ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2006年4号
メディア批評
沖縄返還協定の日米密約は事実だった大手メディアは当事者の告発を受け止めよ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

佐高信 経済評論家 55 APRIL 2006 薬害肝炎患者やクレジット・サラ金被害者 の会で講演して、私は「私たちのつくウソは 許されるが、権力者のつくウソは許されない」 と声を高くした。
権力者は「ウソをついては いけない」というモラルを教えながら、自分 たちは平気でウソをつく。
それが仕事なのか、 と皮肉りたいほどである。
『世界』四月号「世界の潮」欄に『北海道新 聞』の往住 とこすみ 嘉文が「吉野文六・元外務省アメ リカ局長証言の意味」を書いている。
サブタ イトルは「改めて問われる沖縄返還協定密約 事件」で、往住の問いに八七歳の吉野は、 「西山記者は正しい。
日本が肩代わりしたん です」 とあっさり認めたという。
私は二〇〇二年に『サンデー毎日』の連載 コラムで元記者の西山太吉が暴いた国家犯罪 の「密約」問題を書いた。
しかし、そのとき もいまも『朝日』や西山のいた『毎日』等の 大手メディアは追及に熱が入っていない。
往住の指摘する如く、二月八日付『北海道 新聞』が、 「米との密約あった 一九七一年 沖縄返還協定 四〇〇万ドル肩代わり」 の見出しで報道したぐらい。
元記者のそれをどうして後追いしないのか。
自分たちはもっと上品に(ということは及び 腰で)記者という仕事をしているからか。
二〇〇二年に琉球朝日放送が西山にインタ ビューして「告発――外務省機密漏洩事件から 三〇年、今語られる真実」という番組をつく り、高い評価を受けた。
三〇年経って西山は 重い口を開いたのである。
一九七一年に西山は、沖縄返還に際してア メリカが日本に支払うべき四〇〇万ドルの補 償金を日本が肩代わりする密約をスクープし た。
しかし、その取材方法が違法だとして国 家公務員法違反で逮捕され、有罪判決を受け る。
当時の首相、佐藤栄作をはじめとする自 民党政府の巧妙なスリカエによって、彼らの 国家犯罪が隠蔽されたのである。
「告発」という報道番組には当時の外相、福 田赳夫が、 「密約はない」 と繰り返す場面も出てくるが、二〇〇一年 に公開されたアメリカの公文書によって密約 が立証されても、今度は赳夫の息子の福田康 夫が官房長官として同じ答弁を繰り返した。
小泉純一郎は福田赳夫の秘書だったのだから、 いわば?福田組〞の若頭で、いわば?福田一 家〞で国家犯罪をやったことになる。
たしか、黒澤明の『影武者』で盗っ人呼ば わりされた影武者が当人に向かって、お前の 方が国を盗んだ大泥棒じゃないか、と開き直 るシーンがあった。
それを借りれば、小泉を 含む福田一家は?国泥棒〞である。
その国家 犯 罪が裁かれず、なぜ西山だけが罪に問われ たのか。
まさに?税金ドロボー〞的詐欺を当時の政 府は行った。
アメリカの公文書がそれを裏づ けたのに、相変わらず政府は?知らぬ顔の半 兵衛〞である。
多分、また西山は改めて、とくに大手メデ ィアに絶望の念を深くしているだろう。
外務省の高官だった吉野はこう言っている。
「国会で、記憶にありませんと答弁したら本 当に記憶に無くなる。
過去を振り返らないよ うになります。
意識的に忘れようとする。
大 部分は不愉快なことですから。
覚えているこ とを覚えていないというんだから」 西山、そして吉野の勇気ある告発にも、大 手メディアはもっと発奮しないのか。
『道新』の往住が奮起したのは、広島修道大 教授の野村浩也の「地方紙は『各地の問題』 を報道し沖縄の問題を報道しないが、その各 地が沖縄に基地を負担させている。
それは 『各地の問題』であり、報道すべきだ」という 批判に応えたいと思ったからだった。
沖縄返還協定の日米密約は事実だった 大手メディアは当事者の告発を受け止めよ

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