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APRIL 64
事例で学ぶ
現場改善
日本ロジファクトリー
青木正一 代表
主要荷主の合理化で売上減少
S社は名古屋に拠点を置く年商一〇億円の地
場物流会社だ。 創業は八年前。 電機メーカーに
勤務する営業マンだった当時二八歳のN社長が
脱サラして物流業に参入した。 N社長には運送
会社を経営する叔父がいたものの、自身は物流
業界について全くの素人だった。 その素人性を、
N社長はS社の武器とした。
全てのドライバーに名刺を持たせ、納品時に
S社の会社案内に名刺を添えて配布させるよう
にした。 帰社後もドライバーが自分でパソコン
に向かって日報を入力する。 業界の常識をう
ち
破る数々の営業活動、運営方法を見事に実現し、
着実に業績を上げていた。 そこには旧態依然と
した「運送業」ではなく「サービス業」として
物流事業を展開したいというN社長の強い想い
があった。
これまでずっと順風満帆だったというわけで
はない。 創業から六年目のこと。 N社長の前職
でもあり、またS社の主要荷主でもある電機メ
ーカーのD社がリストラの一環としてグループ
会社二社の統合を行った。 これに合わせてグル
ープ会社二社が業務を委託していた物流会社を
集約し、運賃の見直しをかけるという事態にな
った。
統合から六カ月後
、従来の貸切り運賃から納
品一件当たり運賃へ、運賃体系が変更された。 さ
らに、その六カ月後には物流会社の集約、見直
しが行われた。 幸いにしてS社は統合会社の物
流業務委託先に残ることができた。 しかし物量
は六台の二t平ボディ車の使用を四台に減らさ
れた。 今後の展開も雲行きが怪しくなっていた。
S社としては新たな一手が必要だった。 売上
高の減少分を新規開拓で補いたい。 しかし従来
のやり方で新規開拓を進めると、業務量に応じ
てド
ライバーや車両資産を増やさなければなら
ない。 固定費の増加は避けたいところだ。 そこ
で自社資産五〇%、外部資産五〇%を目安とし
たフリーアセット型の3PLを展開しようという方向性を打ち出した。 新たな方針を元に、まず過去に問い合わせの
あった生花販売のF社に連絡を取った。 F社は
年商二〇億円、食品スーパーなどの入り口にテ
ナントとして生花店を出店している。 現在の店
舗数は約五〇。 前回は店舗に生花を納品するル
ート配送の相談だったが、話し合いの
結果、S
社の既存のリソースでは対応できないと判断し
て業務を断わっていた。
それから三カ月が経過していた。 既に他の物
流会社に決まってしまっただろうと、諦め半分
で連絡したところ、「なかなかこれといった物流
会社がなく、自社物流を続けている」とのこと。
早速、改めてF社を訪問し、業務の対応ができ
第38回
大企業と中小企業では3PLのスタイルも違う。 実際、中小
企業同士が最初から包括的なアウトソーシング契約を結ぶケース
など希だ。 むしろ小さな仕事から始めて実績を積み上げろ。 信頼
を構築することができれば、業務委託範囲を拡大するチャンスは
後からいくらでもやってくる。
地場物流会社S社の3PL展開
あおき・しょういち
1964年生まれ。 京都産
業大学経済学部卒業。 大手
運送業者のセールスドライ
バーを経て、89年に船井
総合研究所入社。 物流開発
チーム・トラックチームチ
ーフを務める。 96年、独立。
日本ロジファクトリーを設
立し代表に就任。 現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/
e-mail:info@nlf.co.jp
65 APRIL 2006
場側が手配している。 それを自社でコントロー
ルできないかという相談だった。
それまでの市場側の車両手配では、繁忙期に
荷が残ってしまったり、間違って他の会社の荷
を持って帰ってしまうなどのトラブルが珍しくな
かった。 配送上のミスは店頭での欠品を招くだ
けでなく、生花という商品の特性上、荷傷みが
生じやすく、ロス率が一気に上がってしまう。
そこで我々S社とNLFは、生花市場への車
両の入場時間と引き取り到着時間、そして繁忙
時の増車対応、保冷車を利用した温度管理など
を検討して
、新たな調達物流体制を設計した。 こ
れによって物流品質が安定化しただけでなく、リ
ードタイムを短縮することができた。 市場内で
のタイムロスが無くなったことで、それまでセリ
日の夕方にF社の加工工場に納品されていたも
のを、当日の昼過ぎの納品に前倒しできた。
こうしてS社の受託業務の範囲は店舗配送か
ら始まり、配車管理、調達物流と段階的に拡大
していった。 3PLとは呼べないかも知れない。
F社の案件ではセンター内業務のアウトソーシ
ングが発生しないため、仕事としては「業務請
負以上・3PL未満」といったところだろう。 そ
れでも充分、成功だと言える。
S社とNLFによ
る役割分担という同じスキ
ームで次の荷主にもアプローチした。 その一つ
が本連載二〇〇六年一月号でご紹介した年商約
五〇億円の印刷会社、P社だった。 先のF社と
同様、P社の案件も自社物流の外注化であった。
商物分離によって会社をスリム化すると同時に、
営業マンの生産性と付加価値を上げたいという
のがP社の狙いだった。
る体制を整えたことを伝えた。
前回と違って今回は、我々日本ロジファクト
リー(NLF)とS社が協力して、企画、提案、
コンサルティング、現場改善を行い、S社の既
存
のリソースで対応できない場合でも、NLF
のネットワークを使って外注化対応を行うとい
うスタイルだ。 もっともF社の場合は、もとも
と自社物流であったため、F社の既存のドライ
バーと車両をS社が受け入れる形で活用すると
いう選択肢もあった。
まずは配車権を握れ
再三に渡る話し合いの末、全体の配車管理業
務および現状の全八コースのうち二コースだけ
をS社が担うことになった。 その二コースも、ド
ライバーの一人はF社からの転籍者。 車両は二
コースともF社の所有車を使う。 結局、新規業
務に伴ってS社が投じたリソースはドライバー
一人と配車管理者一人の人員二人に留まった。
車両の投下はゼロであった。
しかしS社としては?配車権〞を獲得してい
るため、業務拡大を慌てる必要はなかった。 実
際、一カ月のテストランを経て、本稼
動となっ
た後は配送効率を高めることで八コースを六コ
ースに削減し、四カ月後には六コースのうち、五
コースまでがS社の運営となった。 ドライバー
は五人のうち三人がF社からの転籍者であった。
外注化提案から一〇カ月後、F社はS社の運
営の安定性を評価し、次のステップとして生花
市場からの商品の引き取り、いわゆる調達物流
業務をS社に委託したいという要望が出された。
生花市場から出荷するための輸送車両は通常、市
今回もS社は段階的にアウトソーシングの領
域を拡大
していくことを目指した。 実際、S社
がこの案件に投下したのはヒトだけだった。 た
だし、ここでもS社は物流管理者を設置し?配
車権〞を握った。 全一四コースのうち、まず三
コースだけを受託するところから始めた。 トライ
アルから一年後の現在、S社は一四コース全て
と物流管理業務そして工場から各営業所に納品
される幹線輸送までを対応するに至っている。
本誌をはじめとして世間では、大手荷主と大
手物流会社の間で実施される年間数十億円規模
の3PLの事例がよく取り上げられている。 し
かし、そうした?一括受託〞はまだ大企業同士
の一部の動きにとどまっている。 とりわけ自社
物
流の外注化では、段階的に進めるのが一般的
で、最終的にもフルアウトソーシングにはならな
いケースが多い。
しかし中小荷主、中小物流会社の間でも、実
力相応の3PLは成り立っているのである。 は
じめは?一部受託〞であっても双方の理解の上
に着実に運営が実施され、信用が積み上がって
いけば、いずれ一括受託にもつながっていく。 そ
れなのに?一括〞にこだわるがゆえに失敗に終
っている3PLがどれほど多いことであろう。
物流企業にとって重要なのは受託範囲や委託
金額ではなく、その内容である。 中立的、客観
的立場に立った提案とコンサルティング、そし
て現場改善力による受託
が大切である。 現状の
3PL事業にミスマッチがある場合には、物流
企業側では顧客ターゲットの設定、そして荷主
側ではパートナー企業の選定に、その原因がな
いか、改めて検討してみるべきだろう。
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