ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2006年4号
管理会計
変化に即応する予算統制

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2006 72 SCM時代の 新しい 管理会計 月次予算のあるべき機能 今やほとんどの会社で部門別の月次予算 を組み、実績との比較を行っている。
財務 を中心に考える場合、月々の入金と支出を 予め把握することにより、資金の手配や余 剰資金の活用が円滑になる。
企業を運営す るために、こうした予算管理は必要不可欠 なものである。
一方、オペレーション部門における予算の 意義はこれとは異なる。
オペレーション部門 にとっての予算は、経営計画に基づく具体 的な実行計画の管理指標であり、実行結果 の評価基準であるべきものなのである。
収支に関する計画はおよそ次のような関 係 になっている( 図1 )。
まず数年後に売り 上げいくら、利益いくら、という経営計画を 立てる。
それを実現化するための計画が、英 語でいうところのストラテジック・プラン、 日本語でいう中長期計画である。
次に中長期の目標を達成するために具体 的に何をすべきか、施策をいくつかリストア ップし、それぞれの投資金額と効果を試算 する。
そのなかから効果の見込めるものを選 定し、その導入と実施によって得られる売り 上げ、利益、資産の計画を半期、あるいは 四半期単位で立てる。
その計画に沿って、直近の単年度で月別 に立てる計画が単年度計画であり、その具 体的な中 身の一つが月別予算である。
従っ て毎月の月別予算を達成していくことで、お のずと中長期の経営計画も達成できること となる。
月次予算は経営計画からのブレイクダウンと現場からの積み上げを調整し、着実な ものとする必要がある。
もちろん、すべてが 計画通りに行くのであればフローさえ確保し ておけば問題ない。
しかしながら実際には、 競合の動向、社会的問題など、自社ではコ ントロールできないさまざまな要因によって、 計画した時点では、予測していなかった変化 に直面する。
時々刻々と変化する情勢に対 応するためには、変化を早期に把握し、その 原因を探り、計画の修正を行うことが必要 になってくる。
キャッシュのインとアウトを基準とした月 次予算の推移から、変化を把握し、 原因を 究明することは、実務によほど精通していな 変化に即応する予算統制 経営計画を立案する時点で全てを予測しておくことはできない。
環境の変化に機敏に反応して実務を処理するためには、毎月の収支 金額を見るだけでは不十分だ。
オペレーション部門にとっての予算 管理は、財務上の予算管理とはまた違った側面を持っている。
第13回 梶田ひかる アビーム コンサルティング 製造事業部 マネージャー 73 APRIL 2006 い限り不可能である。
変化の主な要因は、年 間を通して起こる波動、月次では発生しな い業務などにある。
それに加え、予算を実行 結果の評価基準とする場合、モチベーショ ンを促す仕掛けも必要となる。
ここに予算統 制の難しさがある。
年次波動と物流コスト 年度単位から月単位へ予算をブレイクダ ウンしようとしても、売り上げとコストはそ のままでは連動しない。
もちろん売り上げと 物量は、ある程度は比例する。
しかし昨今 の急激な市場変化の下では、売れ筋商品の サイズが小型化するなど、見込み通りにはい かない場合が多い。
コストと売り上げの相関 関係はさらに低い。
自社倉庫を例にとり、単純化したモデルでこれを説明しよう( 図2 )。
倉庫があり、そ こに何らかの入出庫がある場合、スペースと 人件費の一部は固定費として発生する。
物 量の 少ない閑散期は、スペースも要員も余 剰になるが、想定される繁忙期に対処する ために、余裕を持った手配が必要になる。
物量が増えるに従い、まず固定要員が残 業して対応する。
それが困難になるとパート やアルバイトを増員する。
この段階で増員す るのは、ある程度この仕事に慣れた人達であ る。
さらに物量が増えると、未経験者を増 員せざるを得なくなる。
不慣れなため作業の 生産性は低い。
また物量が増えると近隣に 借庫する必要も生じる。
管理の対象が分散 することで生産性はますます低下 する。
このためコストを正確に月別に把握すると、 取扱商品の形状、価格、数量がまったく例 年どおりであったとしても、対売上高物流コ スト比率は、閑散月と超繁忙月は高め、平 均月から若干繁忙な月までの間は低めに出 る。
予算と実績との差異が生じても、その原 因が物量の変動によるものなのか、作業原 価が変動したことによるのか、すぐにはわか らない。
固定費の変動費化 図2では自家物流を例に説明したが、こ れは借庫、作業人工契約の場合でも同様だ。
いったん物流システムを決定してしまえば、 使用スペースと要員数の最小利用量は固定 化する。
固定資産の圧縮、固定費の変動費 化のために物流を外部委託することが良い と言われているが、単純な坪借り、人日当 たりの料金体系では、変化の把握が難しい。
予算統制を行いやすくするためには、物量の 変化をなるべく機敏に反映する料金体系を 導入する必要がある( 図3 )。
発生費用を限りなく変動費化した料金 体 発生しうる物流の範囲 物量 コスト 図2 倉庫業務における物量とコストの関係 固定人件費 固定スペース費 固定設備費 増床 増床に伴う要員増 不慣れな人を増員 増員 残業 残業 増員 流動人件費 その他管理指標の3カ年計画 Ac課 図1 経営計画と月次予算 経営計画 中長期計画 単年度計画 1Y 1H 2H 売上 費用 利益 2Y 1H 2H 3Y 1H 2H Ab課 A事業部 実施施策 ● ……………… ●……………… 1Y 1H 2H 売上 費用 利益 2Y 1H 2H 3Y 1H 2H B事業部 その他管理指標の3カ年計画 実施施策 ●……………… ●……………… 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 1 1 売上 0 1 2 費用 利益 その他管理指標の月次計画 Aa課 売上高 ○○円 経常利益 ○○円 ○○年度 APRIL 2006 74 系としては、例えば一期一ケースいくら、入 出庫一ケースいくらという形での営業倉庫 料金がある。
この場合、何も預けなければ費 用は発生しないし、保管の量や荷動きに比 例して料金が変動する。
荷主企業で運賃計 算を行っているような業種、例えば鉄鋼、化 学、食品等でも、委託先物流事業者との契 約料金体系を、これに準じる形としていると ころが見られる。
さらに売り上げと完全に比例する料金体 系としているのが、日本の流通業に見られる センターフィーである。
通過金額、つまりセ ンターを通過する商品 の価格の何パーセント という料金体系をとっている。
荷動きがまっ たくなければゼロ円となる。
仕入金額から簡 単に自社で支払う物流コストが計算できる。
荷主側からの短期的な視点では、月単位で の利益管理に適した方法といえる。
もっとも既存の営業倉庫型料金体系も、通 過金額制料金体系も、物流業務受託事業者 側からは問題点が多く指摘されている。
その 主な原因は実際のコストと料金との乖離に ある。
その中庸をとる形で開発されたのがア クティビティ・ベースド(活動基準)料金体 系である。
これは、スペースや設備費用だけ を固定化し、人件費その他を すべて変動扱 いとするものである。
そもそも外部委託は固定費の変動費化を その目的の一つとする。
その進化型であるア ウトソーシングという言葉も、すべての情報 システム費用を処理量に応じて変動費化さ せた米コダック社の取り組みから使われ始め たものだ。
3PLもまた、実際にかかるコストと、荷 主の望む処理量に応じたコスト発生との間 のバッファとしての役割を持つ必要がある。
3PLに求められる料金体系の詳細は次号 以降に譲るが、ここでは予算統制をさらに機 能させるためには、外部委託が有用な選択 肢であり、料金体系の設定が統制のしやす さの鍵を握っていることを指摘しておく。
未使用リソースの徹底活用 コストと物量の関係について述べたので、 これに関連したコスト低減の観点について同 じ図を用いて簡単に説明する( 図4 )。
一般 に倉庫業務の固定費は、スペースや要員に 可用性がないために、実際に使用する以上 に高くなっている。
仮にある業務の物流を処理するのに、繁 忙月には五〇〇坪のスペースが必要であり、 そのために一棟建ての倉庫を借庫したとする。
閑散月には当然、余剰スペースが生じるが、 その活用は非常に困難だ。
同じように要員 についても、繁忙月に処理できるように手配 するため、閑散月には手待ちが発生 する。
これに対して、繁閑期が重ならない別の荷 主と共同で同じ倉庫をシェアする形にすれば、 発生しうる物流の範囲 物量 コスト スペース料のみ固定、 その他について物量 と比例する料金体系 物量と完全に 比例する料金体系 図3 コストと物流料金 固定人件費 固定スペース費 固定設備費 流動人件費 他の荷主業務との 組み合わせによる 習熟パート・アルバ イトの維持と活用 他の荷主業務との 組み合わせによる 管理要員の共有 物量変化に柔軟 に対応した使用 スペース増減 コスト 図4 処理量に連動するコスト実現の観点 物量 固定人件費 固定スペース費 固定設備費 流動人件費 75 APRIL 2006 要員のローテーションやスペースの有効活用 が可能になる。
スペースも要員も物量に応じ て変動させることができる上、常に作業に習 熟した作業者を確保できる。
ここにクラスタ ー型、限られたエリアに倉庫を集積させるこ との有効性があり、また近年、大規模倉庫 の需要が増えている理由がある。
このように月単位でコストの金額だけでな く実態まで見ることによって、新たなコスト ダウンの切り口も見えてくるのである。
指標と組み合わせた日単位管理 管理レベルを月単位からさらに日単位ま でブレイクダウンすれば、いっそう変化を素 早く発見できる。
しかし、日単位の予算管 理は、先述の処理量変動型料金体系での委 託を行っていないかぎり難しい。
月締めによ る請求・精算の扱いをどうやって日単位に 落とし込むのか、あるいは月中の波動をどう 扱うかとは難問である。
それを解決するテクニックのひとつにAB C(アクティビティ・ベースド・コスティン グ:活動基準原価計算)がある。
荷主企業 であれば、物流について作業実績から求めた活動別の標準原価を用いて営業部門別にコ ストを求める。
これによって営業部門別の 日々の想定物流コストが算出できる。
この コストに日々の営業経費をのせれば、営業 部門別の利益が日単位で計算できる。
物流 部門では、日々の作業実績をベースに予定 原価と実際の原価を比較することで、予実 をより細かく把握できる。
だが、この方法も詳細に詰めていくと検討 しなければならない点が多く残されている。
しかも実施には多大な労力がかかる。
原点 に戻って考えてみると、日単位での 金額ベースでの予実管理が必要なのかとい う疑問がある。
日単位での変化の把握は必 要であるとしても、それを行うのに日単位の 利益まで見る必要があるだろうか。
費用の一 部が処理量変動型料金体系になっていたと しても月単位で発生する費用は他に多くあ り、月中の波動も発生する。
多大な労力を かけて精緻に計算しても、それに見合う効果 の得られない可能性がある。
そこで検討する必要が出てくるのが代替 指標である。
日単位で簡単に採れる 指標に は、売上高、出庫物量、作業人時、支払物 流コストなど多くある。
それらの変化を見る だけでも、実績が予定通りか、予算との差 異が出ているのかの判断はつく。
変化の激しい昨今、予算だけでの統制は 難しくなってきている。
金額以外の指標の存 在が不可欠なのである。
予算管理と指標管 理を組み合わせることにより、日々の変化に 早期に対応できる、アジル化に対応した管 理が実現するのである。

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