ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年3号
特集
インターネット物流 宅配便大手のB to C戦略

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MARCH 2006 14 B to Cが宅配便の主戦場に 日本の通販市場が急拡大している。
日本通信販売 協会(JADMA)の調査によると、二〇〇四年度 の通販業界全体の売上高は推計で三兆四〇〇億円と なった。
対前年度の伸び率は九・〇%で、九一年以 降の数値としては過去最高を記録したという。
さらに 二〇〇五年度もネット通販の浸透などが追い風となっ て、大幅な伸長が確実視されている。
通販会社は顧客向けの商品配送で主に宅配便を活 用してきた。
九八年時点で通販商品の宅配便利用は 年間にわずか一億個にすぎなかったが、それが市場の 拡大に伴い、現在では三億五〇〇〇万個にまで膨らん だ と言われている。
日本の宅配便取扱個数は年間約三 〇億個(日本郵政公社の「ゆうパック」を含む)。
実 に全体の一割弱を通販商品で占めている計算だ。
九〇年代後半に「日本の宅配便市場はすでに成熟 期を迎えており、取扱個数は近い将来、頭打ちにな る」と喧伝された時期があった。
ところが、そうした 見方に反して、宅配便市場はその後も高い成長率を 維持しながら拡大を続けてきた。
それを支えてきたの は他でもない。
通販商品の旺盛な宅配便ニーズだった。
実際、ヤマト運輸ではここ数年、「宅急便」におけ る通販 貨物の取扱個数が前年比二桁増のペースで推 移しているという。
「宅急便」誕生三〇周年を記念し て今年一月末に開かれた記者会見で、同社の小倉康 嗣社長は「当分の間、通販貨物の取り扱いが拡大す る傾向は続くだろう。
それが宅配便マーケットの成長 にも寄与する」との見通しを明らかにしている。
恩恵を受けているのはヤマトだけではない。
佐川急 便でも通販貨物の取扱個数は圧倒的な伸びを示して いるという。
同社は九八年に宅配便事業に参入して 以来、とりわけB to C市場の開拓に力を注いできた。
そ の結果、現在では宅配便全体に占めるB to Cの割 合を三〇%強にまで引き上げることに成功している。
B to Cのうち通販貨物の比率がどのくらいなのか。
同社はその数字を公表していない。
しかし、決済サー ビス「eコレクト」で契約を結んでいる会社が約一六 万社に達し、現在も月に数千社のペースで増え続けて いることから、B to Cのかなりの部分を通販貨物が 占めていることは間違いなさそうだ。
今後、日本の宅配便市場において、商業貨物のB to Bと、消費者から消費者に動く C to Cの需要は拡 大が期待できそうにない。
特にC to Cは人口減など を背景に下降に転じると目されている。
これに対して、 B to Cは将来性が高い。
通販貨物が成長の牽引役と なることが期待されているからだ。
これを受けて、宅配便各社はこれまでのB to Bや C to Cから、B to Cへと営業の軸足を移しつつある。
メーンのターゲットはもちろん、活発な荷動きが予想 される通販貨物だ。
配達や決済といったユーザー(通 販購入者)向けのサービスや、調達物流やセンター運 営など荷主企業(通 販会社)向けのサービスを拡充す ることで、通販貨物を囲い込もうとしている。
荷受け人側を重視するヤマト ヤマトは「宅急便」のネットワーク力、とりわけ配 達対応力の高さを売りにB to C市場の開拓を進めて いく方針だ。
通販ユーザーが「宅急便」を利用する際 に、ストレスを感じることなく、商品を荷受けできる ようにする。
その結果、通販ユーザーの配達に対する 満足度が高まって「宅急便」が支持されるようになれ ば、通販会社はおのずと商品発送で「宅急便」を選 択せざるを得なくなる、という発想だ。
宅配便大手のB to C戦略 宅配便市場の拡大が続いている。
それを支えているのは ネット通販をはじめとするBtoCの物流需要だ。
BtoBや CtoCの宅配貨物が縮小傾向にある中で、宅配便各社は今 後の成長が期待されるBtoCを取り込もうと熾烈なサービ ス競争を繰り広げている。
(刈屋大輔) 第2 部 ヤマト運輸/佐川急便/日本通運/日本郵政公社 15 MARCH 2006 近年、宅配便のユーザーは配達部分でのサービスの 優劣で利用業者を決める傾向が強まっている。
米系 調査会社「J・Dパワー アジア・パシフィック」が 毎年実施している「宅配便顧客満足度調査」による と、ここ数年は宅配便の顧客満足度を構成する要素 (ファクター)として「配達対応力」のウエートが高 まっているという(図1)。
ヤマトが配達に重点を置 くのはこうした顧客ニーズの変化が背景にある。
現在、宅配便ユーザーから高い評価を受けているサ ービスの一つに「配達時間帯指定」がある。
このサー ビスは文字通り、宅配便の配達時間帯を自由に選べ るというものだ。
時間帯は「午前中」と 、午後が二時 間刻みで計六区分に設定されている。
ヤマトが先行し、 その後、佐川が追随。
昨年十一月には日通が二時間 刻みに踏み切ったことで、「配達時間帯指定」のサー ビス水準は三社横並びの状態となっている。
ただし、現実にはヤマトが一歩前に出ている。
二〇 〇四年十一月に「ドライバーダイレクト」という新サ ービスを開始したからだ。
このサービスは各地域の担 当SD(セールスドライバー)が持ち歩く携帯電話の 番号を開示。
荷受け人は直接SDに電話を掛けるこ とで、配達時間などを調整できる仕組みだ。
例えば、事前に配達 時間を午後二時〜四時に設定 していたとしよう。
ところが、急用が発生して午後三 時には自宅から離れなければならなくなってしまった。
しかし、その場合でもSDに直接電話で連絡を取るこ とで、午後三時までに配達を済ませてもらったり、帰 宅後の配達に切り替えてもらうことが可能になる。
ヤマトがこうしたきめ細かな対応を実現できるよう になったのは「宅急便」ネットワークの密度が濃くな り、SD一人当たりの担当エリアが狭くなったためだ。
政令指定都市を中心に「サテライト」と呼ぶ小規模デ ポの設置を進めてきたことで、ヤマトの拠点数は現在、 およそ三二〇〇カ所にまで増えている。
その結果、理 論上では各拠点から約四分で日本中のどんな顧客に もアクセスできる体制が整っているという。
もっとも、ヤマトは現状に満足していない。
「お客 さんは二時間区分という現行のサービスレベルに納得 していないかもしれない。
一時間にしてほしい。
そし てゆくゆくはオンタイムでのデリバリーが求められる 可能性もある」と碇清史取締役常務執行役員は説明 する。
ヤマトでは二、三年以内に拠点数を五〇〇〇カ 所まで拡大。
顧客にさらに近づくことで、配達の利便 性を高める計画を打ち出している。
ただし、利便性を追求するあまりに「宅急便」のイ ンフラが重くなりすぎることはヤマトにとって大きな リスクになりかねないと危惧する声もある。
拠点を増 やせ ば、その分ネットワークを維持するためのコスト も膨らむ。
それに見合うだけの取扱個数と収入の上積 みがなければ、収益性が低下する恐れがあるからだ。
「宅急便」の平均単価は年に一〇〜一五円のペースで 下落を続けている。
配送料金のボリュームディスカウ ントが適用される通販貨物の「宅急便」全体に占める 割合が高まれば、単価の下落幅はさらに大きくなる可 能性も否定できない。
それでも「拠点が増えることでSD一人当たりの担 当エリアが狭くなれば、SDの生産性が上がる。
それ によってサービスレベルが上がれば、顧客満足度が高 まって宅急便の利用が増え る。
取扱個数と収入は着 実に伸びていく」と碇常務。
重いインフラを抱えても、 高い収益性を確保することに自信を深めている。
航空便で需要創出を狙う佐川 一方、佐川急便はヤマトとは異なるアプローチでB 顧客直送のロジスティクス 2005年 出典:J.D.POWER ASIA PACIFIC 受付対応 42% 配達対応力 32% 費用 16% 扱い荷物 対応力 10% 再配達対応力 29% 受付対応 35% 配達対応力 34% 費用 18% 受付時間 扱い荷物 4% 対応力 9% 配達員 43% 荷物の扱い 28% 配達員 41% 再配達対応力 33% 荷物の扱い 26% 図1 顧客満足度構造の変化 2004年 発 送 受け取り 「配達対応力」「再配達対応力」ファクターのウェートがやや高まっている 「宅配便顧客満足度調査2005 年 (個人市場編)」調査設計 対象 過去半年間に宅配便サービスを利 用し、宅配貨物の発送と受け取り を行った一般男女(20 〜 69 才) 地域 全国 ※島嶼部を除く 手法 郵送調査 抽出方法 調査パネルから抽出 規模 1,573 サンプル 調査時期 2005 年9 月22 日〜 10 月18 日 ヤマト運輸の碇清史常務 MARCH 2006 16 to C市場を攻めている。
ヤマトが「宅急便」という パッケージ化された物流システムに通販貨物を当ては めるという戦略であるのに対し、佐川は個々の通販会 社のニーズに合わせた情報システムや物流システムを 構築できるカスタマイズ力を武器に、より柔軟性のあ るサービスを提供することで差別化を図っている。
B to C拡大の原動力となった決済サービス「eコ レクト」には新たな付加価値をプラスする計画だ。
同 サービスはもともと業界で唯一、玄関先でのクレジッ トカード決済が可能なサービスだった。
ところが、昨 年七月にヤマトが「宅急便コレクト」を通じて同様の サービスをスタートさせたことで、両社の決済メニ ュ ーには差がなくなってしまった。
そこで現在、佐川で は新たに「eコレクト」の利用者にポイントを付与し たり、低金利でのリボルビング払いを可能にするとい ったファイナンス機能の提供を検討している。
「eコ レクト」の訴求力を再び高めるのが狙いだ。
グループ傘下の「ギャラクシーエアラインズ」が今 年六月をめどに「北九州〜羽田」間で貨物専用機の 運航を開始するのに合わせて、九州地区における通販 貨物の新規開拓も加速する。
「九州には物流上の制約 があったため、通販を諦めていた事業者が少なくない。
貨物機の投入で九州〜東京間の翌日配送化を実 現す ることで、例えば生鮮品のように、これまで眠ってい た通販需要の掘り起こしが可能になる。
自社で貨物 機を飛ばしても十分にペイできるだけの貨物は集めら れる」と若佐照夫常務は説明する。
もともとB to Bから出発し、その後B to Cに守備 範囲を拡げた佐川にとって課題の一つは、C向けの配 達対応力を強化することにある。
「宅配便顧客満足度 調査」によると、「受け取り」に対する総合満足度は ヤマトが六五五ポイントであったのに対し、佐川は六 一五ポイントと大きく水を あけられている(図2)。
今 後、B to C市場で競争を優位に進めていくためには、 この差を埋めていくことが絶対条件となる。
現在、ヤマトは三二〇〇拠点で「宅急便」のネット ワークを形成している。
これに対して佐川はおよそ三 〇〇拠点で全国をカバーしている。
拠点数はヤマトの 一〇分の一程度だ。
「現状を是認するつもりはない。
た だし、三〇〇〇とか五〇〇〇という数字が必要かとい えば、答えはノーだ」と若佐常務。
同社では拠点を設 置することが必ずしも顧客満足度の向上に直結すると は考えていない。
拠点の設置で解決 できる問題、そし て集配車の配備で解決できる問題をきちんと見極めた うえで、適切な手段を講じてB to Cのネットワーク を作り込んでいくという。
今年二月にはネットワーク戦略の新たな試みとして 新型集配車の導入をスタートした。
ワンボックスタイ プの集配車に通信機能を有した車載パソコンを搭載。
それによってSDは営業店の業務システムに車内から 直接アクセスできるようになった。
さらに集配車には 荷物のサイズを自動計測する機器も積み込んでいる。
この新型集配車のコンセプトは「動く営業店」だ。
街中を走り回る集配 車に営業店としての機能を持た せることで、営業店と顧客との距離を縮めるのが狙い だ。
拠点は少ないが、その代わりに集配車を前線に数 多く配備する広域集配体制を敷く佐川は、こうしたア イデアを通じてヤマトに比べ遜色のないB to Cネット ワークを確立しようとしている。
3PL型の受注を目指す日通 年間に約三億五〇〇〇万個の「ペリカン便」を扱 う日本通運では、海外調達から受注、センター運営、 配送までを一括で提供できる総合力を武器に、通販 参考 2004年 619 640 610 590 577 572 579 受け取り 総合満足度 ヤマト運輸 佐川急便 郵政公社 日本通運 福山通運 西濃運輸 宅配便全体 利用宅配事業者 631 631 644 638 609 605 664 645 655 615 598 598 574 550 参考 2004年 627 641 615 604 610 625 926 発送 総合満足度 図2 宅配事業者別総合満足度 ※福山通運、西濃運輸は少サンプルのため参考値 出典:J.D.POWER ASIA PACIFIC (1000点満点) 17 MARCH 2006 貨物の囲い込みに成功している。
ペリカン・アロー部 の及川俊一商品開発専任部長は「もともと自前で物 流センターを運営していた通販会社がアウトソーシン グを検討するようになってきた。
最終的な配送までの 物流業務全体をトータルでコントロールしてほしいと いうニーズも増えている」と説明する。
アウトソーシングの場合、従来は受注〜配送までを 一社にすべて委ねるかたちが主流だった。
しかし最近 では、全体の管理こそ3PLに任せるものの、センタ ー運営はA社、配送はB社といった具合に、実務部分 の委託先を使い分けるケースが出始めている。
物流業 者には業務によって得意不得意がある。
通販会社は、 ユ ーザーに対して常に高いレベルの物流サービスを提 供するため、機能別の使い分けに踏み切っている。
こうした志向が強いのはとりわけ外資系通販会社だ という。
実際、書籍ネット通販を展開するアマゾンは もともと物流業務を日通に一括で委託していたが、そ れを配送部分で日通と佐川の二社を使い分ける体制 に改めた。
「いずれ日本の通販会社も追随し、外資の ように3PL型のアウトソーシングに移行していくだ ろう」と及川部長は見ている。
これを受けて、日通も戦略の見直しを迫ら れること になった。
今後は自社の物流インフラにこだわらず、 他社の物流機能の活用も視野に入れた提案営業でB to C市場の開拓を進めていく計画だという。
足りない機能を提携で補完する郵政 これまでユニバーサルサービスの制約から企業向け サービスには手が付けられなかった日本郵政公社もB to Cシフトに本腰を入れている。
昨年は大手百貨店 の大丸の子会社で発送代行を手掛けるアソシアを買 収、今年に入って三越とも共同出資会社の設立を前 提とした業務提携を発表した。
ネット通販業者への営業も活発化している。
オンラ インショッピングモール最大手の楽天は昨年一月、「楽 天市場」に出店するテナントを対象に「ゆうパック」 を利用した新サービスを開始した。
事前登録をした出 店者が、郵政公社と提携関係にある三井倉庫を介し て「ゆうパック」を出荷 することで、一個から大口向 け割引料金が適用されるというものだ。
「このサービスを利用している出店者は現在、約二 五〇店。
利用店舗数は毎月三〇店程度のペースで増 えている」と、三井倉庫でゆうパック事業を担当する 竹田津徹営業部営業推進室第3チーム課長は説明す る。
楽天以外にも三井倉庫は、ゆうパックを利用した ネット通販業者向けのサービスを現在、約五〇社に提 供している。
これを含めると昨年のゆうパックの利用 実績は約一六〇万個に上る。
新規荷主の開拓は、全国の郵便局に配置された郵 政公社の法人向け営業マンが足で稼ぐ。
有望な荷主には三井倉庫の営 業マンが同行し、「C―LINK」と 名付けたネット通販業者向けのシステムを提案。
受注 業務から出荷処理、ゆうパックによる配送、そして決 済まで含め、ネット通販業者が必要とする全てのバッ クヤード機能をパッケージ化したソリューションだ。
基本的には月間一〇〇〇個以上を出荷する荷主が 営業の対象になる。
月間一万五〇〇〇個を超える規 模の荷主に対しては専用倉庫も提案する。
サービス料 金は商品の形状や出荷量、サービスの利用範囲によっ て異なるが、梱包材の手当や配送料も含め、全ての機 能を利用した場合で一個当たり八〇〇円〜一〇〇〇 円程度にな る模様。
C―LINKの配送料を除いた売 上高は二〇〇五年度で約四億円。
当面は二〇〇七年 度に一〇億円という目標を掲げている。
顧客直送のロジスティクス 日本通運の及川俊一専任部長 佐川急便は「動く営業店」で顧客との 距離を縮める(写真は2月に導入した 新型集配車)

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