ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年6号
進化のゆくえ
しまむらのロジスティクス経営

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2005 56 しまむらの成長の特徴は、売上高の伸び率を、 営業利益の伸び率が上回っている点だ。
周知の ように営業利益は、売上総利益(粗利益)から 販売費および一般管理費(販管費)を差し引い た指標で、本業の利益をあらわす。
その伸び率 が売上高のそれよりも高いということは、売上 総利益率と売上販管費率のいずれか、または両 方が改善していることを意味している。
同社の 利益拡大は利益率の改善がトレンドとなってい るため、質の高い利益拡大と言える。
二〇〇五年二月期のしまむらの単独売上高二 九六〇億円は、「ユニクロ」を展開するファー ストリテイリングの二〇〇四年八月期の単独売 上高三三五八億円に次いで大きい。
「無印良品」 専門店チェーンの世代交代 婦人服チェーン大手、しまむらの二〇〇五年 二月期決算は二桁増益となった( 図1 )。
会社 予想によると二〇〇六年二月期も二桁増益とな る見込みだ。
衣料品部門の極度の不振にあえぐ イオンやイトーヨーカ堂などの総合量販店を尻 目に、しまむらの決算からは余裕すら感じる。
小売業界にあって、同社の力強い成長は異彩 を放っている。
高成長企業というのはしばしば 安定性に欠けるものだが、しまむらは安定性が 光る。
持続する力強い利益拡大は株式市場でも 高く評価されており、投資家の強い信頼を得て いる数少ない小売業である。
プリモ・リサーチ・ジャパン 鈴木孝之 代表  第9回 しまむらのロジスティクス経営日常衣料専門店チェーン大手のしまむらは、ファーストリテイリングと 並ぶ衣料専門店のリーダー企業だ。
一九五九年に埼玉県の呉服屋を母体と してスタートし、現在では投資家から強く信頼される数少ない小売業へと 成長した。
明確なロジスティクス戦略が、その快進撃を支えてきた。
図1 しまむらの業績の推移 単     体02/2 03/2 04/2 05/2 06/2※ 売上高242,176 258,170 275,283 296,085 317,000 前年同期比(%) +10.4 +6.6 +6.6 +7.6 +7.1 営業利益15,876 18,686 20,033 23,388 26,200 前年同期比(%) +30.9 +17.7 +7.2 +16.7 +12.0 経常利益15,813 18,151 19,873 23,705 26,350 前年同期比(%) +40.8 +14.8 +9.5 +19.3 +11.2 純利益7,839 9,404 10,725 12,548 13,800 前年同期比(%) +30.6 +20.0 +14.0 +17.0 +10.0 連     結02/2 03/2 04/2 05/2 06/2※ 売上高253,907 276,212 299,688 325,354 352,700 前年同期比(%) +12.2 +8.8 +8.5 +8.6 +8.4 営業利益15,212 18,119 20,584 23,685 27,750 前年同期比(%) +32.5 +19.1 +13.6 +15.1 +17.2 経常利益14,976 17,588 20,440 24,019 27,980 前年同期比(%) +42.7 +17.4 +16.2 +17.5 +16.5 純利益7,844 8,909 10,755 12,751 15,200 前年同期比(%) +47.3 +13.6 +20.7 +18.6 +19.2 ※2006年2月期は会社予想 (百万円) 57 JUNE 2005 を展開する良品計画の二〇〇五年二月期の単 独売上高一一七六億円と比較すると約二・五 倍の規模だ。
しまむらはファーストリテイリン グと並んで、売上規模と経営の質の両面で衣料 品専門店を代表する企業である。
九〇年代の衣料品業界では、鈴丹、キャビン、 タカキューなど第一世代の専門店が勝ち組企業 として君臨していた。
しかし、ほどなく第一世 代の衣料品専門店のほとんどが経営危機に瀕し、 その座をしまむらやファーストリテイリングな ど第二世代の専門店に明け渡すことになる。
世代交代は衣料品専門店に限った話ではない。
家電専門店、ドラッグストア、ホームセンター など、多くの業界において新興勢力が第一世代 に取って代わった。
このような専門店業界の主 役交代は、単なる勝ち組と負け組みの色分けと いう以上に、経営革新の結果として起こったことを理解しておく必要がある。
古い商習慣を引きずってきた衣料品専門店の 分野では、注目すべき経営革新がとくに数多く 行われた。
メーカー・卸・小売りという伝統的 な機能区分を崩した、新しいビジネスモデルで ある製造小売業(SPA)は、その最たるもの だ。
SPA業態はファーストリテイリングや良 品計画、家具・インテリアのニトリなどによっ て確立された。
これが小売り主導の商品開発の 拡大につながり、いまや小売業全体の動きとな っている。
こうしたなかで、複雑で非効率だった衣料品 サプライチェーンの効率化も進んだ。
情報シス テムと物流システムを一体化したシステム構築 の推進により、需要予測と在庫管理が高度化さ れた。
こうした革新期にしまむらは、返品や発 注商品の未引き取りが当たり前だった衣料品取 引を、完全買い取りに移行。
科学的経営を率先 することで成長を加速した。
強みは低い販管費比率 しまむらの二〇〇五年二月期の営業利益率 (単体ベース)は七・九%で、小売業としては 高いグループに分類されている( 図2 )。
この 連載でも何度か説明したが、本業の利益水準を あらわす営業利益率は、その企業の収益力を示 す重要な指標だ。
図2にリストアップした有力小売りチェーン のなかで営業利益率が高いのは、上からベビー 子供用品の西松屋チェーン、ファーストリテイ リング、良品計画、ニトリ、そして東京都内に 店舗展開しているスーパーマーケットのオオゼ キとなっている。
百貨店、総合量販店、スーパ ーマーケットの営業利益率は専門店と比べると 非常に低い。
ファーストリテイリング、良品計画、ニトリ の三社の営業利益率が高いのは、これらの企業 が粗利を稼げる自社開発商品を販売するSPA だからだ。
実際、三社の売上総利益率(粗利 率)は、他社と比べると際立って高い。
この売 上総利益率の高さがあるからこそ、高い営業利 益率を確保できていることがよくわかる。
では、しまむらはどうか。
西松屋チェーンと 比較すると、しまむらの経営の特徴がよく分かる。
しまむらより西松屋チェーンの方が売上総 利益率は四・八ポイント高いが、この差は営業 利益率の段階では一・七ポイントに縮小してい る。
その理由は、しまむらの販管費比率が西松 屋チェーンと比べて著しく低いためだ。
しまむらの売上総利益率は、衣料品専門店と してはかなり低い。
にもかかわらず、販管費率 も低いために、小売業全体のなかでも上位にラ ンクする営業利益率を確保できるという構造に なっている。
なかでも注目すべき点は、販管費 率が低いスーパーマーケットのなかでも優等生 的な存在であるヨークベニマルよりも、さらに 図2 有力小売りチェーンの経費率・利益率の比較 しまむら28.8 29.4 21.5 7.9 8.0 4.2 西松屋チェーン33.6 ― 24.0 9.6 9.8 5.4 44.5 ― 26.8 17.7 17.9 10.5 良品計画42.7 43.4 34.1 9.4 9.6 5.1 ニトリ50.7 ― 40.2 10.5 10.9 6.4 スギ薬局28.2 ― 23.4 4.8 5.5 3.0 高島屋27.4 28.8 26.5 2.3 2.4 1.0 大丸27.0 27.4 23.8 3.6 3.5 1.9 イオン25.4 30.9 29.9 1.0 1.3 0.7 イトーヨーカ堂27.2 28.4 27.8 0.6 1.9 1.2 ヨークベニマル23.6 26.2 21.9 4.3 4.2 2.3 マルエツ25.8 27.7 26.9 0.8 0.7 ▲6.9 オオゼキ23.6 24.8 17.0 7.8 7.9 4.5 売上総 利益率 営業総 利益率 販管 費率 営業 利益率 経常 利益率 純利 益率 ファーストリテイリング※ 衣料品 専門店 専門店 百貨店 総合 量販店 スーパー マーケット 2005/2 (単位:%) ※2005年2月期中間決算 JUNE 2005 58 しまむらの売上総利益率は衣料品専門店とし ては低いが、これは商品力の弱さをあらわして いるわけではない。
同社が、販管費率の低さを原資とする低価格政策を取っている結果だ。
ラ イバルに比べて販管費率が低いからこそ、余裕 を持って低価格政策をとれる。
営業利益率で帳 尻を合わせればいいからだ。
このように見ていくと、しまむらの競争力の 源泉は、簡単に真似のできない低い販管費率で あることが分かる。
ローコストオペレーション のための効率的なオペレーションシステムこそ が同社の強みだ。
そして、低い販管費率の裏側 にある経営全体のシステムが、同社の利益拡大 を支えているのである。
営業利益率を改善できた理由 売上総利益率と販管費率が、しまむらの営業 利益率の改善に具体的にどう貢献してきたのか を、九六年二月期から直近決算までの九年間の データを通じて見ていくことにする( 図3 )。
ま ず売上総利益率は、この九年間で二・六ポイン ト改善した。
トレンドを見ると一貫して右肩上 がりで推移している。
一方、販管費率は〇・二ポイント低下してい る。
全体としては横這いだが、何度か低下と上 昇を繰り返しており、売上総利益のような分か りやすいトレンドは描いてはいない。
理論的に は、店舗数の右肩上がりの増加による売上拡大 に伴って、いわゆる規模の効果が発生し、売上 総利益率が示すようなトレンド(販管比率の場 低い販管費率を実現していることだ。
一般に、日本の小売業の販管費比率は、欧米 の小売業に比べて高い。
このため売上総利益率 が高くても、販管費率も高いために、営業利益 率の段階に至るまでに大きく目減りしてしまう 構造になっている。
もちろん営業利益率の水準 は業態と扱い商品によっても異なるが、欧米の 小売業は一般に四〜五%台を確保していること から、日本の小売業も五%以上を目安にすべき であろう。
また、販管費率が低いということは、価格競 争力が強いことを意味している。
西松屋チェー ンはしまむらの競合店の一つだが、もし両社が 価格競争を繰り広げることになったら、西松屋 チェーンは大きな影響を受ける可能性が高い。
合は右肩下がり)を描くはずなのに、そうなっ てはいない。
低下のあとの上昇が、なぜ三回もあるのかは、 実は数字を分析しているだけでは分からない。
その理由は、商品センター(物流拠点)の開設 時期から推測することができる。
九八年二月期の上昇は、九八年の大宮商品 センターの移転と、桶川商品センターの稼働が 関係ありそうだ。
また二〇〇一年二月期の上昇 は、二〇〇〇年に稼働した盛岡商品センターと 北九州商品センターの二拠点の稼働に関係があ ると思われる。
二〇〇四年二月期の上昇は、二 〇〇三年に稼働した関ケ原商品センターの稼働 と関係がありそうだ。
新しい商品センターを稼働すると、その会計 年度に原価償却費と新たなオペレーションコス トが発生するため、一時的に販管費率は上昇してしまう。
しかし、出店によって新センターの 稼働率が高まるにつれて、販管費率は再び低下 する。
その繰り返しが上下動を繰り返すトレン ドにあらわれていると解釈できる。
こう考えれば、販管費率にも、理論通りに規 模の効果があらわれていることが分かる。
つま り、商品センターの設置が一巡し、売上規模が 拡大するだけの段階に入れば、販管費率は売上 総利益率と同様の明快なトレンドを描くように なる可能性が高い。
売上総利益率を高めて、販管費率を低下させ たことで、しまむらの営業利益率はこの九年間 で二・九ポイント改善した。
なかでも貢献度が 図3 しまむらの経費率・利益率の推移 (単位:%) 96/2 97/2 98/2 99/2 00/2 01/2 02/2 03/2 04/2 05/2 売上総利益率26.2 26.4 26.9 27.2 27.3 27.3 27.6 28.2 28.4 28.8 営業総利益率26.7 26.8 27.3 27.6 27.7 27.7 28.0 28.6 28.9 29.4 販管費率21.7 21.6 22.4 22.0 21.2 22.2 21.5 21.4 21.7 21.5 営業利益率5.0 5.2 4.9 5.6 6.5 5.5 6.6 7.2 7.3 7.9 経常利益率5.2 4.8 4.4 5.2 6.2 5.1 6.5 7.0 7.2 8.0 純利益率2.9 2.5 2.2 2.6 3.2 2.7 3.2 3.6 3.9 4.2 30.0 29.0 28.0 27.0 26.0 25.0 24.0 23.0 22.0 21.0 0 96/2 97/2 98/2 99/2 00/2 01/2 02/2 03/2 04/2 05/2 売上総利益率・販管費率 (単位 %) : 売上総利益率 販管費率 26.2 28.8 21.7 21.5 59 JUNE 2005 高かったのは、売上総利益率の改善だ。
そして、 しまむらのように販管費率を筋肉質のボクサー のように圧縮している場合は特にそうなのだが、 規模の効果、いわゆるスケールメリットは、販 管費率より売上総利益率の方により大きくあら われることが分かる。
むろん売上総利益率の改善は、スケールメリ ットによってのみもたらされたわけではない。
では、何が売上総利益率を変える要因だったの か。
ここでは「値入率」(※商品の仕入れ前に 見込み数値として粗利率見込みを算出したもの。
いわゆる粗利率はあくまでも実績値)の改善と、 売上総利益率を悪化させる要因である「値下げ 率」、「ロス率」の三つの要素について見ていく ことにする( 図4 )。
入手したデータの関係で二〇〇〇年二月期か ら二〇〇五年二月期までと期間が短くなってい るが、それでも明快な トレンドを読み取るこ とができる。
この五年間で値入率 が三・六ポイント改善 したのに対し、利益率 を引き下げる要因であ る値下げ率も二・一ポ イント上昇し、ロス率 も〇・〇六ポイント上 昇している。
つまりス ケールメリットが発揮 されて安く仕入れるよ うになった反面、値下げとロスも増えた。
それ でも改善幅の方が大きいため、結果として営業 利益率を押し上げる力になっている。
二〇〇五年二月期の値下げ率五・二%というのは、衣料品の一般的な水準である一〇〜二 〇%に比べると低い。
しかし、さすがのしまむ らといえども値下げ率の上昇傾向を抑えられな いところに、衣料品ビジネスの難しさが如実に あらわれている。
分水嶺を超えた販管費率 続いて、店舗数の増加と販管費率の関係を見 ていくことにする。
対象期間は、しまむらが東 証二部に上場した会計年度である八九年二月期 から、二〇〇五年二月期までの一七年間を対象 とする(次ページ 図5 )。
この間の販管費率のトレンドを見ると、前半 の八九年から九八年までの販管費比率は明らか に右肩上がりで推移している。
この九年間で販 管費率は三・一ポイントも上昇した。
この間に 増えた店舗数は約四〇〇店で、九八年二月期末 の店舗数は五〇六店、売上高は約一五〇〇億円 だった。
上場後の最初の九年間に、しまむらは四つの 商品センター(旧大宮、福島、岡山、犬山)を 設置している。
店舗数が三〇〇店に達しない段 階から、積極的に商品センターへの投資を重ね てきた。
新たな地域への進出を含む出店の加速 に、商品センターの稼働によるコスト負担の増 加が重なって、販管費の急上昇につながったと 考えられる。
その販管費率は、九八年二月期にピークアウ トし、それ以降は、すでに見てきた通りデコボ コはあるものの、ゆるやかな右肩下がりの傾向 に変わっている。
九九年二月期から現在に至る七年間の店舗 数の増加は四二〇。
前半の九年間に増加した約 四〇〇店を上回る。
そして、この間には、移転 を含み四カ所の商品センターを新設した。
前半 九年間と同数である。
にもかかわらず、販管費 比率は七年間で〇・九ポイント低下している。
こうした数値の動きから、しまむらの場合、 店舗数五〇〇店、売上高一五〇〇億円が一つ の壁で、これを過ぎると商品センター設置のコ スト増や、出店加速に伴うコスト増を吸収して、 上下動があるとはいえ販管費率は低下トレンド を示すようになったことがわかる。
つまり店舗数五〇〇店、売上高一五〇〇億円までは投資期で、それ以降が収穫期にあたる と考えられる。
従って、過去のしまむらが、もし店舗数五〇 〇店、売上高一五〇〇億円程度しか成長ポテン シャルを見ていなかったとしたら、コストアッ プの段階で、スケールメリットの成果を享受す ることなく苦しんでいただろう。
収穫期に向か って拡大戦略を継続するビジョンと計画を持っ ていたからこそ、現在の同社があるのだ。
マーケットシェア一〇%を目指す しまむらの店舗網は、上場から一七年間で全 図4 値入率・値下げ率・ロス率の推移 00/2 01/2 02/2 03/2 04/2 05/2 A 値入率 31.0 31.0 32.6 33.3 34.0 34.6 B 値下率 3.1 3.2 4.3 4.5 5.0 5.2 C ロス率 0.58 0.49 0.67 0.61 0.64 0.64 27.3 27.3 27.6 28.2 28.4 28.8 売上総利益率 A−(B+C) (単位:%) JUNE 2005 60 利益率の改善が見込める。
実際、政府の発表す る「家計調査」の衣料品購買高に占める同社の 売上高シェアはジリジリと上昇しており、すでに全国平均で四%に達している( 図6 )。
一番シェアが高いのは北陸地方で九・五%。
一方、最もシェアが低い近畿地方は一・七%と なっている。
今後は、近畿地方でも出店によっ てシェアが上昇するのは間違いあるまい。
現在、しまむらのように全国規模のマーケッ トシェアを視野に入れて経営目標を設定してい る小売業は、一握りに過ぎない。
このことから も、徹底的に数字にこだわる同社の先進性を垣 間見ることができる。
七センターからなる自社物流体制 卸に物流を依存する専門店の場合、ときとし て出店があちこちに拡散してしまうことがある。
その点、しまむらの場合は、商品センター(物 流拠点)の設置と出店が一体化している。
基本 戦略は地域のドミナント化で、進出すると決め た地域に集中出店する。
常に同社は、本格的な出店に先立ち、商品の 供給基地である商品センターを開設してきた。
そしてセンター設置にともなうコスト増を短期 間で吸収するために、そのエリアに集中出店し てきた。
現在のしまむらの店舗網は、北海道か ら沖縄まで全国に拡がっており、これらの店舗 に商品を供給する商品センターは今のところ計 七カ所。
他に開設予定が一カ所ある。
他の小売チェーンとしまむらの大きな相違点 都道府県に拡がった。
中心業態である「しまむ ら」の目標店舗数は、これまでの一二〇〇店か ら一五〇〇店に上方修正された。
まだ六〇〇店 の出店余地が残っていることになる。
ローカルマーケットには多数の店舗を配置し ている同社だが、東京や大阪などの大都市の郊 外は手薄だ。
今後は、増加している郊外立地の オープンモール方式の小規模ショッピングセン ターや、既存の商業施設への居抜き出店を行い、 都心部を目指して侵入していく計画だという。
イオンやイトーヨーカ堂にとっては脅威になる はずだ。
このように中心業態の「しまむら」だけとっ ても、今後も出店が続く。
それにつれて店舗網 の密度は高まり、スケールメリットによる営業 は、わずか六店舗の段階で自社物流体制の構築 方針を固め、出店と物流センターの開設を一体 的に進めてきたことだ。
結果として現状では、 全国規模で自社物流体制を持っている日本では 希有な小売業となっている。
しまむらにとって物流センターの設置は、将 来に向けた投資であり出費が先行する。
売上規 模が小さい段階では負担となるが、出店地域の 拡大に合わせた計画的な商品センターの設置と 集中出店によって、比較的短期間でコストを吸 収してきた。
一方で、店舗オペレーションの標 準化を徹底的に追求してきたからこそ、大量の 集中出店が可能だったことも見逃すわけにはい かない。
しまむらの商品センターには、長年にわたり 培ってきたノウハウが凝縮されている。
たとえ ば埼玉県の桶川物流センターは、機械化という意味だけでなく、オペレーション全体が高いレ ベルで自動化されている。
処理スピードが速いばかりか、ローコスト運 営の工夫が随所に施されている。
実際、このセ ンターは、しまむらの社員三人と、あとは二五 人のパート社員だけで運営している。
効率的な 自社物流体制を構築した結果、一ケース当たり のコストは個別宅配便の約四分の一の水準なの だという。
「日本の小売業の近代化・産業化に大きく貢 献した企業はどこか?」という問いに対し、多 くの人々がセブン ―イレブン・ジャパンの名前 を上げる。
たしかにセブンイレブンの功績は偉 89 年2月※ 90 年2月 91 年2月 92 年2月 93 年2月 94 年2月 95 年2月 96 年2月 97 年2月 98 年2月 99 年2月 00 年2月 01 年2月 02 年2月 03 年2月 04 年2月 05 年2月 1200 1000 800 600 400 200 0 23.0 22.0 21.0 20.0 19.0 18.0 17.0 全業態合計店舗数(店) 販管費率(%) ※1988年12月に 東証二部上場 図5 店舗数と販管費率の推移 期末店舗数(店) 販管費率(%) 61 JUNE 2005 大だ。
しかし、あえて筆者は、しまむらをあげ たい。
しまむらは、かつて町中に必ずあった洋品店 を、科学的な経営によって極めて近代的な業態 に変えた。
さらには、その特異性と競争力によ って、スーパーの衣料品部門から売り上げを奪 い、約九兆円と考えられる実用衣料品の市場で 圧倒的なシェアを持つ小売業になりつつある。
知恵を結集した経営の成果である。
かつての町 中の洋品店が、このように様変わりした業態に なるとは誰も予想できなかったに違いない。
しまむらのやっていることは、一見すると簡 単に真似できそうに見えるが、これまでにライ バルと呼べるレベルにまで成長できた企業は一 つもない。
そして、すでに競合店が育つのが極 めて難しいほどの高いレベルに到達している。
ここまでくれば、本格的なライバルが現れる可 能性は低い。
むしろイオンやヨーカ堂のような 総合量販店の売り上げが、しまむらに流出する 一方という、強い企業になった。
なぜ、埼玉県の一介の呉服屋だったしまむら が、ここまで大変身できたのだろうか。
小売業の世界では、いまだに「天気、元気、 やる気」という言葉が表すような体育会系的な 仕事のやり方をしている企業が少なくない。
これを科学的経営によって近代的なビジネスに仕 立てあげたのが、しまむらだった。
どのような小売業も、何かしら精神論的な側 面を持っている。
ところが、しまむらは、「知 恵を出して楽をしよう」という考え方を貫徹し てきた。
その結果が、比類なきシステム構築型 企業としての現在の同社につながった。
徹底し た標準化、専門化、単純化、そしてコンピュー タでバックアップされた仕組み化という考えで のシステム開発を行ってきた。
情報システムも 物流システムも自社開発主義だ。
ロジスティクス経営に学ぶ 特筆すべきは、ロジスティクスを経営上の極 めて重要な機能と認識している点だ。
だからこ そ商品センターの高度化を含む、全国的な物流 体制の構築を経営戦略の中心に位置づけてきた。
このことが他社に真似のできない低い販管費比 率の構造となって結実しており、これが強力な 競争力の源になっている。
しまむらの経営は、明快で分かりやすい。
実 際には難しいことをやっているのだが、誰でも できると錯覚させるような簡潔さがある。
明快 なのは考え方に飛躍がないからだ。
極めて論理 的かつ戦略的な企業といえる。
同社の戦略のユニークな点は、購買頻度の高 い食品とは違って一週間に一回来店してもらう のさえ難しい洋品店の商圏を小商圏と決め、そ の狭いエリアでの寡占化を狙ったところにある。
普通は、購買頻度の低い衣料品の商売だからこ そ、商圏を広くとらなければお客さんが来ない と考える。
ところが、しまむらは、自社の店舗 を小商圏フォーマットとして位置づけて、過去 にない業態の確立に成功した。
非食品小売業が小商圏化すれば、価格競争 力や来店頻度を高めるために品揃えを拡大する ことになる。
これは一方で在庫管理を難しくす る。
この仕組みのなかで、在庫回転率を高め、 いつも新しい商品が店頭に並ぶようにするのは、 極めて難しい作業だ。
だからこそ小商圏フォー マットを確立できれば、圧倒的に強い立場に立 てる。
しまむらは、小商圏フォーマットの業態の確 立に取り組むと同時に、小商圏の寡占化に取り組んできた。
いわば、エリアを点ではなく面で 抑える戦略である。
そのための具体的な指標と して、総務省の家計支出からマーケット規模を 割り出し、五〇〇〇世帯で約一〇億円の衣料 品購入額の三分の一以上、約三・三億円を店 舗の平均年収と設定した。
「しまむら」業態の総店舗数は当初八〇〇店 と想定していたが、現在では一五〇〇店を目標 としている。
ここで重要なことは、八〇〇店に しろ一五〇〇店にしろ最初から全国規模での店 舗展開を視野に入れていた点だ。
八八年に上場 した時点で、すでに日本全国を視野に入れた店 図6  北海道・東北地方 6.3% 関東・甲信越地方 3.7% 北陸地方 9.5% 東海地方 4.3% 近畿地方 1.7% 中国地方 4.2% 四国地方 5.0% 九州地方 3.9% 全国平均 4.0% 家計調査の衣料品購買高に 占めるしまむらのシェア JUNE 2005 62 舗戦略を描いていた。
だからこそ物流センターと自社物流体制の構 築を、拡大戦略の中心に位置づける必要があっ た。
全国展開のためには効率的なオペレーショ ンシステムの構築が不可欠だったことから、シ ステム構築も進んだ。
しまむらの力強い成長からは、扱う商材が何 であれ、論理的・科学的な経営によってピカピ カに輝く素晴らしい小売業が誕生できることを 示している。
同時に、多店舗展開する小売業に とっては、ロジスティクスが、コスト構造改革 のために戦略上極めて重要であることもまた教 えている。
(すずき・たかゆき)東京外国語大学卒業。
一九六八年 西友入社。
店長、シカゴ駐在事務所長などを経て、八九 年バークレーズ証券に入社しアナリストに転身。
九〇年 メリルリンチ証券入社。
小売業界担当アナリストとして 日経アナリストランキングで総合部門第二位が二回、小 売部門第一位が三回と常に上位にランクインし、調査部 のファーストバイスプレデント、シニアアナリストを最 後に二〇〇三年に独立。
現在はプリモ・リサーチ・ジャ パン代表。
著書に『イオングループの大変革』(日本実業 出版社)ほか。
週刊誌などでの執筆多数。

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