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JUNE 2005 10
物流管理システムはどこへ行く
現状ではICタグは通常の物流管理には使えない。 しかし、その動
向は常にウォッチしておく必要がある。 物流管理システムとそのコン
セプトはツールの革新と歩調を合わせて進化する。 その行方を見定め
ておくことは、ロジスティクス責任者の重要な責務の一つだ。
(大矢昌浩)
結論としては「使えない」
ICタグの限界が徐々に明らかになってきた。 現場
での読み取り率は九〇%程度。 段ボールを開梱せずに
中身のタグを読み取ることはできない。 段ボールが水
に濡れるとダメ。 段ボール繊維の目の方向によっても
読めないことがある。 複数のタグを一括して読み取れ
るのは、せいぜい五つまで。 しかもタグ同士が重なら
ないようにするなどの工夫が必要になる。
パレットやケースにICタグを貼付してゲートを通
過させる場合でも、リーダーの角度を変えて何度も読
み取らないと、読み取り洩れが発生する。 タグの値段
は当初言われていた一個五円というレベルは無理。 チ
ップ自体の値段が下がったとしても、実務に必要な耐
久性や機能を持たせると一個四〇円〜五〇円はかか
りそう。 現状では一〇〇円前後だ。
それでもタグの破損や不良は出るため、記録された
情報を目視できるバーコードラベルを別途貼付する必
要がある。 つまりバーコードをICタグに置き換える
ことはできない。 コストパフォーマンスを冷静に判断
する限り、ICタグは物流オペレーションには使えな
い。 無理に使う必然性もない。 それがICタグの実証
実験を行っている物流現場からの報告だ。
「確かに実用化には当面、踏み切れない。 しかし研
究は今後も続けていく。 理由はICタグの限界を知る
ためだ。 将来、タグの値段が二〇〜三〇円に下がって、
しかも実際に使えるとなった時、慌てないで済むよう
にはしておきたい。 今は出来の悪い子供を見ているよ
うな気持ちでICタグとつき合っている」と、アパレ
ル産業協会で実証実験を進めている住金物産の山内
秀樹繊維カンパニーSCM推進部部長はいう。 現場
を経験した各社の担当者は皆、同様の感想を漏らし
ている。
ICタグ、正式にはRFID(Radio Frequency
Identification System
)とは、荷札にICチップとア
ンテナを埋め込み、無線によって情報を把握するシス
テムで、バーコードに代わる次世代の自動認識装置と
して開発された(本誌二〇〇三年八月号特集、二〇
〇四年五月号特集参照)。
従来のバーコードシステムは、モノの動きをデータ
として把握するために、ハンディターミナルなどを使
って人手で入力する必要があった。 これに対してIC
タグはリーダーを備えたゲートを通過させるだけで自
動的に情報を把握する。 棚にリーダーを付ければリア
ルタイムの棚卸が可能になる。
ICタグが実用化されれば、SCMに革新が起こる。
その経済波及効果を日本の総務省は二〇一〇年時点
で最大三一兆円と弾いた。 期待の大きさを反映して、
中央官庁や業界団体の主導による実証実験も盛んに
行われている。 しかし、そこで明らかになってきたの
は解決困難な課題ばかり。 依然として実用化のメドは
立っていない。
実験ではなく実用化に成功している例外的な取り
組みとしては、日本貨物鉄道(JR貨物)の事例が
知られている。 同社は現在、三二万個の鉄道コンテナ
にICタグを添付し、ステータスの把握に役立ててい
る。 もっとも同社がICタグを使った理由は、センサ
ーとしてはGPS(位置管理システム)より単価が安
く、バーコードより頑丈だったから。 それ以上の意味
はない。
導入プロジェクトのリーダーを務めたJR貨物の花
岡俊樹IT改革推進室グループリーダーは「タグに記
録しているのはコンテナ番号だけ。 それならバーコー
ドでも充分なんじゃないかと言われれば、耐久性の問
第1部
11 JUNE 2005
題を除けば、その通り。 しかも肝心の耐久性も実際に
使ってみると、かなり課題があることが分かった。 今
はむしろどうやってICタグを駆逐する仕組みを作っ
ていくかというテーマに取り組んでいる」という。
一つひとつのモノに超小型のコンピュータが組み込
まれ、情報ネットワークで繋がれた環境を?ユビキタ
ス〞と呼ぶ。 ICタグはそれを実現するツールとして
期待されている。 しかし、物流管理という視点から検
討する限り、現状のICタグではユビキタスは実現さ
れない。
SCMの次に来るもの
「それでもロジスティクス担当者として、ICタグ
から目をそらすわけにはいかない」と、日本IBMロ
ジスティクスの傘義冬社長室マーケティングプログラ
ム担当はいう。 IBMグループでは同社が?センス&
レスポンス〞と呼ぶ次世代のSCMを実現するツール
としてICタグをとらえている。
従来のSCMが、いったん情報を中央に集め、そこ
で全てを判断して現場に指令を下すという中央集権
型の構造をとるのに対し、センス&レスポンスは意思
決定の権限を現場に委譲し、現場が直面した環境変
化にその場で柔軟に反応する自律分散型の構造をと
る。 変化に対する反応のスピードに利点がある。
現場で目の前にある在庫を移動するにも、従来のS
CMでは本部からの指示を待つ必要があった。 セン
ス&レスポンスでは現場で在庫の扱いを判断すること
が許される。 近隣の店の在庫を借りる、あるいは売れ
残った商品を値引きして売り払うといった柔軟な行動
を現場がとることで、需要を所与の条件とするのでは
なく、需要を新たに創造できるという発想だ。 このセ
ンス&レスポンスを実現するには、あらゆる現場がネ
ットワークで繋がれ、必要に応じてリアルタイムの物
流情報を誰でも把握できるシステムが必要だ。
「そんなシステムはまだ実現できてはいない。 しかし
RFIDのテクノロジーは、それを実現する可能性を
秘めている。 そのために今、失敗の経験を積み重ねて
いる」と傘マーケティングプログラム担当。 ICタグ
は、それ自体がソリューションをもたらすわけではな
いことを強調する。
ICタグそのものをビジネスのネタにしようとする
のでない限り、物流分野のICタグ活用で投資を急ぐ
必要はない。 現状ではバーコードや二次元バーコード
のほうがコストや安定性の点で優位性がある。 それで
もアイテム別ではなく一つひとつの単品の情報を自動
的に把握できる環境が整った時、どのような物流管理
が可能になるのか、ロジスティクス担当者として、そ
の答を用意しておく必要はある。
物流管理情報システムの歴史を紐解くと、それがモ
ノの動きと情報の同期化の歴史であることに気付かされる。 これまでモノの動きは、誰かがそれを入力しな
い限り、情報システム上のデータとして把握すること
ができなかった。 人手をかければ入力の回数を増やす
ことはできるものの、バッチ処理であることに変わり
はなかった。
しかしICタグ、GPS、そしてインターネットと
いうITツールを組み合わせれば、理論的にはモノの
動きが完全にパソコン上で可視化される。 究極の情報
システムができあがる。 バッファーとしての在庫は情
報に置き換えられる。 これまで物流管理のコンセプト
は、ツールの革新と共に進化してきた。 新しいツール
が実現した時には管理コンセプトも進化する。 SCM
が新たな段階に進む可能性がある。 たかがツールと軽
視することもできないのだ。
物流情報システムの発展――モノの動きと情報の同期化の歴史
ICタグで何が変わるのか?
60年代〜
70年頃〜
80年代中頃〜
90年代〜
90年代中頃〜
2000年代〜
入出庫計算システム
初期受注出荷情報システム
前期物流情報システム
中期物流情報システム
後期物流情報システム
リアルタイム情報システム
経理事務の計算
台帳管理のIT化
仕入と入荷の同期化
取引先帳簿との不整合解消
物流情報の自動把握
コンピュータ
データベース
バーコード/EDI
パソコン
無線携帯端末
注文台帳
入荷エントリー時点
検品入力時
仕入時
在庫台帳
出荷エントリー時点
出荷エントリー時点
受注後バッチ処理
受注入力時点
受注入力時点
販売台帳
出荷エントリー時点
出荷エントリー時点
納品完了入力時
ICタグ/GPS/ 納品時
インターネット
在庫ステータス情報と
物流処理の同期化
発注情報の消し込み
による入荷検品
発注情報の消し込み
による入荷検品
受領書回収後
バッチ処理
時 期 時 代 テーマ ITツール 仕入計上 在庫引当 売上計上
物流
ロジスティクス
SCM
アダプティブ
オペレーション
プロセス
サプライチェーン
ネットワーク
効率化
ロジスティクス最適化
サプライチェーン最適化
環境適応
マテハン機器/コンテナ
/輸送機器
ユニットロード/
自動化/改善
物流網再編/
シェアードサービス
VMI/CPFR/
カンバン
SCMの自動化
メーンフレーム/EDI
/バーコード
パソコン/インターネット
/無線技術
ユビキタス/ICタグ/
分散知能システム
月/日レベル
時/分レベル
リアルタイム
未来志向
IE/VE/OR
BPR/ABM
TOC
センス&レスポンス
管理コンセプト 管理対象 テーマ ツール 経営スピード 管理手法 主な施策
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