ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年5号
進化のゆくえ
新たな段階に移行する流通革新

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MAY 2006 78 イオンやイトーヨーカ堂などの総合量販店が 苦しんでいるのとは対照的に、専門店は総じて 好調だ。
小売業の主役は既に「総合量販店」か ら「専門店」に移っている。
これは消費の成熟 化に伴う避けがたい変化だ(本連載の今年一月 号で既報)。
そして、新たに主役となった専門 店の多くが、製造小売業(SPA)というビジ ネスモデルを確立している専門店チェーンであ ることにこそ、小売業の進化を示す大きな意味 がある。
こうした新興企業は、ユニクロや無印良品な どのような完全な製造小売業と、製造小売業的 な性格を色 濃く持つ専門店に分類できる。
いず れのタイプに属するにせよ重要な点は、これま ダントツ企業の出現とその功績 流通業界における企業統合の動きが活発化し てきた。
いよいよ小売業界の大再編が現実味を 帯びつつある。
この流れは一過性のものではな い。
統合の動きに先立って、各分野でトップ企 業の成長が加速し、企業間の格差が拡大してい る現実からも、そう感じる。
ここでいうトップ企業とは、家電販売のヤマ ダ電機、実用衣料のしまむら、子供衣料の西松 屋チェーン、カジュアルウエアのファーストリ テイリング(ユニクロ)、家具・ホームファッ ションのニトリ、ドラッグストアのマツモトキ ヨシ、良品計画(無印良品)などだ。
での伝統的な小売業からの脱却だ。
過去の小売業がメーカーの作った製品を販 売するだけだっ たの対し、製造小売業型の企業は自ら在庫リス クをとって商品開発に関わり、物流も自分たち でコントロールしている。
言い換えれば、伝統的に存在していたメーカ ー・卸・小売り間の壁を取り除き、川下から川 上に向かって流通構造(サプライチェーン全 体)を変革してきたのが、成長している製造小 売業の最大の特徴といえる。
小売業がサプライチェーン全体を自分たちの 領域としてコントロールし、積極的に全体最適 をめざす動きは画期的だ。
これに挑んだ小売業 のリスクも大きかったが、リスクを克服した企 プリモ・リサーチ・ジャパン 鈴木孝之 代表  最終回 新たな段階に移行する流通革新いよいよ日本でも流通構造の革新が本格化してきた。
ユニクロや無 印良品といった製造小売業(SPA)の生み出した新しいビジネスモ デルが、メーカーを含む産業界全体に影響を及ぼしつつある。
その一 方で「まちづくり三法」の改悪など、流通の進化を妨げる動きも顕在 化している。
最終回となる今回は、業界再編の現状や、日本の商業行 政の根深い問題点などを、著者なりの視点で総括してもらう。
79 MAY 2006 業は慢性的な低利益構造の改善に成功した。
新 たなビジネスモデルの手本を見事に示した。
製造小売業の営業利益率は一〇%台に乗っ ていることが多い。
総合量販店の二〜三%と比 べると驚くほど高水準だ。
専門店チェーンの成 長は小売業界全体を刺激し、小売りとメーカー が一緒に商品開発に取り組む動きが急速に拡が った。
その結果、海外からの直接輸入や、プラ イベート・ブランドの開発輸入も拡大した。
いまや各分野で確固たる地位を築いている製 造小売業は、そこで成功する共通要因が、情報 システムや物流体制の構築だったことを知らし めた。
この点はコンビニエンスストアの成功か らも明らかだったが、すべての小売業にとって 不可欠の要因であることを証明してみせたのは、 製造小売型専門店の大きな功績だ。
もはや止まらない業界再編の奔流 いくつか具体例を見てみよう。
ブランド力に 左右されがちな家電製品のサプライチェーンに おいては、技術力と製品開発力を併せ持つメー カーが強大な力を持っている。
そして家電販売 店が独自の品揃えで競合と差別化するのは困難 だ。
このような商品特性を持つ業界だからこそ、 売上拡大によるスケールメリットの追求と、そ れに伴う価格競争力の強化がライバルを圧倒す る有効な武器になる。
この家電販売の世界を革新したのがヤマダ電 機だ。
同社がメーカー優位のハンディを負いな がら、専門店チェーンとして日本で初めて売上 高一兆円を達成 したのは、まさに偉業として評 価できる(昨年七月号既報)。
さらに特筆すべきは、ヤマダ電機の売上規模 が、約七兆五〇〇〇億円の家電販売市場の一〇%を超えた点だ。
寡占化の遅れている日本の 小売業界では、これは大きなインパクトを持つ。
一般に、特定の小売企業のマーケットシェアが 一〇%を超えると、メーカーに対する交渉力は 抜群に強くなる。
当然、小売業の収益改善につ ながる。
他にもマーケットシェアという意味で 注目すべき小売業としては、実用衣料のしまむ らがある(昨年六月号既報)。
このように特定の分野で突出した売上規模を 持つ小売業の誕生は、ライバル企業にと っては 脅威だ。
これに対抗しようとする動きが下位企 業の合従連衡を招く。
実際、家電販売業界は一 気に再編モードに突入した。
エディオンは、こ うした状況下で共同持株方式による三社(旧デ オデオ、旧エイデン、旧ミドリ電化)の経営統 合によって生まれた企業だ。
共同持株会社による統合はホームセンター業 界にも飛び火し、DCMジャパン・ホールディ ングス(ホーマック、カーマ、ダイキ連合)の 誕生につながった。
今年九月に正式スタートす るDCMジャパンHDは、三兆五〇〇〇億円の ホームセンター市場においてシェア一四%を握 る圧倒的な存在になる(昨年一〇月号既報)。
近 年、急速に再編が進みつつあるドラッグス トア業界では意外な動きも出てきた。
今年三月、 最大のドラッグストア連合であるイオン・ウエ ルシア・ストアーズ(ウエルシア連合)から、 愛知県を本拠地とするスギ薬局が離脱したので ある。
これによって調剤薬局を加えた一〇兆円 市場の覇権争いは、新たな段階に入った。
ウエルシア連合からのスギ薬局の離脱は、イ オンが最もセンシティブな問題に踏み込んだ結 果ではなかったかと著者は推測している。
穏や かな連携を掲げてきたイオンが、持株比率の引 き上げを申し入れ 、これへのスギ薬局の返事が、 自主独立で行きたいというものだったのではな いか。
戦国時代の様相を呈しているドラッグス トア業界において、一国一城の主として業界再 編を主導したいと考える企業が出てくることは、 その判断の是非はどうあれ理解できる。
イオンをめぐっては他にも興味深い動きがあ る。
イオングループのディベロッパーで、三菱 商事との合弁会社であるダイヤモンドシティに 対し、イオンが株式公開買い付けをすることと、近い将来、イオンモールとダイヤモンドシティ の統合計画があると四月初旬に報道された一件 だ。
どうやら日経新聞のスクープだった模様で、 イオンは慌ててこれを裏付ける発表を行った。
あ るいは三菱商事との話がついていない段階で の表面化だったのかもしれない。
いずれにせよ、この二つのニュースから伝わ ってくるのは、従来の穏やかな連携から一歩を 踏み込もうとしているイオンの姿勢だ。
資本の 論理を前面に出し始めたイオンの動きを、今後 は注視していく必要があろう。
イトーヨーカ堂グループの動きも同様の観点 MAY 2006 80 っている米ウォルマート。
そして、日本のコン ビニエンスストア業界で独り勝ちの状態になり つつあるセブンイレブン。
少し前には盤石に見えた両社だが、最近はビジネスモデルの問題点 が鮮明化してきた。
場合によっては、この二社 に対する評価はガラリと変わってしまうかもし れない。
特にウォルマートの抱えている問題は 根が深い。
怒濤の急成長が鈍化し、利益率が低 下していく可能性すら否定できない状況になっ てきた(今年三月号既報)。
ウォルマートの価格競争力の源泉は、販管費 率が低いこと、つまり経費率の低さにある。
そ して、これを支えているのは人件費率の低 さだ。
ウォルマートの正社員の給料が安いわけではな い。
同社の労働力の中心である日本で言うとこ ろのパートタイマーの時間給が、同業他社の五 〇〜六〇%という低水準にあるのだ。
その結果 として、全体の人件費率も他社を大きく下回っ ている構図が、徐々に明らかになってきた。
世界最大の小売業で、業績も順調なウォルマ ートの時間給が他社の半分近い水準である理由 は、同社に労働組合がないことで説明できる。
アメリカでは全産業にわたって労働組合が組織 化されており組織化率も高い。
ところが全米最 大の雇用主であるウォルマートには労働 組合が 存在しない。
会社主導の構図が、時間給を極端 に低水準に抑え込むことにつながっている。
もう一つの大きな問題として、ウォルマート の医療保険給付の低さも問題視されるようにな ってきた。
従業員が病気になることで実際に発 から見るべきだ。
二〇〇五年九月に同グループ が、セブン│イレブン・ジャパン、イトーヨー カ堂、デニーズの中核三社によるグループ持株 会社、セブン&アイ・ホールディングスを設立 した狙いは、所有と経営の分離にあった(昨年 八月号既報)。
同時にこれは、業界再編の機運 が高まっている小売業界において、積極的な M& Aに打って出やすい体制を整備したものと 思われる。
実際、セブン&アイは百貨店のミレ ニアムリテイリング(西武百貨店+そごう)を 買収した。
そして今年九月には、スーパーマー ケットのヨークベニマルも傘下に入る。
持株会社制に移行した小売業は、他にもドラ ッグストアのツルハや、ファーストリテイリン グ、外食のすかいらーくなどがある。
デフレを 克服し収益性が改善してきた小売業界の話題は、 すでに次の段階へと移っている。
各分野の有力 企業が仕掛ける統合・再編により寡占体制が鮮 明になっていくはずで、今は巨大企業が誕生す る前夜といった状況にある。
一九六〇年代の初めから始まっ た日本の流通 革新の動きは、四〇年間にわたる 20 世紀の準備 期間を経て、新たな段階へと突入した。
小売業 と流通の近代化・産業化が加速する一方で、業 界を取り巻く環境は流動的だ。
人口減少、高齢 化社会、消費の成熟に伴う上質志向といった新 しい課題への対応を迫られている。
強者の手法が正解とは限らない 日本の小売業にとって、教科書的な存在とな 生している医療費は、ウォルマートがカバーし ている医療費よりかなり多く、その差額は税金 で埋め合わされている。
さらに全米のウォルマ ートの従業員に、多額の生活扶助が支出されて いる事実も浮き彫りになってきた。
こうした事実を知って、これまでは低価格と いうプラスの部分だけを歓迎していたアメリカ 国民たちが、マイナスの側面にも目を向けるよ うになってきた。
ウォルマートの出店が地域の 労働条件を悪化させるという実態が、地域社会 にとって受け入れ難いこととして認識され始め たのである。
結果として、ウォルマートの出店 反 対を議会で決議する地方自治体が急増した。
この動きは全米に拡がっており、同社の出店戦 略に甚大な影響を及ぼしつつある。
仮にウォルマートが、こうした動きに対応し ようと他社並みの賃金水準や医療費負担を飲めば、同社の経費構造は大きく変わってしまう。
収益性が劇的に低下する可能性が高い。
そうな ればウォルマート神話は一気に崩壊しかねない。
大げさに聞こえるかもしれないが、そういう状 況が拡大しているのは紛れもない事実だ。
日本で勝ち組小売業の座を欲しいがままにし て いるセブンイレブンも、問題を抱えている。
これはフランチャイズビジネスにおける利益配 分比率に関する問題であり、本部とフランチャ イジー(加盟店)との?あるべき関係〞という FCビジネスの根幹にかかわる本質的な話だ。
一言で表現すれば、日本のコンビニエンススト アは曲がり角に直面している(先月号既報)。
81 MAY 2006 外部の資本を活用することで急成長を実現で きるFCビジネスでは、加盟店オーナーの収入 が減少傾向を示したとき、本部に対する不満が 噴出し、本部と加盟店との係争が一気に増える 傾向が強い。
そして過去五年間のセブンイレブ ンの一日当たりの平均売上高は、一貫して微減 傾向にある。
これが加盟店オーナーの収入減に 直結し、不平不満を増幅させている。
日本におけるFCビジネスの契約書は、セブ ンイレブンをモデルにしてきたと言われている。
だが一説によると、契約書は昔は本部が保管し ていたという。
こうした秘密主義や、本部によ る強い 締め付けは、本部と加盟店オーナーとの 関係がパートナーというよりは、むしろ厳しい 主従関係にあることを表している。
ベンダーと 呼ばれる取引先からも悲鳴が聞こえ始めた。
不 満の正当性を証明するのは難しいが、?収奪の 構造〞と非難する声があるのは事実だ。
ウォルマートとセブンイレブンは、日本の小 売企業が学ぶべき点を豊富に備えた優れた企業 だ。
しかし、神格化する過ちを犯してはならな い。
強者の手法が常に正解とは限らない。
まし てや、グローバルに拡大しているウォルマート のやることが、そのままグローバルスタンダー ドになるなどと考えていると落とし穴にはまる。
そ のことを肝に銘じて、両社の今後を注視して いかなければいけない。
問題だらけの商業行政 本連載の最後に、日本の商業行政と小売業の の問題点についても指摘しておこう。
商業行政 の問題としては次の五つの事例を挙げたい。
産業再生機構によるダイエー支援 経営破綻したダイエーの再建を、産業再生機 構が支援した主たる目的は、ダイエーの主力銀 行の苦境を助けることだった。
異論を挟みにく い産業再生という名目を掲げながら、実態はそ うではなかった。
俗に言う?too big, to fail〞で、 ダイエー破綻の影響が大き過ぎると国が判断し たから支援したに過ぎない。
このことは大企業 は助けるが、小さな企業は助けないという不公 正さにつながり、とうてい許されるべきことで はない。
本来の産業再生という観点からも、ダイエー の処理は民間に任せておくべきだった。
日本に も企業再建に特化した再生ファンドがすでに数 多くあり、ダイエーに興味を持つライバルの小 売企業もあった。
「民」の問題は「民」が解決 すべきだ。
小売業の産業再生とは本来、自由競争の原 理を機能させて、オーバーストア(店舗 の過 剰)を、小売業自身による淘汰や統合再編によ って是正することだ。
オーバーストアの根源で あるオーバーカンパニーを正すのは「官」の役 割ではない。
ところが産業再生機構によるダイ エーの再建支援は、市場からの退場を宣告され た企業を、人為的に引き留めた。
スポンサー企業の決定に至るプロセスも公正 とは言いがたかった。
入札システムというのは 結果が全てで、決定に至るまでの情報を厳格に 統制するのが常識だ。
しかし、ダイエーの場合 は、なぜか新聞が詳しい状況を報じ続けた。
こ れは産業再生機構が意図的に情報をリークして、 世 論を誘導していったためだろう。
結果としてスポンサーには、小売業経営のノ ウハウを持たない丸紅が選ばれた。
今後、ダイ エー株は一時的に丸紅に移ることになりそうだ が、最終的には西友を買収したウォルマートに 渡る可能性も否定できない。
なぜなら、丸紅と ウォルマートの双方にメリットが見込めるため だ。
もし産業再生機構がこうした業界再編を狙 っていたのであれば、同業者をスポンサーに選 ぶべきだった。
産業再生機構が関わったことで、 ダイエーは企業再建のオモチャになってしまっ たといったら言い過ぎだろうか。
不公平な費用負担のまま踏み切った レジ袋処理費用負担制度レジ袋の処理費用の負担についても理解しが たい。
公平な負担が大前提であるにもかかわら ず、環境保護という錦の御旗を振りかざして小 売業に負担を強制してしまった。
しかも、負担 すべき費用を支払っていない企業も少なくなか った。
このような公平さを欠いた法律は、余り にも粗雑な?ザル法〞と断じざるをえない。
まちづくり三法の見直しに伴う 郊外大型商業施設の開発規制 「まちづくり三法」の見直しは、郊外の延べ MAY 2006 82 すでに多くの人たちが指摘していることだが、 郊外大型商業施設の出店規制は、実は狙いとは まったく反対に、むしろ中小商店にとって命取りになる可能性がある。
この法律によって郊外 展開をできなくなった有力小売業が、いっせい に内側に入ってくることが予想されるからだ。
しかし、大資本の小売業にとっては、やむを得 ない選択だ。
これまで中心市街地の中小商店は、郊外の大 型商業施設の影響を大きく受けながらも、それ なりに棲み分けてきた面もあった。
しかし、新 たな規制下では、中心市街地の中小商店と大型 店の距離はぐっと近くなる。
もし規制の狙いと は反 対の結果を招いたときには、いったい誰が 責任をとるのだろうか。
家電製品安全法に伴う PSEマーク制度 四月一日から、新家電製品安全法に基づいて、 製品の安全を示すPSEマークを家電の新製品 に貼付することが義務づけられた。
PSEマー クの導入をめぐるゴタゴタは、まさに?お役所 仕事〞という表現がピッタリの粗っぽい仕事だ った。
問題は行政の視野に拡大している中古品 流通が入っていなかったことだ。
近年、家電製品や書籍、CDを含む広範な分 野で、中古品の流通が拡大している。
中古品販 売業を営む上場企業も増えた。
「もったいない」 という日本語が世界に広がっていることからも 明 らかなように、まだ使える製品を再利用する 床面積一万平方メートルを超える大型商業施設 の出店を規制する動きで、今国会で成立しそう なホットな話題だ。
小売業界では、旧態依然た る考えを持つ一部の人々が賛成している以外は、 反対の声が大きい。
規制緩和の流れに逆行する、 小売業史に残る悪法という声すらある。
この法改正は中心市街地の活性化を目的とし ている。
この目的に対しては誰も異論はないは ずだ。
多くの小売企業が問題視しているのは、 なぜ、それが郊外の大 型商業施設の出店規制に つながるのかという点だ。
中心市街地の衰退の 原因が郊外大型店にあるというのは一見、分か りやすいだけにタチの悪い暴論でしかない。
たしかに郊外大型店の出店と、中心市街地の 衰退は無関係ではない。
しかし、中心市街地が 小売業にとって魅力的であったなら、小売業は そこに積極的に出店したはずだ。
だが現実には 郊外のほうが出店地としてメリットがあったか ら、郊外で商業集積が進んだ。
これには消費者 の強い支持もあった。
まちづくり三法の見直し が、中心市街地の中小商店保護を狙いとしてい ることは明らかであり、中心市街地の活性化と か、高齢化社会に対応したコンパクトなまちづ くりなどというのは飾りに過ぎ ない。
日本の商業行政は 21 世紀に入っても、中小企 業の保護政策から脱却できていない。
中心市街 地への投資を活発化させる環境整備や、中心市 街地の景観保護などに腰を据えて取り組もうと もせずに、一部の商業者の利益代表として規制 強化に向かっている。
非常に嘆かわしい。
のは環境保護という観点からも奨励すべき行為 だ。
ところがPSEマークの導入にあたって経 済産業省は、中古品をどう扱うかをほとんど考 えていなかったようだ。
音楽家の坂本龍一氏など影響力のある人たち による、「いったい、これは誰のための法律 な のか」という問題提起によって、ようやく経産 省は同法の不備を認め、対応に乗り出した。
五 年間の猶予期間があったにもかかわらず、周知 徹底を怠った経産省のやり方が非難されるのは 仕方があるまい。
にもかかわらず、非を認める どころか、開き直って法の施行を優先した経済 産業大臣の発言は、政治における国民や消費者 の不在を改めて認識させた。
こうした政治家や 役所の意識は改めさせる必要がある。
消費税の総額表示の 導入方法とタイミング総額表示の導入では、これによる目標がきち んと説明されることなく、内税がいいか、外税 がいいかといった技術論ばかりが先行してしま った感が強い。
将来の消費税率の引き上げに備 えたのは明らかだが、国民=消費者に対する説 明はあいまいのままだ。
もう一つの問題点は導入のタイミングだ。
こ の制度は、ちょうど小売業がデフレのトンネル から抜け出そうとしていた時に断行された。
総 額表示のための情報システムの変更や、店舗の レジでの対応、新しいレジスターの導入などの 費用負担が、離陸しつつあった小売業に重たく 83 MAY 2006 のしかかった。
また、総額表示が、心理的に値上げと映り、 消費者の買い控えを招いたことも忘れるわけに はいかない。
これを機に売れ行きが減少に転じ、 小売業全体の業績が失速してしまった。
デフレ の克服に奮闘していた小売業にほとんど配慮す ることなく、役所のスケジュール通りに制度を 導入する姿勢に疑問を感じる。
この五つの事例を通じて筆者が言いたいのは、 小売業や消費者に対する商業行政の配慮不足と、 小売業を軽視する姿勢だ。
これに対しては被害 者 意識が過ぎるという声が聞こえてきそうだ。
しかし、ここに挙げた五つの例に対して何も問 題を感じない小売業人がいるとしたら、私はそ の人の小売業人としての自尊心を疑う。
士農工商という言葉を持ち出すと時代がかっ ている言われそうだが、商業やそれに関わる人 たちが、いまだに軽く見られている現実を直視 しなければいけない。
御しやすく、厳しく反論 しないと見られているうちは、産業として社会 で重視される存在になるのも難しいはずだ。
小売業を日本の基幹産業に育てよ まだ日本には、金融業や製造業を重視する古 い産業観が色濃く残っている。
これらが重要な ことは言うまでもないが、個人消費は国内総生 産(GDP)の半分以上を占めている。
そこに 関わる小売業、卸売業、飲食業、サービス業な どは日本経済にとって極めて重要な産業だ。
こ の当たり前の事実にもかかわらず、いまだに商 業は軽視されていると言わざるをえない。
産業界の意見を代表する経団連(経済団体 連合会)のトップ人事などからも、それが伝わ ってくる。
かつてダイエーの中内 会長が、経団連の副会長に就任したときには、小売業の地 位向上を示すものとして大いに話題になった。
その後、イオンやセブンイレブンのトップも続 いたが、いずれも副会長までだ。
日本では依然 として小売業が基幹産業と見なされていないこ とを示す、何よりの証といえる。
そうであるならば、その理由は何だろうか。
政治や行政のあり方にも責めるべき点は多いが、 私は商業の側にも責任があると思う。
問題は二 つある。
一つはトヨタ自動車のような世界的に 影響力を持つ企業が日本の商業界に存在しない こと。
そしてもう一つは、業界を代表して産業 界全体を動か していける人物がいないことだ。
こうした状況を変えていくためにも、国際的 に通用し、経営内容や規模でも社会から一目置 かれるような小売業が必要だ。
世界最大の小売 業である米ウォルマートの成功は、製造業が上 位に位置していた従来の関係を、対等または小 売業上位へと逆転した。
世界の商業史上、画期 的なことといえる。
日本でも小売総額一四三兆 円(商業統計)を基盤に、社会インフラと呼べ るような小売業を育てなければならない。
最近では、セブン&アイグループのセブン銀 行(旧アイワイバンク)に続き、イオンも銀行 事 業への進出を表明した。
有力な小売業による 流通業の枠組みを超えた動きが目立つ。
多店舗 チェーンによる付加価値を活かして決済業務を 手掛けるだけでなく、電子マネーなど次世代の 社会インフラを普及させようとする意気込みを 感じる。
(個人ローンに進出する可能性もあり、 実現すれば消費者の利便は大幅に向上する。
い まや小売業は、消費者を対象とする金融サービ スの提供によって、金融・銀行業界にも影響を 及ぼす存在になりつつあるのだ。
小売業を含む流通業界全体が、自動車産業 やエレクトロニクス産業などと肩を並べようと する気概をもたなければいけない。
やるべきこ とをやり、理不尽なことに対してはハッキリと 意見を言うべきだ。
沈黙はお上意識を助長する だけ で、流通業界にとっても消費者にとっても 何らメリットをもたらさない。
小売業人の奮起 を願いつつ、この連載に幕を閉じたい。
ご愛読、 ありがとうございました。
(すずき・たかゆき)東京外国語大学卒業。
一九六八年 西友入社。
店長、シカゴ駐在事務所長などを経て、八九 年バークレーズ証券に入社しアナリストに転身。
九〇年 メリルリンチ証券入社。
小売業界担当アナリストとして 日経アナリストランキングで総合部門第二位が二回、小 売部門第一位が三回と常に上位にランクインし、調査部 のファーストバイスプレデント、シニアアナリストを最 後に二〇〇三年に独立。
現在はプリモ・リサーチ・ジャ パン代表。
著書に『イオングループの大変革』(日本実業 出版社)ほか。
週刊誌などでの執筆多数。

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