 リスク管理の授業を取っているよ。
ロジスティクス経営論演習、 サプライチェーンマネジメント、企業人の経済学、社会起業家 論?/演習、経営学と応用リスクマネジメント演習、ガバナン ス・リスク、グローバリゼーション・リスク、比較文化論。
S> バラエティに富んだ授業だね。
また、成功している企業のほ うから現場での応用について講義してもらえるとは、羨ましい 限り。
理論と応用のバランスのとり方は難しいけれど、現場を 知らずしてロジスティクスを語ることはできないしね。
OSUの教授も、なるべく外に出て現場での応用を学生に見せ ようと心がけているのを感じるよ。
(以下、次号に続く) 日本の大学に在学中、米国ワシントン州ゴンザガ 大学、中国北京大学に短期留学。
大学卒業後、日 本通運に入社。
通関士を取得。
米国・サンフラン シスコ支店で1年間研修。
帰国後、メーカー物流 に携わる傍ら、昨年4月、多摩大学大学院経営情 報学研究科修士課程ロジスティクスコースに入学。
小林由季(こばやし・ゆき) オハイオ州立大学マーケティング・ロジスティクス 専攻を卒業後、OTEC, Inc. (米国)、フレームワ ークス(日本)で働いた経験を持つ。
フレームワー クスでは、新工場・倉庫建設プロジェクトにかか わった。
昨年9月、オハイオ州立大学大学院ビジネ スロジスティクス工学修士課程に入学。
岩田佐和子(いわた・さわこ) Sawako Sawako Yuki Yuki 7.グローバリゼーション・リスク? 三菱総合研究所 元常務取締役顧問 林川眞善 教授 NewsweekやEconomics等に掲載さ れた最新の記事をテキストとして使用。
企業のグローバル化に伴うカントリーリ スクやアウトソーシングの問題について 考える。
プレゼンとディスカッション形 式のクラス。
8.比較文化論 日本財団元常務理事 歌川令三 教授 地球上の人々の発想法や行動様式を深 く掘り下げ、異文化紛争の源泉を探る。
そこにある宗教観の違いに着目し、合理 的世界だけでなく非合理の世界に目を向 け、地球化の時代に社会人として知って おくべき教養を身につける。
中曽根元総理の呼びかけで世界平和研 究所創立に参加し、海外経験も豊富な、 人間力のあふれる先生の授業。
多摩大学大学院で使用されているテキスト

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