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APRIL 2006 2
フリーター人口も頭打ち
――昨年後半から今年にかけて、物
流現場では人手不足が深刻化してい
ます。 物流現場向けの人材派遣をメ
ーンとするフルキャストでも、新規採
用が難しくなってきているのでは?
「幸い当社の一人当たりの採用コス
トは前年比で横這いか少し下がって
います。 しかし、それは『フルキャス
トスタジアム』(東北楽天イーグルス
のホームグラウンドの命名権を購入)
などの影響もあって、昨年一年で当
社の知名度が急激に上がったおかげ
で、全く楽観はできません。 採用環
境は明らかにタイトになってきていま
す」
「賃金相場も確実に上がっています。
当社の場合
、地方展開や高校生世代
の採用を増やしていることから、賃
金の平均単価自体は下がる傾向にあ
りますが、同じ条件で比べれば単価
は上がっています」
――今後については。
「今後もジワジワと上がっていくは
ずです。 景気自体しばらく悪くはな
らない。 もちろん、いずれは景気の揺
り戻しが起きるわけですが、それでも
有効求人倍率は一倍を少し下回る程
度までしか下がらない。 その後、景
気が回復すればすぐに求人倍率も上
がる。 今後はそんな動きを何度も繰
り返す形になると見ています。 つま
り人手不足が慢性化する」
――その一方でニートやフリーター層
は増
え続けています。 それがフルキャ
ストの労働力の源泉にもなっている。
「フリーター層の絶対数も今後四〜
五年がピークだと思います。 人口に
占めるフリーターの比率は増えるか
も知れませんが、人口自体が減って
いきますので、絶対数が増えるとは
考えられない」
――結局、ニートやフリーターという
のはバブル崩壊から現在の景気回復
までの期間に限定して発生した一時
的な現象だったのでしょうか。
「いや、そうは思いません。 いくら
景気が良くなり人手不足になっても、
フリーターがいなくなることはありま
せん。 フリーター層は今後も一定の
割合で存在し続けます。 基本的に景
気とは関係ありません。 実際、フリ
ーターは昔からいました。 ?プータロ
ー〞という呼び方でしたが(笑)」
――しかし、それが急増した
のはバブ
ル崩壊以降のことでしょう?
「確かにそうです。 バブル崩壊後に
企業側が新卒採用を絞った結果、フ
リーター層が増加した側面はありま
す。 普通であれば就職して企業の中
で働いていたはずの人までフリーター
にならざるをえなかった。 そういう人
たちの一部は人手不足によって正社
員に流れていくでしょう。 どこの会
社もバブル崩壊後に採用を極端に絞
ったことで、今の二〇代半ばから三
〇代半ばの中堅社員層が枯渇してい
ます。 次に会社を支える人たちの層
が薄い。 それだけ企業側の採用意欲
は強い」
「それでも、定職に就きたくないと
いう若年者は依然として多い。 フリ
ーターではなくとも、フリーランスは
今後も増え続けます。 これは日本だ
けの現象ではありません。 先進諸国
が
皆、通って来た道です。 アメリカ
だけがそうならなかったのは、アメリ
カが大量の移民を受け入れたからで
す」
「今の日本は一九八〇年代のヨーロッパ、とくにイギリスによく似ていま
す。 かつては隆盛を誇った経済がピ
ークアウトした後に、社会的に停滞
感が出てきて、若年労働者の失業率
が高まる。 景気が悪くて需要がない
のも確かですが、その一方で若年労
働者のなかにフリーランス的な働き
方を善しとする風潮が広まっていく。
イギリスだけでなくフランスやドイツ
にも同じような時期がありました。 先
フルキャスト 平野岳史 社長
「物流市場も採用力で勝負が決まる」
現在の人手不足は一時的な現象ではない。 今後一〇年で日本の若年
労働者は三割減る。 景気動向にかかわらず人手不足は慢性化する。 そ
の結果、若年労働者を採用する力のある会社が、あらゆる面で圧倒的
な優位に立つことになる。 人余り時代の常識はもはや通用しない。 経
営者は頭を切り換える必要がある。
(聞き手・大矢昌浩)
THEME
KEYPERSON
3 APRIL 2006
進国に共通する現象です」
――その後、景気回復とともに多少
は揺り戻すわけですね?
「恐らく日本も五年後くらいをピー
クにして、その後はフリーターの数が
減っていくと思います」
――フリーター層が減ると、フルキャ
ストのような人材派遣ビジネスはや
りにくくなるのでは。
「そうは思いません。 労働力はフリ
ーター層に限りませんから。 日本も
数年以内には間違いなく外国人労働
者の受け入れを本格化させるはずで
す。 既に今年から小泉内閣はフィリ
ピン政府と協定を結んで労働者の受
け
入れを始めました。 当面は介護職
だけですが、今後はそれが他の業種
にも拡がっていくはずです。 こうした
動きを、当社は従来から予測してい
ました」
――これまでフルキャストはフリータ
ーを組織化して労働力として活用す
ることで成長してきたわけですが、今
後はビジネスモデルを変化させてい
くわけですか。
「フリーターというジャンルにとら
われずに、若年者に対するアドバン
テージがとれればいいと考えています。
つまり当社に若い人たちの採用力が
あればいい。 当社に競争力があると
すれば、その九〇%以上は採用力だ
と思います。 実際、今の時期は、仕
事はいくらでもとれる。 しかし採用
力がないと売り上げには結びつかな
い」
「今と違って人余りが続いていて、
どうやって注文を取ってくるかが大
事だった時代から、私はずっと営業
よりも採用を重視して経営をしてき
ました。 いずれは仕事を見つけるこ
とよりも、採用することのほうが難
しくなると分かっていたからです。 採
用にアドバンテージを持っていないと
立ち行かなくなると考えていた」
「そのために楽天イーグルスの球場
の命名権を買ったり、福利厚生プラ
ンを充実させたり、また今年
四月か
らはフリーターやニート向けのビジネ
ス基礎スクールも開始します。 これ
らはすべて当社の採用力を上げるた
めにやってきたことで、実際にそれが
効果を出し始めている」
コア人材はやはり若年男性
――採用力が重要だという話は人材
派遣ビジネスだけに限りませんね。
「その通りです。 若年人口がこれだ
け急激に減れば、パイの奪い合いに
なるのは明らかです。 人口統計に、そ
れがハッキリと表れています。 現在
の二〇歳前後の世代の人口は一学年
当たり一五〇万人程度です。 ところ
が一〇歳の人口は一〇〇万人しかい
ない。 一〇年で三〇%も減るわけで
す。 一〇年後にはどんな会社も採用
予定数を満たせなくなります。 その
結果、採用力のある会社があらゆる
面で圧倒的な強みを持つことになる」
――若年労働者が減る一方で主婦層
の社会進出や中高年の再雇用などが
活発化しています。
「しかし企業側は本音では若年者の、しかも男性をコアな労働力と考えて
いる。 若年男性が採用できないため
に、中高年や女性を活用せざるを得
ないというのが実情ではないでしょう
か。 実際
、女性や中高年では体力的
に難しい仕事はたくさんある。 今後
も社会的ニーズが最も高いのは、男
性の若年労働者であるのは間違いあ
りません」
――一般には、採用についてまだそ
こまでの危機感はなさそうです。
「皆、頭の切り替えができていない。
人手不足を一時的な現象だと勘違い
している。 しかし大量の外国人労働
者を受け入れることにでもならない
限り、今後二〇年以上にわたって日
本に人余り状況など起き得ません。 後
手に回った会社は負けます。 採用、そ
して定着
にアドバンテージを持たな
い会社は生き残れない」
「とりわけ物流現場は?3K〞的な
職場だというイメージをもたれていま
すからね。 若年労働者に物流会社で
働きたいというニーズは少ない。 そこ
に当社の価値とノウハウがあるわけ
です。 結果として物流現場で働くこ
とになるとしても、若年労働者にと
ってフルキャストで働くのと物流会
社で働くのとは意味合いが違う」
――創業以来の急成長は続いていま
すが、昨年の決算ではライバルのグ
ッドウィルに売上高で差を付けられ
ました。
「必ず巻き返します」
――そのためには顧客の対象を拡げ
る一方で、メーンとなる物流領域を
深耕していく必要があるはずです。 例
えばトラックドライバー派遣をグッド
ウ
ィルは手掛けていますが、フルキャ
ストはまだ手掛けていない。
「トラックドライバーの派遣は近く
本格的に開始します。 ただし単にドライバーを派遣するという形ではな
く、当社ならではの独自性のあるソ
リューションを打ち出すつもりです。
また倉庫作業でも人材を派遣するだ
けでなく、センター運営を丸ごと請
け負うようなビジネスを既に手掛け
ています。 基本的に施設や車輌など
の減価償却を伴うアセット(資産)を
必要としない物流の仕事であれば何
でもやるつもりです」
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