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奥村宏 経済評論家
第47回 監査法人は何をしていたのか
APRIL 2006 56
ライブドアの会計監査
ライブドアの堀江貴文社長らが粉飾決算の疑いで再逮捕
された。 これで次に問題になるのは監査法人の責任である。
ライブドアの会計監査は港陽監査法人が担当していたが、
ライブドアの宮内亮治前取締役が代表取締役をしていた横
浜市にある法務や税務のコンサルティング会社の後を継いだ
のが、港陽監査法人で代表社員だった公認会計士で、当然
二人は親しい関係にあると思われる。
その港陽監査法人はライブドアが粉飾決算をしていたに
もかかわらず、決算は「適正」であると認定していた。
「朝日新聞」(二〇〇六年二月二十六日)の社説はこのこ
とを指摘したあと「多くの株主がいる公開会社なのに、肝
心の会計
監査は仲間うちで済ませてきたことになる。 これで
は厳しくチェックできるはずがない。 こうした癒着はライブ
ドアだけの話とは思えない」と書いている。
一九九八年に倒産した三田工業の場合も、会計監査をし
ていたのは社長の友人の公認会計士だったということが問
題になった。 友人とか知人という関係でなくても、上場会
社と公認会計士、あるいは監査法人が親しい関係にあるこ
とが問題になる。
昨年大きな問題になったカネボウの粉飾決算では、中央
青山監査法人の公認会計士三人が不正会計に関与していた
として証券取引法違反で起訴されたが、この公認会計士は
単にカネボウの粉飾決算を見逃していただけでなく、それに
加担していたといわれる。
上場会社と資
本金五億円以上の会社は国家資格を得た公
認会計士の外部監査を受けなければならないということにな
っている。 そしてもし粉飾決算が見つかれば会計士は「不適
正」という認定をしなければならないのだが、ほとんどの会
社の決算で「適正」という認定をしている。 これでは日本の
会計帳簿を信用することができないではないか。
会社と監査法人の関係
会社と公認会計士、あるいは監査法人との関係はどこの
国でも問題になる。 アメリカでは会計事務所が会計監査と
コンサルタント業とを兼営しているため、コンサルタント業
の注文をもらおうとして会社の会計監査を甘くしているとい
うことが問題になっていた。
かつてSEC(証券取引委員会)の委員長をしていたア
ーサー・レビットは会計監査とコンサルタント業務とを分離
させようとしたが、これに対し大手の会計事務所が共同でロ
ビイストを使って議会に働きかけ、この動きを阻止した。
そのあと二〇〇一年にエンロンが倒産し、そのあおりを食
ってエンロンの会計監査をしていたアーサー・アンダーセン
が廃業に追い込まれるという事態が生じた。
日
本では監査法人がコンサルタント業を兼営するというこ
とはない。 しかし粉飾決算に積極的に協力していたというこ
とがカネボウなどの事件で明らかになっている。
上場会社と会計士との関係が「なれ合い」になっている
ことは以前から指摘されている。 だが会社が会計士を抱き
込んでいるというより、会計士の方から積極的に会社に協
力しているのである。 それは監査報酬をもらうためでもある
が、相手の会社から監査業務を断られたらその会計士は監
査法人の中で立場が弱くなるからだといわれる。
いずれにせよ、監査法人と上場会社の関係は対等ではな
く、監査法人の方が弱い。 これでは厳正な会計
監査などで
きるはずがない。
そこでこの会社と監査法人との関係を変えることが必要
になる。 そのために監査法人を何年か置きに変えるというロ
ーテーション方式などが提案されている。 アメリカでは五年
ごとに監査法人の交替を義務づけているが、しかしこれでも
粉飾決算はなくなっていない。 両者の癒着関係を絶つため
にもっと根本的な改革が必要である。
企業の発表する決算内容をわれわれは信用していいのだろう
か。 カネボウやライブドアの事件では、図らずも企業会計の監
査に構造的な問題があることが浮き彫りになった。 「会計ビッグ
バン」とは口先だけのかけ声だったのだ。
57 APRIL 2006
アンダーセン廃業の教訓
アメリカの監査法人はかつては「ビッグ・エイト」と言わ
れたものだが、その後合併が進んで「ビッグ・ファイブ」に
なっていた。
ところがエンロン事件でアーサー・アンダーセンが廃業に
追い込まれたために現在では「ビッグ・フォー」になっている。
日本でも監査法人の合併が進んで現在は中央青山、トー
マツ、新日本、あずさの大手四法人に集約されている。 しか
しこれまでアンダーセンのように廃業に追い込まれたものは
ない。
中央青山の公認会計士三人はカネボウの粉飾決算に加担
していたとして起訴されたが、監査法人としての中央青山は
何らの処分も受けていない。 これまで中央青山は山一証券やヤオハン・ジャパン、足利銀行などの粉飾
決算にかかわっ
ていたが、法人としては何らの処分も受けていない。 つい最
近も中央青山監査法人の奥山章雄理事長が、二〇〇一年五
月、自身が会計監査を担当していたジャスダック上場企業
「宮」の粉飾決算を見抜けず、これに「適正」というお墨付
きを与えていたことがわかって問題になっている。
山一証券の場合でもカネボウの場合でも、会計監査を担
当していた公認会計士は処分されているが、それが属してい
た監査法人は何らの処分もされていない。 会計士はそれぞれ
監査法人に属し、監査法人として上場会社と契約している
のである。 そうであるとすると監査法人そのものを処罰する
のでなければ効果はない。
日本では一九九六年橋本内閣のも
とで「会計ビッグバン」
という政策がとられ、「監査人は、職業的専門家として懐疑
心を持って」企業会計の不正や虚偽の表示を監査しなけれ
ばならないことになった。
しかしそれが口先だけであったことがカネボウやライブド
ア事件で証明された。 何も変わっていなかったのである。
おくむら・ひろし 1930年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷
大学教授、中央大学教授を歴任。 日本
は世界にも希な「法人資本主義」であ
るという視点から独自の企業論、証券
市場論を展開。 日本の大企業の株式の
持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判
してきた。 近著に『「まっとうな会社」
とは何か』(太田出版)。
会計士の職業倫理
日本では現在、中央青山、トーマツ、新日本、あずさの
四大監査法人で上場会社の監査の八割以上を占めている。 そ
のうち中央青山は約一七〇〇人の公認会計士を抱え、約二
二〇〇社の監査を請け負っている。 監査法人はパートナー
シップ制で、会計士が出資して作っている組織だが、その会
計士に求められるのは職業意識である。
医師にしても弁護士にしても、そして会計士にしても職
業倫理が求められるが、これが「金儲け主義」になるところ
から腐敗が起こる。
もっとも会計士にいわせると、日本の会計監査の報酬は
アメリカやヨーロッパとくらべて低いという。 そして公認会
計士の数も
アメリカの三三万四〇〇〇人に対し、日本では
一万四〇〇〇人程度と少ない。
それだけ会計士の地位が低いというわけで、それだけに会
計士が会社に食い込んで、会社のご機嫌伺いをするように
なる。
もうひとつの問題は会社が社内に会計専門家を抱えてお
り、外部の公認会計士よりそちらの方が能力は上だという
ことである。 医師や弁護士は素人を相手に仕事をするのに
対して、会計士はクライアントである企業の方が仕事上の
専門知識を持っているプロである。 これでは会計士に十分な
監査ができるはずがない。
なにしろ日本は「会社本位主義」の国だか
ら、会計士と
いう職業でも会社の方が一枚も二枚も上に立っている。
この関係を根本的に変えるにはどうしたらよいか。 それに
はまず公認会計士の資格を厳重にし、職業訓練を徹底させ
るとともに、職業倫理を高めることが必要だ。 だがこれは言
うは易くて行うのは難い。
その前に粉飾決算を見逃したり、あるいはそれに加担した
監査法人と会計士を厳重に処分することが必要ではないか。
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