ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年5号
現場改善
外資系部品メーカーN社のリストラ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

57 MAY 2006 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 支払物流費の内訳が分からない N社は年商約一二〇億円の外資系部品メーカ ーだ。
北関東に生産工場を持ち、工場に隣接す る物流センターから全国に製品を出荷している。
このところ売上高は減少傾向にある。
最大の理 由は製造コストである。
海外に工場を移したラ イバル企業が、N社よりも約二五%も安い生産 コストを武器にシェアを高めていた。
N社はリストラを余儀なくされていた。
約一 五%の人員削減と並行して、物流業務のアウト ソーシングが検討された。
一般に荷主が物流業 務のアウトソーシングに踏み切る時の経営状況 は、大き く以下の三つに分類される。
a 業務拡大、急成長のため、自社物流に限界 が生じる b 売り上げは横這い。
しかし、荷主本来の「作 る」「売る」仕事に傾注するために、物流業 務をプロに委託する c 売り上げの減少に伴いリストラを実施、人 手不足や管理者不在などで自社でのオペレ ーションが不能に このうち最も厄介なのがcの売り上げ減少局 面でのアウトソーシングだ。
リストラによって担 当者が不在になり、引き継ぎができない。
物量 の減少にどう対応してパフォーマンスを維持し てい くかなど、難しい問題にいくつも直面する ことになる。
N社の場合がまさにそうだった。
それでもN社の場合、減少傾向にあるとはい え、まだ売上高で一二〇億円という規模のベー スカーゴがある。
何とか対応できる物流企業も あるかもしれない。
そう考えて改革を支援する ことにした。
我々とのヒアリングや話し合いに応じてくれ たN社のY氏は、営業企画本部長という肩書き であった。
それが物流責任者も兼務していた。
そ れだけでなく、Y氏は生産活動の管理に至るま で、ひとりで何役もの重責を担っていた。
外資系企業には少しでも業績が悪化すると、す ぐに従業員のク ビを切るところが少なくない。
そ のために一部の優秀な人材に業務が集中し、兼 務が重なり、マネジメントやオペレーションが中 途半端になっていく。
そして最後には機能しな くなる。
N社もそれに当てはまるのではないか。
そも そもN社ほどの売上規模で専任の物流責任者が いないというのは考えられない。
おそらく現場は 回らなくなっているはずだ。
私はこれからのプロ ジェクトの先行きに不安を禁じ得なかった。
案の定、プロジェクト開始後すぐに大きな壁 にぶちあたった。
支払物流費の内訳が分からな いのである。
N社の製品は工場センターから出 第40回 売り上げの減少に苦しんでいた外資系部品メーカーN社が、人 員削減と並行して物流アウトソーシングに踏み切ることになった。
しかしプロジェクトチームを作ろうにも、絶対的に人手が足りな い。
物流の専任担当者はいない。
新たな増員もできない。
難産は 必至だった。
外資系部品メーカーN社のリストラ MAY 2006 58 ?物流管理業務の抽出と専任スタッフの投入 ?社内システムの活用による物流管理会計の策 定 ??、?の本格稼動を確認した上での物流アウトソーシングの実施 Y氏はこの提案を受け入れた。
ところが、ほ どなくY氏から我々に連絡が入り、H社の本国 から派遣された外国人トップが難色を示してい るという。
専任スタッフの投入による増員と、改 革に時間がかかることを懸念しているというのだ。
改めてH社を訪れ、Y氏と同席して外国人ト ップの説得に動いた。
そこで改善の猶予期間を 十 二カ月に定め、専任スタッフの増員もしない という条件で、何とかトップの承諾を取りつけ たのだった。
それから約一カ月半にわたり、我々は連日の ようにY氏との打ち合わせを繰り返し、シナリ オを練った。
今回のアウトソーシングのテーマの 一つは?コストの可視化〞であった。
オペレー ションを外部に出すことで、営業所の販管費と して処理している費用も含めて物流コストを ?見える〞ようにする。
そして次のステップで、 コストダウンに踏み切るという考えである。
そのためにはオペレーションをアウトソーシン グするだけでなく、請求書の発行情報や在庫情 報 などのシステム化が必要だ。
その開発も含め てパートナーにアウトソーシングしたいというの がY氏の考えだった。
システム開発の費用も請 求料金に入れてもらえばよいという。
しかし、荷主側に物流管理そして物流システ 荷した後、納品代行会社の物流センターを経由 して、組み立て工場の製造ラインに納入される。
納品代行業者は得意先の指定業者だが、そこで 発生する運賃はN社の負担だった。
その納品代 行会社から毎月送られてくる請求明細の内容が チェックできないのだ。
納品代行業者への支払いは東京、名古屋、大 阪にある三つの営業所の販管費にそ れぞれ含ま れていて、詳細な内訳は各営業所でなければ分 からない。
しかし各営業所では請求書の詳細ま でチェックしているわけではない。
物流責任者 を兼務するY氏には、毎月の支払い総額しか回 ってこない。
つまりチェック機能が完全に欠如 していたのである。
提案に外国人トップが難色 もちろんY氏も工場拠点から出荷する分の物 流費とその内容は把握している。
しかし、営業 所の販管費までは手が回っていなかった。
それ でなくとも本来は営業責任者であるはずのY氏 は、週の半分を工場と物流センターを忙しく行 き来しなければならない状況にあった。
行き過ぎたリストラによる組織の劣化であっ た。
営業部門の仕事は基本的に売り上げを作る ことである。
その担当者に物流のコストや品質 の管理まで委ねても機能はしない。
物流の実態 を把握して、効率的な仕組みを作る には、日々 そのことを考えて施策を練り出す専任のスタッ フが必要だ。
このような状況を踏まえて我々日本ロジファ クトリー(NLF)は、N社に対して以下の三 ステップの改革手順を提案した。
ムを管理するスタッフがいない。
物流改革のシ ナリオも、戦略的というより?その場凌ぎ〞的 で後ろ向き。
そんなN社のパートナーを買って 出る物流企業を探すのは困難を極めた。
結局、一社で全ての条件を満たすパートナー を探し出すのは無理だと判断し、現場 のオペレ ーションと情報システムに領域を分けて、機能 別に二社のパートナーを選定することにした。
現場オペレーションのパートナーには、カンバ ン納品などに実績のあるS社を、もう一方はシ ステム系に強い3PLのK社を選んだ。
また、K 社にはH社専属の物流管理責任者とサブリーダ ーの二人を現場に派遣してもらうことにした。
こ れで「増員しない」という条件をクリアできる。
改革の着手から、ここに至るまでに既に六カ 月が経過していた。
残りの猶予は後六カ月。
そ れでも、S社とK社によるコラボレーションが 軌道に乗れば、専属スタッフによるプロの提案 が期待できる。
管理部門の分散化によって見え なかった物流費も見えてくる。
ところが、心配されたコラボレーションに問 題が発生してしまった。
K社とS社の希望する 業務がバッティングしてしまったのである。
K 社は物流管理と情報システムの開発運用だけで は利益が出ないと試算し、センター運営業務ま で含めた受託を求めた。
しかしS社にとってもそれは同じことだった。
カンバン納品に実績があるというS社の輸送品 質を捨てるわけにはいかない。
しかしS社から センター運営業務を取り上げてしまえば、旨み がないという理由で撤退される恐れがあった。
59 MAY 2006 再び我々はN社のY氏と協議を重ねた。
N社 は現在リストラ中である。
現場のオペレーショ ンもままならないのが実情だ。
そのような点を 考慮し、アウトソーシングの範囲を当初の計画 よりも広げるようにN社に対して提案した。
こ の際、N社は「作る」ことと「売る」ことに集 中すべきであるというのが我々の考えであった。
協力会社二社の棲み分けに苦慮 これを受けてN社は検証に入った。
そして? 生産拠点を中国へシフトして製造コストを下げ ても本格的なシェア挽回には時間がかかる。
? それならば経営資源を集中し一点突破型の部分 的な優位性であっても市場を抑えるべきである。
?そのために「作る」ことと「売る」こと、そし て管理会計を中心としたシステム力に注力する、 という結論に至った。
これによってアウトソーシングの領域が拡大 した。
具体的には北関東工場の構内物流と資材 の入庫、そして製品の梱包と出荷業務までをア ウトソーシングする。
同時に営業面でも、受注 から出荷 指示までのプロセス全体をアウトソー シングすることになった。
この決定を受けて我々は、当初の計画通り物流センターの運営業務はS社に任せることにし て、新たにアウトソーシングの対象になった領 域をK社が対応できるかどうか打診した。
構内 物流と梱包、出荷業務は他社でも対応している 実績があるとして、K社は快く引き受けた。
しかし受注から出荷指示については実績がな いという。
N社の女性社員五人で行っている業 務だった。
それでも二日後、「引継ぎ期間を最低 一カ月以上もらえば対応できる」と、K社は受 託の意向を示した。
ただし、それにはサポート も必要であった。
そこで我々がビデオと書面を 使ったマニュアルを作成することにした。
こうして役割分担も決まり、新体制が動き出 した。
受注入力から出荷指示、配車指示、在庫 管理までをシステム化することになったK社は、 情報システムとオペレーションを連動させるた めに業務フローの改善を行った。
このシステム 設計とトライ&エラーは猶予期間ぎりぎりまで 続いた。
それでも現在は何とか本格稼働にこぎ 着けている。
こうしてN社のリストラ型アウトソーシング は難産の末にスタートした。
しかし心配の種は 尽きない。
とりわけ前工程を担当するK社と、 後 工程の現場実務を担当するS社とのコラボレー ションの行方は気にかかる。
業務の棲み分けが 可能になったことで、現状では良い関係を築け ているが、この先また何が起こるか予断は許さ れない。
こうした二社のコラボレーションも、結 局は荷主であるN社の差配がカギを握ることに なるのである。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチ ーフを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp  物流現場改善を専門とするコンサルティング会社、 日本ロジファクトリーが具体的な事例を披露。
手 法の説明だけでなく、クライアントとのやりとり やコンサルタントの心の動きまで、改善プロジェ クトの経過をリアルに描写。
 本誌2003年1月号から連載の「事例で学ぶ現場 改善」を加筆修正。
「経営のテコ入れは物流改善から」 青木正一 著 (明日香出版社) \1,890(税込) 2005年3月発行  白トラの一人親方からスタートして、一代で 会社を一部上場企業にまで成長させたオーナー 創業者の一代記。
笑えます!泣けます!   本誌2003年4月号〜2004年11月号に掲載した 「やらまいか――ハマキョウレックスの運送屋 繁盛記」を加筆修正。
「やらまいか!」 大須賀正孝 著(ダイヤモンド社) \1,575(税込) 2005年5月発行 「物流コストを半減せよ!―Mission」  湯浅和夫 著 (かんき出版) \1,575(税込)  2005年2月発行  物流コンサルティング業界のカリスマが小説 形式のノウハウ本に挑戦。
「大先生」と「美人 弟子」「体力弟子」の3人組が、常識破りの物 流理論で、クライアントの課題を次々に解決。
 本誌2002年4月号から連載の「物流コンサル 道場」を単行本化。

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