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MARCH 2006 88
軽トラ屋は見た! 荷主業界の裏事情
軽トラ屋をやっていると、荷主の裏事情を否応なく見
聞きすることになる。 コンドームの横持ち輸送やヤキソ
バのリサイクル、イカサマ道具の製造現場などなど。 普
通の人はまず知らない、ディープなサプライチェーンの
一端をご紹介しよう。
第7 回
ラブホテルにも予想外に儲かる日というのがあるらしい。 予想していた以上に客が多く、
しかも休憩ばかりで回転の早い日がそれだ。
そんな日にコンドームの在庫が底をつくこと
がある。 ホテルのスタッフがウッカリ在庫を
切らしてしまうことも実は少なくない。 そう
なるとラブホテルの営業はどうなるか? 客
がいるのに入店させられなくなってしまう。
実際、空室があるのに、コンドームがないた
めに、満室の表示を出すホテルもあるという。
商売あがったりだ。 経営的にはあってはなら
ない事態である。
ところでラブホテルには一人のオーナーで
複数の店舗を経営しているところが多い。 チ
ェーン化しているところもある。 この手のラ
ブホテルでは、ある店舗において在庫
切れが
迫ると、同系列の別の店からコンドームを横
持ち輸送することになる。 もちろんドラッグ
ストアから調達しなければならない場合もあ
る。 いずれにせよ緊急調達だ。
そんな時に「ねぇ軽運送屋さん、急ぎでコ
ンドーム運んでよ」と、我々に出番が回って
くる。 ラブホテルは二四時間営業。 昼でも夜
でもお構いなしに連絡が来る。 実際、オイラ
自身、これまでコンドームの緊急輸送を何度
もこなしてきた。 どれもいい思い出だ。
コンドームは軽くて小さい。 運ぶ量の多い
時でも、一回の輸送量はすべて助手席にのっ
てしまう。 楽な仕事だ。 それでも急送なので
運
賃は一万円。 それだけかけてもカップル一
組の休憩料四〇〇〇円×一〇組イコール四
万円の儲けがゼロになってしまうよりはマシ
というわけだ。
こんなこともあった。 あるヤキソバ工場で
のことだ。 パック詰めされた蒸しヤキソバを、
某スーパーからヤキソバ工場に届けて欲しい
という依頼だった。 工場に到着し、担当サン
に荷物をどこへ置くべきか尋ねると、製造ラ
インの先頭に置くよう指示された。 私が指示
通りの場所へパック詰めの蒸しヤキソバを置
くと、すぐさまパートのオバチャンたちが手
でパックを開け始めた。 そして中身を製造ラインの先頭から投入するのだった。 私が運ん
だヤキソバは賞味期限が切れていた。 それが
ラ
インの下流へと運ばれ、新たなパックに詰
め直される。 その瞬間、賞味期限切れヤキソ
バが、賞味期限内ヤキソバに生まれ変わった。
これは、もしかしたらリサイクル時代にふ
さわしい、資源を大切にする姿勢なのかもと、
その光景を感心して眺めていると、工場の人
が「ああ、あれはリパックだよ」と教えてく
れた。 そんな用語があるなんて私はそれまで
知らなかった。 ちなみに別の食品工場では、
「リパック」を「再梱包」と呼んでいた。 こ
うした荷主業界の裏事情を、オイラのような
軽トラ屋は否応なく見聞きする
『実録・軽トラ1台で
年収1200万円稼ぐ』
(かんき出版、税別価格一四〇〇円)
あかい・けい 1989年に軽運送業を開
業。 2004年に『実録・軽トラ1台で年
収1200万円稼ぐ』(かんき出版)を上梓。
これをきっかけにフランチャイズに頼ら
ない手作り開業希望者や開業者を対象に
日本軽運送学校で講義も開始した。 他に、
ハイウェイカード、テレカ、切手、株主
優待券、商品券等を来店不要で通信買取
する渡辺サービスを運営している。
電話番号:0120-295-121
http://www.ticketshop.jp/
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定。 乞うご期待!
89 MARCH 2006
妙な機械を運んだこともある。 それはバブ
ルの真っただなかだった。 精密機械を工場か
ら千代田区の商社に運ぶ仕事だと聞いて荷
物の引取場所に言ってみたところ、白っぽい
粗末なプレハブ小屋が建っていた。 中に入る
と、人の良さそうなおじさんが、半田ゴテを
握っていた。 おじさんは私に、「ちょっと手
が離せないから待っててね」と言う。
工場内で立ちっぱなしで待っていると、自
然と工場内の様子が目に入ってくる。 工場
内にはおじさんのほかに、パート風のおばさ
んがいた。 おじさんはおばさんに「動作はオ
ーケーか?」と連発
していた。 何かの検査を
急かしているようだ。 おばさんがコタツテー
ブルのような板の上にサイコロを乗せた。 手
にはスイッチのたくさんついたリモコン装置
なようなボックスを持っている。 おばさんの
目線は、ボックスのスイッチとサイコロとを
行ったり来たり。 おばさんがスイッチに触れ
ると、その瞬間にサイコロが勝手に動き出す。
それを確認して、おばさん「動作してるわ
よ」とおじさんに返事。
すると、おじさんは「5」、「6」、「4」と
次々に数字を叫ぶ。 それに合わせておばさん
がスイッチを入れる。 そのたびにサイコロが
生きているみたいに動く。 おばさんが「動作
は一致してるわよ」と伝えると、おじさんは
「検査合格だ。 棚へしまえ」と指示した。
おじさんの仕事はまだ終わらなかった。 工場
内にボロボロのジュースの自販機があった。
その自販機の一〇〇〇円札が入る部分を分
解し始めた。 ワキにはテーブルゲーム機があ
った。 おじさんは自販機から取り出した紙幣
投入部分をゲーム機に付け替えた。 あざやか
だった。 半田ゴテや工具を駆使するおじさん
の手つきは、まさに職人芸そのものだった。
謎の静脈物流
取り付けが終わると、おじさんはテーブル
ゲーム機にお札を吸い込ませた。 すると軽快
な音楽が流れ出し、ゲームがスタートした。
しばらくおじさんはゲームに興じていた。 ど
うやら勝利したようだった。 ゲーム機から流
れる高らかな音楽と、おじさんの会心の笑顔
でそれが分かった。 ゲーム機からは大量のお
札が吐き出されていた。 それを見て、おじさ
んは一人で「動作オーケー」とつぶやいた。
そしておじさんは顔を上げ、私に「これ運ん
で」というのだった。
おじさんと一緒に、そのファンキーなゲー
ム機を軽トラの荷台に積み、指示された千代
田区の商社に向
かった。 商社をたずねると、
オフィスのなかはネズミ色の机が六台並べら
れ、電話が一台だけポツンと置いてある。 そ
れ以外は何もない。 そこに年配のおじさんが
一人ですわっていた。 「ああ、その荷物はコ
コじゃなくて別のところへ届けてほしいんだ。
ここから先の運賃は別途かかってもいいよ。
もちろん支払いは現金だ」という。 ただし到
着する直前に先方に電話を入れろとのこと。
指定された届け先は新宿区歌舞伎町だっ
た。 少しビビった。 しかし歌舞伎町に着いて
電話をかけてみると、迎えに来たのは、年寄
りの世話でも似合いそうな優しそうなキャラ
の人だ
った。 彼に案内されて、荷物とともに
ビルの一室に向かった。 入口のドアには、か
なり堅い業種を連想させる会社名の表札が
出ていた。 迎えに来た彼とテーブルゲーム機
を中へ搬入する。 ドアを空けるとせまい通路
で、その先には事務机ひとつとパイプイスが
並んでいる。 一見、普通のオフィスだ。 しか
し最終的な届け出先は、その奥のパーテーシ
ョンで仕切られた先にある部屋だった。 案内
人が奥の部屋のドアを開け、オイラは荷物と
ともに通された。
ゲームセンターのようだった。 配達で持っ
てきたテーブルゲーム機と同じ
機械が、一五
台以上も並んでいた。 各台にイスが一つずつ。
半分近くの台に客が座っている。 客は皆、猫
背になって画面を食い入るように見つめてい
る。 「夢中!熱中
! !
専念中
! ! !
」というオー
ラが、その姿からひしひしと伝わってきた。
これにて配達は終了。
世の中にはホントに色んな荷物がある。
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