ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年1号
特集
物流の「見える化」 「ビジビリティは統合を可能にする」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2006 26 商品化計画とロジスティクス部門 ――今日のグローバル企業におけるロジスティクスの 課題は何でしょう? 「第一の問題は、たくさんのサプライチェーンが複 雑に絡み合っていることだ。
製品のライフサイクルは 今日どんどん短くなっている。
製品のライフサイクル が短くなるほど、サプライチェーンは複雑になる。
し かも技術開発のスピードが向上するのと歩調を合わせ て、消費者のニーズも目まぐるしく変化するようにな っている。
ところが例えば中国で生産した製品を消費 地の店頭に並べるまでには何カ月もかかっている」 「サプライチェーンのコスト構造も複雑化している。
原油は急騰している。
高い原油がサプライチェーンに 与える影響をどのように抑える のか。
輸配送をどのよ うに最適化するか。
コストの非常に大きな割合を占め る人件費を、サプライチェーンにおいてどのように最 適化するか。
世界各地の物流拠点をどう管理するのか。
さらには各国政府の規制問題など、複雑に絡み合った 課題を統合して管理しなければならない」 ――そのためにどうすればいいのでしょうか。
「グローバルサプライチェーンを統合するにはビジビ リティ(可視性)が重要だ。
製品や部品がサプライチ ェーンのどの地点にあるのかを知ることで、顧客のニ ーズによりよく応えることができる。
以前はサプライ ヤーが自分の隣にいた。
何か変更が必要になっても、 サプライヤーのドアを叩いて直接頼めばよかった。
し かし今や製造 は何千マイルも離れたところで行われて いる。
それでも顧客の要望には素早く対応できなけれ ばならない。
そのために高度で迅速なサプライチェー ンが求められている」 ――「統合」とは具体的に何ですか。
「例えば中国で生産した製品があったとしよう。
そ の製品を東京に向けて船積みする。
それを港で陸揚げ して倉庫に移動する。
さらに倉庫から店頭に運ぶ。
こ れら一連のプロセスが、ほんの五年前までは分断され たままだった。
これに対して、製品がサプライチェー ンのどの段階にあるのかを把握することで、しかるべ き製品をしかるべきタイミングで市場に供給し、 その コストを低減させることができるようになる。
つまり 最適化できる。
それが我々の言うところの統合された サプライチェーンだ」 ――統合の最大の目的は? 「目的は基本的に三つある。
在庫削減とオペレーシ ョンコストの削減。
そして在庫の最適な配置だ。
つま り、しかるべき製品を店頭に並べて、販売機会の損失 を抑えることだ」 ――そうした在庫についての決定権を欧米企業では一 般にどの部署が持っているのでしょうか。
「マーチャンダイジング(商品化計画)部門だ。
ロ ジスティクス部門は基本的に物を動かす部分を担当し ている。
在庫をどれだけ持つか ということに関しては、 ロジスティクス部門ではなく最終的な責任はマーチャ ンダイジング部門にあるケースが多い」 ――マーチャンダイジング部門というのは日本企業に はあまり馴染みがありません。
どのような役割を持っ た組織なのでしょう。
「マーチャンダイジング部門はビジネスプランを担 当する。
財務計画で設定された目標を実現するための 具体的な事業活動を管理する部門だ。
需要に基づい て供給の計画を立てる。
そのためロジスティクスチー ムは常にマーチャンダイジングチームと連携して仕事 をする必要がある」 ――可視化を実現するツールとして最近ではICタグ 「ビジビリティは統合を可能にする」 米マンハッタン・アソシエイツピーター・シニシガリCEO グローバルに拡大し、しかも複雑化したサプライチェー ンを最適化するには、全体の動きを見ることのできる可視 化の仕組みが必要だ。
ICタグがその有効なツールとなる。
ただし、現状を見る限りICタグの実用化は3年〜5年先の ことになりそうだ。
(聞き手・大矢昌浩) Interview 27 JANUARY 2006 特集 が注目を集めています。
「先日、ウォルマートのCIOのリンダ・デルマン 氏がICタグの導入効果を発表していた。
それによる とICタグの活用によって、店頭の欠品が一六%改 善されたという。
一般に米国では店頭の欠品率が五% 程度だと言われている。
それが大きく改善されたとい うことは大変重要な意味を持っている」 ICタグが不要な情報を氾濫させる ――しかし現状ではメリットを享受しているのはウォ ルマートだけです。
ベンダー側にはコストアップでし かない。
普及も当初想定されたより、かなり遅れるの ではないでしょうか。
「当社のRFIDパッケージを導入した会社数は既 に六〇社に上っている。
しかし、それでシェアが三 〇%だという。
ということは米国全体でもICタグを 使っているのは、まだ二〇〇社足らずに過ぎないこと になる。
それもウォルマートに納品するために設備を 導入したが、ウォルマート以外には使っていないとい うのが現状のようだ」 「私の正直な意見を述べよう。
遅れてはいない。
期 待が強すぎたのだと思う。
ICタグを取り巻く熱狂は 尋常ではなかった。
過去を振り返 っても他の新しいテ クノロジーの採用でも普及するまでには、ある程度の 時間がかかっている。
ICタグが実用化されるまでに は今後三年から五年程度はかかるだろう」 「だが、はっきりしているのは、課題はいずれ解決 されるということだ。
ICタグがサプライチェーンを 管理する上で重要なツールになることは間違いない。
そして、その効果は現場に還元される。
製品にICタ グが貼付されれば、いつでも自由に製品を追跡できる ようになる」 ――物流情報システムは大きな影響を受けます。
「もちろんだ。
流通センターの荷受け場を思い浮か べてほしい。
あなたはリーダーを手に取って、バーコ ードをスキャンする。
それはバーコードにどんなデー タが記録されているのかを知りた いからだ。
そしてリ クエストしたデータだけを、あなたは入手する。
とこ ろがICタグの世界では、無数にあるタグのすべてが、 自分が誰であり何であるかを勝手に語りかけてくる。
たとえあなたが知りたくないことであってもだ」 「つまり従来のシステムは必要なデータだけをとる ように設計されている。
ところがICタグが普及する ことで、必要のないデータまでがシステムに入り込ん でくる。
そこで新たにデータをフィルタリングして分 析する知能をシステムに組み込む必要が出てくる。
デ ータの扱い方がまったく違ってくる」 ――それは従来のWMS(倉庫管理システム)を超え た領域の話になります。
「その通りだ。
もともと当社はウォルマート仕様のバーコードを使っ て庫内オペレーションを管理するた めのソフトウエアを開発することからビジネスをスタ ートした。
庫内の処理スピードの向上やオペレーショ ンコストの削減がテーマだった。
その後、輸配送管理 の分野に領域を拡大した。
倉庫の外に出たわけだ」 「さらに九〇年代後半からはメーカーからの依頼で、 企業間にまたがるサプライチェーンのプロセスまで管 理することになった。
複数の拠点をまとめて管理した いというニーズも増えてきた。
二〇〇〇年頃になると 今度は米国の拠点で行っているオペレーションを、そ のまま欧州やアジアでもやりたいというニーズが出て きた。
こうしたニーズに合わせて当社は業務領域を拡 大してきた。
当社の売り上げのうち、WMSパッケー ジの占める割合 は今や四〇%に過ぎない」 250 200 150 100 50 0 米マンハッタン・アソシエイツの 売上高と純利益の推移 単位:百万ドル 30 25 20 15 10 5 0 売上高 純利益 売上高 純利益 2000 2001 2002 2003 2004 PROFILE Pete Sinisgalli 1978年、コーネル大学卒。
82年、同大 MBA取得。
米ダン&ブラッドストリー 社エグゼクティブバイスプレジデント、 米チェックフリー社(NASDAQ:CKFR) 社長兼COO、ニューローズ社CEOなど を経て、2004年3月に社長兼COOとし てマンハッタンアソシエイツに入社。
同年6月社長兼CEOに就任。
現在に至る。

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