ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年3号
現場改善
建材卸M社の物流アウトソーシング

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

57 MARCH 2006 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 アウトソーシング以前 建築資材卸のM社は北関東に本社を置く年商 約六〇億円の中堅企業である。
取り扱い商品は サッシやガラス、窓枠などといった資材が中心 で、県内とその周辺に五カ所の営業所を構えて いる。
現在の社長で三代目という老舗で、オー ナー一族は地元の名士に数えられる。
M社のS社長はホームページの検索エンジン で我々日本ロジファクトリー(NLF)の存在 を知ったとのことであった。
実際にお会いする と、S社長は物腰の柔らかな紳士的な人物で、 我々への応対も丁重だった。
その人柄や社内の 様子から、我々は伝統の重みとも呼べるような 雰囲気を、M社から感じたのだった。
S社長からの相談は、物流業務のアウトソー シングであった。
「当社は今まで?物流〞という ものを営業活動の付帯業務としか考えていなか った。
そこにメスを入れて、新しい物流の仕組 みを作りたい。
それによってコストダウンを図り たい」というのがS社長の要望だった。
それまでM社では全ての営業所にストックヤ ードを併設し、正社員がハンドルを握って商品 を届けていた。
しかし、この体制では営業拠点 を 増設するたびに、営業や管理だけでなく、物 流機能まで構築しなければならないため、拠点 展開がどうしても重たくなる。
そこで営業拠点 ごとに分散していた物流機能を一カ所に集約し、 業務自体をアウトソーシングできないかという 話だった。
我々に相談する前に、物流をどのよ うな方向に持っていくかについて、M社の社内 で話し合ったが、やはり専門家の意見も聞いて みようという結論に達したとのことであった。
本連載でも既に何度かとりあげているが、こ のM社も含めて最近「白ナンバー」の自家用ト ラックを使った物流を改善したいという相談が 増 えている。
相談依頼者の多くは卸・問屋であ る。
「問屋無用論」の再来なのか、はたまた人手 不足・少子高齢化による自社物流の限界なのか。
いずれにせよ中間流通業者の伝統的な自家物流が、何らかの警告を発し始めていると私は感じ ている。
さて、こうして我々NLFは簡易診断という 形でM社の調査に入った。
まずは現場を視察し て、定性的な調査を行った。
五カ所ある営業所 はそれぞれ約一三〇坪〜一六〇坪程度のストッ クヤードを持ち、在庫品を保管している。
これ らの在庫の保管は出荷頻度分析によ るABC管 理はもとより、基本的な整理整頓さえままなら ない状態であった。
中には返品された商品を山 積みして放置している営業所もあった。
現場に は物流概念はおろか商品を?お金〞として見る意 識自体がなかった。
配送車両の運営状況も同様だった。
配車表や 第38回 各営業所がそれぞれ物流機能を備えた商物一体の体制では、拠 点展開のスピードが遅くなる。
物流機能を営業所から切り離して 一カ所に集約し、アウトソーシングできないか。
経営者はそう考 えた。
しかし現場は、アウトソーシングする以前に片づけなけれ ばならない課題が山積していた。
建材卸M社の物流アウトソーシング MARCH 58 くなって逆効果に なる。
単にコスト だけの問題ではな く、例えば受注締 切時間後の緊急出 荷には対応できな いなどの制約がで きることで、物流 に合わせて営業し なければならなく なる、といったよ うな失敗例を我々 はいくつも見てき た。
M社には、その 「管理」する機能が なかった。
我々は このままではアウ トソーシングは不 可能だと判断した。
やや遠回りに思え ても、まずは社内 の物流管理機能を 整備する必要があ る。
そして自社物 流を一定のレベル で運営管理する体 制 ができあがって から、アウトソー シングを実施する ように、S社長と 幹部に提案した。
配送スケジュールというものはなく、それぞれの 配送員たちが勝手に判断して積み荷や納品先を 決めていた。
ある営業所では我々が調査を行っ ている約一時間半もの間、本社から回ってきた トラックが停止したままであった。
この現場視察と並行して、定量的調査として トータル物流コストの算出を行った。
過去二カ 月間の実績データを分析した結果、M社の全社 合計の対売上高物流コストは一七・八%であり、 卸・問屋業としても非常に高い数値であ ること が分かった。
これを営業所別に見ると最も対売 上高コスト比率の低いD営業所が一五・八%。
最も高いB営業所が一八・五%という結果だっ た。
もともとM社は配送員の賃金水準が高く、人 員も多い。
それに加え、営業担当者であっても、 実際には配送や物流作業に多くの時間を割いて いて、新規開拓やメニュー拡大、提案営業など、 営業担当者が本来行うべき仕事が後回しにされ ていた。
それが高コスト物流の原因であった。
この結果にS社長が強い関 心を示したのは当 然であった。
物流のみならず営業にもメスを入 れる必要があった。
もっともM社でなくても、中 間流通業の物流改善では、大半が営業改善と連 動する。
M社は決して珍しいケースではないの である。
労務管理に大ナタ 物流アウトソーシングの基本は「管理」は自 社、「運営」は外部である。
自社で「管理」でき ない、「管理」しない、いわゆる「丸投げ」は 後々、協力会社のコストコントロールが効かな 稼働人数/日 管理者 男子社員 女子社員 パート・アルバイト 小計 支払運賃(チャーター) 支払運賃(路線便) 支払運賃(メール) 支払運賃(立替) 小計 外注加工費(A商品) 外注加工費(B商品) 外注加工費(C商品) 材料費(社内) 材料費(社外) 小計 支払保管料 自社倉庫費 倉庫内機器費 リース料 在庫金利 小計 情報処理費 事務消耗品費 通信費 小計 水道光熱費 その他雑費 廃棄物処理料 小計 売上高 (A商品) 売上高 (B商品) 合計 在庫高 (A商品) 在庫高 (B商品) 合計 A商品在庫/売上比 B商品在庫/売上比 合計 A商品 B商品 合計 加工先請求分 梱包・包装・資材 0.15% 固定電話+PHS 基礎データ 物流業務構成比 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 合計 月平均 構成比率 支払物流費合計 支払物流費比率 支払物流費変動指数 1,195 1,368 1,487 1,014 711 1,639 1,721 3,253 1,929 2,463 2,012 1,906 20,698 3.0% 3.3% 4.0% 2.1% 2.7% 1.7% 4.1% 6.4% 4.9% 3.1% 3.5% 2.8% 3.3% 0.69 0.79 0.86 0.59 0.41 0.95 1.00 1.89 1.12 1.43 1.17 1.11 12.00 408 410 406 1,055 298 318 302 441 498 309 838 309 5,592 466 434 391 328 341 231 256 356 306 306 339 269 344 3,901 325 302 263 290 340 232 301 348 291 301 331 272 270 3,541 295 502 452 447 455 375 410 607 483 645 647 551 587 6,161 513 1,646 1,516 1,471 2,191 1,136 1,285 1,613 1,521 1,750 1,626 1,930 1,510 19,195 1,600 34.55% 55 55 5 204 361 401 389 446 533 655 577 714 601 771 655 6,307 526 16 23 23 25 28 19 24 32 145 160 87 582 49 23 28 56 200 307 26 227 405 424 412 471 617 674 801 746 801 931 742 7,251 604 13.05% 141 300 236 1,538 4 618 544 524 3,905 325 182 172 163 149 63 108 210 110 129 149 66 69 1,570 131 500 25 240 157 322 223 145 1,612 134 275 310 300 286 77 578 645 464 779 3,714 310 44 14 14 47 119 10 642 796 963 435 140 922 880 2,352 1,083 1,136 833 738 10,920 910 19.65% 100 100 100 100 100 100 100 100 100 348 248 248 1,744 145 513 513 513 513 513 513 513 513 513 513 513 513 6,156 513 488 488 488 488 488 488 488 488 488 488 488 488 5,856 488 54 54 54 54 54 54 54 54 54 54 54 54 648 54 70 76 67 83 80 149 187 187 179 210 185 150 1,622 135 1,225 1,231 1,222 1,238 1,235 1,304 1,342 1,342 1,334 1,613 1,488 1,453 16,026 1,336 28.84% 0 0 0 0 21 14 14 19 20 20 21 20 17 20 19 16 221 18 21 14 14 19 20 20 21 20 17 20 19 16 221 18 0.40% 103 108 77 86 109 121 133 52 100 75 103 99 1,166 97 0 0 226 67 67 67 178 178 783 65 1.41% 329 175 77 153 109 121 200 52 100 253 103 277 1,949 162 9.42% 4,090 4,137 4,171 4,448 3,111 4,269 4,730 6,088 5,030 5,449 5,304 4,736 55,562 4,630 100.00% 10.4% 10.1% 11.3% 9.2% 11.8% 4.3% 11.2% 11.9% 12.7% 6.8% 9.2% 6.9% 8.8% 8.8% 30,059 27,306 24,196 31,602 17,854 41,900 14,608 28,893 28,065 26,646 31,023 34,459 336,611 28,051 9,369 13,760 12,586 16,652 8,477 57,066 27,741 22,250 11,595 54,014 26,540 33,982 294,032 24,503 39,428 41,066 36,782 48,254 26,331 98,966 42,349 51,143 39,660 80,660 57,563 68,441 630,643 52,554 39,834 41,754 35,584 30,636 27,804 65,837 85,045 84,431 80,659 106,155 93,356 75,531 766,626 63,886 6,730 8,750 9,179 24,465 25,671 33,227 39,646 40,032 38,952 33,524 29,887 24,756 314,819 26,235 46,564 50,504 44,763 55,101 53,475 99,064 24,691 124,463 119,611 139,679 123,243 100,287 1,081,445 90,120 1.53 1.47 0.97 1.56 1.57 5.82 2.92 2.87 3.98 3.01 2.19 2.28 2.28 0.72 0.64 0.73 1.47 3.03 0.58 1.43 1.80 3.36 0.62 1.13 0.73 1.07 1.07 1.18 1.23 1.22 1.14 2.03 1.00 2.94 2.43 3.02 1.73 2.14 1.47 1.79 0.15 1.07 0.97 0.86 1.13 0.64 1.49 0.52 1.03 1.00 0.95 1.11 1.23 12.00 0.38 0.56 0.51 0.68 0.35 2.33 1.13 0.91 0.47 2.20 1.08 1.39 12.00 0.75 0.78 0.70 0.92 0.50 1.88 0.81 0.97 0.75 1.53 1.10 1.30 12.00 合計 トータル物流コスト 人件費 配送費 加工費 保管費 情報処理費 その他 売上高 在庫高 在庫比率 季節波動 年間トータル物流コスト算出例 (単位:千円) 59 MARCH 2006 企業が少なくない。
M社もその例外ではなかっ た。
この問題で約一カ月間、プロジェクトはス トップした。
その間に何度も社長と会長の話し 合いが行われた。
それでも結局は当初の方針のまま改革は続行 されることになった。
最後はS社長の粘り勝ち だった。
この結果は我々には意外だった。
社長 が、父である会長を説得することができないた めに、改革案の変更を余儀なくされたり、ある いは改革自体が潰されるケースを、我々は過去 に何度も見てきたからだ。
しかしM社の場合は、 会長の子 離れと、S社長の独り立ちができてい た。
S社長の方針は五〇人の営業担当者を三五人 に削減。
少数精鋭化によって、従業員一人当た り三〇〇〇万円の生産性を三六〇〇万円に引き 上げるというものだった。
これに会わせて一五 人の営業担当者がグループのリフォーム会社に 転籍となった。
そのうち約半数は自主退職し、最 終的には八人が転籍を受け入れた。
S社長とし ても辛い判断だった。
物流コストを一八・二%削減 活動から四カ月後、正式に本社物流部が発足 した。
男性社員二人と女性アシスタント一人と いう体制だ。
しかし、器はできたものの新設部 署のため、車両の運行原価や得意先別の物流費 などの過去のデータが全くない。
そこで他社事 例から類推した数値や、決算書のデータを按分 することで、概算で基礎データを作成した。
こうしてさらに二カ月後、いよいよアウトソ ーシングに踏み切ることになった。
アウトソーシ 幹部たちの多くは、新たな仕事が増えること で日常業務に支障をきたす恐れがあると抵抗を 示したが、S社長は我々の提 示内容に合意した。
そしてすぐさまS社長の号令によって「物流管 理プロジェクト」と「営業力強化プロジェクト」 の二つが立ち上げられることになった。
「物流管理プロジェクト」のリーダーには人 事部長が任命された。
まず人件費にメスを入れ た。
それまで配送員は固定給プラス残業代とい う給与体系だった。
この固定給部分を二〇%下 げ、残業代を全廃。
その代わりに納品件数一件 当りの手当てを設定する歩合給制に切り替えた。
人員も削減した。
高齢の配送員を対象に希望 退職者を募り、二十一人の配送員を一七人に減 らした。
しかし繁忙 期の必要人員を考慮しても、 まだ人余りの状態であった。
そこで一七人の配 送員のうち、営業に適しているとみなされた二 人を営業担当に転属した。
一方、「営業力強化プロジェクト」はS社長自 らがリーダーとなった。
既存顧客数そして新規 開拓余力数から必要な営業員数を割り出し、サ ポート人員を二人在籍させるという考え方で営 業部門の適正人員を算出した。
さらに営業の業 務内容を抽出し、検証を行った。
検証結果にS社長は困惑した。
従来の営業員 数五〇人に対し、適正人員は三五人だった。
「こ れほどまでにムダがあったのか」とS社長は驚 くとともに、「これだけの人員削減をどうするか」 と頭を抱えた。
S社長の予想通り、実父である会長は人員削 減には反対で、雇用を守ることを強く望んでい た。
地場の老舗企業には雇用第一主義を唱える ングにあたって一つ懸念材料があった。
M社で 使用する車両は「ウマ」と呼ばれる荷台に三角 形のあて板を積載する建材輸送専用車両であっ た。
そこでM社の既存車両を協力会社に下取りし てもらうことを条件にした。
M社と我々とで物 流会 社を八社ピックアップし、五社が条件に応 じた。
さらに提案力と見積りの過程で二社に絞 られた。
最終的には双方の物流会社の現場視察 によって一社に絞った。
地元に本社を置く、メ ーカーの物流子会社だった。
子会社ながら外販 にも実績があった。
正式依頼を前提としてM社と協力会社のトッ プ会談を開き、M社の意向とそれに対する物流 会社の対応方針が確認して、契約書を締結した。
このアウトソーシングによってM社は、トータル 物流コストを一八・二%削減することができた。
現在、アウトソーシングの実施から三カ 月強になる。
今のところ、物流現場や得意先から大 きな問題は報告されていない。
しかし、一般に アウトソーシングの成否を判断するには、最低 六カ月間は経緯を見る必要がある。
我々は無事 運営されることを祈りながら、白ナンバー物流 の今後の方向性を探っていこうと思う。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチ ーフを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp

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