ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年3号
keyperson
吉原賢治 Nixシステム研究所 代表

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2006 2 かけ声に終わったBPR ――ビジネスモデルは、どのように構 築し、どうマネジメントすれば良いの でしょうか。
「方法論はありません。
そのために BPR(ビジネス・プロセス・リエ ンジニアリング)も掛け声倒れに終 わってしまったのだと思います。
日本 でも九〇年代前半にはマイケル・ハ マーのBPRが、それこそ救世主の ように扱われて、一大ブームになり ましたが、結局は現状否定と理念の 追求に終止してしまいました。
BP Rにエンジニアリングと呼べるほどの 方法論の無かったことが、その主な 原因でしょう」 「エンジニアリングと呼ぶからには、 一定の手順を示す必要があります。
そ して成果物の再利用が確保されなけ ればなりません。
共用可能な構成部 品を蓄積して、一つの製品としての 基本構造を持った完成モデルのフレ ームワークが存在しなければならない。
この完成モデルに当たるものがビジ ネスモデルあるいはビジネス・プロセ ス・モデルであるとすると、BPR アプローチの線上にはそれは存在し ない。
ビジネスモデルの発明への夢 と期待が、ただ形骸のようにあるだ けです」 ――BPRアプローチとは? 「従来のプロセスを白紙にして、ゼ ロベースであるべき姿を考えるという アプローチです。
これはIE(インダ ストリアル・エンジニアリング)の大 家とされるナドラーの『理想システ ム』と同じです。
確かに全くゼロか ら事業を始める場合 であれば有効な アプローチなのでしょう。
しかし、そ れ以外の場合、つまりほとんどの会 社では、いくら理想的なプロセスを 考案したとしても、まず現状のプロ セスがあります。
それをベースにして 理想に向けて改革していかなくては ならない。
その方法論や手順が示さ れていない」 ――しかし、成功事例があったから こそBPRがブームになったのでは? 「上手くいった事例があったとして も、それは優れた個人が閃きを発揮 させて発明したものであって再現性 はありません。
方法論がないという のは、地図のない状態で近道を探り 当てるようなものです。
そうした洞察 力に優れた人も、中にはいるでしょ う。
しかし優れた個人による発明が 常に成功 するとは限りません。
その ナレッジを皆で共有することもでき ない」 「そのために、成功したとされるB PRでも改革は一過性のもので終わ ってしまっている。
改革後にプロセ スを管理する立場になった人は、な ぜそのようなプロセスになっているの か全く分からないのだから当然です。
しかも、BPRで改革の対象となっ たのはプロセス全体ではなく、一部 分に過ぎませんでした」 「私から見ると、BPRという言葉 は広く普及したものの、実際にプロ セス管理を行っていると言える企業 はほとんどありません。
それどころか 自分の会社の業務プロセスの現状さ えきちんと把握できていないのが多 くの会社の実態ではないでしょうか」 ――何 から手を付けるべきですか。
「ビジネスプロセスが整理されてい ないと標準化も改革もできませんの で、まず現状の業務を示すプロセス マップを作る必要があります。
それに対して業務プロセスの『to be (あ るべき姿)』を設計し、現状のプロセ スを改革する。
その結果、新しい『as is (現状)』のプロセスが出来上がる。
それをまた検証して改革する。
これ を繰り返していくことがビジネス・ プロセス・マネジメント(BPM)の 実務です。
ところがほとんどの企業 が最初のプロセスマップを作る段階 でバンザイしてしまっている」 吉原賢治 
裡蕋システム研究所 代表 「BPRはエンジニアリングとは呼べない」 サプライチェーンのあるべき姿を描くだけでは何も実現しない。
あるべき姿は方向性を示しているに過ぎない。
改革の実行には、 現状の業務プロセスを表記する方法と、それを改造する手順が必 要だ。
これまでSCMには、そこが抜け落ちていた。
(聞き手・大矢昌浩) THEME 3 MARCH 2006 KEYPERSON ――プロセスマップというのは? 「現在のビジネスは、いくつものト ンネルを通過する鉄道のように、コ ンピュータと人間の仕事が交互につ ながる形でできあがっています。
コン ピュータのアウトプットが人間のイン プットになり、人間の意思決定とい うアウトプットがまたコンピュータに インプットされる。
その流れは企業 をまたがり、そして循環しています。
企業の外に出て顧客に届き、また戻 ってくる。
こうした人間の意思決定 やコンピュータの処理が連なってい る全体の流れを可視化したものがプ ロセスマップです」 「プロセスマップを作ることで、そ れぞれの担当者だけではなく、誰で も全体のプロセスが分かるようにな ります。
そして、そのプロセスを検証 し改革する 。
それがBPMです。
こ れまでも部分的にはプロセスを記述 して分析してきましたが、そのやり方 や書き方が人によってまちまちで、他 人が見ても分からなかった。
電気の 配線図や建築図面と同様に、誰が見 ても分かるプロセスマップにするには 基準が必要です」 ――その基準が存在しないのでは? 「ビジネスプロセスのモデリング手 法はこれまでもいくつか発表されて きました。
七〇年代の初頭に米国国 防総省が採用した『IDEFO ( Integration Definition for Function Modeling )』もその一つです。
八〇年 代には独SAP社の依託によって独 IDS Scheer 社 が 『 A R I S ( Architecture of Integrated Information System )』を開発しています。
SAP 社がプロセスモデリング・アーキテク チャに適用しているものです」 「いずれの記述方式も、それぞれ使 い道はあります。
しかしそこには、プ ロセスを分解する表記法とプロセス 属性情報を整理する体系が用意され ているだけで、ビジネスモデルの階層 を分解し、組み立てる体系は用意さ れていません。
そのためBPM、つ まりビジネスプロセスそのものの分析 や設計には向かない」 「『 U M L ( Unified Modeling Language: 統一モデリング言語)』 は一歩進んだ表記方式ですが、IT の専門家以外にはなかなか使いこな せない。
そしてこれにもプロセスモデ ル設計のための階層分解方式、つま り製品部材の階層組立構造(BOM) は存在しません」 「表記方式としては、今後は誰にも 読み書きできる『BPMN(Business Process Modeling Notation )』に、一 本化されていくのでしょうが、それも 表記形式の体系化の域にとどまって いて、エンジニアリングの方法論に は成り得ません」 プロセス記述方式の限界 ――米サプライチェーン・カウンシル (SCC)の提唱する「SCOR ( Supply Chain Operations Reference model )」はどうですか。
「九八年にアメリカのニューオリン ズでSCCの第2回カンファレンスが開催されて、そこで初めてSCO Rを知りました。
当初はいたく感動 しました。
というのもSCORが三 階層のプロセス分解構造を持ってい たからです。
しかし、その後のスタデ ィで、SCORには、マテリアルプ ロセスやヒューマンプロセスを含むロ ジスティクスプロセスが捨象されてい ることを知りました。
それではビジネ スモデルにはならない」 「しかもSCORはアプリケーショ ンパッケージのベンダーやエンドユー ザーのためのマクロなリファレンスモ デルであって、ビジネスモデルの設計 にしろ、サプライチェーンの設計にし ろ、設計のための技法を内蔵したも のではない。
そんなことから、SCO Rの最大の機能は十三種のメトリク スを使ったベンチマーキングにあると 割 り切ったほうがいいと考えるよう になりました」 ――吉原さんご自身は九五年に出版 した「情報型ロジスティクス構築論」 (NTT出版)で、三階層のロジステ ィクスプロセス設計モデリング手法 として「ALOW ―LSP」を発表し ていますね。
「ALOW ―LSPは、企業間をま たいだプロセスモデリングを行うため の手法です。
基本となる一〇個のプ ロセスコンポーネントを設定してあり、 それぞれにベストプラクティスやコモ ンプラクティスを組み込んであります。
その組み合わせでロジスティクスプロ セスのネットワーク・デザインを行う わけです。
こうして設計したロジステ ィクスモデルを補給連鎖システム設 計と呼びました」 「しかし、これもモデルとしては不 完全でした。
サプライチェーンのマク ロ設計の域を出るものではなかった。
そこで、私も本来であれば引退するような年なのですが(笑)、その後も 私個人のライフワークの終着駅とし て密かにサプライチェーンのモデリン グ手法の開発に取り組んできました。
そ の目的は、大げさに言えば世界初 のビジネスモデル・ライフサイクル・ エンジニアリングの実現です。
既に 三つの企業に対する導入も済ませ、よ うやく完成しましたので、近く発表 するつもりです」

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