ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年4号
ケース
物流拠点--ハピネット

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2006 34 新製品への依存度が高い玩具業界 二〇〇五年の玩具市場は「たまごっち」ブ ームの再来に沸いた。
?育てる楽しみ〞を遊 びに取り込んだこのユニークな商品を、メー カーのバンダイが初めて世に出したのは一九 九六年。
それから一〇年近くを経て、ゲーム 機能や通信の加わった新製品「たまごっちプ ラス」シリーズが再びブームになった。
このように過去の人気商品が復活するケー スも含めて、玩具というのは新製品への依存 度がきわめて高い。
売上全体の六〜七割を新 製品が占めるともいわれ、需要を正確に予測 するのは難しい。
しかも年間販売の四割近く がクリスマスをピークとする年末商戦に集 中 する。
これだけでも商品をタイムリーに市場 に供給するハードルは充分に高いのだが、ぬ いぐるみからキーホルダーまで形状がバラバ ラなことも物流効率化を難しくしている。
ハピネットは、そうした玩具業界の中間流 通でトップシェアを持つ企業だ。
同社はバン ダイの商品を扱う一卸からスタートして、九 〇年代に進んだ淘汰・再編の波をくぐり抜け て業界最大手へと成長した。
昨秋、バンダイ とナムコの経営統合によって出現したバンダ イナムコグループのなかにあって、流通の中 枢を担う立場にある。
玩具のほかにも、ゲームセンターの商材な どを扱うアミューズメント分野でも活動して いる。
近年ではテレビゲームやDVDなど映 像・ 音楽ソフトにも進出して、事業領域の拡 大を図ってきた。
なかでもテレビゲームの分 野では、マイクロソフトが初代「Xbox」 の国内販売をスタートした二〇〇二年には総 輸入代理店を担当。
流通の主導権確保に成 功して特需ともいうべき売上増に沸いた。
その後の二期の売り上げこそ伸び悩んだも のの、二〇〇五年三月期からは再び成長軌道 に乗った模様だ。
二〇〇五年三月期の連結売 上高は一四〇五億円と前期比一四・五%増 を記録。
二〇〇六年三月期も九%近い増収 を見込む。
現在のハピネットの仕入先の数は 六〇〇社を超え、販売 先は一三〇〇社余り、 売り場数にして十一万カ所を抱えるまでに至 っている。
情報システムと物流は自社で構築 業界に先駆けて取引先と自社を結ぶ情報ネットワークを構築したことが、ハピネットの 成長を後押ししてきた。
一〇年ほど前から、 同社は基幹システム「CAPS」によってメ ーカーや小売店との情報共有を進めてきた。
仕入れ先メーカーとのEDIの整備や、大手 小売りチェーンからのEOS受注などを拡大 し、取引先の仕様に合わせて受発注システム を整備している。
この情報システムを、取引先との販売情報 の共有や、ASN(事前出荷明細)の受け渡 し、商品マスターの最適化などに活用してき た。
すでに現在、小売店との オンライン取引 物流拠点 ハピネット 今年2月に千葉県で新拠点を稼働 顧客ニーズで物流機能を使い分け 玩具卸最大手のハピネットは、いち早く物流と情報シ ステムの高度化に取り組んできた。
2001年に高度に自動 化を進めた物流拠点を稼働したのに続き、今年2月には 一転して人手作業を中心とする大型拠点を立ち上げた。
顧客ニーズに応じて2タイプの物流拠点を使い分けるこ とで、物流の受託事業を強化していこうとしている。
35 APRIL 2006 の比率は受注処理件数ベースで約八割にまで 拡大している。
物流の高度化も図ってきた。
数次にわたる 過去の中期経営計画のなかでハピネットは、 物流機能の拡充を基本戦略に盛り込んできた。
物流の構築は原則として自前でやる。
その理 由を同社の作田隆副社長は、「中間流通とし て成長を遂げていくには、物流をアウトソー シングせず、事業を支えるコア機能としてあ くまでも自社で構築する必要があると考えて いるからだ」と強調する。
前述のように、玩具の流通では、市場へ効 率よく商品を供給 するためのハードルがもと もと高い。
この状況に、近年の販売先の多様 化が拍車をかけている。
一般の玩具専門店や 大手量販店だけでなく、成長著しい郊外型の 大型専門チェーン店、コンビニエンスストア、 さらにはインターネット販売など、販売チャ ネルは拡がる一方だ。
ハピネットが売り上げを拡大していくため には、多様な販売先のニーズに合わせた品揃 えを行い、より高品質のサービスを提供して いく必要がある。
それには情報システムと物 流機能の高度化が不可欠だった。
これを具現 化するため、まず二〇〇一年十月に「ハピネ ット東日本ロジスティクスセンター」(千葉 県市川市)を稼動した。
このセンターは、倉庫部分が三層からなり 延べ床面積は二万四七〇〇平方メートルある。
多品種の入出庫を迅速かつ正確に、かつロー コストで処理するために、それまでに蓄積し てきたノウハウを結集した。
無線LANシス テムやデジタルピッキングシステム、高速自 動仕分け機など当時、最新だった機器を導入。
バーコードなどを高度に活用しながら庫内作 業をコントロールしている。
まず入荷時に、商品や段ボールのバーコー ドをハンディターミナルで読み取り、この情 報を無線LANを介して「CAPS」に取り 込む。
すぐに予定情報と照合し、仕入れ計上 を実施。
情報システムの指示に応じ て商品を 必要なエリアに搬送し、出荷作業を待つ。
ピース単位で出荷する商品のピッキング作 業は二段階で行っている。
まずデジタルピッ キングシステムでトータルピッキングを行い、 次に高速ピースソーターで店別に仕分ける。
二台あるピースソーターは合わせて三六〇店 舗分を仕分けることが可能で、一時間に最大 五万二〇〇〇ピースの処理能力を持つ。
店別仕分けが終わると、コンベアライン上 でコンテナ(通い箱)に貼付した作業用ラベ ルのバーコードを読み取り、出荷用の荷札と 物流ラベルを自動発行して貼付する。
その後、 物流加工ラインで取引先ごとの指定 値札を貼 付するのだが、この工程でも商品のバーコー ドを読むと値札が自動発行され、同時に検品 まで済ませるようになっている。
この「値札 自動発行システム」は、ハピネットが独自ノ ウハウをもとに開発したものだ。
「東日本ロジスティクスセンター」の物流シ ステムでは、さまざまな形状の商品を扱うた めの工夫が凝らされている。
誤納率は一〇万 分の一以下。
しかも迅速な出荷が可能だ。
先 進的な機能を備えたこの物流拠点は、ハピネ ットが差別化を図っていくうえでの欠かせな い武器になっている。
事業化の受け皿に子会社設立 実際、同センターの稼動によって、ハピネ ットの受注から配送までのリードタイムは短縮した。
東日本エリアについては、原則とし て受注の翌日午前中に商品を届けることが可 能になった。
また、二四時間受注や三六五日 出荷への対応も実現。
物流サービスレベルは 大幅に向上した。
二〇〇一年の稼働当初、このセンターは玩 具とテレビゲーム関連商品を、東日本一帯の 顧客に出荷する基地と位置づけられていたが、 以後は業務領域の拡大を図ってきた。
二〇〇 四年にDVDの取り扱いを開始したのも、そ の一例だ。
近年、インターネット通販による販売 が伸 ハピネットの作田隆副社長 APRIL 2006 36 保管、流通加工、出荷、配送など物流業務全 般を請け負っている。
また、昨年十一月には、 紀伊国屋書店が立ち上げたDVD専門の通販 サイト「フォレストプラス」から、商品調達 とエンドユーザーへの配送にいたる一貫物流業務を受託することに成功した。
二タイプの物流拠点を使い分ける ハピネットは今年二月、千葉県船橋市に新 たな物流拠点「東日本第2ロジスティクスセ ンター」を稼動した。
ほかにも同社は、札 幌・船橋・大阪・福岡に既存の物流拠点を 構えており、これで全国六拠点からなるネッ トワークが一応、完成したことになる。
「第2センター」は倉庫部分の延べ床面積 が二万八〇〇〇平方メートル余り。
「東日本 ロジスティクスセンター」よりもさらに広い。
ただし、デジタルピッキングシステムや高速 自動仕分け機などは装備していない。
物量の 変動を吸収しやすいように、フレキシブルな 運用を重視して庫内を構築した。
今後はこれ ら二タイプのセンターを、顧客ニーズに応じ て使い分けていく考えだ。
小売 業の販売戦略によって、店頭の品揃え というのは大きく異なってくる。
玩具の場合、 それがとくに顕著で、小売業の設定する商品 カテゴリーそのものが流動的だ。
例えば量販 店などでは、キャラクター文具や玩具菓子と いった商品群を、玩具以外のカテゴリーに分 類することが多い。
だが専門店では玩具の一 部として扱うのが一般的だ。
また、ハイエイジ向け玩具の購入層は、D VDなどの購入層とも重なるため、これをタ ーゲットにしようとすれば品揃えはかなり広 範なものにならざるをえない。
玩具専門店の びているDVDの物流管理では、とりわけ 「在庫引当率」の高さへのニーズが大きい。
こ の要望に応 えるためにハピネットは、流通中 のアイテムをほぼすべてカバーする六万三〇 〇〇タイトルのDVDを、「東日本ロジステ ィクスセンター」一カ所に在庫することを決 断。
フルラインで品揃えをした物流拠点から 全国に供給することで、受注時のヒット率を 高め、サービスレベルに厳しいネット通販の 取り込みを図った。
この例からも窺える通り、同センターを構 築したのには、先進的な機能を活かして物流 受託を拡大したいという狙いがあった。
この ため同センターの稼動に先立つ二〇〇一年四 月に、物流部門を分離独立させるかたちで物 流子会社「ハピネット・ロジスティクスサー ビス」を設立 。
物流業務を受託するための受 け皿として活用している。
現在のハピネットは、物流政策を本社内の 物流戦略室が立案する一方で、物流拠点の運 営管理はハピネット・ロジスティクスサービ スに一任している。
庫内作業や配送などの実 務の大半はさらに外部の事業者に委託してい て、こうした一連の物流機能を一つのパッケ ージとして外販しようとしている。
すでにバンダイグループ以外からも、複数 の案件を受注している。
二〇〇二年十月には、 親会社のライバルメーカーであるトミーの販 売会社ユーエースの業務を受託。
一部の大手 量販店向けに販売する玩具を対象に、受注、 千葉県市川市、延床面積24,741m2、高速ピース ソーター、デジタルピッキング、方面別ソーター、 自動コンベヤラインなどのマテハンを装備 千葉県船橋市、延床面積28,151m2、大がかりな 自動化機器は導入しておらず、無線LANやPOS検 品システムなどで約13,000アイテムを処理 東日本ロジスティクスセンター東日本第2ロジスティクスセンター 37 APRIL 2006 一店あたりの取扱アイテム数は平均的なケー スで三〇〇〇程度だが、その中身は店ごとに 大きく異なっている。
これが中間流通の物流機能にも少なからぬ 影響を及ぼす。
自動化の進んだ「東日本ロジ スティクスセンター」は、カテゴリーを特定 して棚割りを決め、定番管理に近い形態をと っている顧客に対して有効だ。
同センターで は現在、量販店などの顧客向けに五〇〇〇〜 七〇〇〇アイテムを扱っており、「(自動化機 器を)フルで動かすことでかなり効率よく運 用できる」とハピネット・物流戦略室の太田 浩明氏は説明する 。
一方、フレキシブルな運用を意識している 「第2センター」では、主に専門店向け玩具 を対象に、当面は一万三〇〇〇アイテム(ピ ーク時)を扱う計画だ。
作田副社長は、「インフラの整備は一段落した。
これから二つの センターの機能をもっとアピールして、エン タテイメント業界での物流受託を進めいきた い」と意欲を見せる。
バンダイロジパルとの連携も強化 玩具は生産リードタイムが一カ月から三カ 月ほどかかる。
だが商品のライフサイクルは 短い。
テレビのアニメ番組の放映スタートと 同時に発売になり、番組終了とともに市場か ら消えていくことも多い。
過剰在庫や品切れ による販売機会ロスが起こりやすい商品だけ に、卸の役割は重要だ。
小売店の販売情報を もとに可能な限りの需要予測を行い、メーカ ーの生産・物流計画を支援するとともに、小 売店の効率販売を後押ししていくことが求め られている。
「そのための基盤として一〇年がかりで構 築してきた情報ネットワークが使える。
どの ような機能を顧 客やメーカーに提供すればサ プライチェーンの効率化に有効なのかを改め て検討しているところだ」(作田副社長) メーカーの海外工場との情報連携も検討課 題の一つだ。
玩具は生産の海外シフトが進ん だ商品でもある。
ハピネットがバンダイから 仕入れる商品のうち、すでに八割以上は中国 で生産されている。
ところが中国では工場と 港とを結ぶ情報基盤が充分に整備されていな いことなどから、出荷情報の正確な把握が簡 単ではない。
バンダイの物流はグループの物流会社、バ ンダイロジパルが担当している。
ハピネット としては、バンダイロジパルとの連携を強化 していくことで、こうした課題に対応する道 を 模索している。
情報の精度を高めるだけで なく、店別仕分けなどの機能を海外に移管し て、グローバルな視点から物流効率化を検討 していくことも視野に入っている。
二〇〇五年三月期の決算でハピネットの 「運賃および倉庫委託料」からなる支払い物 流費の売上比率は、前年度の三・七%から 二・八%に減少した。
玩具の在庫回転率は、 前年度の一五回転から二二回転へ向上している。
これらは、玩具事業の営業部門を中心に 実施した業務改革によって、輸送の効率化や 在庫削減が進んだ結果だ。
すべてが物流効率 化による成果とはいえないが、物流関連の経 営指標は着実に改善されている。
こうした改善の裏に、情報と物流システム による事業基盤の整備がある。
今後、玩具の 市場規模は少子化の進行で縮小することが危 惧されている。
しかし、地道に進めてきたオ ペレーション能力の強化は、今後のハピネッ トの事業展開を支える底力になるはずだ。
( フリージャーナリスト・内田三知代 ) 自動化を進めた東日本ロジスティクスセンター 高速自動ピースソーターを2機導入した。
1台で1時間に最大26,000ピース、 1バッチで360店舗分を処理できる。
独自開発の値札自動発行・検品システ ム。
これによって検品、値付け、梱包を 一工程で完結できるようになった

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