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JUNE 2005 46
コンテナが業績回復の牽引役
川崎汽船の特徴の一つは、商船三井や日
本郵船に比べコンテナ事業への依存度の高い
点である。 二〇〇五年三月期実績の海運業
売上構成比を見ると、コンテナ船事業が五
三%と、他社の四〇%程度を上回っている。
基本的にコンテナ事業は荷主と単年度契
約を交わすため、収益のボラティリティが相
対的に高い事業分野とされる。 わずか数年前
には、低採算に泣いたコンテナ船事業ではあ
るが、足元では需給逼迫を背景に運賃水準
は大幅に上昇しており、業績回復の牽引役と
なっている。 実際、主力の海運セグメントの
営業利益は、営業赤字に転落した二〇〇一
年度下期を底に、二〇〇四年度には九七八
億円を稼ぐに至っている。
同社に限らず、これまでの邦船社の歴史は、
経営効率化の歴史でもあった。 八五年のプラ
ザ合意や八〇年代後半以降のアジア系海運
企業の台頭、といった経営環境の変化に対し、
労務面では単体人員の削減と外国人船員の
積極活用、不経済船の入れ替えと船隊大型
化による輸送コスト削減、などのコスト構造
改革に経営の主眼を置いてきた。
加えて、業界内での競争力強化を進めると
ともに、一定水準の期間損益を計上できるよ
うになったこともあって、船隊整備の強化を
図った。 特に、コンテナ新造船の建造が中国
発コンテナ貨物の増大タイミングとマッチし
たことは収益改善のポイントであったと考え
ている。
こうした収益水準の改善を反映し、川崎汽
船は二〇〇四年四月より新たな経営計画「KLine
Vision 2008
」をスタートさせている。 二
〇〇八年度を最終年度とし、持続的成長と安
定収益体制の確立をテーマとしている点が特
徴である。 規模拡大、利益重視、安定配当継
続をテーマとした「New
K
―
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」(九八〜二
〇〇一年度)、企業体質強化、コンテナ船事
業の業績回復をテーマとした「KV―PLA
N」(二〇〇二〜二〇〇三年度)と比べて一段
高いステージに入ったといってもいいだろう。
同時に発表された二〇〇四〜二〇〇八年
度の五年間累計新規投入船隊は一八一隻、船
価総額で七三〇〇億円(うち自社仕組船四三〇〇億円)にのぼる投資が予定されている。
これによって、二〇〇四年三月末時点の運
航規模三六一隻を、二〇〇九年三月末に一
〇〇隻増加の四六一隻とすることが示された
(内訳は、コンテナ船事業で六隻増の七〇隻、
不定期船事業で二四隻増の一四九隻、自動
車船事業で一五隻増の八五隻、エネルギー
資源輸送事業で四七隻増の一〇二隻など)。
今回の新造計画においては、主力のコンテ
ナ船事業でも船腹大型化によるメリットが期
待される。 さらに非コンテナ部門の船隊拡充
も予定されている。 中でも、LNGや電力炭
に代表されるエネルギー資源輸送部門の強化
が顕著である。 これらの部門は荷主との長期
第13回
川崎汽船
中国を中心とした国際輸送需要拡大の恩恵を受けて、川崎汽
船の業績は堅調に推移している。 五月中旬に発表した二〇〇四
年度決算では、中期経営計画で掲げた最終年度(二〇〇八年度)
の収益目標値を前倒しで達成した。 海運市況は二〇〇四年度を
ピークに軟化局面に入っているものの、緩やかな調整が続くと
見られており、当面、同社も好業績をキープできそうだ。
一柳創
大和総研
企業調査第一部アナリスト
47 JUNE 2005
契約を基本としており、安定収益源となり得
る部門であるため、収益基盤の強化に貢献し
よう。
船価に関しては、船型による格差はあるも
のの、船隊整備需要の盛り上がりや鋼板価
格の上昇などを背景に、足元の建造コストは
大幅に上昇、今後についても造船所のキャパ
シティ問題から、建造コスト自体が高止まり
する可能性が高いと考えている。 傭船コスト
上昇の一方で、既保有船隊の価値・競争力
向上につながる話であり、船価上昇局面に先
駆けて新造発注が行われたと見られることは
プラス要因である。 船型の大型化、営業規模
拡充、継続的な合理化、といった効果と併せ
て、船隊ポートフォリオの競争力は高い水準
を維持できるのではないかと考えている。
数値目標を前倒
しで達成
計画発表時点の二〇
〇八年度目標は、売上
高六八〇〇億円(二〇
〇三年度実績は五八五
〇億円)、経常利益六八
〇億円(同四九七億円)、
当期利益四二〇億円
(同二四五億円)であっ
た。 財務面では、株主資
本三四〇〇億円(同一
二一〇億円)、株主資本
比率で四三%(同二
一・六%)が掲げられた。
しかしながら、需給関係の好転により、計
画策定時の想定を上回る市況推移となった
ことから、初年度から最終年度の目標値を超
過達成することとなった。 二〇〇四年度実績
は経常利益で一〇七二億円となるなどフロー
面での目標を達成。 財務面での目標に対して
も、進捗が確認されており、今後、数値目標
の見直しも行われることになろう。
先々の海運市況を占うことは難しいが、海
運業界を取り巻く需給環境に関しては、ある
程度タイトな状況が続くのではないかと考え
ている。 需要サイドから見れば、中国を起因
とする輸送需要拡大のほか、世界景気の回
復、国際的な水平分業・適地生産の流れ、資
源エネルギー分野での調達ソースの遠隔化、
といった要因から、荷動きの拡大基調は維持
されることとなろう。
一方の供給サイドでも、日韓をはじめとし
た世界の主要造船所で今後数年分の手持ち
工事を有していること、また、港湾・陸上イ
ンフラのキャパシティ不足による港での滞船、
といった状況が急速に改善することも想定し
難い。 船価とのバランスを考慮すれば、二〇
〇四年度をピークに海運市況は軟化局面を
迎えつつあるとの認識だが、前述の構造要因
により、緩やかな調整にとどまるものと判断
している。
他方、燃料費の高騰、港湾・陸上インフ
ラのキャパシティ不足、といったコストプッ
シュファクターは懸念材料として残るが、同
社が目指す方向性自体に大幅な変更はない
だろう。 収益変動の大きいコンテナ船事業を
はじめとした海運市況の変動リスクに対し、
積極的な船隊整備とそれに伴う安定収益源
の積み上げ、合理化努力によって、収益基盤
強化を図るという基本的な枠組みは変わらな
いと考える。
株価水準は二〇〇二年夏ごろの一〇〇円
台半ばから、一時のピークの八〇〇円弱を経
て、現在は六五〇円程度での推移となってお
り、海運産業の持つシクリカル性を反映して
いる可能性が指摘できよう。 その意味では、
創立九〇周年となる二〇〇九年度に向けた
今後数年は、市況の緩やかな調整や船価水
準の上昇といった外部要因の変化に対する経
営の舵取りが重要になると考えている。
市況変動リスクに対しては、主力のコンテ
ナ船事業のほかにも、幅広浅喫水型という特
徴のある石炭船コロナシリーズの展開、ガス
輸送分野でのCNG船に代表される新技術
への対応、アフラマックスタイプを中心とし
た近海原油輸送など、独自分野での展開も
計画されている。 これまでの船隊整備や中長
期契約の蓄積によって、当面は高い利益水
準が維持されると予想しているが、むしろさ
らなる飛躍に向けた助走期間における同社の
取り組みに注目したい。
ひとつやなぎ・はじめ
九七年三月早稲田大学理
工学部土木工学科卒。 同
年四月大和総研入社、企
業調査部インフラチーム
に配属。 九九年から物流
担当に。
著者プロフィール
川崎汽船の過去10年の株価推移
(円)
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