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苦戦が続くエリア共同配送
各社がバラバラに行っている集配作業を特
定のトラック運送会社に一本化する。 それに
よってトラックの流入台数を減らして違法な路上駐車をなくしたり、慢性化した交通渋滞
の緩和に結びつける――。 九〇年代以降、そ
んなコンセプトを掲げた共同配送事業が全国
の市街地で相次いで立ち上がっている。
九二年には新宿の高層ビル街を対象にした
共同配送がスタート。 九四年には、一度は休
止に追い込まれた福岡・天神地区での共同配
送が再び動き出した。 さらに二〇〇〇年には
横浜・元町地区、翌二〇〇一年にはさいたま
新都
心で共同配送が産声を上げたほか、昨年
は秋葉原や自由が丘で行政主導の実証実験が
展開された。
先行した事例のうち、福岡・天神地区では
共同配送に踏み切ったことで一日当たりのト
ラック流入台数が実施前に比べ約六割、総駐
車回数も約七割減少するなど一定の成果を上
げている。 同地区で集配作業を請け負う「天
神地区共同輸送」は九九年に累積赤字を一
掃し、黒字転換に成功した。 特別積み合わせ
業者や金融機関といった出資者への配当も始
めている。
もっとも、福岡
・天神地区のように共同配
送が軌道に乗っているケースは稀で、他エリ
アでの取り組みの多くは苦戦を強いられてい
るのが実情だ。 例えば、さいたま新都心で集
配作業を担当する「さいたま新都心共同輸
送」は本格スタートから五年以上が経過した
現在も赤字脱却のメドがたっていない。 同様
に、横浜・元町地区の共同配送も採算ライン
に到達するまでもう少し時間が掛かる見通しだという。 市街地での共同配送が安定稼働に漕ぎ着け
ないのは、集配作業の受け皿会社に委託され
る貨物の量が
当初の計画値を大きく下回って
いるためだ。 トラック運送会社にとってネッ
クとなっているのは受け皿会社に支払う集配
手数料が一〇〇〜一五〇円程度に設定され
ている点だ。 荷主企業から受け取る運賃が低
下する傾向にある中で、市場価格よりも割高
な集配手数料を徴収されるのを嫌い、トラッ
ク運送会社は共同配送への参加に二の足を踏
んでいる。
共同配送
コラボデリバリー
違法駐車の排除や渋滞緩和を目指し
大型複合施設の物流業務を一括受託
特積み67社と東京路線トラック協議会が出資して今年
1月に設立した共同配送会社。 大型複合施設の館内共配
や市街地でのエリア共配などを請け負う。 トラック運送
会社主導の共配はこれまで割高な集配手数料がネックと
なって参加会社の足並みが揃わず、なかなか軌道に乗ら
なかった。 これに対して新会社は自販機の補充作業や弁
当の販売代行など付帯事業で収入を確保することで、参
加会社から収受する集配手数料の引き下げを実現する。
福岡・天神地区の共同配送ではトラックの流入台数が
約6割減るなどの成果を上げている。
(写真は共配トラック「イエローバード」での作業の様
子)
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料金面だけではない。 受け皿会社の提供す
るサービスが満足できる水準に達していない
こともハードルの一つになっている。 例えば、
ヤマト運輸をはじめとする大手宅配便会社は
現在、配達時間帯を二時間刻みに設定してい
るのに対し、受け皿会社はこうしたきめ細か
な配達に対応できる体制が整っていない。 そ
のため、当初は共同配送に前向きな姿勢を示
していたものの、最終的には営業戦略上、自
社集配体制の継続を選択する大手が後を絶た
ない。
違法駐車の排除や交通渋滞の緩和、さらに
環境負荷の軽減といったエリア共同配送の大
義名分に異を唱えるトラック運送会社は皆無
に等しい。 ところが、いざ実行に移す段階に
なると、「総論賛成、各論反対」で各社の足
並みが揃わず、プロジェクトの多くが暗礁に乗り上げてしまっている。
「共同配送を何がなんでも成功させようと
いう意気込みが参加各社からは感じられない。
会社によってプロジェクトへの関わり方には
温度差がある。 エリア共同配送の多くはお上
(行政)が音頭を取って推進している。 彼ら
に睨まれないようにするため、『やります』と
いうポーズをとっているにすぎない」と、あ
るトラック運送会社の幹部は指摘する。
それでも高まる共同配送ニーズ
このように実態は当初の青写真とは大きく
かけ離れているにもかかわらず、共同配送に
対する社会のニーズは年を追うごとに高まっ
ていく一方だ。 ここ数年はとりわけ商店街が
共同配送の実現に向けて熱心な活動を繰り広
げている。 商店街では賑わいの復活や買い物
客の安全確保を目的にトラックの流入規制実
施を模索しており、その一環として運送会社
に対し共同配送へのシフトを呼びかけている。
さらに最近では都市部で相次いで誕生して
いる大型複合施設でも共同配送を求める声が
出始
めている。 六本木ヒルズや汐留シオサイ
トのような大型複合施設は都心の新たな人気
スポットとして活況を呈しているが、その周
辺地域では施設に入居する企業や店舗に商品
を納品するトラックが路上に長時間駐停車し
ていることが原因で発生する交通渋滞が社会
問題としてクローズアップされるようになっ
た。 共同配送はこの問題を解消するための有
効な手段と受け止められている。
渋滞解消だけではない。 大型複合施設にと
って施設のセキュリティーレベルを高めるこ
とも共同配送の目的の一つだ。 共同配送を通
じて施設内に出入りするトラック運送会社の数を絞り
込むことはテロや情報漏えいの防止
策につながる。 しかもセキュリティーの強化
が評価されて施設の建物としての価値が高ま
れば、賃料の引き上げなどが可能になると期
待する。
ところが、トラック運送業界はこうした新
たに発生している共同配送のニーズにもきち
んと対応できていない。 例えば、すでに一部
の先進的な大型複合施設では館内物流の担い
手を特定のトラック運送会社に一本化するこ
とで、納品トラックの台数を削減する試みを
実行している。 ただし、その中にはスタート
図1 エリア共同配送の主な事例
実施エリア 実施時期
福岡天神地区共同集配事業
新宿高層ビル街共同集配事業
東京都一般トラックターミナルにおける共同集配事業
町田市における共同集配事業
熊本地区の都心部における共同集配事業
横浜元町地区共同集配事業
さいたま新都心共同集配事業
徳島市における共同集配事業
東京丸の内地区で高層ビルへ館内配送するための共同集配事業
名古屋長者町繊維問屋街における共同集配事業
東京秋葉原昭和通りの共同集配事業
東京目黒区自由が丘での共同集配事業
*1978年
1992年
1996年
1999年
2000年
2000年
2001年
2003年
2003年
2003年
2005年
2005年
*福岡天神地区は一時中断後、94年に再開
東路協の松永正大常務理事
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していくことになった。
集配手数料を五〇円に値下げ
前述した通り、トラック運送会社にとって
共同配送への参加の足かせとなっていたのは
集配作業の受け皿会社が徴収する手数料だっ
た。 従来の共同配送プロジェクトでは受け皿
会社がきちんと収益性を確保できるようにす
るため、市場価格よりも割高な集配手数料が
設定されてきた。 しかし、それが結果として
取扱貨物量の伸び悩みを招く大きな要因とな
っていた。
これに対して「コラボデリバリー」が新た
に打ち出したビジネスモデルとは、集配手数
料を一気に五〇円まで値下げして、トラック
運送会社が共同配送に参加しやすい環境をつ
くり出すと
いうものだ。 ただし、五〇円とい
う価格設定にすれば当然、「コラボデリバリ
ー」の経営が成り立たない。 仮に採算ライン
にのせるために必要な集配手数料が一五〇円
だとすると、そこから五〇円を差し引いた一
〇〇円が足りない計算になってしまう。
そこで「コラボデリバリー」では集配業務
以外のビジネスで稼いだ収入で手数料の不足
分を補填していくモデルを考案した。 「共同
配送の恩恵を受けるのはトラック運送会社だ
けではない。 商店街や大型複合施設も受益者
であることから、当初は彼らにもコストの一
部を負担してもらい、それによって受け皿会
社の収支を合
わせることも検討した。 ところ
が、なかなか賛同は得られなかった。 他人任
せにするのではなく、自分たちで稼げるビジ
ネスを探すことになった」と松永常務理事は
説明する。
「コラボデリバリー」が現段階で想定するサ
イドビジネスは大きく分けて二つある。 一つ
は自動販売機の商品補充を代行するサービス
だ。 飲料品やタバコのベンダー各社に代わっ
て、商品の補充はもちろん、料金回収や簡易
メンテナンスといった作業までを一括で請け負うことで手数料収入を得るというものだ。 もう一つは弁当販売の代行サービスだ。 弁
当の製造業者から販売委託を受けて、「コラ
ボデリバリー」のスタッフが大型複合施設な
ど
で働くビジネスマンたちにフロアで弁当を
販売する。 それによって得た委託料収入から
販売スタッフの人件費などを差し引いた額を
共同配送に還元するという仕組みだ。
実はこの二つのほかにもサイドビジネスの
候補がいくつか挙がっている。 例えば、「ク
リーニングの取次や靴磨き、フロアマットの
交換といったサービスを展開していくことも
後すぐに空中分解に追い込まれてしまったプ
ロジェクトも少なくない。
通常、大型複合施設における共同配送では
施設内から発送される貨物について、各テナ
ントが指定する運送会社にそれぞれ貨物を引
き渡すルールが導入されている。 にもかかわ
らず、館内物流を担
当する運送会社がそれを
無視して他社の貨物を自社分として取り込ん
でしまうなどルール違反が横行している。 結
局、それが引き金となってプロジェクトは中
断を余儀なくされているという。
全国各地で展開されている共同配送の?お
寒い〞現状に対して、トラック運送業界は強
い危機感を抱いてきた。 各社のエゴがぶつか
り合ってプロジェクトがなかなか進展しない
様子はトラック運送業界全体のイメージダウ
ンにつながりかねないからだ。 そこで特積み
会社の業界団体の一つである東京路線トラッ
ク協議会(有冨慶二会長)は二〇〇二年に
「中心市街地や大規模再開発地区における配
送のあり方」に
ついての研究会を発足させ、
具体的な対策の検討に乗り出した。
その結果、昨年末になってようやく「トラ
ック運送各社に納得してもらえる共同配送事
業の新たなビジネスモデルの開発に成功した」
(松永正大常務理事)。 これを受けて、同協議
会は今年一月、会員の特積み会社六七社との
共同出資で共同配送会社「コラボデリバリ
ー」を設立。 この新会社を軸に、従来とはま
ったく異なる発想で共同配送の定着化に挑戦
コラボデリバリーの池雅伸
常務執行役員
43 MAY 2006
検討している。 大型複合施設内にオフィスコ
ンビニを出店してコピーやファクス送信など
事務処理サービスを提供するという案もある」
とコラボデリバリーの池雅伸常務執行役員は
披露する。
当初は特別積み合わせ便を対象にした求貨
求車サービスもサイドビジネスの有力な候補
の一つだった。 しかし、この案は約六カ月間
に及ぶテスト運用の結果、最終的には採用が
見送られることになった。 求貨求車サービス
は自販機事業や弁当販売事業よりもはるかに
高い収益性を期待できるものの、「区域トラ
ックと違って特積みの幹線輸送トラックは定
時運行が原則。 そのため貨物とトラックの迅
速な
マッチングが求められるなど事業化に向
けてクリアすべき課題が多すぎた」(松永常
務理事)という。
今夏に第一号案件がスタート
副業で稼いで集配手数料の大幅値下げを実
現する「コラボデリバリー」の斬新なアイデ
アは、トラック運送会社からはもちろん、共
同配送を切望する商店街や大型複合施設から
も高い評価を受けている。 「コラボデリバリ
ー」では現在、複数の商店街や大型複合施設
と交渉に臨んでおり、「早ければ今年六月頃
までには首都圏で第一弾となるプロジェクトが立ち上がる予定だ」(高橋誠執行役員)。
今後、「コラボデリバリー」では計画段階
にあるエリア共同配送や、新規オープンが予
定されている大型複合施設に営業のターゲッ
トを限定していく方針だ。 すでに事業化に漕
ぎ着けているプロジェクトには原則としてア
プローチしない。 現在、各地で動いている共
同配送プロジェクトの中には東路協の会員各
社が個別に受託している案件も少なくない。
新規プロジェクトに的を絞るのは彼らと競合
するのを避けるためだ。
もっとも、相手側から協力を要請してきた
場合は、話は別だ。 軌道に乗っていない共同
配送プロジェクトとは「互いに協力し合って、
いい方向にもっていきたいという思いもある」
(松永常務理事)。 実際、赤字運営の続く「さ
いたま新都心共同輸送」からは早くも協力の
依
頼が寄せられており、将来は両社が連携し
ていくことも視野に入れている。
当面の課題は副業のレパートリーを増やす
ことにある。 同社は商店街や大型複合施設に
出店している企業と競合するようなサービス
を提供できないという制約を受ける。 共同配
送を誘致する商店街や大型複合施設からサー
ビスメニューの拡充についてどれだけの譲歩
を引き出せるかが成否のカギとなりそうだ。
売上高は初年度に約七〇〇〇万円、二年
目に約一億二〇〇〇万円を見込む。 これに対
して営業利益率は二〜三%台の確保を目指し
ている。 株主に対する利益
の還元方法はユニ
ークで、配当の代わりに「大型複合施設内の
あるテナント企業が引越を請け負ってくれる
物流会社を探している」といった営業情報を
各社にフィードバックしていくことを検討し
ている。
今年六月の改正道路交通法の施行で違法
駐車の取り締まりがより一層強化される。 今
回の法改正がトラック運送会社の日々の業務
遂行に多大な影響を与えるのは確実だ。 路上
駐車を減らすため、行政は荷捌きスペースの
確保などインフラ整備を加速させる必要があ
る。 一方、トラック運送会社には共同配送な
ど自主的な取
り組みを通じて車両の流入台数
そのものを減らしていく努力が求められる。
共同配送の受け皿として新たに誕生した「コ
ラボデリバリー」の活躍が期待される場面は
今後ますます増えていきそうだ。 (刈屋大輔)
図2 コラボデリバリーのロゴ
コラボのCと大型複合施設の高層ビ
ルをイメージした
コラボデリバリーの高橋誠
執行役員
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