ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年1号
特集
物流の「見える化」 高末――豊田自動織機と現場力を鍛える

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2006 12 コンサルティングの限界 名古屋に本社を置く老舗の中堅物流会社、高末は 過去に二度、専門コンサルタントを招いてトヨタ生産 方式の導入を試みている。
いずれも改善効果は得られ た。
しかし、それが長続きすることはなかった。
二回 ともコンサルタントが去ってしばらく経つと、現場は 元の状態に戻ってしまった。
もともとトヨタ式は、取 り組みの内容自体に目新しさがあるわけではない。
方 法論を学ぶことよりも、整理整頓や作業のマニュアル 化など、当たり前ともいえることを、徹底し続けると ころに難しさがある。
いかに専門コンサルタントと言 えども、外部の人間による指導には限界があった。
そんな教訓 から高末は、豊田自動織機との事業提 携という一歩踏み込んだ決断をした。
二〇〇三年一 一月に豊田自動織機が六〇%、高末が四〇%という 出資比率でALTロジを設立。
その傘下で高末グル ープ各社が協力会社として現場を運営することで、一 時的に指導を受けるのではなく、日常業務を通じてト ヨタ式を社内に定着させようという狙いだ。
この事業提携によって直接的には高末の売り上げは 減少する。
現在、ALTロジは大手ホームセンターの カーマの流通センター事業を3PLとして受託して い る。
もともとは高末が元請けとして受託していた案件 だ。
それをALTロジに移管したことで、高末は下請 けの立場になった。
ALTロジに対しては改善指導料 も支払っている。
それでも高末の平岩忠社長は「当社の今後の成長 のためには必要な投資だ。
これまで当社は地元の限ら れた相手と競争しているだけだった。
高校野球で言え ば地区予選だ。
しかし今後は全国規模の大企業との 競争が避けられない。
全国大会を戦うには、何より 『現場力』を高める必要がある。
その成果を全ての顧 客に還元して いきたい」という。
その実験場となっているのが、同社の大府流通加工 センターだ。
東海地区にあるカーマの約九〇店舗への 一括物流を担っている。
各ベンダーから入荷した製品 を保管せずにそのまま店舗別に仕分けて出荷する通過 型センター(TC型)としての機能のほか、希望する ベンダーには在庫保管から出荷までを担うDC型機能 を提供している。
二〇〇三年六月、カーマの発注方式が変更になっ たことを受けて、大府物流センターにDC機能を求め るベンダーの数は一五社から三〇社に一気に倍増した。
これに伴い物量も膨れあがった。
庫内には商品が溢れ かえり、現場 は大混乱に陥った。
この混乱を収めるこ とがALTロジの最初の仕事だった。
整理整頓の大きな効果 まずはパート社員のヒアリングから着手した。
高末 の管理職員たちが現場を回り、作業で困っていること や問題に感じていること、さらには職場や職員に対す る不満まで、洗いざらい話してもらうように努めた。
このヒアリングを通して「職員たちは、現場を一番知 っているのはパート社員であり、パート社員の中にこ そ改善策があるということを痛感した」と、江森裕二 大府物流センター長はいう。
パート社員をどう巻き込むかは、改善意識を現場に 定着させる上でも最大の課題だった。
そこでトヨタ式 の導入ステップや優先順位、測定指標などの大枠だけ を職 員たちが指示し、具体的な改善テーマやエリアに ついては、パート社員から意見を募り、パート社員で 構成するチームに判断させることした。
最初のステップは「整理・整頓(2S)」だ。
庫内 高末――豊田自動織機と現場力を鍛える 約1年半の改善活動で出庫処理の生産性は30%向上し、売 り上げに占める作業スタッフの人件費比率は34.4%から27.2% に減少した。
豊田自動織機との合弁会社を設立して、物流セ ンターの現場作業にトヨタ生産方式を導入した成果だ。
(大矢昌浩) 第2部現場の見える化 13 JANUARY 2006 特集 のいたるところに商品や備品が散乱し、作業の非効率 を招いていた。
商品や備品が本来あるべき場所に納め られていない。
区画や表示があっても、剥がれや破れ が放置されたまま。
過去の改善の取り組みは完全に風 化していた。
職員たちはまず、ベンダーに返却すべき 不良品や終売品、使用する予定のない備品などをチェ ックして、それぞれ処分した。
そして改めて商品や備 品の置き場所を設定し、区画を示すラインを目立つよ うに太く引き直した。
その上でパート社員 の改善チームごとにエリアを割 り当てた。
改善チームは受け持ちエリアにおける最適 な備品の置き場所や数量、商品の出荷頻度を考慮し たピッキング棚のフェースの修正、リザーブ置き場の 運用方法、表示や区画の方法などを、作業経験を反 映させて修正していった。
この整理整頓だけで、延べ 床面積当たりの売上高は十二・七%向上した。
二番目のステップは「見える化」だ。
誰がどの時間 帯に何の作業を行うのか。
配置はどうなっているのか。
従来からパソコン上では管理していたが、現場の誰も が見えるように新た に「人員配置板」を作成した。
こ れによって職員の指示待ちでパート社員の手が止まる ことがなくなった。
作業開始までの時間が短縮される と共に、職員の作業指示の負担が大きく軽減した。
作業の進捗も皆が認識するようになった。
そこから 新たな改善のアイデアも生まれた。
例えばピッキング する商品を見つけるのに一〇分以上かかった場合には、 その商品の掲載されたリストを専用のトレーに入れて、 次のリストに移るというルール。
トレーの「穴あきリ スト」をベテランのパート社員が改めて処理すること で、習熟度の低いパート社員の作 業の停滞を防止しよ うという狙いだ。
この「見える化」で出荷作業の生産性(出荷ピース 数/時間)は六一%という大幅な向上を見せた。
ただ し出荷作業はセンター作業全体の約四五%を占める に過ぎず、一方の入荷作業は品質向上を優先したた め生産性としては横這い。
売上高に占める現場社員 の人件費比率(直接人件費率)の低減は二ポイント 足らずと小幅に止まった。
そこで新たにパート社員の一人ひとりに、その日の 時間帯別の活動実績を報告する「作業 明細シート」を 提出させることにした。
その結果、作業が予定よりも 早く終了し、次の指示が出ていない場合には、片づけ や掃除など本来その時間にする必要のない作業や、他 の人を手伝って一人でできる作業を二人でやっている ことなどが分かった。
ホワイトカラーの生産性も改善 この調査結果を受けて第三ステップの「作業の標準 化」に着手することにした。
作業の手順をマニュアル 化し、各作業の処理時間を職員がストップウオッチで計測。
これを「原単位」として人員配置計画を練り 直した。
作業手順はパートの意見を反映して随時改 善する。
それによって原単位を短縮し、再度人員配置 を見直す。
これを繰り返した。
一連の改善によって、 直接人件費比率は取り組み前の三四・四%から二七・ 二%に低減された。
現在、高末はトヨタ式の取り組みを全社的に横展開 することと並行 して、同じアプローチで正社員の職員 の生産性向上を図っている。
職員一人ひとりが、いつ までに何の仕事をやるのか。
いわば職員版の人員配置 板を事務所に張り出した。
「別に周りから何か言われ るわけではなくても、見られているだけで計画通りに 仕事しなくてはという気になる」と、今度は管理され る立場にもなった江森DC所長は苦笑している。
500 400 300 200 100 0 '03 第3 '03 第4 '04 第1 '04 第2 '04 第3 '04 第4 40 30 20 10 0 大府物流センターPCの 出荷生産性と直接人件費比率の推移 出荷生産性(出荷ピース数/時間) 直接人件費比率(%) 出荷生産性 直接人件費比率 第1ステップ 整理整頓 見える化 標準化 第2ステップ 第3ステップ 置き場所を示す線や 棚の区分は目立つよ うにハッキリと。
剥 がれや破損はすぐに 直す。
それだけでも 大きな効果がある。
人員配置や各種の指 標を現場の誰もが目 にする場所に張り出 す。
パート社員にも それを意識するもの が出てくる。
各作業の処理時間を 測定して「原単位」 を設定。
作業手順を 改善するたびに原単 位を修正し、改めて 人員配置を見直す。
江森裕二大府物流 センター長 平岩忠社長

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