ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年4号
海外Report
ジレットの物流コンペイベリア半島でエクセルを選ぶまで

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2006 40 企業イメージだけで選ばない スペインとポルトガルを統括するジレット・ イベリアは、今から二年前に物流コンペを開 きました。
それ以前の3PL業者とは八年の 付き合いがありましたが、ジレット社内と得 意先はそのサービスレベルに対する不満を抱 いていました。
何度か3PL業者と話し合い を重ねましたが、サービスレベルが上がるこ とはありませんでした。
そこで公開で物流コ ンペを開くことにしたのです。
3PL業者への不満と同時に、当時、M& Aにより新しい3PL企業体が立ち上がり、 新しいサービスの提供も始まっていました。
そ れらをジレットのサプライチェーンマネジメ ント業務にど のように活用できるのかという ことにも興味を持っていました。
それまで四 カ所あった在庫型物流センターを減らすとい う計画もありました。
そこでコンペとなった わけです。
最初の契約期間は三年に設定しま したが、できるだけ長期間取引のできるパー トナーを選ぼうという考えがありました。
選考の基準は、第一にすでにジレットのよ うな日用雑貨のロジスティクス業務において 実績を持っていること。
第二に物流センター 業務、輸送業務、ピッキングなどの庫内作業 のすべてをカバーできること。
そしてリード タイムや作業の精度において一流のサービス を安価な料金で提供できること。
最後 に、ジ レット・イベリアの業務から始まって、将来 はジレット全体のSCMを担えるような規模 を持つ3PL業者であること――を条件とし ジレットの物流コンペ イベリア半島でエクセルを選ぶまで ジレット・イベリアは、長年付き合いのあった3PL(サードパーティー・ロジスティ クス)業者へ不満が募り、公開物流コンペに踏み切った。
一八社の3PL業者が参加し たコンペに半年をかけて、新しい委託先としてエクセル(現・ドイツポストのDHL部 門)を選んだ。
コンペを担当したジレット・イベリアのロジスティクス担当マネジャーで あるマーク・スラップナー氏が、コンペを成功に導くためのノウハウについて語った。
(取材・編集=本誌欧州特派員 横田増生) 欧州3PL会議2005報告《第2回》 ■ コンペに参加する3PL業者選び ■ RFI(情報提供依頼書)の提出 ■ RFIを選考してRFP(提案依頼書)の提出を求める ■ RFP作成のためのデータ提供 ■ 3PL業者からQ&Aの受付 ■ 3PL業者からの実際のRFP提出 ■ 3PL業者の現場視察 ■ RFPの選考 ■ ジレットのオフィスで、最終提案(料金を含む) ■ 最終提案の選考を経て、ジレット上層部への決定の打診 ■ 最終的に外注先の決定、契約書へのサイン→エクセルに決定 図1 3PL業者のコンペの過程 (全18社) (全8社) (全4社) (すべての工程に6カ月を要する) 41 APRIL 2006 ました。
最初に参加した一八社にRFI(情報提供 依頼書)を提出してもらいました。
書類選考 の段階で八社に絞り、次にRFP(提案依頼 書)を提出してもらいました。
RFP提出の 前段階として、こちらからロジスティクス業 務の基礎データを渡し、質問を受け付けまし た。
RFPと3PL業者の現場視察で、さら に四社に絞り、ジレットのオフィスに招いての最終提案、ディスカッションやQ&Aを経 て、最終的にエクセルに委託することにしま した。
決定までに六カ月を要し ました( 図1 )。
どうしてエクセルを選んだのか。
エクセル が先に挙げた選考の基準を全部満たしていた からです。
しかし選考基準をすべて満たして いたのはエクセルだけではありませんでした。
では、なぜエクセルだったのか。
コンペの間、エクセルにはジレットの業務 内容を知ろうとする熱意が一番感じられまし た。
ジレットの提出したデータに対して、何 度も質問を繰り返したほか、一つの課題に対 していくつもの業務提案を提示してくれまし た。
そうした真摯な態度に接しているうちに、 エクセルに任せれば質の高い業務、効率 的で 信頼できる業務が確立できると確信できまし た。
こうした?フィーリング〞は、最終決断 をするときに大きな働きをします。
またエクセルにとっても、ジレットとの取 引は取引額の大きなものとなり、多くのエネ ルギーを傾けるに値するプロジェクトになる ことはわかっていたのでしょう。
つまり、 「 Win ― Win 」の関係になるという見込みがあ ったこともエクセルを選んだ一因です。
コンペの過程で、まずはコンペを開く側の 社内で十分なコンセンサスを取り付け、何を 目的にするのか、どんな業務を外注するのか についてじっくりまとめておくことが必要だ ということを学びました。
この下準備をおろ そかにすると、後になればなるほど、整合性 がとれなくなるおそれがあります。
例えば、現 在付き合いのある3PL業者に、?ちょっと刺 激を与えるため〞にコンペを開くというのな ら、当社のような選考基準は必要なくなりま す。
次に、RFIの段階に参加する 3PL業者の数をもっと絞り込む必要があるということ。
一八社の書類に眼を通すだけでも、多くの時 間を取られます。
RFIの段階で大切なのは、 これまでに似たような業務を実際にやったこ とがあるのかどうか、という点です。
候補者 たちに、ある特定の業務をやることができる かどうかと尋ねれば、経験の有無にかかわら ず「できる」と答えるでしょう。
しかし実際 に同じような業務をやった経験がない3PL 業者は、選考の対象外と考えて間違いあ りま せん。
そうすればお互いに無駄な時間を省く ことができます。
デマンド&サプライ マネジャー ロジスティクス・ マネジャー 荷主担当マネジャー 図2 全レベルで円滑なコミュニケーションを図る カスタマー・サービス部員 エクセル ゼネラル・マネジャー コミュニケーション コミュニケーション コミュニケーション コミュニケーション ゼネラル・マネジャー カスタマー・サービス・ マネジャー カスタマー・サービス・ マネジャー 注文管理担当 マスター・データ担当 マスター・データ担当 カスタマー・サービス部員 輸送担当 DC担当 供給計画担当 ジレット 入庫管理担当 現場マネジャー バリューチェーン・ディレクター ビジネス・ユニット・マネジャー ジレット・イベリアのマーク・ス ラップナーロジスティクス担当マ ネジャー APRIL 2006 42 もう一つは、国際的な3PL企業のイメー ジに惑わされてはいけないということです。
世 界中で活躍するような3PL業者であっても、 国によって担当者の対応やサービスレベル、 時にはサービスメニューまでも違うことがあ ります。
世界的に知名度の高い3PL業者だ からといって、コンペを開いている特定の地 域で一番いいサービスを提供するとは限らな いのです。
9項目のKPIを設定 コンペが終わるとすぐに、業務手順のマニ ュアルを作り始めました。
ロジスティクス業 務を、フローにして書き出して、具体的な手 順を決めていきました。
その際、ジレットの ロジスティクス部門の人間がエクセルの現場 の作業員と一緒に一から作り上げていきまし た。
ジレットが重視したのは、両社の間のコ ミュニケーションと業務フローでした。
例え ば、ピッキングの方法といった現場の細かい ことには、ジレットは口を挟まず、エクセル に一任しました。
膝詰めで話し 合うのは時間 がかかりますが、3PL業者との付き合いを 長期的なものととらえるなら、お互いの仕事 のやり方や企業文化を知る上で役に立つし、 立ち上げ時のスムーズな業務開始に欠かせな い要素です。
支払う料金については、基本的にはABC (活動基準原価計算)に基づき、業務量に応 じて計算することにしました。
また、通常の 業務以外に特別な業務を委託するときは、別 途料金を支払います。
円滑なコミュニケーションを維持すること は、立ち上 げ時だけでなく、その後も一貫し てよい関係を保つのに不可欠となります。
コ ミュニケーションに関しては、ジレットとエクセルのすべてのレベルで取り合えるように 図案化して、相互に了解しました( 図2 )。
ロ ジスティクス部門はもちろん、お互いのカス タマー・サービスやデータ担当の部署も巻き 込む必要があります。
コミュニケーションにおいて、もう一つ大 事なことは、お互いに正直であるということ です。
業務上で失敗があったら、直ちに報告 することです。
われわれのお客さんが失敗を 告げるのを待つの ではなく、自ら報告できる ような雰囲気が必要です。
KPI(重要業績評価指標)については在 庫精度やピッキングミス、オンタイム・デリ バリーなど九項目を設定して、それぞれター ゲットとする数字を決めました。
KPIにつ いては、すべて月次でジレットとエクセルが 顔を合わせて話し合います。
中でも最も重要 な三項目であるピッキングミス、オンタイム・ デリバリー、貨物のトラッキング情報――に ついては、毎週報告を受けることにしていま す。
これらの連絡事項にかかる時間は、エク セルがKPIの数字を集計するのに毎月一〜 二日。
月 次の会議に一日、それから後で述べ る失敗した業務の原因追究に一、二日かかり ます。
業務の立ち上げについて学んだことは、契 約時に、3PL業者のサービスに満足できな ければ、ペナルティなしに契約を打ち切るこ とができる項目を契約書に書き込んでおくこ とです。
ジレットの場合、KPIの数字が、 三カ月連続で目標を下回ったら、無条件に契 約を打ち切ることができるという項目を入れ ました。
しかし、そう短期 間に3PL業者を 切り替えることは現実的ではありません。
そ うした打ち切り条項と並行して、3PL業者 のやる気を引き出すためには、ボーナスとペ ナルティの規定を加えると効果があります。
KPIについてもう一つ重要なことは、K PIはあくまでもジレットの顧客へのサービ スを測る指標であるということです。
3PL 業者がどれだけ上手く業務をこなしたかでは なく、3PL業者のサービスを受けるジレッ 配送先が商品の受け取りを拒否 ジレット−顧客 プラットフォーム上での積み間違い Exel 物流センターでの積み間違い Exel 物流センターでの商品紛失 Exel 注文のキャンセル ジレット−顧客 ダメージ商品 Exel 顧客の指定時間以外の配送 Exel 配送指定日の間違い Exel 発注の間違い 顧客 図3 3PL業者とともに原因を追究 事故の内容 原因の所在 43 APRIL 2006 トの顧客がどれほど満足しているか、を基準 にする必要があるのです。
またKPIを使って業務を見直すとき、失 敗の原因を探ることが欠かせません。
何でも 3PL業者の責任にしてしまっては、業務改 善は図れません。
ジレットとエクセルは、毎 月、KPIの報告とは別に、失敗事例につい て情報を持ち合い、原因を追究して次回から 同じ間違いを繰り返さないようにしています ( 図3 )。
その際、立場に関係なく、こ との善 し悪しを判断することです。
ジレットのお客さんの発注ミスで、違った製品が届いたのな ら、お客さんの失敗となるのです。
失敗の原 因をはっきりとさせることは、相互の信頼関 係にもプラスに働きます。
物流センターを二カ所に削減 立ち上げ時に、すべての業務が上手くいく とは限りません。
そのときも、優先順位をつ けて対応することが求められます。
例えば、は じめのうち返品業務が所期の目標どおりにい かなくても、客先への出荷が上手くいってい ればいいのです。
完璧主義に陥ると、業務全 体に支障をきたすことにもなりかねません。
在庫を抱える物流センターを削減するのも、 今回の外注化の一つの狙いでした。
それまで イベリア半島に四カ所あった物流センターを 二カ所に減らしました。
さらに、ジ レット専 用のセンターをやめて、複数の荷主が共同で 利用するセンターを活用することにしました。
これによって、在庫費用とセンター使用料の 削減を図ることができました。
製品の流れは次のようになります。
例えば、 マドリッドの物流センターで地域ごとに仕分 けられた製品を、積み合わせの長距離トラッ クでバルセロナのプラットフォーム(デポ)へ と運ぶ。
そこでさらに顧客ごとに仕分けして、 積み合わせの短距離トラックに乗せて顧客の 元に届ける( 図4 )。
物流センターもトラック 輸送も、他の荷主の貨物と一緒に使 うことに よって、物流コストを低く抑えようとしてい ます。
ほとんどの顧客に対しては、このような流 れで製品を送り出していますが、一社だけ違 うフローで製品を送り出しているところがあ ります。
スペインの大手百貨店エル・コル テ・イングレス向けです。
エル・コルテ・イ ングレスはイギリスでいえばハロッズに相当 する高級百貨店であり、ジレット・イベリア の最大の取引先です。
年間の注文件数は、三 万三〇〇〇件で、ジレット・イベリアの全取 引の三分の一に当たります。
エル・コルテ・イ ングレスは三年前から、 全八〇店舗の発注を本社でまとめて発注する ようにしました。
それに応じて、納入方法の 変更を求められました。
通常の場合、貨物を一括でエル・コルテ・イングレスのデポに運 び込み、そこで自動仕分け機にかけて、店舗 ごとに仕分けして、店舗に運び込んでいます。
しかしジレットの製品は荷姿と取扱単位が 小さいことがあり、自動仕分け機になじまな いことから、エル・コルテ・イングレスのデ ポに運び込む前段階で、店舗ごとに仕分ける 必要があります。
そ の店舗ごとの仕分けをエ クセルに任せています。
こうした特別の業務 を必要とするお客さんについては、3PL業 者に事前に十分説明しておくことが必要とな ります。
図4 サプライチェーンの効率化 第1段階 第2段階 マドリッド 物流センター 他の荷主との 積み合わせ輸送 (長距離) 他の荷主との 積み合わせ輸送 (短距離) 方面ごとの ピッキング 店舗ごとのピッキング 各地のプラットホーム(デポ) 顧客1 顧客2 顧客3 ルートA ルートB ルートC

購読案内広告案内