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JUNE 2005 14
Case Study《WMS》――青山商事
強みを維持して導入期間と費用を半減
紳士服最大手の青山商事は、完全単品管理をベースとした商品管
理能力を他社との差別化手段にしている。 自社物流センターのオペ
レーションも独特だ。 そこにフレームワークスのWMSパッケージを
導入した。 オーダーメードと比較して導入期間とコストを半分以下に
抑えながら、大きな効果が得られた。 (大矢昌浩)
独自の在庫戦略で成長
青山商事は国内の紳士服市場で約二五%という圧
倒的なシェアを誇っている。 バブル崩壊以降、紳士服
の国内市場規模自体は減少傾向にあるが、同社はシ
ェア・売上げとも一貫して右肩上がりを続けている。
社内で?低回転打法.と呼ぶ独自の在庫戦略が好調
な業績を支えている。
他のアパレル商品と比較して紳士服は商品寿命が
長い。 在庫が陳腐化するまでの期間は通常三年間と
言われる。 この特性を活かして同社はオフシーズンに
大量発注することで、在庫を抱えるリスクと引き替え
に原価の低減を図っている。 同時に他社の数倍の商
品を店頭に陳列することで品揃えにボリューム感を持
たせている。
一方で売れ残りを抑えるために、一つひとつの商品
に固有の番号を振って原価や在庫ステータスなどの情
報を完全単品レベルで管理。 商品特性と各店舗の販
売動向を考慮して、陳列する店舗や販売価格を調整
している。 それでも売れ残った商品は、いったん物流
センターに引き上げ、改めて品揃えに見直しをかける。
「それによってまた商品価値が出てくる。 当社は返
品なしの完全買い取りで、それこそ命がけで商品を仕
入れている。 売れ残っても返品すれば済む他の小売り
とは在庫管理のレベルが違う。 それが当社の成長を支
えてきた」と長谷川清秀総合企画部長はいう。
特有の商品管理は物流体制にも反映されている。 現
在、全国九カ所の物流センターを使用している。 うち
七カ所は調達先ベンダーの共同倉庫という位置付けで、
各地の3PLの拠点を利用している。 残る二カ所、ス
ーツなどハンガーを必要とする重衣料商品を扱う広島
県の「神辺商品センター」と、カートン商品を処理す
る岡山県「井原商品センター」は自社センターで、運
営も社員が直接手掛けている。
細谷通久商品センター長は「物流は当社にとって本
業ではない。 自社センターで手掛けているのは戦略在
庫と、ベンダーや3PLの嫌がる割りの合わない処理
を必要とする商品だけ。 つまりアウトソーシングでき
ない物流だけを自前で管理している」と説明する。 セ
ンター内のオペレーションも、店頭での販売活動を最
優先して設計している。 店舗の陳列作業に配慮したカ
ートン単位で出荷。 店舗納品時の検品はカートンのラ
ベルをリーダーで読み込むだけ。 閑散期には初売り用
の福袋の詰め合わせ作業までセンター側で処理する。
そんな井原商品センターで二〇〇二年十二月、情
報システムの刷新計画が持ち上がった。 バブル期に建
設された同センターには当時の最新自動化設備が導
入されていた。 入荷したカートンに自動的にラベルを
貼付、それをシステムが認識して必要なゾーンにコン
ベヤで搬送するシステムで、制御装置は米国製だった。 搬送の完全自動化は省人化にはメリットがあるもの
の、処理能力が一定であるため繁忙期には逆にネック
になっていた。 しかも故障が発生すれば外国から部品
を取り寄せなければならない。 導入から一〇年余りが
経過し、メーカー側で部品を保存する期間も切れかか
っていた。 自動搬送システムを軸にしたオペレーショ
ンは見直しを迫られていた。
しかし「当社の商品管理は独特。 パッケージが使え
るとは当初、誰も考えていなかった」と長谷川部長。
事実、それまでパッケージソフトは基幹系も含めて全
く使ったことがなかった。 これまでシステム構築を任
せてきた開発会社にも、オーダーメードすることを薦
められた。
それでも検討はしてみることにした。 各社のWMS
第3部WMS とICタグの導入事例
15 JUNE 2005
パッケージを比較して最終的にフレームワークスの
「
Logistics Station iWMS
」の他、外資系ベンダーと
国産ベンダーの計三社のWMSが候補として残った。
各社からそれぞれ提案を受けた後、実際に導入した現
場の見学を依頼した。
フレームワークスは大手ホームセンターを紹介した。
現地を訪問し、ユーザーの評価を直接耳にした長谷川
部長は「ホームセンターといえばアイテム数が多く、
荷姿のバリエーションが大きい。 オペレーションが容
易でないことは察しが付く。 その物流を問題なく動か
しているのなら、当社に導入しても大丈夫だろうと安
心できた」という。
ピーク時の出荷能力を
34
%向上
しかし現場側のパッケージに対する懸念はいっそう
根強かった。 これまで蓄積してきたノウハウを、出来
合いのシステムで本当に活かせるのか。 例えば「マイ
ナス在庫」。 センターに入荷したものの値札と現物が
違うといった商品は通常、システム上の在庫データを
修正してから在庫引き当てが可能になる。 しかし、そ
れでは販売機会を逃すという時には、先に商品を出荷
してしまって後からデータを修正するという運用をと
ってきた。
当然、システム上の理論在庫と実在庫に狂いが発
生する。 それをこれまではマイナス在庫という考え方
をとることで柔軟に処理していた。 「販売を最優先す
るための措置だが、そうしたイレギュラーな処理が当
センターには多い。 時間をかけて、会社にとって一番
良いやり方を作り上げてきたつもりだ。 それをパッケ
ージで対応できるとは、とても思えなかった」と細谷
センター長はいう。
正直、半信半疑だった。 そのため開発の前段階のベ
ンダーとの意思の疎通には時間をかけた。 フレームワ
ークスで営業を担当した村松靖東日本営業部アソシ
エイト・セールスは「当初は青山商事さん独特の文化
を理解するのにかなり苦労した。 それでも事前の打ち
合わせを充分にしたことで、その後の導入をスムース
に進めることができた」と振り返る。
結局、導入期間は二カ月半で終了した。 切り替え
時にありがちなトラブルも全くなかった。 青山商事の
柳井邦雄システム部課長は「手作りなら一年近くかか
ったはず。 しかも我々は想定していなかったが、後か
ら必ず必要になったはずの機能がパッケージには予め
たくさん組み込まれていた。 コストも手作りと比較し
て半分程度で済んだ」という。
導入効果は大きかった。 本社と商品センター、店舗、
そして仕入れ先と協力物流会社が、リアルタイムの情
報を共有できるようになった。 在庫管理の精度が上が
り、棚卸作業の効率は一・八倍に向上した。 庫内の
レイアウトも一新。 新たに八〇〇坪分のスペースを確保できた。 オペレーション面では従来、機能別に三種
類のハンディターミナルを使い分けていたところを一
機種に集約。 同時に搬送の完全自動化を改め、ハン
ディターミナルを軸にした半自動の仕組みに変更した。
このほか重複作業の解消や、現場で判断の必要があっ
た詰め合わせ梱包の指示を自動化するなどの工夫によ
って、ピーク時の出荷能力は三四%向上した。
細谷センター長は「一連の改善によって繁忙期でも
残業なしに乗り越えることができるようになった。 年
間で八四〇万円の人件費を削減した計算だ。 いくら
当社のオペレーションが独特だといっても、他社と違
うのはせいぜい二割程度。 他の八割はどこも共通で、
むしろ我々の知らなかったノウハウがあることも分か
った」と評価している。
柳井邦雄システム部課長細谷通久商品センター長
青山商事の井原商品センター。
延べ床約1万坪。 年間約1300
万点の衣料品を全国約780店
舗に供給している。
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