ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年5号
ケース
環境対策--NECロジスティクス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2006 36 輸送量などの報告を義務づけ 温暖化ガスの削減を批准国に義務づける 「京都議定書」の発効を受けて、日本でも昨 年八月、「省エネ法(エネルギー使用の合理化に関する法律)」が改正された。
物流関係 者にとって重要な改正点は、輸送分野の省エ ネ対策が新たに明記されたところだ。
これに よって輸送事業者と荷主は、それぞれにモー ダルシフトや輸配送の効率化といった措置を 講じることを義務づけられることになった。
一定規模以上の輸送力(輸送事業者)と 輸送量(荷主)をもつ企業は、年に一度、省 エネのための計画書を作成し、 エネルギー消 費量やCO 2 排出量などの報告書を国に提出 しなければならない。
輸送事業者のうちトラ ック運送業者では、二〇〇台以上の車両を保 有する企業が該当する。
また、荷主の場合、 自ら所有権をもつ貨物の年間輸送量が三〇〇 〇万トンキロ以上だと「特定荷主」として報 告義務を負う。
こうした企業は改正法が施行 された今年四月から、報告書のために必要な データの収集を行っている。
NECグループは昨年九月、今回の法改正 に向けた検討を開始した。
NEC本体と、半 導体メーカーであるNECエレクトロニクス の環境対策や生産統括を行う部署 、およびグ ループの輸送管理を担うNECロジスティク スの環境部門などによる「連絡会」を設けて、 対応を模索してきた。
貨物自動車運送事業の許可こそ取得してい るものの、NECロジの保有車両数はわずか 五台。
輸送事業者として報告義務を負ってい るわけではない。
しかし、その一方でNEC グループ各社の輸送管理の大半を担っており、 荷主の報告に必要な数値管理には直接携わる 立場にある。
連絡会では、NECロジが協力 会社に委託している輸送について、どこまで 情報を把握できるのか、報告書にまとめると きにはどのような方法を選択すべきなのか、 とい った検討を行った。
荷主の報告書を作成するときには、「トン キロベースの輸送量」、「エネルギー消費量」、 「CO 2 排出量」などのデータが必要だ。
トン キロの輸送量の算出には、輸送距離と重量の 把握が必要だ。
またエネルギー消費量やCO 2 排出量を算定しようとしたら、算定方法に応 じて燃料使用量や燃費、積載率などの運行データを把握しなければならない。
こうしたデータのうち、輸送距離・燃料使 用量・燃費などは車載機で実測できる。
ただ 荷主が直接タッチできる行為ではないため、 委託先の輸送事業者から運行管理データを提 供してもらうという手段をとらざるをえない。
そして、これが容易ではない。
前述した通り、改正省エネ法では輸送事業 者も報告義務を負っている。
だがトラック事 業者のなかで、その対象となっているのは保 有車両数が二〇〇台以上の大手だけだ。
大半 の事業者は対象外で、しかもその多くは運転 環境対策 NECロジスティクス 輸送の実績を伝票単位で把握して 改正省エネ法の報告データに活用 改正省エネ法の施行によって、一定規模の輸送量を 持つ荷主は、CO2排出量などを定期的に国に報告するこ とを義務づけられた。
NECグループの輸送管理を担う NECロジスティクスは、ルート別の輸送実績を伝票単 位で管理できる情報システムを2年前に稼動している。
このシステムをバージョンアップして、収集データの 精度をさらに高めていく方針だ。
37 MAY 2006 日報などの管理をまだ紙ベースで行っている と推察される。
このような事業者から一律に データを入手するのは極めて困難だ。
しかも、輸送事業の特性として再委託が多 く、協力物流業者の先にまた孫請け企業が存在しているケースが少なくない。
荷主の立場 では、所有権を持つすべての貨物について報 告しなければいけない。
当然、再委託先の輸 送についても報告対象に含まれるのだが、そ こまでの輸送実態を把握するとなると膨大な 労力が発生してしまう。
このような実情に考慮して、改正省エネ法 では、荷主がエネルギー消費量の算定を行う 際に、燃料使用量から割り出す「燃料法」以 外にも、輸送距離と燃費から算定する「燃費 法」と、輸送トンキロから算定する「トンキ ロ法」を認めている(図1)。
後の二つの方 法には、それぞれ車種別の燃費の基準値、燃 料使用原単位が設けられており、実測データ がなくても算定できるようになっている。
トヨタ式へ輸配送ネットを構築 実運送のほとんどを協力会社に委託してい るNECロジは、自ら輸送距離や燃料使用量 などを実測することはできない。
だが協力会 社による日々の輸送状況は、同社の輸送管理 システムで、ある程度までは把握できる。
そ こで同社は、このシステムで報告書に必要な 数値データを算定しようと考えた。
NECロジの輸送管理システムは、伝票単 位でルート別に輸送実績を管理するようにな っている。
全国規模の輸配送ネットワークが 完成した二〇〇四年三月に稼動した。
これに よる改正省エネ法への対応を説明する前に、 まずは同社が取り組んだ輸配送ネッ トワーク の構築に触れておこう。
NECロジがネットワークの構築に取り組 んだきっかけは、NECグループが?トヨタ 生産方式〞を導入したことだった。
新たな生 産方式の導入によりNECは、部品調達から 生産・販売に至るモノの流れを効率化するサ プライチェーン・マネジメントに乗り出した。
これに伴ってNECロジも、仕組みを動かす うえで血管の役割を果たす輸配送ネットワー クの構築に二〇〇〇年から取り組んだ。
簡単に言えば、これは錯綜していた輸送網 の整理だった。
まず、NECグループの工場 集積地や主 要都市など全国一六カ所に、幹線輸送の中継基地となる集配拠点を設置。
そし て幹線と支線を結ぶ全国ネットワークを構築 した。
さらに、このネットワーク上で?定時 定ルート便〞の運行を開始。
部品・部材サプ ライヤーの出荷拠点や、NECグループの生 産拠点、製品ユーザーの拠点などの間を、必 要なときに必要なものがスムーズに流れる仕 組みを作った(図2)。
以前は、調達・生産・販売それぞれの輸送 管理業務に携わる部門間で、充分な連携がと れていなかった。
このため輸送はポイント・ ツー・ポイントの片道 運行になりがちだった。
図1 エネルギー消費量の算出方法 燃料法 燃料使用量からエネルギー消費量を算定 車両ごとに把握する場合 車両全体で把握する場合 (給油設備を自社で所有している場合) エネルギー消費量(MJ) 単位発熱量 (MJ/リットル) 燃費法 輸送距離と燃費からエネルギー消費量 を算定 燃費 (km/リットル) 輸送距離 (km) 1 2 3 改良トンキロ法 積載率と車両の燃料種類、最大積載量別の輸送 トンキロからエネルギー消費量を算定 【トラック】 輸送重量 (トン) 輸送距離 (km) 輸送トンキロ (トンキロ) 改良トンキロ法 燃料使用原単位 (リットル/トンキロ) 燃料購入量(リットル) 期初の 燃料在庫量 (リットル) 燃料購入量 (リットル) 期末の 燃料在庫量 (リットル) + = = = = × × × × × 燃料使用量 (リットル) エネルギー 消費量 (MJ) 単位発熱量 (MJ/リットル) 燃料使用量 (リットル) エネルギー 消費量 (MJ) 単位発熱量 (MJ/リットル) ÷  トラックの最大積載量別積載率別の燃料使用原単位に 最大積載量別積載率別に細分化された輸送トンキロをかけ て算定。
この手法は積載率による原単位の違いを反映でき る。
トラック以外の輸送モード(内航、鉄道、航空)について は、輸送機関別エネルギー消費原単位を用いて算定。
 車両の燃費と輸送距離が把握できる場合に 用いる。
実測で燃費が把握できれば精度が高 いが、混載の場合には荷主別の按分が必要と なるため詳細なデータ把握が必要。
車両の燃料使用量が把握できる場合に用いる。
最も精度が高いが、混載の場合には荷主別の按 分が必要となるため詳細なデータ把握が必要。
資源エネルギー庁:改正省エネ法「荷主対応マニュアル」より MAY 2006 38 は、二〇〇二年九月を一〇〇とした場合、二 年後の二〇〇四年一〇月には七八まで減少し た。
この要因の一つとしてNECロジは、臨 時便が減ったことをあげる。
実際、この二年 間で定時定ルート便の比率は、全体の二割以下から五割以上へと高まっているという。
結果として「改良トンキロ法」を採用 話を改正省エネ法に戻そう。
輸配送ネット ワークの構築に合わせて稼動したNECロジ の輸送管理システムでは、伝票ごとに輸送実 績を管理している。
車両に貨物を積み込むと きに、荷主の運送依頼情報などをもとに、伝 票単位で「何を(品名)どれだけ(個数)ど こへ(届け先)どんな車種で輸送するか」を 入力して管理する。
改正省エネ法に対応していくうえで、まず NECロジは、この情報システムで、報告の ために必要なグループ各社の輸送量などのデ ータをどこまで把握できるかを検討した。
輸送ルー トはほぼ固定のため、発着地情報 から輸送距離を算出することは可能だ。
車種 も必須の入力項目になっているため、すべて の貨物について把握できる。
ただし、トンキ ロの算出に欠かせない重量データは、このシ ステムでは管理していない。
パソコンなどの 製品は通常、重量ではなく容積で捉えている からだ。
「パソコンを何台積んだか」という情 報はつかんでいても、それを重量に置き換え てはいなかった。
こうした状況を踏まえて、 必要なデータの算定方法を検討した。
エネルギー消費量の算定には「燃料法」、 「燃費法」、「トンキロ法」の三つの方法が認 められていることは既に述べた。
従来 からN ECロジは、環境活動の一環として輸配送の 効率化によるCO 2 排出量の削減に取り組ん できた経緯がある。
その際には、排出量の算 出方法として、輸送距離と車種別の燃費デー タから算出するという方法をとっていた。
輸送距離は情報システムから把握できる。
また燃費については、自社の保有車両をモデ ルに、一定期間にわたって車種別に実測して 平均燃費を算出。
この基準値と輸送距離から CO 2 排出量を推計すればいい。
これは算定 方法としては「燃費法」に該当する。
しかし、今回の改正省エネ法への対応では、 NECロジは「トンキロ法」を採用すること を決めた。
より正確に言えば、トラック輸送の場合は「改良トンキロ法」になる。
なぜ?改 良〞なのかを、以下に説明する。
改正省エネ法で認められた三つの算定方法 のうち、「トンキロ法」には他の二つの方法 との大きな相違点がある。
一台のトラックに 複数の荷主の貨物を混載輸送した場合、「燃 料法」と 「燃費法」ではいずれも荷主別の数 値の按分が必要になる。
按分を行うには、輸 送事業者と荷主との間で輸送距離や重量デー タを出し合わなければならない。
これに対し て「トンキロ法」では、輸送量と輸送手段 別・車種別の燃料使用原単位から算定を行 トヨタ流の多品種少量生産に伴う多頻度調達 や、タイムリーな製品供給を実施しようにも、 輸送面の制約から効率よく対応することがで きなかったのだ。
NECロジは、輸送業務をネットワーク化 し、比較的小刻みな定時定ルート運行体制を 確立することによって、グループ各社による トヨタ生産方式の導入を支援した。
その一方 で 、混載や一般貨物との共同輸送などで実車 率を高め、輸送コストの削減も進めた。
NECグループの輸送に携わる車両の台数 図2 国内輸配送ネットワークの整備 ★ ★ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ 富山 秋田 福井 山口 福岡 大分 熊本 大月 山梨 御殿場 山形 宮城 埼玉 茨城 米沢 一関 福島 広島 関西デバイス 九州デバイス 鹿児島デバイス 長野 静岡 甲府 群馬 栃木 新潟 福岡 広島 岡山 関西 中部 長野 新潟 高松 熊本 東京 静岡 甲府 郡山 盛岡 金沢 ■ ● ▲ ★ ●ミニマム荷量に合わせた幹線便の設定 →調達物流などの荷量取り組みに連動したタイムリーな増便 →共同輸送による上り/下りの荷量アンバランス解消 主幹線ルート(往復) 幹線ルート(往復) 幹線ルート(片道) 支線接続 幹線中継・集配拠点. ソリューションズ生産物流拠点 ネットワークス生産物流拠点 デバイス生産物流拠点 札幌 39 MAY 2006 うため、こうした按分は必要ない。
また従来の「トンキロ法」では、四トン車 と一〇トン車が同じ車種に区分されるなど、 原単位の設定がおおまかだった。
これに対し て「改良トンキロ法」では、トラックについ てだけ車種区分を細かく設定し直してある。
しかも計算式に新たに積載率の要素を加えて、 車両一台あたりの積載率が高いほど燃料使用 量の算定値が小さくなるようになった。
分かりやすく説明すると、例えば、四トン 車三台に分けて運んでいたのを一〇トン車一 台に満載するように変えれ ば、車両台数が減 りCO 2 排出量も減少するはずだ。
しかし、従 来の「トンキロ法」では輸送量が同じなら算定 量も同じ数値となり、効率化の努力は全く反 映されなかった。
これが「改良トンキロ法」で は、効率化の成果を反映させられる。
積載率の向上こそ自らの役割 NECロジが「改良トンキロ法」を採用し たのは、荷主ごとに車種別の輸送実績を把握 できるといった同社の輸送管理システムの特 徴を充分に活かせることに加えて、積載率が 反映される点を重視したからだ。
CS推進部環境管理室の長田彰室長は、 「定時定ルート便の比率を上げてその積載率 を高めることが、荷主に代わって輸送効率化 に取り組むわれわれの役割。
改良トンキロ法 を採った場合、積載率を上げないとエネルギ ー消費量やCO 2 排出量の数値も改善しない から、目標が明確になる」と説明する。
ただし、それにはまず積載率の正確な把握 が前提となる。
同社ではこれまで積載率につ いては、効率化の目安くらいの位置づけで大 まかにしか捉えていなかった。
重量と容積も正確には把握できてはいなかった。
このため NECロジとしては、数値の精度を上げるた めに今後、輸送管理システムのバージョンア ップを行っていく予定だ。
輸送距離について も、県庁所在地を起点に計算する、より一般 的な方法へと改めていくという。
現状のシステムでも、「何をいくつどこへ 何トン車で運ん だか」までは、NECグルー プだけでなく一般貨物の荷主についても管理 できている。
これに加えて、貨物の重量デー タを取得できるようになれば、積載率も容易 に算出できるはずだ。
荷主の商品マスターか ら容積データを取得して重量に換算するなど、 具体的な方法はいろいろと考えられる。
「現行システムのままでも報告に必要な基 礎データの取得は可能だ。
どこまで数値の精 度を高めるかは荷主が判断すること。
四月か らデータの蓄積さえしておけば、その判断に 応じて推定値を使うなり、容積から換算する なりして、あとで数値を算出することができ る 」と長田室長は余裕をみせる。
改正省エネ法では、算定するエネルギー消 費量そのものではなく、これを売上高などで 割った?エネルギー消費原単位〞を評価の基 準としている。
そして中長期的に、この?原 単位〞を年平均で一%以上減らすことを努力 目標として対象企業に課している。
売上高から原単位を算出する場合、算定す るエネルギー消費量が仮に増えても、輸送の 効率化によってその増加率が売上高の伸び率 を下回っていれば原単位は下がる。
一方で、 商品の単価が下がってその分、物量が増えた 場合 には、売り上げや運び方が前年と同じで も原単位は上がってしまう。
原単位による評 価という考え方には、こうした問題点が含ま れていることを認識しておく必要があろう。
また「一%というのは輸送業界の管理レベ ルからすると、誤差に近い微妙な数字。
それ だけにデータをきちんと管理して精度を上げ ていくことが重要」と長田室長は指摘する。
昨年八月に改正法が成立しながら、荷主の 判断基準や算定基準の告示は、施行直前の今 年三月になってようやく行われた。
こうした ことを考えると、準備不足で混乱した 状況の まま施行日を迎えた企業も少なくないと思わ れる。
輸送形態や管理体制の違いによって、 対応に格差が生じる可能性は大いにありそう だ。
(フリージャーナリスト・内田三知代) NECロジスティクス・CS推 進部環境管理室の長田彰室長

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