ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年6号
keyperson
米ミシガン州立大学 アンソニー・ロスマーケティング&サプライチェーンマネジメント学部準教授

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2006 2 日米の企業文化の違い ――米ミシガン州立大学(MSU) ではロジスティクスの海外研修を毎 年行っているのか。
「そうだ。
これまで我々は五〇カ国 にも及ぶ地域で海外研修を行ってき た。
米国でも最高レベルの海外研修 プログラムがMSUの特徴の一つだ。
しかもビジネススクールではなく、学 部レベルでこうした海外研修プログ ラムを行っているケースは、MSU 以外には米国でもほとんどない」 ――研修の狙いは? 「学生を日本企業のロジスティクス やサプライチェーンシステムに触れさ せることはもちろん、日本文化の理 解と日本企業における文化の役割を 理解することにも重点を置いている。
ビジネススタイルに与える その国の文 化の影響は、非常に大きいと考えて いるからだ」 ――米国と比較して、日本にはどの ような特徴があると思うか。
「つい先ほど訪問した物流センターで もそうだったが、現場で働いている 人たちの統一性が印象的だ。
彼らは 一つのチームのようだった。
同じこ とは米国では見ることはできない。
米 国の現場スタッフはもっと個人的で、 会社に対するコミットメントも薄い。
それに対して、日本の会社では従業 員が会社に対して明確にコミットし ている。
ほとんどの日本の会社がそ う なのだろう。
それが違いを生んで いる」 「米国企業の経営は何より最終的な 結果、ボトムラインを重視する。
し かし他の多くの社会では違う価値観 を持っている。
そのことを学生達に も理解させたい。
最も大事なのは利 益ではなく、プロセスかも知れないと いうことを気付かせたい。
プロセスが 正しく、有効であれば、利益は後か らついてくるという考え方だ。
非常 に微妙な違いだが、ビジネスを行う 上では競争力を持つ考え方だ。
実際、 従業員がコミットすれば、その会社 は成功することができる」 ――引率してきた学生達は卒業後に ロジスティクスの仕事につくことにな るのか。
「一部はそうなるだろう。
しかし財 務やロースクールに行く学生もいる。
重要なのは、このプログラムによって、 彼らに新しい機会を開くことだ。
彼 らにはビジネス全般について学んで ほしい。
たとえ何の仕事に就くこと になっても、どんな企業に勤めよう とも、今日ではサプライチェーンやロ ジスティクスが企業の成功条件にな っている。
ロジスティクスなしではビ ジネスは動かない。
彼らが何系の職 業に就くかにかかわらず、ロジスティ クスは必要とされる」 ――具体的にはどういった会社に就 職しているのか。
「最近学生を就職させた会社として は、オースティンテキサス、モトロー ラ、IBM、キャタピラーロジステ ィクス、キンバリークラークなどだ。
ミシガンという場所柄、伝統的には 自動車産業とそのサプライヤーなど が多い。
しかし、ミシガン州自体が 現在、自動車産業に頼らない、産業 の多様化を目指している。
ご承知の 通り米国の自動車産業が今日、深刻 な問題を抱えているからだ。
自動車 産業におけるロジスティクスの仕事 は どんどん減ってきている。
しかし他 の産業のロジスティクスの仕事はとても安定している。
我々の専攻であ れば消費材、自動車、農産物、ハイ テク、半導体からコンサルティング 会社に至るまで、サプライチェーン を重視している、全ての会社に就職 口がある」 ――ほかの学部の学生より良い就職 ができるのか? 「今年卒業した学生の平均初任給は、 約四万七〇〇〇ドルだった。
しかも、 THEME 米ミシガン州立大学 アンソニー・ロス マーケティング&サプライチェーンマネジメント学部準教授 「プロセス重視は日本企業の文化だ」 ロジスティクス教育では世界トップクラスの実績を誇る米ミシ ガン州立大学マーケティング&サプライチェーンマネジメント学 部の海外研修チームが五月に来日した。
日本企業のSCMとロジ スティクスの実状を視察することが目的だという。
彼らの目に日 本の物流現場はどう映ったのか。
(聞き手・森泉友恵) KEYPERSON 3 JUNE 2006 それは基本給で手当などは含まれて いない。
学部卒の新卒としては大金 を稼いでいる。
その理由はサプライ チェーンやロジスティクスを?ミシガ ン州立大学で〞専攻したからだ。
そ れが一つのブランドになっている。
そ うしたブランドの確立こそ、米国の 教育機関には求められている」 「我々のカリキュラムが適切でタイ ムリーでなければ、卒業生に対する 産業界の需要もなくなってしまう。
海 外研修プログラムも産業界のニーズ を反映したものだ。
とくに現在は太 平洋地域が注目されている。
新興経 済を代表するインドや中国はこの地 域にある。
これらの国は、多額の資 金をロジスティクスのインフラ構築 に投資して いる。
韓国にも世界最大 となる釜山港ができる。
コンテナ船 がより大きくなり、より多くの製品 を動かすことになる」 「我々はそれを管理するプロセスの 複雑さに対応しなければならない。
イ ンドや中国のような国は極めて大き なロジスティクスの問題に直面して いる。
しかし、そこで製品を調達し、 配達する多国籍企業が数多く存在す る。
米国の学生は近い将来、おそら く米国外のそうした多国籍企業に勤 めなければならなくなる」 「そこでは現地の文化を理解するサ プライチェーンのプロが求められる。
ロジスティクスのナレッジをベースに して、その上に文化への理解を加え ることで、そうした市場でトップにな れる。
グローバリゼーションが教育機 関を変 え、企業を変え、教育機関の 教育方法を変えている」 社会人向け講座が人気に ――社会人向けのプログラムは? 「現在、米国の多くの名門大学が経 営幹部向けの講座を持っている。
非 常に急速に成長している分野だ。
我々 のほかにも、マサチューセッツ工科大、 ジョージア工科大、テネシー大、オ ハイオ大などがロジスティクス分野 の経営幹部向けセミナーを開催して いる。
このほかMSUでは現役の実 務家を対象としたロジスティクス修 士の特別プログラムを持っている。
五 月と八月に二週間ずつ、二年間通学 することで修士を取得することがで きる。
長期間を休職せずにビジネス スクールを卒業できるわけだ」 ――日本ではロジスティシャンの社 会的地位がまだ高いとは言えない。
米 国も同じ傾向にあるはずだ。
「しかし、グローバルな機会が広が ることで、ロジスティクスのプロは、成功する企業にとってますます必要 不可欠になってきている。
多くの要 因が今日、ロジスティクスの成長を 促している」 ――それでも花形とまでは言えない。
「確かに、これまではロジスティク ス分野出身のトップは例外的だった。
CEOの大部分は財務やマ ーケティ ングの出身者だった。
しかし、米国 企業は日本企業のオペレーションの 強さに危機感を抱いている。
日本企 業の研究も進んできた。
これからは ロジスティクス分野出身のトップが 出てくる比率も高まるだろう」 ――最後にあなた自身のキャリアに ついても伺いたい。
ITエンジニア からコンサルタントを経て、ロジステ ィクスの研究者に転身している。
ロ ジスティクスをキャリアに選んだ理由 は。
将来、脚光を浴びるようになる と予測していた? 「そうだな。
正直に言おう。
ロジス ティクスやサプライチェーンが、ここ まで伸びる分野になるだろうとは想 像していなかった。
ロジスティクスに 興味を持ったのは、単純に好きだっ たからだ。
どのように動かすか。
どの ように運ぶかということを考えるのが 面白かった」 「それは私がもともと携わっていた コンピュータのネットワークデザイン に似ていた。
コンピュータネットワー クは情報をいかに運ぶかであり、ロ ジスティクスネットワークも、モノを いかに運ぶかだ。
基本的な考え方は、 私にとっては同じだった。
製品を追 跡したり、管理したり保管に関する アプリケーションを考えていくうちに、 ロジスティクスの構造分析に興味が 広がっていった」 「具体的には 、私は大学を卒業して、 いったん社会に出て、一時は小さなコンサルティング会社を経営してい た。
それで生活もできていたのだが、 思うところがあって会社をたたみ、再 び学校に戻った。
そしてMBAと博 士号をとった。
その課程で、自分が 難しい問題を考える生き方を楽しん でいることに気付いた。
学者として 自分の興味を惹く問題を研究するこ とこそ、自分が求める生き方だった。
そんなところだ」 アンソニー・ロス(Anthony Ross) インディアナ大学にて意思決定科学とオペ レーションズマネジメントを同時専攻し91 年経営学修士号、95年博士号取得。
95年 から2000年までテキサスA&M大学および 同ビジネススクールにてオペレーションズマ ネジメント助教授。
2000年よりミシガン州 立大学および同ビジネススクールにてロジス ティクス&サプライチェーンマネジメント準 教授、ITマネジメント非常勤準教授。
サプラ イチェーンデザインおよびテクノロジーデプ ロイメント(配備)を研究対象とし、購買・ 生産計画・ロジスティクス・在庫マネジメン ト・量的分析に関する科目を担当している。

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