ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2006年3号
管理会計
バランスシートと部門別会計

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2006 80 SCM時代の 新しい 管理会計 資本効率を部門別に把握する 資本の有効活用がいわれている昨今、R OA、ROEなどの資本効率に関する指標 の経営目標値を掲げる上場企業が増えてき ている。
それに伴い、社内の個々の組織単 位でも、資本効率向上への貢献が求められ るようになってきている。
製造業であれば大 企業の事業部から、工場、部などの中間以 上の組織レベル、卸売業であればかなり規模 の小さな企業の課レベルまで、資本効率に 対する意識を持たせる必要が生じている。
部門別の資本効率向上への貢献を月単位 で把握する方法はい くつかある。
最も単純な のは、部門別収支を管理するための指標の うち、在庫日数、在庫回転率、売掛金日数、 買掛金日数など、バランスシート(賃借対 照表:B/S)の資産・負債の項に計上さ れる棚卸資産、売掛金、買掛金等に関わる ものを、部門の管理指標として設定する方 法である。
部門別に指標の目標値を設定し、月次の 数値をトレースし、改善状況を把握する。
広 く行われている方法ではあるが、これのみで は若干の問題がある。
このようなケースでは 往々にして経営目標からブレイクダウンした 指標目標値設定となっていないケースが多 いため、全社という観点でも、部門という観 点でも、資本効率向上への貢献度がわかり にくいのである。
損益計算書(P/L)の指標を部門別に 配賦して部門別収支を管理するのみではな く、バランスシートについても部門別に分け、 部門ごとに資本効率向上のための財務目標を設定することが望ましい。
分社化という方法 バランスシートを部門別に分ける方法には 様々なバリエーションがある。
その一つが、 バランスシートを部門別に完全に分割してし まうという方法である(図1)。
その典型的 な手段が分社化である。
もちろん、分社化 せずに社内事業部門別にバランスシートを分 けることも技術的には可能であるが、多大な 手間がかかるため、そうしている企業はほと んどない。
一九九〇年代中頃から日本の大手企業を 中心に採用されたカンパニー制も、バランス バランスシートと部門別会計 会社全体の業績目標を達成するには、部門別に収支を管理する必 要がある。
それと同様に、資本効率もまた、会社が目標とするRO AやROEを達成するために、部門別に把握しなければならい。
バ ランスシート上の資産や負債を各部門に適切に配賦するためのテク ニックを解説する。
第12回 梶田ひかる アビーム コンサルティング 製造事業部 マネージャー 81 MARCH 2006 シートを部門別に分ける方法の一つといえる。
カンパニー制は、従来の事業部という形では 全社経営数値向上への意識が十分には喚起 されないことから、P/L、B/Sともはっ きりと分けてしまおうという考えに基づいて 導入された。
もっともカンパニー制は、現在ではその問 題点が多く指摘されている。
米国では、カン パニー制を導入した結果、それぞれのカンパ ニーが個別最適を追求してしまうようになり、 グループ全体としての最適化が阻害されたこ とから、比較的早い段階で下火となってし まった。
日本では逆に、カンパニー制を導入した も のの、期待したほど各事業部門の経営効率 への意識の喚起が進まなかったことに加え、本社機能のあいまい化、権限の分散に伴う グループ全体最適検討・推進機能の弱体化 などが発生し、やはり下火となっている。
ここで指摘される問題点は、カンパニー制 に限った話ではない。
本誌の読者にとって身 近な物流部門の分社化でも同様の問題の発 生しているケースは散見される。
バランスシートを部門別に分ければ、自動 的に部門の経営効率向上への意識が喚起さ れるわけではない。
分社化しなくても部門の 経営効率向上への意識を喚起することは可 能 である。
一方で分社化した方が良いケー スもある。
実際、分社化したことによりグル ープ全体の経営効率向上が推進されたケー スも多い。
この成否を決定する要因は事業 間の関連性、組織間の機能や権限の配置、人 材、組織知能など多岐にわっている。
翻って考えてみると、バランスシートは大 きく捉えれば責任部門が明快である。
お叱 りを覚悟で単純化して言えば、次のような構 造になっている。
まず資産の部は、それぞれの事業部門が 責任を持っている。
事業部門は資産を活用 することで、財務 部門が調達してくる金利 以上の利回りで利益をあげる必要がある。
負 債の部と資本の部は、主に財務部門が管轄 する。
事業部門が利益を上げるのに必要な 資金を調達するのが財務部門の役割である ( 図2 )。
このように考えれば、事業部門が責 任を持つ必要があるのは資産の部だけである。
資産だけを分解すれば、部門会計への経営 効率貢献度評価の組み込みのベースは整う ことになる。
資産を部門別に分解する 資産を各事業部門に配賦して管理してい 図2 バランスシートの責任部門 事業部の 責任範囲 財務部門の 責任範囲 いかに資産を 活用し多くの 利益を生み 出すか 事業に必要 な資金をい かに調達す 資産の部 るか 資本の部 負債の部 賃借対照表 図1 財務会計と部門別会計 全社財務諸表 B/S B/S P/L P/L 事業A財務諸表 事業B財務諸表 事業C財務諸表 事業D財務諸表 P/L P/L P/L B/S B/S B/S MARCH 2006 82 る企業は少なくない。
特に企業規模が大き く、事業部制を採用している場合には、資 産についても事業部門別に分けて捉えるの が一般的だ。
ただし、この場合でも全ての資 産を事業部門別に配賦するわけではない。
部門評価という観点で分けるべき資産は、 その部門が明確に使用しているといえるもの、 その部門が自らの責任と権限の範囲でその 資産の増減を管理できるものだけで十分で ある。
明確に使用している資産には、例えば ある事業部だけで使用している工場や生産 設備 があげられる。
自らの責任と権限の範 囲で増減できる資産には、売掛金や棚卸資 産がある。
このようなことから、事業部制を採用して いる企業では、資産を便宜的にいずれかの事 業部に配賦しているケースでも、それより小 さい単位の部門に配賦する場合は関連のあ る資産のみに留めていることが多い。
事業部 制では事業ごとの経営効率を可能な限り全 社経営効率と直結する形で正確に把握する 必要があるため、その方が望ましいのである。
一方、小規模な部門まで資産を分け、 経 営効率を把握しているケースが多いのは流通 業である。
特に売掛金や棚卸資産は、営業 課のレベルまで分けているケースが散見され る。
在庫については営業所や支店別に仕入 れが行われていることから責任が特定しやす いこと、売掛金についてはさらに担当営業ま でに責任が特定しやすいことが、その背景に ある。
流通業の多くの事例が示すように、現状 のITでは、責任部門が明確な資産は、部 門別に配賦することは容易なのである。
部門 別配賦に悩むような資産は、逆に責任があ いまいであることが考えられる。
配賦を検討 する以前に、増減のメカニズムを明確化し、 権限と責任の範囲を明確化することが必要 であろう。
部門別収支に資産を組み込む 先に述べたように、資産は部門別に分け るだけでは十分ではない。
それぞれの部門が 全社レベルの経営効率向上に向けて動くた めの仕組みや、それぞれの部門の改善レベル や問題発生を早期に把握できるような仕組 みを同時に作る必要がある。
そのような仕組みとして比較的広く採用 されているものに、資産の部門別収支への組 み込みがある。
資産をコストに換算して部門 別月次収支に組み込むのである。
資産のコスト換算方法にもバラエティー がある。
日本企業が採用している代表的な ものとして、以前に本連載でも紹介した負 図3 企業で使用している在庫保有コスト率 50-54 45-49 40-44 35-39 30-34 25-29 20-24 15-19 10-14 5-9 1-4 0 未使用 (%) 2.2% 2.2% 2.2% 2.2% 0.0% 0.0% 6.5% 6.5% 10.9% 10.9% 21.8% 21.8% 0% 5% 10% 15% 20% 25% 企業における在庫保有コスト率実態 企業数 資料:IOMA“Inventory Management Report January 2005” 13.0% 図4 在庫保有コストの構成要素 0% 20% 40% 60% 80% 100% 在庫保有コストの構成要素 回答企業数(資本コスト=100%) 100.0% 57.6% 50.0% 42.3% 42.3% 30.7% 26.9% 15.4% 34.6% 11.5% 7.7% 3.8% 3.8% 3.8% 3.8% 3.8% 資本コスト 陳腐化・廃棄 スペース 税 保険 人件費 荷役費 保管 間接/配置 機器 機会損失 減価償却 インフレーション 再加工 サービス費 梱包機器 資料:IOMA “Inventory Management Report January 2005” 83 MARCH 2006 債資本コストや、社内で取り決めた金利、W A C C ( Weighted Average Cost of Capital )などを用いてコスト換算するとい うものがある。
資産のタイプによって、どの金利を用いる かを分けている企業もある。
たとえば売掛金 は負債資本コストをベースとした社内金利 を用いてコスト換算しているケースが多いし、 生産設備はそれより高い社内金利を用いて いるケースが見られる。
在庫保有コストの活用 そのような金利の一つに、在庫保有コス ト(Inventory Carrying Cost )がある。
責 任部門別に分けた在庫金額に、社内で取り 決めた在庫保有コストの率を乗じて、その部 門のコストとするのである。
この在庫金利は、日本に物流コスト概念 が導入された初期の頃から紹介されていた。
そのことが示すように、この方法は米国では 従来から広く用いられている。
米国IOM A(The Institute of Management & Administration )の行った調査では、回答企業 のうち実に八割近くがこの在庫保有コストを使っている。
また使用している利率も、な かには五〇%という企業もある( 図3 )。
施策の効果を検討する場合の在庫保有コ ストの計算は、在庫を持つことにより発生す るコストをなるべく厳密に算定する必要があ る。
しかし月次収支に組み込むために用いる 在庫保有コストはそれとは若干、性格が異 なる。
月次収支に組み込む在庫保有コストは、部 門毎の責任を明確にするためのものである。
そのためP/Lのどこまでを、どの部門で責 任を持つかによって、組み込まれる範囲が異 なってくる。
また、それぞれの部門を全社最 適に向けて動かすためのテコとするものであ るから、厳密に計算したものとは意図的に異 なる値にすることもある。
何をベースに在庫保有コストの利率を決 定しているかを調査したものが( 図4 )であ る。
在庫保有コストを採用している企業が 共通して用いているのは資本コストだけであ り、その他は会社によってかなりの違いがあ る。
在庫金利の利率の決定要素にも、施策 の効果を検討する時とは違うものが入ってい る。
(図4で要素 として挙がっている項目の なかには、耳慣れないものや意味がわからな いものもあるかもしれないが、それの説明は 今号ではご容赦いただきたい) 繰り返すが、部門別収支において大切な ことは、厳密に算出することではなく、それ ぞれの部門が全社最適に向けて動くように することである。
組織管理の手段として会計 を用いるのが管理会計であり、その思想は財 務会計とは異なるのである。

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