ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年2号
再入門
3PLの登場と普及

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2006 100 3PL(サードパーティ・ロジスティクス) は九〇年代に米国市場で開花した新しい物流 ビジネスだ。
荷主企業でも運送業者でもない、 第三者(サードパーティ)によるロジスティ クス事業を指す。
現在、米国ではフォーチュ ン五〇〇社のうち六四%が3PLを利用して おり、その市場規模は二〇〇四年時点で八九 四億ドル(約一兆円)に上っている(図1)。
規制緩和後の混乱から誕生 3PL発祥の地は英国だと言われる。
米国よ り一足早く、一九七〇年に運送業の競争規制 を撤廃した英国では、その後の約一〇年間で業 界再編が大きく進んだ。
新規参入業者の増加 によって競争が激化し、運賃水準は低下。
老舗 の運送業者が苦境に陥るのと裏腹にヘイズやチ ベット&ブリテン、エクセルなど、新たな収益 源を求めて3PLへの業態革新を図る運送業 者が登場した。
一九八〇年に運送業の規制緩和を実施した 米国でも同じことが起こった。
米国の国内運送 市場は規制緩和によって、それまでの業界トッ プ五〇社のうち半数が倒産や吸収合併で姿を消 すほど淘汰が進んだ。
そして九〇年頃を境とし て、従来の輸送キャリアに代わる物流市場の新 たな主役としてライダーやC Hロビンソン、シ ュナイダーといった3PLが台頭し始めた。
当時の米国産業界は構造不況のまっただ中 にあった。
自動車のビッグ3やIBMなど、基 幹産業の代表的企業が軒並み業績の悪化に苦 しみ、大規模な人員削減や事業撤退などのリス トラが横行した。
事業を業務プロセスに分解し てムダなプロセスを排除し(BPR)、市場競 争力の源泉(コア・コンピタンス)となってい るプロセスに経営資源を集中する抜本的な組織 改革が、多くの企業で断行された。
その受け皿となったのが3PLだった。
一連 の改革で、コア・コンピタンスではないと判断 されたロジスティクス業務を、3PLは荷主企 業に代わって実行した。
単に運送や保管などの サービスを提供するだけでなく、それまで荷主 企業が正社員を投入していたロジスティクス管 理業務までアウトソーサーとして請け負う新業 態だった。
3PLの業務範囲は、工場の調達物流から、 受発注業務を含めた在庫管理、流通加工、顧 客サービス、協力物流会社の管理、結果報告 にまで及んでいる。
さらにはロジスティクスの 高度化や、コスト削減などの改革を荷主企業に 提案し、それを実行する役割まで担う。
そのため3PLの料金設定では通常の活動単 価とは別に、改革による成果配分(ゲイン・シ ェアリング)を契約に盛り込むケースが珍しく ない。
荷主企業の物流コスト削減は通常、サー ビスプロバイダー側にとって売り上げの減少を 意味する。
そのため、改革へのモチベーション が働かない。
成果配分方式を採り入れることで、 それを担保しようという狙いだ。
3PLの選別はコンペ形式で行われることが 多い。
荷主企業がパートナー候補にアウトソー シングの概要を提示。
手を挙げた3PLを、数 ヵ月間から一年間かけて選別する。
そこでは料金水準だけでなく、荷主企業のロジスティクス を効率化するための提案力が問われる。
つまり 3PLにはコンサルティング機能が求められる。
ただし3PLはコンサルティングビジネスで はない。
実際、純粋なコンサルティングフィー を収受できるケースは希だ。
3PLの収入のほ とんどは「輸送管理」や「保管」などの一般的 な物流サービスによって構成されている( 図2)。
コンペ段階で求められる提案は、第一義的には 荷主企業のロジスティクス部門としての管理能 力が問われているに過ぎない。
収益源は、あく 第10回3PLの登場と普及 FEBRUARY 2006 100 101 FEBRUARY 2006 まで運用だ。
運用に使用する車両や施設、現場スタッフな どを3PLが自らの資産(アセット)として所 有しているか。
それとも孫請けの協力会社から 調達しているのか。
この違いによって、米国で は3PLをアセット系とノンアセット系に分類 することがある。
九〇年代当初は両者の利益率を比較すると ノンアセット系のほうが高かった。
そのため3 PLはノンアセット系が有利とする傾向があっ た。
アセット系3PLは、自社アセットの使用 が前提になるため、荷主にとって最適な提案を することができない。
ノンアセット系であれば、 そうした制約がない。
少ない資本で大きなビジ ネスを請け負えるため資本回転率も高い、とい う理屈だった。
しかし、その後3PLの普及が拡がり、市場 規模が拡大してくると、必ずしもノンアセット 系が有利とは言えないケースが増えてきた。
と りわけ輸送市場の需給が逼迫し、施設の賃貸料 も値上がり傾向にある昨今は、運用に安定感の あるアセット系3PLを評価する声が高まって いる。
アセット系とノンアセット系ではどちら が有利かという問題は、結局その時代の環境に 左右される。
そのため現在では、3PLの多く が案件に応じてアセットの扱いを柔軟に使い分 けるようになってきている。
日本市場も黎明期を経て本格普及へ 米国の3PL市場は、市場規模の調査が始 まった九四年以降、毎年一〇%以上のペースで 拡大を続けている。
物流市場で最も成長力の高 いニュービジネスとして、九〇年代中頃には日 本にも紹介された。
もっとも当初は「日本の大 手物流企業が昔から行ってきた提案営業と変わ らない」、「一時的なブームに過ぎない」など、 国内の業界内では批判的な見方が強かった。
それでも中堅倉庫会社の富士ロジテックや日 立物流など、先進性の高い一部の物流企業が 対応。
日本における3PLビジネスがスタート した。
日本の物流市場も九〇年の「物流二法」 の施行による運送業の規制緩和の実施、その後 のバブル崩壊と、3PLを生み出す土壌は既に 整っているかに見えた。
しかし現実には九〇年代末頃まで、日本の3 PL市場は黎明期にあった。
3PLのユーザー は新たに日本市場に参入した外資系荷主企業 や自前の物流アセットを持たない新興企業に限 られ、市場のメーンストリームとも言える国内 大手メーカーへの普及はなかなか進まなかった。
物流子会社の存在が一つの足かせだった。
親 会社の物流部門を分社化することで設立された 物流子会社は、もともと3PLと同じポジショ ンに立っている。
ただし、荷主と資本関係で結 ばれている以上、3PLとは言えない。
事実上 のファーストパーティだ。
そして物流子会社は 親会社向け事業に収入の大部分を依存している。
物流子会社を整理する覚悟がない限り親会社は 3PLを利用することができない。
日本では規制緩和をトリガーとした物流業界 の再編も遅れた。
業界全体では新規参入と倒産 が激増したにもかかわらず、大手企業の顔ぶれ と勢力図にはほとんど変化が起きなかった。
長 年、物流市場の主役を務めてきた特別積み合わ せ運送業者(旧・路線業者)は、高度経済成 長時代に取得した拠点用地の含み資産を抱えて いる。
そのため規制緩和とバブル崩壊による業績の低迷にも耐えることができた。
二〇〇〇年代に入って、ようやく市場が動き 始めた。
国内大手メーカーが大量の首切りを伴 うリストラを断行。
物流子会社の売却が始まっ た。
これに伴い国内3PL市場は急拡大してい る。
正式な統計はないものの、有力企業が発表 した3PLセグメントの売上高を集計しただけ でも、その規模は今や数千億円レベルに上って いる。
今後も拡大は必至と目されている。
こう して日本の物流市場は本格的な3PL時代を 迎えた。

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