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FEBRUARY 2006 20
注目企業トップが語る強さの秘訣
空洞化に逆らい売り上げ伸ばす
――好調な業績を、どう自己分析していますか。
「当社の連結売り上げはアルプス物流の国内事業、
海外現地法人、子会社の流通サービスの三つのセグメ
ントから構成されています。 その三分野とも、ここ数
年は一貫して事業規模が拡大しています。 その結果、
連結でも年率一〇%程度の成長を続けることができて
いる」
「しかし、これをセグメント別に見ると、国内事業
は生産の海外シフトや荷主企業の物流合理化の影響
で市場規模自体の拡大がもはや期待できない。 むしろ
減少傾向にあります。 当社の国内事業が伸びているの
も、直近の二年間に関してはTDK物流との合併
効
果が大きい。 年間約六〇億円ですが、それを除けばほ
ぼ横這いです。 市場規模自体の減少分を拡販によっ
て何とか穴埋めしているという状況です」
――日系メーカーの海外シフトが顕著になってから既
に長い期間が過ぎています。 実際、国内物流の空洞化
は九〇年代の中頃には既に指摘されていました。 しか
し、その後もアルプス物流の国内事業は拡大していま
す。
「確かに当社がターゲットとする電子部品の国内物
流の規模はずっと減少し続けています。 それと並行し
て荷主企業はさまざまな合理化を進めている。 リード
タイム短縮
や在庫削減などの施策は貨物を減らす方
向で働きます。 しかし、その一方で荷主企業の多くが
物流のアウトソーシング化を進めている。 当社はその
受け皿となることで受託を増やすことができているわ
けです」
――アウトソーシングを受託しようとしているのは、
どの物流企業も同じです。 なぜアルプス物流はそれに
成功しているのでしょう。
「当社の特徴はターゲットを電子部品に特化してい
る点です。 事業規模では他の大手さんには到底かなわ
ない。 しかし電子部品のハンドリングに関してはどこ
にも負けない自信があります」
――電子部品のサプライチェーンは、組み立てメーカ
ー
を中心として、サプライヤーからの調達物流と、川
下の販売物流の領域があります。 そのうちアルプス物
流は今のところ調達の領域を中心にしています。 川下
に拡げるつもりはありませんか。
「完成品の物流に手を出すつもりはありません。 確
かに川下に進出すれば物量は拡大するかも知れません
が、利益がとれない。 付加価値が低い。 当社にとって
の本業ではありません」
「今や当社は国内の大手だけでなく、国際インテグ
レーターとも競争しなければならない立場に置かれて
います。 資本力ではとても太刀打ちできない。 我々の
ような規模の会社が大手との競争
を勝ち残っていくた
めには、付加価値のある強い部分を持って、その土俵
で勝負するしかない」
――しかし既に電子部品の物流では圧倒的なシェアを
とっています。 これ以上の拡大は難しいのでは。
「電子部品物流の市場規模について、よく質問を受
けるのですが、あまりはっきりした数字がないんです。
調査によると電子部品業界の荷主は国内に一六〇〇
社程度あるようですが、そのうちの既に約一三〇〇社
に当社は取引いただいています。 しかし一三〇〇社の
物流の全てを当社が受託しているわけではありません。
当社がシェアを拡大する余地はまだまだあると考えて
います」
――今後シェアを拡大
していくにあたって、TDK物
流のケースのような物流子会社の買収は一つの選択肢
電子部品を組み立てメーカーに納める物流に
特化することで、物流プラットフォーム事業を
成立させた。 2004年10月には、TDKの100%子
会社のTDK物流と合併。 国内の電子部品市場に
おけるシェアをさらに拡大させた。
(聞き手・大矢昌浩)
アルプス物流
――電子部品物流で圧倒的なシェア握る
総合4位
総合7位
総合8位
総合11位
総合15位
安間洋一 社長
「全ての物流機能を
自営化する」
21 FEBRUARY 2006
になりますね。
「合併によってシナジー効果が出せる案件であれば
前向きに検討しますが、どの会社でもいいというわけ
ではない。 売上規模の拡大だけを目的に物流子会社
のM&Aをしかけようとは考えていません」
――TDK物流の合併ではシナジー効果は出ているの
ですか。
「合併から一年三カ月が過ぎましたが、これまでの
ところほぼ計画通りにきています。 人事労務面はスタ
ートから一本化できました。 そして合併後はまず輸送
面の統合を進めました。 もともとTDK物流の納品先
は当社とほぼ同じで、しかもほとんど傭車でしたから
共同化の効果もすぐに得られた」
「次は拠点の統合
です。 これは輸送ネットワークほ
ど簡単ではありません。 それぞれ貨物を持っているわ
けですから、拠点を統合しても貨物が減るわけではな
い。 たとえ借庫でも契約期間の問題もあります。 それ
でも保管ロケーションの再配置や拠点の統廃合を進め
て、これも二〇〇五年八月にはメドをつけました。 ほ
かにも間接業務の削減などで、期待通りの合理化効
果を得ることができました」
――子会社の買収まではいかなくても、アウトソーシ
ングの受託と並行して荷主の既存社員やリソースを受
け入れるケースは増えているのでは。
「そうですね。 とくにこの二〜三年はそうした傾向
が顕著になってきました。 今や頻繁にある話です」
日本モデルをアジアに拡大
――二つ目のセグメント、海外の物流事業については。
「直近三年間を見ても年平均二〇%弱の伸びを見せて
おり、これからも期待できると考えています。 規模が
大きくなるに従って伸び率は鈍化するかも知れません
が、海外シフトはまだまだ続いていますし、シェアも
これから拡大していかなくてはならない。 エリアとし
ては、電子部品を扱う以上、やはり中国とアジアが中
心です」
――海外事業のビジネスモデルは国内とは違ってきま
すか。
「いや、同じです。 システムも日本からそのまま移
管しています。 もちろん国によって税制などの違いは
あるのでカスタマイズする必要はありますが、基本的
には日本と全く同
じサービスが現地でも求められてい
ます。 そのためにかなりの数のスタッフを現地に投入
しています。 逆に現地のスタッフを日本に呼んで研修
と実務を経験させています」
――航空フォワーディングの機能に関してアルプス物
流は後発になります。 そこは他社との提携や買収とい
う選択肢もあり得るのでは。
「確かに当社の中で機能として一番遅れている部分
です。 しかし、『ワンチャンネルサービス』と称して総合物流を標榜する以上、それを外部に丸投げすること
はできない。 丸投げすれば結局、言いなりにされてし
まう。 全ての機能を自営化していく。 それが当社
の基
本方針です。 全てのアセットを持つということではあ
りませんが、自分で改善を主導できないとニーズに対
応できない」
――今後の最大の課題もそのあたりですか。
「やはり一番は人の問題です。 3PLの業務領域の
全てを一人でカバーできる人間など現実にはほとんど
いません。 そのため人を外部から調達することもでき
ない。 中途採用も積極的に行っていますが、各機能の
専門家はいても3PLの専門家はいません。 結局、社
内で育てていくしかない。 その分野には手間も費用も
かけていきます」
売上規模
100
80
60
40
20
0
利益伸び率
利益規模
売上高
伸び率
1人当たり
収益
累積
【業績】アルプス物流 利益率
【企業概要】
(単位:百万円)
売上高(単独) 利益
解 説
物流子会社の勝ちパターンを創造
総合電子部品メーカーのアルプス電気の物流
子会社。 親会社向けのインフラに他の電子部品
メーカーの荷物を乗せる共同化によって事業を拡大。
95年に株式公開を果たした。 今や外販比率は70
%に達している。 組み立てメーカーによるVM(I ベ
ンダー主導型在庫管理)の導入が追い風になっ
ている。
電子部品物流は中国シフトによって国内空洞
化が進んでいる。 これに合わせて同社も近年、中
国を中心に海外投資を活発化させている。 日本と
全く同じサービスを現地で展開することで日系メー
カーの荷主を掴んでいる。
サービスの対象は電子部品の納品物流に特化
しているが、唯一の例外が96年に買収した流通サ
ービスによる生協向けの食品物流。 買収当初は
再建に苦慮したが、現在は連結業績に貢献する
優良子会社に変身した。
所在地 神奈川県横浜市
設 立 1964年
資本金 23億4904万円
従業員数 726人
運行車両台数 485台
倉庫面積 20万5693平方メートル
主要株主 アルプス電気(46.6%)、
TDK(7.9%)東証2部上
場
荷 主 日系電子部品メーカー
03.03 22,406 1,207
04.03 24,249 1,502
05.03 27,744 1,874
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