ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2006年5号
メディア批評
反戦歌にもなる「軍歌のばかばかしさ」変わり身が早いのはメディアか国民か

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

佐高信 経済評論家 75 MAY 2006 靖国神社の歌 愛国行進曲 出征兵士を送る歌 紀元二千六百年 これらが一九三六(昭和十一)年春からN HKで放送された「国民歌謡」である。
もち ろん、当時はテレビはなくラジオだった。
この番組は現在は「みんなのうた」となっ ているが、戦争中に戦争を煽った歌を流した ことを、NHKが反省したという話を聞いた ことがない。
これに関連して、『図書』の四月号で、小沢 昭一が興味深いことを語っている。
聞き手は 神崎宣武。
小沢によれば、軍歌を点検してみると、み んな「死ね」という歌ばかりで、「生きろ」と いう軍歌は一つもない。
どれもこれも「お国 のため天皇陛下の御ために死ね」という歌で ある。
それについての小沢の独特の語りを引く。
「そんなもんで、いま軍歌をうたいますと、 どう考えてもばかばかしいと言いますか、こ んなばかなことで、みんな死んだのかという ことが、ひしひしとわかるんですね。
だから、軍歌のばかばかしさは、逆に反戦 歌にもなると思いまして、軍歌を反戦歌とし てうたってCDにしてみたんです」 歌の力を知り、「死ね」が情緒的に体にしみ こんでくるのをコワイと思う小沢ならではの試みだろう。
ちなみに軍歌と軍国歌謡は違う。
軍歌は兵隊の訓練や実戦のときにうたうも ので、たとえば「海行かば」がそうである。
それに対して、軍国歌謡は兵隊には関係な く、戦争をしてみんな散ろうじゃないかとい うもので、「同期の桜」などが入る。
軍隊に行った小沢は、すぐに「軍歌集」を 渡された。
朝な夕な、それを持って、 いかに敵艦多くとも と、うたいながら、行進ができるようにす るためである。
一種のマインドコントロール だろう。
中には、母親が息子に、お国のために死ね、 と背中を押す「軍国の母」の歌もあった。
昨年夏に出した拙著『悲歌――古賀政男の人 生 とメロディ』(毎日新聞社)にも引いたが、 島田磐也 き ん や 作詞、古賀政男作曲の「軍国の母」 の三番はこうである。
生きて還ると思うなよ 白木の柩 はこ が届いたら でかした我が子あっぱれと お前を母は褒 ほ めてやる 召集令状の届いたわが子に、母親はまず、 「おめでとうございます」と言わなければなら なかった。
特攻に行く前に別れのあいさつに 来た息子に、「生きて虜囚の辱めを受けず」と 短刀を渡した母親も少なくない。
捕まりそう になったら自決せよ、というわけである。
戦後になってから古賀は、 「いまや軍歌は、酒呑みの歌になった。
私は それでよかったとも思う。
二度と大っぴらに 軍歌を歌うような世の中が来てはいけない」 と語っているが、戦争中に高らかに大和魂 のラッパを吹いたことへの反省はない。
しかし、古賀以上にメディアにその反省が ないのだろう。
NHKこと日本放送協会然り、 読売新聞然りである。
メディアの変わり身が早いのか、国民の方 がより早いのか。
戦争末期に、 いざ来いニミッツ マッカーサー 出て来りゃ地獄へ逆落とし と歌っていたのが、敗戦となるや半年も経 たずに笑顔で進駐軍を迎え、 ジープでアメリカさん ハウドゥユードゥ 日本の言葉で今日は と歌ってしまうのである。
嗚呼。
反戦歌にもなる「軍歌のばかばかしさ」 変わり身が早いのはメディアか国民か

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