ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年1号
特集
物流の「見える化」 三協――マニュアル化で誤出荷ゼロを実現

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2006 14 SCMプロジェクトの誤算 大阪・大東市に本社を置く倉庫会社、三協の東大 阪第一営業所は三洋電機の調達物流センターとして 機能している。
国内外のベンダーから送られてくる電 子部品を荷受け・検品してキット化し、三洋電機の 国内および海外の生産工場に供給するまでの物流業 務を同センターが担当している。
月間一〇万ピース超 の入出庫を処理している。
二〇〇二年七月、三洋電機はSCMプロジェクト の一環として調達物流体制を見直した。
具体的には 部品ベンダーへの発注や、物流センターへの出荷指示 などを管理する情報システムを新たに導入。
従来は紙 ベースが中心 だった部品ベンダーや物流センターとの やり取りを、情報システムによる処理に置き換えるこ とで、業務の効率化を図ろうという試みだった。
しかし、このプロジェクトはなかなか軌道に乗らな かった。
新体制がスタートした日には情報システムに 不具合が発生。
新しいルールに慣れない部品ベンダー からの納品も遅れがちに。
物流センターでは誤出荷な ど作業ミスが目立った。
こうした自社や取引先で相次 いだトラブルの影響で、三洋電機のサプライチェーン は混乱してしまった。
新体制がこのまま続けば、傷口をさらに広げる恐れ がある。
そんな危機感から三洋電機は同年一〇月にい ったんプロジェクトを中断。
業務フローを元に戻すこ とにした。
それによって、連日深夜まで、時には徹夜 での作業に追われていた三協の物流センターは落ち着 きを取り戻し、三洋電機のサプライチェーンも再び正 常に機能するようになった。
万全の準備で臨んだつもりだったが、結果としてS CMプロジェクトは仕切り直しを余儀なくされた。
「三 洋さんと新たにプロジェクトチームを立ち上げて、も う一度情報システムや業務フローの見直しに取り組み、 半年後に新体制による再スタートを目指そうという話 になった」と三協の浜哲也第三事業部マネージャーは 説 明する。
改善活動に先立ち、三協では改めて現場で働く社 員やパートタイマーを対象にヒアリング調査を実施し た。
その結果、現場からは「イレギュラーな業務が発 生した場合の処理方法がわからない」、「ロケーション 表示が小さいためピッキング作業が困難」といった作 業上の問題点を指摘する声が寄せられた。
三協の物流センターでは作業員の経験や勘を前提 にしたオペレーションの仕組みが構築されており、そ れがスピーディーな作業を阻害したり、作業ミスを招 く原因となっていた。
リベンジを誓った二度目のプロ ジェクトでは、入社して間もな い新人の作業員でも高 い生産性を維持できるように、マニュアル化の徹底を 図ることになった。
同時にミスを発生させない「見え る現場」づくりを推進することが大きなテーマとして 掲げられた。
表示は大きくシンプルに まず三協では部品の入出荷を管理する情報システム の改良に乗り出した。
「緊急出荷」のようなイレギュ ラー業務が発生した場合にパソコン画面に表示される アラーム(警告)機能を変更。
単に「エラー」と表示 するのではなく、さらに一歩踏み込んで「作業員は何 を行うべきか」、「どこに連絡すべきか」など、作業員 により細かいメッセージを伝えるようにした。
続いて、荷受けした部品をラックに格納する作業で のミス防止対策として「簡易ロットナンバー」を新た に導入した(写真1)。
従来、作業員はカートンに貼 三協――マニュアル化で誤出荷ゼロを実現 荷主のSCMプロジェクトに合わせて物流センターの業 務フローを刷新したものの、逆に現場は大混乱に陥り、作 業ミスが相次いで発生するようになった。
これを受けて、 「見える現場」づくりに着手。
作業生産性の向上や人件費 削減に成功した。
(刈屋大輔) 第2部現場の見える化 15 JANUARY 2006 特集 付されたラベルに表示されている七桁のロット番号を 目視で確認してから、決められたラックに部品を格納 する必要があった。
ロット番号には類似したものが多 く、それが原因で誤認による格納ミスが発生すること も少なくなかった。
この改善によって作業員の負担は一気に解消した。
作業員は七桁のロット番号と紐付けされた、平仮名や カタカナ一文字の「簡易ロットナンバー」のみを確認 すればいい。
ラベルとラックの七桁のロット番号をわ ざわざ照合する必要がない。
「簡易ロットナンバー」を 活用した作業に切り替えて以降、物流センターでは格 納ミス が発生していないという。
パレット単位で出荷される部品には、ケース単位で 貼付するラベルのほかに「大看板」と呼ぶA4サイズ の大型ラベル(シート)を貼付するようにした(写真 2)。
ロット番号や部品コード番号、数量や入荷日な どの情報を大きく表示し、さらに中国、韓国、ベトナ ム、インドネシアといった仕向け地別にシートを色分 けすることで、出荷ミスを防ぐのが狙いだ。
改善前は カートンに貼付された小さいラベルの情報をチェック していたため、誤読が多かった。
出荷作業をスピーディーに処理するための工夫も凝 らした。
ピッキングすべきパレット出荷品がどこにあ るのかを知らせる「三角フラ グ」もそのうちの一つだ (写真3)。
従来、パレット出荷品をピッキングする作 業員はいったんフォークリフトから降りてラベルを確 認する必要があったが、あらかじめ出荷担当者がピッ キング対象となるパレットに「三角フラグ」を差し込 んでおくルールに改めたことで、荷揃えまでの作業時 間を大幅に短縮している。
こうして「見える現場」づくりを実践したことで、 物流センターのオペレーションの仕組みはガラリと変 わった。
そこで三協では改善活動と並行して、作業の フローチャートやイレギュラー業務への対応方法など をまとめた作業マニュアルを作成し、物流センターの 各所に配置した。
作業員は処理方法に悩んだ際に、い つでもこのマニュアルを閲覧できる。
「 作業マニュアルはイラストや写真を多用して見や すいデザインにした。
このほかにも冊子として綴じる かたちではなく、パラパラとめくることができる仕掛 け(写真4)を用意するなど随所に工夫を凝らした」 と浜マネージャーは説明する。
作業処理量が六〇%アップ 一連の取り組みを通じて、三協では目覚ましい成果 を上げている。
物流センターでは一時間当たりの処理 ケース数が二〇〇二年の新システム導入当初に比べ 六〇%増加。
さらに人件費の三〇%削減にも成功し た。
作業ミスの発生が大幅に減り、現場は誤出荷ゼロ でのオペレーションを続けている。
三洋電機からも高い評価を得ている。
現在、三協では大東市および東大阪市に計七カ所 の物流センターを用意。
部品物流のほかに、家電製品 の組立やギフト商品の流通加工といったサービスを提 供している。
今後は「 東大阪第一営業所での改善活 動を他の物流センターに横展開していくつもりだ。
物 流の『現場力』を武器に事業拡大を目指していきた い」と水澤成晃取締役は意気込んでいる。
物流現場に山積する課題は高価な情報システムや マテハン機器の導入で解決できるものではない。
肝心 なのは物流現場で働くスタッフ一人ひとりの能力を高 めることだ。
地に足のついた物流、すなわち「地に足 物流」こそが荷主企業の求める真の物流ソリューショ ンであると、三協では確信している。
写真1 仕分けミス対策で導入し た「簡易ロットナンバー」 水澤成晃取締役 写真2 部品コードや数量などの 情報が一目でわかる「大看板」 写真4 「見やす く」「わかりやす く」「使いやすく」 をコンセプトに作 成した作業マニュ アル 写真3 ピッキ ングすべきパレ ットをフォーク マンに知らせる 「三角フラグ」 浜哲也マネージャー

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