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JANUARY 2006 16
紙ベースでは間に合わない
「まったくお恥ずかしい話だが、昔はこれ(コース
表)を全部コピーして、エリア別に封筒に入れて、と
いう作業を大の大人が五人がかりでやっていた」とフ
ァミリーマートの君嶋和行DCM推進室長代行(兼)
物流品質管理本部
物流部
業務グループマネジャーは
苦笑いで当時の状況を説明する。
ファミリーマートは年間で四〇〇〜五〇〇軒の新
規出店と三〇〇〜四〇〇軒の閉店を繰り返しながら
店舗数を伸ばしている。 二〇〇五年十一月末現在の
店舗数は六一三五店(本部が直接管理しないエリア
フランチャイズを除く)。 従来はこれらの店舗変更に
伴う配送コース変更をすべて紙ベースで処理
していた。
開発本部が店舗計画の資料を毎週、物流部に送付
する。 物流部は物流子会社を通じて、それを全国の物
流センターに配布。 各物流センターをあずかる協力運
送会社は資料に基づいて月に一回の頻度で配送コー
スを組み直す。 店舗ごとの配送条件などはスーパーバ
イザーと呼ばれる店舗指導員が間に立って本社側と調
整する。 こうした一連のプロセスに時間がかかり、ム
ダやトラブルを招く原因になっていた。
その一つが、連絡の遅延や見落としによる配車もれ
だ。 コース確定後の変更はできないため、翌月
にコー
スを組み直すまで、配車もれした新店舗用に特別車両
を仕立てることになる。 一店舗当たり月に四〇〜五〇
万円、遠隔地では七〇〜八〇万円かかる。
また、新店舗を通常のコースに組み入れれば当然、
他の店舗の納品時間は変更になる。 既存店からの不
満やクレームを避けるために、協力運送会社は新店舗
をコースの最後に回す傾向があった。 合理的でないコ
ース取りになることもしばしばだったが、物流部では
各地の協力運送会社が組んだコース表を見るだけでは
そのムダを指摘できなかった。
ファミリーマートは二〇〇一年に原材料調達から商
品供給までのビジネスプロセス再構築を目
指す大規模
な改革プロジェクトに着手した。 店舗配送を効率化す
るための情報基盤の整備も、そこに組み入れられた。
「情報のビジビリティ(可視性)を高めることで、関
係者間の正確かつ素早い事務処理を目指した」と君
嶋マネジャーはいう。
システムの導入は、二段階で進めた。 第一フェーズ
はウェブを活用した情報共有だ。 各地の協力運送会
社が作成した配送コースをウェブ上でいつでも確認で
きる仕組みを構築した。 ウェブに接続してIDとパス
ワードを入力するとメニュー画面が立ち上がる。 そこ
から「配送コース表」を選択
し、検索したいコースの
条件を指定すると店着予定時間と前回(前月など)時
間、その差異が表示される。 これによって紙ベースの
煩雑な連絡作業が姿を消した。 地図情報機能も備えている。 従来のコース表には地
図が付いていなかったため、コース取りを把握するの
が容易ではなかった。 新システムでは、コースごとの
担当店舗と配送順序が地図上に点と線で示されるた
め、ムダが一発で見抜ける。 しかも近隣コースを同一
地図上に表示できるので、手間のかかった各物流セン
ターの担当エリアの調整も容易になった。
メニュー画面の「納品
店着予定表」では、店舗への
納入予定時間が同コースの他店とともに表示される。
各店舗には一日に約七・七便が納品に向かう。 各便
の納品時間が接近している場合には画面上に警告マ
ークが表示される。 これによって店舗の荷受け作業が
スムーズになった。 また、店舗では次の納品時間まで
に何が何個売れるかを予測して補充発注を行うが、店
ファミリーマート
――ITを活用して店舗配送を可視化
店舗配送ルートの変更を紙ベースで処理していた。 そ
れが配車もれなどのトラブルやムダなコストを招いていた。
各地の配送ルートをウェブ上で見られる仕組みを構築し
た。 シミュレーション機能も備えている。 大幅なコスト削
減を実現することができた。 (森泉友恵)
第3部輸送の見える化
17 JANUARY 2006
特集
着予定時間の精度が向上して遅配が減ったことで、店
舗の発注精度も向上した。
店着時間は従来から予定時刻のプラスマイナス一
五分以内を原則としてきた。 しかしこれまでは店着時
間実績を管理していなかったため、大雪や台風で大幅
な遅配が生じた場合に店舗への補償金額算定が難し
かった。 新システムでは、納品時の検収データが同時
に店着時間実績データとして取り込まれる。 データは
一日一回バッチ処理され、翌朝には全国全便の店着
時間が検索できる。
さらに「店舗カルテ機能」では、各店舗の駐車場所
と店内荷下ろし場所の見
取り図が把握できる。 これま
では各配送コースを担当するドライバーが後任のドラ
イバーに引き継ぐ形で管理していたが、人手に頼って
いたためミスや混乱を招くことが少なくなかった。 新
たな仕組みを作ったことで、そうしたトラブルが激減
した。
地図上でシミュレーション
第二フェーズの狙いは、シミュレーションによるネ
ットワークの最適化だ。 店舗の分布や物流センターの
立地によって物流コストが変わることは、感覚的には
誰もがわかっていた。 しかし感覚的にわかるだけでは
具体策は練れない。 それをパソコン上で簡単にシミュ
レーションできるようにした。 各エリアの店舗分布と
物流コストの関係を数値で把握できる。 どの地域にあ
と何店舗出店すべきかの戦略をデータに基づいて立て
られるようになった。
配送コースのシミュレーション機能も備えている。
「本来なら一〇コースで済むところを十二コースで回
っている場合には、二コース分のコストダウンができ
る。 余分な二コースは、店のわがままや運送会社の都
合
によるものであるはずだ。 だが、荷量や走行距離、
交通事情などの状況が地域によって全く異なるため、
その地域に何台が妥当なのかが今までは全然わからな
かった」と君嶋マネジャー。
店舗のスクラップ&ビルドを地図上に指定して、配
送コースを描くと、積載効率や走行距離、走行時間、
配送コスト、想定待機時間までが算出される。 ドライ
バーの待機時間が長い場合には、該当する店舗の納
品時間を変更するなどの工夫ができる。
コース案の比較検討が容易になり、使用台数の合
理性をデータで示せるようになった。 「協力運送会社
とのコース削減交渉は料金が絡
むので難しい面はある
が、お互いの納得できるところを見出す上でデータは
重要な役割を果たす。 何より色々なことが見えるよう
になったことで、仕事が格段にやりやすくなった」と
君嶋マネジャーはその効果を語る。
実際、新システムは大きなコスト削減効果を生んで
いる。 配送コースの削減で年間数億円、本部とスーパーバイザーのコース管理業務の軽減で年間数千万円、
物流部企画業務の効率化で約一千万円、センター内
コース管理作成業務の効率化と精度向上でセンター
当たり約百万円が削減された。 紙コピーの使用枚数は
月間約五〇〇〇枚減った。
現在、このシミュレーション機能
は関東の一五カ所
の定温物流センターで導入されている。 今後は関西へ
の導入も予定している。 将来的にはアジア地域への活
用拡大、調達物流への利用拡大なども視野に入れて
いる。 ただし当面は、一部の協力運送会社が導入して
いるリアルタイム運行管理との連動も含め、機能の拡
充を検討する。 君嶋マネジャーは「どんな機能があれ
ば、どのような効果が得られるのかを見極めながら機
能の最適化を目指す」と意欲を見せている。
出店戦略
情報の時差が認識のずれを招いていた
開店決定 社内案内 物流部確認
管理会社
確認
物流センター
コース
検討
コース
完成
●開店日
●開店日変更
●店番変更
●店名変更…など
●メール
●eメール
● FAX
●メール
●eメール
● FAX
案内
確定
配車
もれ?
情報が遅れていく
センター
確認
10
5
0
9.65
1999 2000 2001 2002 2003 2004
(台)
8.60
8.58
7.86 7.72 7.72
1 店舗1 日あたりの配送車両台数が
減ってきた
ファミリーマートの君
嶋和行DCM推進室長
代行(兼)物流品質管
理本部物流部業務グ
ループマネジャー
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