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JUNE 2005 18
チームウエアを四週間で納品
野球やサッカーといったチームスポーツで使用され
るウエア(ユニフォーム)は、顧客が自ら色やサイズ、
デザインなどを決めるオーダーメード商品だ。 汎用品
に比べ取扱量が少ないうえに、生産に手間が掛かるな
どコストパフォーマンスがよくないものの、自社ブラ
ンドの愛好者を増やすという意味で、スポーツ用品メ
ーカー各社にとって軽視できない存在となっている。
チームウエア製造の委託先を選ぶ際、一般ユーザー
が特に重視するのは注文から納品までのスピードだ。
チームスポーツではメンバー全員が揃いのウエアを手
にするまで試合を組めないからだ。 「一刻も早く新し
いユニフォームに袖を通したい」――。 そんな顧客ニ
ーズに応えようと、ここ数年メーカー各社は受注から
納品までのリードタイム短縮を競い合ってきた。
世界第二位のスポーツ用品メーカーであるアディダ
ス(本社・ドイツ)もそのうちの一社だ。 九八年末に
デサントとのライセンス契約を解消し、日本法人「ア
ディダスジャパン」を設立して日本市場での直接販売
に乗り出した同社は、チームウエアの分野で後発組に
属する。 それだけに商品の価格や品質面での訴求はも
ちろん、短納期化の実現で顧客のハートをがっちりと
掴むことが、日本のチームウエア市場を席巻するミズ
ノの牙城を切り崩していくうえで欠かせない要素の一
つになっている。
一般にメーカー各社はチームウエアの受注から納品
までのリードタイムを二.八週間程度に設定している。
これに対して、アディダスジャパンはチームウエアの
拡販にあたって注文を受けてから四週間で小売店に商
品を納めるという目標を掲げた。 しかも汎用品と同じ
ように、チームウエアも人件費の安い中国で生産して
日本に輸入するオペレーションを展開するという。 同
社にとって四週間というリードタイムは日本でチーム
ウエアを生産しているライバル企業と互角に渡り合っ
ていくにはどうしても譲れない水準だった。
アディダスジャパンの汎用品のサプライチェーンは、
中国や東南アジアの生産工場→船便で輸送して横浜
港で陸揚げ→検収センターで商品検査→全国三カ所
の物流拠点→小売店、という流れになっている。 リー
ドタイムは四.八週間と長めだ。 そのため、汎用品の
サプライチェーンをそのままチームウエアに当てはめ
ることはできなかった。
「何かいいアイデアはないだろうか」――。 同社が
相談を持ち掛けたのは伊藤忠商事の繊維部隊だった。
アディダスジャパンからの提案はリードタイム四週間
を確約してくれれば、チームウエアの生産から日本の
小売店に納品するまでのオペレーションをすべて伊藤
忠にアウトソーシングしても構わないという内容だっ
た。 アパレル製品のOEM生産や3PLの受託に力
を入れてきた伊藤忠の繊維部隊にとって、この案件は
悪い話ではなかった。
伊藤忠の繊維部隊はアディダス向けに、中国・広
東省の工場で生産→トラックで香港の物流センターに
横持ち輸送→航空便で成田まで輸送→成田で通関後、
全国の小売店に直接商品を配送する、というサプライ
チェーンを用意した。 日中間の輸送には海運ではなく、
航空便を利用する。 さらに中間拠点の経由をできるだ
け避ける。 それによってリードタイム短縮を図ろうと
いうものだ。
もっとも、それだけでは不十分だった。 広東省の工
場および香港の物流センターで発生する検品作業がネ
ックになった。 顧客が指示した色、サイズ、デザイン、
注文数に従って、きちんとチームウエアが生産されて
Case Study《ICタグ》――アディダスジャパン
開梱なし検品で入出荷をスピード処理
受注生産品のチームウエアにICタグを貼付。 縫製工場
と物流センターで発生する検品作業のスピード化を実現
した。 その結果、小売店での受注から納品までのリード
タイム短縮にも成功している。 (刈屋大輔)
第3部WMS とICタグの導入事例
19 JUNE 2005
いるかどうかを工場で出荷前にチェックする。 そして、
到着したチームウエアの数が出荷前の数と一致するか
どうかを、物流センターでカートン(段ボール箱)を
開梱して確認する。 人手を介して行われるため時間と
手間の掛かる、この二つの作業がリードタイム短縮の
足かせとなった。
ヒューマンエラーを回避
煩雑な検品作業に頭を悩ませていた伊藤忠の繊維部
隊が、同社のユビキタス戦略室に勧められたのはIC
タグの活用だった。 聞けば、ICタグは複数のタグを
一度に読み取れる。 しかもカートンを開梱せずに、カ
ートン内の商品に貼付されたICタグを読み取ること
も可能だという。 早速、同戦略室の協力の下、ICタ
グを使った作業改善に取り組むことになった。
改善後の検品作業の流れはこうだ。 まず工場では?
生産したチームウエアの一つひとつに「V
―Lox
I
D」(日立製作所のミューチップをベースに開発)と
呼ぶICタグを貼付。 同時に?ICタグには色やサイ
ズといった製造データを入力する。 続いて?ICタグ
のついたチームウエアを納品先別にカートンに梱包。
そして?ハンディタイプのリーダー(読み取り機)で
カートン内のICタグを読み取り、受注データと照合
するかたちで出荷前検品を行う。 最後に?ICタグで
読み取ったデータと受注データが一致したことを確認
して香港の物流センターに配送する。
一方、物流センターでの検品作業は、工場から送ら
れてきたカートンにリーダーをかざして、出荷時にデ
ータベースに登録したチームウエアの数量と、到着し
たカートン内の数量が一致するかどうかを照合するだ
け。 カートンは開梱しない。 数量が合っていれば、そ
のまま日本に向けて出荷する、という仕組みだ。
効果は絶大だった。 とりわけ物流センターでの作業
スピードは飛躍的に向上した。 それまで物流センター
では工場から到着したカートンを一つひとつ開梱して
チームウエアの数量を確認していたが、ICタグ導入
後は開梱せずに検品を済ますため、商品の入荷から出
荷までの作業時間が大幅に短縮された。 物流センター
には商品が滞留せず、工場から到着したその日のうち
に東京(成田)行きの航空便に載せることができるよ
うになった。
作業ミスも減った。 「チームウエアは色やサイズが
バラバラな個品管理を必要とする商品。 汎用品に比べ
荷揃えの段階でヒューマンエラーが発生しやすい。 チ
ームウエアは他の商品による代用が利かないため、小
売店への納品ミスは絶対に許されない」と伊藤忠の田
村健司ユビキタス戦略室長。 物流センターではカート
ンを開梱せず、人手を介さないかたちで検品を済ませ
ている。 その分、作業ミスが発生するリスクを軽減で
きている。
もっとも、ICタグには読み取り精度の面で課題も
見つかった。 輸送中に加わった衝撃などが原因で、カ
ートン内のICタグの向きが変わると、きちんと読み
取れないこともあった。 「そういう場合にはリーダー
をかざす角度を変える必要がある。 三回トライして、
それでも読み取りがうまくいかない場合にはカートン
を開梱して数量を確認している」(田村室長)という。
「受注生産配送システム」と名付けられた物流管理
システムは昨年四月にテスト運用を開始した。 九カ月
間に及ぶトライアルを通じて一定の効果が確認できた
ことから、アディダスジャパンでは今年二月に本格導
入に踏み切った。 現在、同社にとって?リードタイム
四週間.は日本のチームウエア市場を開拓していくう
えで、大きな武器となっている。
伊藤忠商事の田村健司
ユビキタス戦略室長
個品情報
DB
受注DB 受注DB
発注
●アディダスジャパンの「受注生産配送システム」
発注 縫製指図
データリンク
データ照合
データ照合
委託縫製工場(中国・広東省)
トラック輸送
物流センター(中国・香港)
東京(成田)の
物流センター
配送
スポーツ用品店
アディダスジャパン
伊藤忠商事
航空便
生産
検品
出荷
出荷
ICタグ貼付
入荷検品
開梱なし
通関
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