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APRIL 2006 16
トラック運賃の相場は既に底を打った。 少なく
とも今後、下がることはないだろうと予測してい
る。 昨年秋に当社が荷主企業を対象に行った実勢
運賃調査の結果を見ても、既に特積み運賃は前回
調査した平成十三年と比べてわずか(一%強)な
がらも上昇に転じている。 平成六年の調査をピー
クに下降してきた運賃が一〇年ぶりに反騰したこ
とになる。
採用しているタリフも今や約半数が昭和六〇年
認可運賃になった。 前回の調査では昭和五七年認
可運賃を採
用している企業が三〇・四%あったが、
それが二三・二%に減り、逆に六〇年認可運賃が
四〇・五%から五二・六%に増加した。 平成六年
や平成十一年の届け出運賃を採用している企業も
増えている。
業種による運賃格差も縮小してきた。 もともと
素材型産業の運賃は安く、加工型が高いという傾
向にあったが、その差がなくなってきた。 不採算
荷主に対する運賃の是正が進んだのだろう。
ただし時間制運賃の貸し切り、とりわけ一〇ト
ン、一五トンの大型車の長距離運賃は依然として
下がっている。 時間制運賃の相場は平
成十一年の
届け出運賃の基準値と比べて、一〇トン車は八
九%、一五トン車は八六%の水準にある。 二トン
車の九七%、四トン車の九六%とはかなり乖離し
ている。
これには求車求貨システムの普及も影響してい
ると思われる。 帰り荷の運賃が相場を引き下げて
いる。 言葉は良くないが、一部の荷主は帰り荷運
賃を悪用する傾向にある。 往復の実車を前提とし
て初めて成り立つ運賃
しか払わない。 運送会社の
足元を見ているわけだ。 実際、東京〜大阪間の支
払運賃を各社で比較すると高い荷主と安い荷主で
極端に違う。
業種による運賃格差の縮小は時間制貸し切りに
も見られる。 ただし、特積みとは違って不採算荷
主の是正の結果というわけではなく、逆に加工型
産業の荷主がITバブルの影響で業績にダメージ
を受けたことから、協力運送会社に対して運賃の
値下げを強く要請したことが原因と考えられる。 そ
の結果、加工型産業の運賃
が素材型産業の水準に
近づいているわけだ。
距離制の貸し切り運賃を地区別に見ると、東京
地区は上昇、大阪、名古屋地区は下落という結果
になっている。 今回の調査では同一企業でも地区
によって運賃水準を変えている荷主が増加してい
るのが特徴的だった。 つまり全国一律に運賃を決
めるのではなく、地区ごとの需給関係や他社の動
向、市場を睨んできめ細かく運賃を決める傾向が
強まっているようだ。
また距離制運賃を平成十一年届け出運賃と比較
する
と、三大都市の平均値はタリフの下限、すな
わち基準運賃の八〇%ギリギリの水準にある。 ま
た大型車の不振は距離制でも同様で、一〇トン車、
一五トン車に関しては、どの地区も八〇%を割り
込んでいる。
景気が上向いてきた。 バブル時代とまでは行か
ないまでも、これから運送会社が強くなる時代が
来ることも考えられる。 運送会社のコスト管理も
以前に比べれば厳しくなってきた。 採算の合わない仕事を無理して受託しない方向に変わっている。
運賃が上昇する可能性は否定でき
ない。
今後は荷主と運送会社がお互いに納得できる運
賃設定が要求される。 当社のコンサルティングで
も、運賃水準が荷主側に一方的に有利になってい
るような場合、つまり異常に低い運賃が設定され
ているような場合には、クライアントである荷主
に対して運賃の値上げをアドバイスしている。
運賃水準が上がっても、協力運送会社の士気を
鼓舞して荷主と一緒になって改革を進めることで
トータルコストを下げることはできる。 あまりに安
い運賃を押し付けてやる気を失わせてしまうより、
結果的には得になる。 (談)
「大型車は依然として下がっている」
カサイ経営 西田拓稔 常務
第 第3部3部 プロが語る「私の相場観」?
17 APRIL 2006
私は求貨求車サービスを展開するトラボックス
のほかに、トラック運送会社の経営者としての顔
を持っている。 トラボックス、そして運送会社で
の取引実態の双方を見るかぎり、燃料費問題が騒
がれた昨年末以降も運賃は上がっていない。 例え
ば、東京―大阪間の、大型トラックのスポット運
賃は六万五〇〇〇円から八万円の間で取引されて
いるようだ。 九〇年代後半以降、この水準に大き
な変化は見られない。 現在の運賃はバブル期に市
場でやり取りされていた水準の半分程度だ。
最近、軽油価格の上昇分の転嫁に成功するトラ
ック業者も出始めていると聞く
。 しかし、少なく
とも私の周囲にはいない。 荷主さんにお願いにあ
がっても「おたくが苦しいのはよく分かるが、ウチ
も工場で使っている燃料の購入価格が上がってい
る。 新たなコスト負担が発生しており、申し訳な
いが協力できない」と返されてしまう。
これはトラボックスのような求貨求車サービス
が浸透し、運賃市況がオープンになったことの影
響かもしれないが、例えば東京―大阪間の帰り荷
の運賃(スポット運賃)が六万五〇〇〇円だとす
ると、それが行きでも同じ運賃で走ってもらえる
と勘違いしている荷主さんが増えている。 トラッ
ク輸送は本来、使用
する車種、荷物の種類、積み
卸し作業の有無など、様々な要因を加味したうえ
で運賃が決まる。
行きと帰りが同じ運賃なんてことはあり得ない。
トラックは、人を乗せてA地点からB地点まで走
るタクシーとは違う。 そのことを荷主さんにきちん
と理解してもらう必要がある。 もっとも、行きも
帰りも同じ運賃で仕事を請け負っているトラック
業者が市場に存在すること自体が一番の問題なの
だが‥‥。
無茶苦茶な話を耳にする。 物流セン
ターで働く
作業員を人材派遣会社に頼むと、相場は一人一日
で一万五〇〇〇円くらいだ。 そして荷主さんはそ
の料金で納得して派遣会社を利用している。 とこ
ろが、トラック業者が相手だと話が違ってくる。
「二トン車を一日貸し切って二万円でどうだ」と法
外な料金で仕事を依頼する。
この話を聞いてひっくり返りそうになった。 「ち
ょっと待ってください。 センターの作業員は一日
で一万五〇〇〇円ですよね。 トラックの運転手も
一日雇えば、同じように一万五〇〇〇円くらい掛
かります。 残りの五〇〇〇円でモノを運んでくれ、
ということですか? トラックを走ら
せるには燃
料代や高速代が必要です。 トラックは運転手なし
では走りません」と説明しても、「じゃあ、ほかの
業者にあたるよ」と理解が得られないという。
「運賃をダンピングしているのは中小零細のトラ
ック業者」というイメージが定着している。 しかし
最近ではむしろ大手のダンピングのほうが激しい。
従来の運賃から一〇%割引して大手が荷主さんか
ら仕事をもらう。 その大手が一〇%のマージンを
抜いて、もともと荷主さんと取引していた実運送
業者に下請けとして仕事をまわす。 市場ではこん
なやり取りが頻繁に起こっている。 これでは実運
送を担っている中小零細業者の経営は成
り立つは
ずがない。
かつてトラック業者は「車両が足りなそうだから、ちょっと運賃を上げてみるか」とか「人件費
がいくら掛かるから、このくらいはもらわないと合
わないよね」という具合に、すごく大雑把な原価
計算で運賃を決めていた。 しかし、こんな決め方
ではダメだ。 きちんと原価計算しないと、という
意識は中小零細会社の間にも浸透している。 二代
目や三代目の若手経営者たちは先代が続けてきた
「どんぶり勘定」経営を改めようと努力している。
ところが、先代が「あの会社には昔からお世話
になっているから」という理由で、採算割れの運
賃で仕事を取ってきてしまう。 これでは二代目や
三代目の努
力が水の泡だ。 トラック業者に必要な
のは儲からない仕事を引き受けない勇気だ。 (談)
「トラックはタクシーじゃない」
トラボックス
藤倉泰徳会長
特集
第 第3部3部 プロが語る「私の相場観」?
APRIL 2006 18
トラック運賃は上昇傾向にある――最近、そん
な報道をよく目にするが、それは本当なのかと言
いたい。 少なくとも当社の各営業所で求車求貨サ
ービスのマッチングを担当する配車マンたちに話
を聞くかぎり、運賃は前年の同じ時期や昨年末に比
べて上がっている様子は感じられない。
「運賃値上げ、二割の業者で浸透」という見出し
のついた記事があった。 ところが、それを精読し
ていくと、実は「二割の業者が荷主に対して値上
げのお願いをした」という内容だった。 「お願い=
値上げ」にはならない。
燃料費は高騰して
いる。 さらにドライバーの確
保が困難になりつつある。 確かに運賃を値上げし
やすい環境は整ってきたと言える。 しかし現実に
は値上げを実現できているのは物流子会社くらいで
はないだろうか。
物流子会社が値上げに成功している要因は二つ
ある。 一つは景気回復で親会社の業績がよくなっ
たため。 そしてもう一つはいま流行りのコンプライ
アンス(法的遵守)の影響と見ている。 下請代金
支払遅延等防止法に引っかからないようにするた
めだ。 不当な水準で取引していると問題が生じる
から、親会社が運賃を上げているにすぎない。
値上げを交渉したトラック業者に、どのくらい
の値上
げ幅でお願いしているのかと聞くと三%く
らいだと答える。 しかし、なぜ三%なのか。 その根
拠を聞くと誰も答えられない。 「五%や一〇%だと
呑んでもらえそうにないから、遠慮して三%なの
だ」という。 そんな曖昧な根拠で値上げを要請し
ても、受け入れてくれる荷主さんはどこにもいない。
理詰めできちんと値上げが必要な理由を説明で
きれば、荷主さんだって値上げを前向きに検討し
てくれるはずだ。 トラック業者は相変わらずドンブ
リ勘定で、交渉力や説明力を身につけていないから、
荷主さんは相手にしてくれない。
そもそも、燃料費の高
騰を理由に運賃値上げを
お願いするのであれば、三%という数字ではペイ
しないはずではないか。 軽油の価格は昨年に比べ
て一リットル当たり三〇円程度上昇している。 例
えば、大型トラックの燃費はだいたいリッターで
四キロ。 東京―大阪間の距離が五〇〇キロだとす
ると、一運行につき一二〇リットル程度の軽油が
必要な計算になる。 一リットル当たり三〇円の上
昇なら負担増は三六〇〇円。 もともと東京―大阪
間の運賃を八万円に設定していたら、八万三六〇
〇円をもらわないと商売が成り立たないわけだ。 八
万円の三%が三六〇〇円なの
か?
現在、トラック協会が航空や海運の業界に倣っ
て「燃料サーチャージ制度」を導入しましょうと
呼びかけている。 悪くないアイデアだ。 ただし、こ
の仕組みは両刃の剣であることを頭に入れておく
必要がある。 「よし分かった。 採用しよう。 しかし、
軽油価格が下落したらすぐに運賃を下げてもらう
よ」と荷主さんに言われた場合に、それをコミッ
トできるかどうか。 イエスと返事ができなければ、
荷主さんとの信頼関係は築けない。
これまでトラック運賃は契約の体系がいい加減
すぎた。 本来、東京―大阪の運賃は、出発時間と
到着時間、高速道路を使用するかしないか、荷物
はパレット積みなのか、それとも手積みなのか、な
ど提供するサービスの内容によって大きく変わる
はずだ。 何をやるかで生産性が違ってくるのだか
ら。 しかし実際には「東京から大阪まで運んで○×
万円」といった具合に、?一式でいくら〞という見
積りになっている。
トラック業者には「サービスの対価=運賃であ
る」という哲学が根付いていない。 日本のトラック
ドライバーは?サービス〞と称して、無料で荷主さんの積み卸し作業などを手伝っている。 これに
対して、米国のドライバーたちは絶対にそんなこ
とはしない。 米国は契約社会で、トラック業者が
負う
べき仕事の範囲が明確に規定されているため
だ。 運賃も提供するサービスの項目を積み上げて
いくかたちで決まっている。 運輸業はサービス業
である以上、それが鉄則だ。
日本のトラック運賃には「明細」というのが存在
しない。 これが運賃の上がらない一番の要因だ。 明
細とはすなわち原価計算を意味する。 どの作業に
どれだけのコストが掛かっているのか。 それが明確
になった計算書を提示して運賃交渉に臨めば、荷
主さんも理解を示してくれるはずだ。 (談)
「いい加減な契約だから上がらない」
富士ロジテック
岡元正敏 物流企画室営業部長
第 第3部3部 プロが語る「私の相場観」?
19 APRIL 2006
結論から言えば、今年は運賃が上がる。 知り合
いの運送会社の社長は「運賃十二年周期説」を唱
えている。 その社長は過去に三回の運賃値上げを
経験している。 最初が一九七九年の第二次オイル
ショック、二回目が九一年のバブル、そして今回
が三度目だという。 経営者の野生の勘に近いもの
だと思うが、それほど的外れだとは思わない。
実際、既に動きは出ている。 これまで運賃交渉
をしかけてきたのは常に荷主側だった。 荷主の担
当者が代わった、あるいはコスト削減のプロジェ
クトが始まったといったタイミングで、協力運送
会社
と交渉の場を持ち、そこで値下げを要請する
というのが通常のパターンだ。
運送会社側から荷主に運賃交渉を持ちかけるこ
となど、基本的になかった。 返り討ちにあって逆
に値下げを要請される。 やぶ蛇になることが分か
っていたからだ。 荷主と話をする時にも、運賃に
はなるべく触れないようにする、というのが運送
会社の基本的なスタンスだった。
ところが昨年当たりから変化が出てきた。 当社
とつき合いのある運送会社のうち既に半数程度が
昨年の九月頃から今春にかけて、自分から持ちか
ける形で既存荷主との運賃交渉を行っている。 そ
の
うち半分が値上げを呑んでもらっている。 つま
り全体の二五%程度が値上げを実現している。 た
だし値上げの幅は微増にとどまっている。 ダメも
とで五%の値上げをお願いしたら、三%だけ認め
てもらったといったところ。
それでも今や荷主からの値下げプレッシャーは
もはやほとんどなくなった。 荷主側もさすがにもう
下げられないと分かってきた。 むしろ、どのタイミ
ングで値上げになるのかという意識を持つように
なっている。
原油の高騰は燃料の軽油だけでなく、タイヤに
も影響を与えている。 運送会社のコストは確実に
上がっている。 ただし、それは荷主側でも同じこ
と。 それでも、ほとんどの荷主が製品価格への転
嫁を避
けている。 そのため軽油の高騰だけを理由
に運送会社の値上げを呑むつもりもない。 しかし
人手不足に関しては、荷主も理解しやすい。 態度
が軟化している
実際、ドライバーは足りない。 賃金水準が低下
しているだけでなく、仕事の内容自体が変化して
いることで、仕事に嫌気が差して辞める人が増え
ている。 とくに長距離ドライバーは、これまでは単
に運転していれば良かったものが、ルート配送に
代わり、ハンディ端末を使った検品や身だしなみ
を注意されるようになって、これは違うなと考え、
タクシーをはじめ他の仕事に流れている。
車両自体は余
っている。 物流の多様化に合わせ
て運送会社は車両のバリエーションを用意しておく
必要がある。 そのため登録車両台数は減らしてい
ない。 ところがドライバーがいないために、仕事を
受けられないというケースが増えている。 東京、名
古屋、九州はもちろん、景気が良くないとされる大
阪であってもドライバー不足が深刻化している。
人手不足のなか運送会社はどうやって頭数を確
保しているかといえば、人材派遣に頼っているの
が実情だ。 新しい仕事が決まれば、もちろん採用
募集は打つ。 しかし、人が集まらない。 そのため
やむを得ず派遣会社から人を引っ張ってくる。 は
じめはその場しの
ぎのつもりでも、いつまで経って
も人が採れない。 派遣が常態化していく。
派遣された担当者をそのまま新しく受託した仕
事に回すわけではない。 派遣はあくまでスポット
的な労働力。 ルーティンワークに使っても採算が
合わない。 そもそもルート配送などは引き継ぎに
時間がかかる。 そのため派遣には事務や倉庫作業などの社内のメンバーが担当していた仕事を充て、
既存社員を現場に回すという形で人手をやりくり
している。
いくら運送会社がドンブリ勘定で原価を分かっ
ていないといっても、派遣を使えば日当が請求さ
れるために流出コストもハッキリする。 仕入
れ原
価が明確であるため、それにマージンを乗せなけ
ればいけないという動きになる。 日当で一万五〇
〇〇円〜六〇〇〇円の派遣を使う以上は、それに
一〇〇〇円〜一五〇〇円はマージンを足さないと
利益が残らない。 それ以下の仕事は、さすがに受
けられない。 結果として運賃の下値抵抗線が強固
になってきている。 (談)
「仕事はあってもドライバーがいない」
日本ロジファクトリー
青木正一 代表
特集
第 第3部3部 プロが語る「私の相場観」?
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