ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年3号
海外Report
英・DTSロジスティクス軽トラの一人親方から年商五〇億円企業にアパレルに特化し荷主にはユニクロの名も

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MARCH 2006 52 英国の軽トラベンチャー デーリー氏は地元の大学でビジネスを専攻 した後、バン型車と呼ばれる軽トラックを使 った?一人親方〞をロンドン近郊で始めた。
一九八〇年のことだ。
同氏は当時をこう振り 返る。
「はじめからトラック業界に興味があったわ けではない。
ただサラリーマンになることは 考えていなかった。
軽トラ業は限られた資金 でもすぐに事業を興せるのが魅力だった」 若者相手の引っ越しや大手トラック運送会 社の下請けをしながら日銭を稼いだ。
そして 五年後に法人化に踏み切ったわけだが、社名 は自分の名前をつけて「デーリー・トランス ポート・サービシーズ」とした(九七年に現 在のDTSロジスティクスに社名変更)。
DTSロジスティクスの本社は、ロンドン から電車で三〇分ほど北上したミルトンキー ンズ市の物流センター内にある。
DTSと取 引のある荷主のロゴマークや拠点分布図、物 流センターの模型などが並べてある二階の会 議室で待っていると、デーリー氏がマイケル・ ヒービー部長を引き連れて現われた。
DTSロジスティクスの設立は一九八五年。
現在の従業員は七五〇人(うちドライバー二 〇〇 人)で、一〇カ所以上の物流センターを 持つ。
二〇〇四年の売上高は二五〇〇万ポン ド(五〇億円)だった。
二〇〇四年、DTSロジスティクスは二つ の輸送会社からなるクリッパー・グループの 傘下に収まった。
DTSが加わったことで、 クリッパーの売り上げは、二〇〇〇万ポンド から四五〇〇万ポンドに拡大し、従業員数は 一四〇〇人に増えた。
これに伴い、DTSの 創業者兼CEOだったデーリー氏は、クリッ パーの役員兼部長としてDTSの運営を任さ 英・DTSロジスティクス 軽トラの一人親方から年商五〇億円企業に アパレルに特化し荷主にはユニクロの名も 英国・DTSロジスティクスの創業者であるマイク・デーリー氏は異色の 経営者だ。
軽トラ業からスタートし、創業から約二〇年で同社を年商五〇億 円、従業員七五〇人超の物流企業に育て上げたものの、自ら率先して同業者 のグループ傘下に収まることを決断したからだ。
その狙いとは何か。
デーリ ー氏に訊ねた。
DTSロジスティクスの創業者で あるマイク・デーリー氏 ケーススタディ 53 MARCH 2006 れることになった。
DTSを裸一貫から作り上げたのが、目の 前に座るデーリー部長だ。
同社の主な荷主は ハービー・ニコルス、リバティ、ジョン・ル イス、デベナムズなど。
いずれもイギリスで は高級百貨店として知られている。
荷主のEDI費用を肩代わり まずはデーリー部長に、会社設立の経緯を 訊ねた。
デーリー部長は、一人親方をしている八〇 年前半にファッション業界との取引をスター トした。
その頃、ロンドンの北部と東部には 中小の衣料品メーカーが集まっていたが、D TSはそこから西部の小売りに商品を配送す る業務を請け負っていた。
問題はクリスマスシーズンに起こった。
中 小メーカーは、クリスマスになると、一〇日 間前後の休暇に入る。
しかし、小売店にとっ ては年末年始が一番の書き入れ時だ。
そ の空 白の一〇日間に目をつけたデーリー氏が、クリスマス休暇の短期間だけ倉庫を借りて、そ こから小売店に商品を供給するサービスを発 案した。
これがファッション業界の物流に足 を踏み入れるきっかけとなった。
また、EDIシステムを使った納品を取引 条件とする小売りが現れたのを受けて、DT Sでは中小メーカーに代わってEDIシステ ムの導入費用を負担し、荷物の配送を委託す ることを条件に、メーカー各社がEDIを無 料で利用 できるサービスを始 めた。
このサービスも荷主か ら大好評だったという。
ヒー ビー部長はこう説明する。
「当時、EDIを導入しよ うとすれば、七〇〇〇ポンド (一四〇万円)程度の投資を 必要とした。
それだけの投資 を強いられるにもかかわらず、 納める商品が二〇〇〇着や 三〇〇〇着程度では割に合 わないという中小メーカーの 声を聞き、『それならウチが 費用を負担するから、その代 わりに荷物を任せてほしい』 と営業して回った。
はじめは 一社だけだったのが、最終的には二〇社以上 のメーカーがこの提案に乗ってきた。
EDI システムへの投資を十 分に回収できるだけの 効果があった」 ファッション業界に的を絞ったのはほかで もない。
商品単価が高く、運賃負担力がある からだ。
「たとえば、このミルトンキーンからロンド ンまでトラックを一台走らせると運賃は二〇 〇ポンド(四万円)かかる。
積荷がコメなら ば、トラック一台分の売値は二〇〇〇ポンド で、運賃の占める割合は一〇%。
これに対し て、衣料品なら売値は二万ポンドにも四万ポ ンドにもなる。
運賃の比率が落ちるため、単 に車両を使ってA地点からB地点に運ぶ だけ でなく、物流センターを通過させて、いろい ろなサービスを付加することができる」(デー リー部長) その言葉通り、ピッキングやアイロンがけ、品質管理、衣料品の出荷時に義務づけられて いる検針などを自社のサービスメニューとし て揃えていった。
またメニューが一通り揃っ た時点で、ISOシリーズ9002を取得し て、作業手順の標準化も図った。
九〇年代に入って資金繰りに余裕が出てく ると、自前でセンターを構えるようになった。
九三年のマンチェスター(現在は閉鎖)から スタートし、二、三年 に一カ所の割合で増や していった。
現在、イギリスとスコットラン ドの十三カ所にセンターを構えている( 図1 )。
DTSにもう一つの変化が起こった。
次第 カンバーノールド ハンズレット リーズ1 リーズ2 ノッティンガム ニューカッスル・アンダー・ライム ノーサンプトン ミルトンキーンズ1 ミルトンキーンズ2 エンフィールド1 エンフィールド2 エドモントン バース ミドルトン シャウ ダーカー クルー オールトン ブライハウス ロザラム DTSロジスティクスの拠点 DTS以外のクリッパー・グループの拠点 図1 クリッパー・グループの物流拠点 MARCH 2006 54 に荷主がメーカーから小売業者へとシフト。
イギリスやスコットランドをカバーする配送 網が整備されていくにつれて、チェーン展開 している大手小売店からの依頼が増加したの だ。
八〇年代には三〇〇〇社近い中小メーカ ーと取引があった。
現在でも、四〇〇社前後 のメーカーと取引があるが、売り上げのほと んどは百貨店など大手小売りとの取引が占め ている。
ヨーロッパ大陸進出で失敗も 小売りで最初の大手荷主となったのは、イ ギリスのカジュアル衣料品小売りのC&Aだ った。
最高で年間に三〇〇〇万着の衣類を流 通加工した上で配送した実績がある。
「C&Aとの取引を通じて、当社は小売りが 3PL企業に何を求めているのかがわかった。
小売り企業のカルチャーや商売の仕組み、そ れにこちらが何をすればどんな反応が返って くるのかも理解できるようになった。
当社の やり方は、荷主の要求をできるだけ迅速に汲 み取って、それについて荷主と話し合う。
わ れわ れの提案するソリューションが荷主の要 望にかなっていれば、それを新たなサービス として追加する。
すでに中小のメーカーを相 手に、きめ細かいサービスを提供してきた実 績からすると、小売りが満足するレベルのサ ービスを提供することはさほど難しいことで はなかった」(デーリー部長) 日本を代表するSPA(製造小売り)であ るユニクロ(ファーストリテイリング)も荷 主の一つだ。
DTSは、英国進出を果たした ユニクロの店舗に商品を配送する業務を請け 負っている。
もっとも、DTSでは新規荷主の獲得より も、 既存荷主との取引拡大に力を注いでいる。
理由は「一から新しい荷主を探すのは既存荷 主の業務拡大よりもはるかに難しい」(デーリ ー部長)からだ。
たとえば、一〇年前に百貨店のジョン・ル イスと取引を始めた際、同社の購買部は、ナ イキやアディダスをはじめとする数十社のメ ーカーから納品される商品を捌くのに苦労し ていた。
そこでDTSはジョン・ルイスが必 要とする納品業務を代行するメニューを用意 して各メーカーにセールスして回った。
これ によってメーカーは値札付けなど煩雑な流通 加 工から解放され、一方のジョン・ルイスは メーカー各社に説明して納入手順を徹底させ るという手間を省くことができた。
加えてD TS経由に改めることで一括納品が可能とな った。
現在、ジョン・ルイス向けには衣料品と宝 飾品を取り扱う。
衣料品の業務に関しては、 物流センターでの入荷、検品のほか、必要な 商品には箱から出してハンガーにかける作業 を行い、商品タグや値札、バーコードをつけ てから、仕分けした後に店舗に配送 するまで を請け負っている。
宝飾品に関しては、入荷、 検品、POSデータが読み取りやすいように 特殊なラベルをはり、鍵のかかった箱に入れ て店舗に配送している。
サービスメニューを充実させていく過程で 失敗もあったという。
荷主の要請を受けて、 ヨーロッパ大陸のキプロスやルーマニア、ト ルコなどに地元企業とジョイントベンチャー で輸送業者を立ち上げ、そこからの原材料の 輸送を請け負うサービスを始めた。
しかし、輸 送のトラックに密入国者や麻薬が紛れ込むこ とが頻発したため、法的な問 題を引き起こし かねないと懸念し、それらの企業をすべて売 却したという。
現在ではイギリスとスコット ランドのみで事業を展開している。
クリッパー傘下に入った理由 会社の軌跡を聞いていくうちに、三つの質 問が浮かんだ。
一つはどうやって一人親方か ら日本円で売上高五〇億円の企業に成長を遂 げたのか。
二つ目は、どうしてクリッパー・ ファッション業界に強いDTSロジスティクスはユニクロの物 流業務も請け負っている。
55 MARCH 2006 グループの傘下に入ったのか。
三つ目は、今 後ファッション分野以外のロジスティクス業 務にも手を広げるつもりなのか、というものだ。
イギリスのロジスティクス業界には五つの 大企業がある。
売り上げ順に、旧エクセル (ドイツポスト)、ウィンカントン、クリスチ ャン・サルベッセン、旧ヘイズ・ディストリ ビューション(二〇〇四年にACRとなり、 二〇〇五年にクーネ+ナーゲルが買収)、TD G――だ。
その下に一〇〇社ほどの中堅業者 が続き、さらにその下にはトラック保有台数 五台以下の零細業者が存在 する。
零細業者の 割合は全体の九五%を超える。
DTSロジス ティクスの売上高は八〇位前後で、クリッパ ー・グループ合計では上位五〇社に入る。
一 人親方から出発した同業者のほとんどが五台 以下であるにもかかわらず、デーリー部長は どうしてDTSの成長を実現できたのだろう か。
「建設会社を経営していた父親を見てきたせ いか、会社を経営するのが子どもの頃からの 夢だった。
それもできるだけ大きな会社。
そ れをエゴと呼ぶのか、自尊心と呼ぶのかは人によって意見が分 かれるだろうけれど。
五台 以下のトラック業者の経営者の多くは、私の 目から見れば、現状に満足していて荷主を増 やそうとか、サービスレベルを向上させよう という努力に欠けているようだ」 さらにヒービー部長はこう付け加える。
「マイク(・デーリー氏)は、今でも自ら荷主 に足を運び、彼らのニーズを次々と満足させ ることでビジネスを広げている。
今でも週六 〇時間働くワーカホリックだ。
それに人一倍 責任感が強い。
マイクの口癖は、会社を経営 するということは全従業員のロ ーンを背負っ ているのと同じだ、というものだ。
そうなる と、自然と従業員のモラールも高くなる」 起業家精神あふれるデーリー部長が、クリ ッパー・グループの傘下に入ったのはどうし てなのだろう。
人の下で働くのが嫌だったか らこそ、起業家を志したのではなかったのだ ろうか。
ちなみに、クリッパー・グループとは、九 二年にスティーブン・パーキンス氏によって 創設されたロジスティクス企業だ。
DTSが 傘下に入るまでは、Gagawell と Guarelex と いう二つのロジスティクス企業で形成される グループだった。
三社とも運賃負担力のある 荷物に特化しているロジスティクス企業であ る点で共通する。
売り上げ規模では、DTS の方が大きかったため、DTSがクリッパー の傘下に入ったというニュースが流れたとき、 DTSがクリッパーを買収したのだと誤解す る業界関係者も少なくなかった。
MARCH 2006 56 「これまでも、エクセルやウィンカントンな どの大企業からDTSを買いたいという話を 持ちかけられたこともあったが、すべて断っ てきた。
大企業の官僚的な体質が気に入らな かったからだ。
それが二〇〇四年になって、ク リッパーの申し出を受け入れたのには三つの 理由がある」とデーリー部長は説明する。
一つは、DTSの企業規模が大きくなった ため、財務や人事といった分野でプロの手腕 が必要となり、クリッパーにはそのノウハウ があったこと。
二つ目は、クリッパーのCE Oの言葉だ。
「ロジスティクス業界では、大企 業の 経営規模がM&A(企業の買収・合併) によってどんどん大きくなってきている。
こ れまでのように自力成長だけで会社を大きく することにこだわっているとDTSは規模の 小さすぎる存在として、業界内で埋没してし まう恐れがある」という指摘だった。
現状はその通りだ。
例えば、二〇〇四年に エクセルがチベット&ブリテンを買収し、二 〇〇五年にはそのエクセルを、ドイツポスト が飲み込んだ。
DTSがクリッパーの傘下に 入る前は、エクセル、チベット&ブリテン、D HLのイギリス部門と三つの企業体があった が、それが今や一つになっている。
「そんな状況下では、一定の企 業規模が必要 となってくる。
現在、婚約(業務提携)とい った中途半端なやり方は通用しない。
結婚 (傘下に入る)か、自分たちだけでやっていく のかの決断が必要だった」(デーリー部長) 三つ目は、クリッパー・グループに入った とはいえ、かなりの自由度が残されているこ とだ。
例えば、デーリー部長がDTSのトラ ックの色を現在のモスグリーンから紫に替え ることを希望すれば、それも可能だし、本部 の位置だって変えられる。
さらに、クリッパ ー ・グループから抜けたいと思えば、代償は 高くつくがそれも可能だ。
「幸い、今までのと ころ、クリッパー・グループに入ったことへ の不満はない」(デーリー部長)という。
「これからもファッション一筋」 デーリー部長は現在、クリッパー・グルー プの六人の役員のうちの一人。
同時にDTS 担当の部長として日々の業務を遂行している。
クリッパー・グループには、デーリー部長と ヒービー部長を含む、三人の部長がDTSを 担当しているが、DTSにおける決定権のほ とんどは依然としてデーリー部長が握ってい る。
起業家としての自由度を手放すことなく、 経営のプロを招きいれ、売り上げ規模を拡大 することがクリッパー・グループに入った理 由だ。
こうした起業家まで もが、どこかの傘下に 入らなければ安定した企業経営を行えないと 感じるところに、ヨーロッパで毎日のように 起こっているM&Aの影響力の大きさを思い 知らされる。
最後に、今後はファッション以外の分野に も手を広げるのだろうか、という質問をぶつ けた。
「イギリスのファッション業界が外注するロ ジスティクス業務は、約五億ポンド(一〇〇 〇億円)といわれる。
その半分以上を、新生 ドイツポストグループが受託している。
当社 の売り上げは二五〇〇万ポンドにすぎず、フ ァッション業界だけでも売り上げ を伸ばす余 地はまだまだある。
これまでファッション一 筋にやってきたことで、DTSの物流サービ スはブランド化している。
たしかに、現在の 大手荷主である高級百貨店からは、ファッシ ョン関連以外にも取扱荷物を増やしてほしい という声はある。
しかし、DTSがエクセル (現ドイツポスト)やウィンカントンを真似し て、多様な荷物を扱い始めれば、われわれの 競争優位性はいっぺんに消えてしまうだろう。
この分野で成長が見込める限り、これからも ファッション一筋にやっていくつもりだ」と デーリー部長は力説する。
( 本誌欧州特派員 横田増生 ) DTSロジがクリッパー・グループに加わったのは大手に呑 み込まれるのを避けるためだ。
(写真はDTSロジのトラッ ク)

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